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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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悲しき戦い2

 勇者の敵対。

その事実を受け、戦場にいた全ての者が王国へと逃げ出した。

異常な光景に魅かれ、避難していた住民も何人か城壁へと集まってくる。

クロツチにノゼリエも城壁の上に姿を現し、ネイノートらと共に、勇者と、それに対峙する魔物を見つめていた。



 勇者が身に着けている武具は、伝説級の武具である。

聖剣に貫けぬ物は無く、切られた傷は魔力を弾く。

鎧は殆どの武器を通さず、その防御力は計り知れない。

 対するオーガキングは、身体能力こそ勝っているものの、持っている武具は明らかに見劣りする品だ。

勇者に外傷を負わすには、鎧から剥き出しの所を狙うしかないだろう。

しかし、オーガキングは鎧の上だろうが構わず振り回す。

大振りの一撃であれば、例え鎧に傷がつかなくても、体内へのダメージは免れない。

勇者もそれを知っているからこそ、聖剣を振るって斧を受け流す。

「どうした!?なぜ攻撃してこない!」

一向に手を出さない勇者に向けて、オーガキングが叫んだ。

 彼は楽しんでいたのだ。

次いつ会えるともしれない同郷の者。

敵対してはいるものの、その戦闘はこれまでで一番楽しい時間であった。

こうして打ち合っていれば、その間は彼と話が出来るから……

本気を出してしまえば、あっという間にその時間は消え去ってしまう。

斧を剣で弾く音だけが、辺りに響く。



 城壁の上では、胸を貫かれたタイロンとガンゼオラの治療が行われていた。

だがそこに希望はない。

無情にもメイレイの声が響く。

「無駄よ。勇者が持つ聖剣で斬られた傷は、一切の魔法が効かないの。幾ら治癒術をかけても傷は治らない」

メイレイの言葉通り、いかに聖女であるキュオレの魔法であっても、傷は一向に塞がらない。

それでも彼女は、全てを知っていながら治癒魔法を唱え続ける。


 ふとガンゼオラの体が動いた。

意識を取り戻したようで、必死に右の手を動かしている。

「ガンゼオラさん!動かないで!」

制止するキュオレの声を無視して、ガンゼオラは握り拳を近くにいたクロツチへ向けた。

「腰抜けの鍛冶師。これを……」

弱弱しい声に心を痛めながらも、クロツチは差し出された拳を取る。

その手の中には、真っ白の金属片があった。

それは勇者の持つ『聖剣』の欠片。

「わしの仕事は終わった。後は主の……主らの仕事じゃ……」

 ガンゼオラは微笑むと、持ち上げていた右手を力なく落とした。

必至に治癒魔法をかけていたキュオレは、その様子を呆然と見ている。

彼女は自身の力不足に泣き崩れた。


 勇者を睨むネイノートは矢を一本番え、狙いを定めていた。

何故かは分からないが、高速で動く戦闘ではないようで、狙うのは容易だ。

放たんとするネイノートに、再びメイレイが声をかける。

「それも無駄。勇者に遠距離攻撃は効かないわ。魔法も、銃も、弓も……」

「やってみなければ分からない」

彼女の忠告を無視して、ネイノートは矢を放った。

それは鉄の鏃であったが、人間の、鎧を付けていない剥き出しの体には十分な脅威となる。

一直線に飛ぶ矢は、斧を剣で弾いた勇者の喉目掛けて飛んでいく。

 まさに喉に突き刺さろうかという瞬間……

一瞬の閃光が瞬いた。

結果勇者は無傷。

狙撃に気付いたのか、彼は少しの間、城壁の上のネイノートを睨みつける。

何が起こったのか、理解出来ないネイノートへ、メイレイの冷めた声が告げた。

「いったでしょう?効かないって。あれが勇者の持つ神の祝福。『精霊王の加護』よ。全ての加護が、打ち消すことなく宿っていて、そのあふれ出る魔力が魔法、飛来する弾を自動で迎撃する」

その結果は先の通りだ。

飛来する矢、銃の弾は、炎や雷で撃ち落とされ、魔法は光と闇の盾に防がれる。

 故に勇者は、遠距離攻撃に対して無敵。

可能性としては今のオーガキングのように近距離戦闘だが、それも身に着ける伝説級の鎧、聖剣により、通常では太刀打ち出来る強さではない。



 何か策はないか。

幾つかの矢を放ち、完全に無効化されていることを確認したネイノートは、頭を抱える。

そこへ声がかけられた。

声の方を向けば見知った顔が並ぶ。

クロツチが前に出てある物を差し出した。

「ネイノート。これを使ってくれ」

彼が差し出した物は、一本の矢だった。

ガンゼオラから託された『聖剣の欠片』を、クロツチが鏃として作り直したのだ。

それを見て、呆れたように賢者が言う。

「あのねぇ……確かに聖剣ならあの鎧も通すだろうけど、矢である時点で無意味なのよ?」

例え鏃がどんなに鋭かろうが、遠距離攻撃である時点で、勇者には届かない。

届かなければどれだけ鋭かろうが意味は無い。

 だが、賢者のその言葉に反論したのは、何とノゼリエだった。

「賢者様。カノンカさんのお姉さんだそうですね」

ノゼリエを見て賢者は頷く。

この切迫した状況下で、この問答に一体何の意味があるのか。

そう疑問に思うネイノートを置いて、賢者が納得の声を上げた。

「……成程ね。可能性は無くはないわ」

メイレイとノゼリエは話を詰めていく。


 暫く経ち、話をまとめ終えたメイレイが呟く。

「必要なのは……各種魔法石ね。私も幾つか持っているけど全種類は……」

「任せてください!」

次に声を上げたのはソーセイン。

胸を叩いた少年は、城壁の隅に置いてある荷物から、色とりどりの魔法石を取り出した。

「あら、いいのかしら……結構なお値段でしょう?」

「いいんです。お金なんてまた稼げばいいし、僕にはこのくらいしか出来ません。それに……死んでしまっては元も子もありませんから」

違いねぇ、とクロツチが笑う。

 次は人選。

「魔王の娘さんが闇を。言い出しっぺの貴女は水ね。風は……ちょうどいいから鳥さんに任せましょ。光は……」

「私がやろう」

治療に一心不乱なキュオレを見たメイレイに、声をかけたのはレシュノアだ。

次いでルルムスが声を上げ、雷を受け持つことになった。

そしてカノンカは、赤い宝石を握り締めて賢者を見る。

その宝石は、ネイノートが彼女に送った『ルーンフォスの宝石』。

これまで少しずつ魔力を込めてきた大事なものだ。

妹の強い意志を宿した瞳をみて、メイレイはソーセインから、黄色い魔法石を受け取った。


 全ての準備が揃うと、メイレイはネイノートに説明を始める。

「これから弓使いさんには、聖剣の矢を撃ってもらうわ」

「でも迎撃されるんじゃないのか?」

いかに勇者の鎧を打ち抜ける矢であっても、そこに届かなくては意味がない。

そういったのは賢者ではないか。

そう主張するネイノートを窘めて、メイレイは続ける。

「話は最後まで聞きなさい。……原理はカノンカの加護と一緒よ。勇者の持つ加護に、同等の加護をぶつけることで、全てを無力化する。後は……矢を当てるだけよ」

 ネイノートが放つ一本の矢に、カノンカ、ノゼリエ、レシュノア、ルルムス、サラシャ、メイレイ、そしてウィンが精霊を付与する。

その力は、勇者の加護を相殺無力化し、加護が力を取り戻す前に矢を的中させる。

それが、今彼らが取れる唯一の方法であり、勇者を止める最後の方法だった。


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