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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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真実

 全ての説明を終えると静寂が訪れた。

「成程……」

そう頷いたグランドは腕を組み、難しい顔をしている。

返答を待つネイノート、カノンカは黙ってその時を待った。

「私はお前達の帰りを待っていた。お前達だけじゃない。レシュノア、ルルムス、ヤーチェ……ルモウドが帰ってこないのは残念でならん」

目に見えて落胆するグランドは深いため息をつく。

「レシュノアが、ブラッドウルフが出た、と言ったときはすぐに駆け付けたかった。しかし転送魔法陣の性質上多くの冒険者は連れてこれん。それに、ここの護衛も付けずに私がこの場を離れてしまっては、魔法陣を動かす職員にも危険が及ぶ。だから歯を噛み締め待っていたのだ。そしてお前たちは私の願い通り、この場に帰ってきてくれた。これでお前も晴れて冒険者の仲間入りだ」

彼は笑みを浮かべ、ネイノートの頭を不器用に撫でた。


 ネイノートは優しき父を思い出す。

温かく大きな手。幼き記憶に残る父のものと似ていた。

 

 しかし彼の声は突如低くなる。

「だというのに……どうして嘘を吐く。冒険者になれるだけでは不満か?」

優しく、悪いことをした我が子をたしなめるように。

 グランドの発言にカノンカが慌てて反論した。

「う、嘘ではありません!」

彼はギラリと眼を鋭くしてカノンカを睨みつける。

さっきまでの穏やかな物言いとは打って変わって、怒気を孕んだ叫びが辺りに木霊こだました。

「ではなにか!?伝説の魔獣クリスタルウルフが本当に現れ!あまつさえ言葉を発しただと!?治癒魔法をかけてくれただと!?子供の考えた物語じゃないんだ!誰もこんな下らん嘘はつかんぞ!!」

グランドはカノンカの言葉を一蹴する。


 グランドの態度に、言葉に、誰も何も言えなくなってしまった。

否。何を言っても聞きはしないのだ。証拠が何もないのだから、納得させる方が難しい。

それ程にルインらの主張は非常識な物だった。

「私はな、朝からずっとお前たちを待っていたのだぞ?だというのにこんなくだらない嘘をつかれるとはな……裏切られた気分だ。ネイノート、お前の力は買っていた。その身のこなし、そのふてぶてしい態度、久しぶりに優秀な者だと思っていた」

鋭い視線が三者を交互に睨みつける。

怒り、呆れ、失望、様々な思いが混じったため息を一つつき、グランドは感情を吐き捨てる。

「ウィンドバードの話は信じよう。事実おとなしくしているし、お前を慕っているようだ。それに疑わしいが……空のルモウドの銃があること、お前たちがこの場に戻って来たことから、ブラッドウルフを退けたことも本当なのだろう。だが他は信じられん」

 余りに現実味の無い物語であっても、妥協の末幾つかの出来事は信じてくれるようだ。

だが実際に体験した本人にとって、その妥協という行為は不満以外の何物でもない。

「でも事実だ」

ネイノートは毅然と言い放った。

グランドの眼がネイノートを捉える。


 向けられたのはまるで殺気だ。

少年の脳内は急速に冷めていく。

グランドは父と雰囲気が似ていた。

父ならばネイノートの言葉を信じないはずがない。

だが当然、グランドとネイノートの父とは違うのだ。

「お前はその時気絶していたのだろう?なぜ事実だと言える」

鋭い視線を向けられたネイノートだが、その姿勢は崩さない。

「カノンカは嘘をつくような人間じゃない」

彼はグランドをまっすぐ見返し言い放った。


 ネイノートは父を尊敬している。

そしてそんな父が使う弓という武器がとても好きだった。

しかし今は、弓というだけで蔑み馬鹿にされる時代だ。

だからこそネイノートは、弓を見ても変わらず接してくれる人を信じる。


「ほう?たった七日共に過ごしただけで知ったように語るではないか」

ネイノートの根拠のないその言葉を、馬鹿にしたように笑う。

「信じなくてもいい。どうせ何があったかなんて関係無いんだ。それで俺は冒険者になれたんだな?」

その蔑んだ笑いを無視して質問を投げかけた。

「その通りだ。ネイノート・フェルライト。どんな嘘を吐こうが、入団試験は合格だ。おめでとう。そしてカノンカ・ヒュエリエ、監視する者ご苦労だった」

グランドはそう言い捨てると、踵を返し建物の中に入っていった。

「ネイノート君。ありがとう」

自分を信じてくれた嬉しさから、カノンカの口から感謝の言葉がこぼれた。

しかしネイノートは何も答えず。少しだけ微笑んでから建物に向けて歩を進める。


 初日に転送されてきた部屋に入る。

中にはグランドと、制服を着た職員が一人いるだけだった。

「レシュノアとルルムスは、昼にもうギルドへ戻っている。お前もギルドについた瞬間から冒険者ギルドのメンバーだ。冒険者ギルドの名を汚さぬように気を付けろ。そこのウィンドバードも特別に同行することを認めよう。おとなしいようだし、暴れたところでたかが知れているからな」

彼が職員に合図を送ると、床から魔法陣が現れる。

視界が真っ白に染まり、ネイノートは再び冒険者ギルドの一室に戻ってきたのだった。


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