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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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悲しき戦い1

 余りに突然のことで誰も反応出来ない。

誰もが胸を貫かれたタイロンと、仮面の男を見ていた。

その中いち早く動く者がいた。剣聖ガンゼオラその人だ。

腰に携えた名剣を抜き放ち、疾風の如く駆け抜ける。

タイロンには申し訳ないが、今仮面の男が持つ剣は、彼の体に突き刺さったままであり、攻撃を防がれる可能性は低い。

 人の体とは、簡単に壊せるものではない。

ましてや胸には重要な器官が集結している為、それを守る骨も複雑だ。

無造作に突き刺せば、刀身は骨に食い込み、抜くことも一苦労となる。

だが、それを知ってか知らずか、仮面の男の剣はするりとタイロンの体を抜け、剣星の剣を受けとめた。


キィィィン!


 綺麗な金属音。

武器も最高の物を使ったガンゼオラの一閃は、いとも容易く受け止められた。

しかし剣聖の名は伊達ではなく、仮面の男が持っていた剣は刃こぼれを起こす。

「ははっ、危ないじゃあないか、ガンゼオラ」

その口ぶりから、仮面の男は剣聖の事を知っているようだ。

 この時、既に二人の者が彼の正体に気付いていた。

最初に気付いたのは剣聖。手に持った剣を見て。

次に気付いたのは賢者。その声を聞いて。

そして、彼が起こした次の行動で、皆その正体を知ることとなる。

彼は……仮面を外した。


 仮面の下から現れたのは、金色の髪を持つ青年。

その姿を見て、城壁の上から様子を見ていた聖女が呟いた。

「勇者……様?」

かつて魔王を殺し、人間を救った英雄。

聖剣を持つ、神に選ばれた異世界の民。

人間の味方である筈の、『勇者』がそこにいた。

「そんな怖い顔をするなよ。メイレイ」

彼の態度は周囲と違い非常に軽い。

皆真剣な顔で睨みつける中、彼は笑顔で涼し気に周りを見渡す。

「いいねぇ。人間と、魔族と、魔物。皆手を取り合って仲良くしましょう?ハッピーエンドじゃないか」

血で濡れた剣を一回振る。

それだけで刀身についた血は滑り落ち、綺麗な白に戻った。

「そこの綺麗な鳥さん。僕の声を皆に送ってくれるかい?」

ウィンは訝しみはしたが、その提案を断る理由がない。

風を操り、勇者の声を皆に飛ばす。


 魔族との戦争が終わり、喜ぶ兵士らに勇者の声が届く。

「ハロウィンだったんだ」

戦場にいる者は、突然聞こえた声に首を傾げた。

そして聞きなれない単語にどよめきを起こす。

それは、勇者の目の前にいる者達も同じだ。

不思議そうな顔をする者達を見て、勇者は意外そうに続ける。

「あれ?知らない?ハロウィン。皆お化けの格好してさ。お菓子を強請ねだるんだ。トリックオアトリート!っていってさ……まぁ、それはいいか。その日の朝にね、妹に貰ったんだ。この仮面。『くすくすお化け』だってさ。不格好だよねぇ」

手で仮面を上にほうり投げ、落ちてくるそれをつかみ取る。

 勇者の口調は明るい。

だがどこか異常な空気を感じて、誰も声を出せなかった。

何回か仮面で遊んだ勇者は、その動作を止める。

そして……

「十年だ」

さっきまでの明るさは何処へ行ったのか。

突然冷たい口調で言い放った。

積年の恨みを込めたような、低く、重い声音。

それに意表を突かれ、驚く者達を尻目に、彼は仮面を大事そうに腰の袋へと入れる。

それから鋭い視線で剣聖、賢者、サラシャを睨みつけた。

「十年だ!!俺がこの世界に来てから十年!まだガキだった俺はこの剣を渡され、『魔王を殺せ』と言われた!動物すら殺したことない俺がだぞ!?」

鋭い視線は王国へと向き、城壁の上にいる国王を捉える。

「人の人生を滅茶苦茶にしておいて、ハッピーエンドだぁ?許せる筈がないだろ!俺が不甲斐ない魔王の代わりに……全部終わらせてやるよ!!」

その声を聞き、国王の顔が悲痛で染まった。


 叫びと共に勇者は駆け出す。

手に持った聖剣を振り上げ、サラシャへと振り下ろした。

白い剣閃。

その身に宿した自動修復魔法リジェネイションにより、刃こぼれが綺麗さっぱり消えた聖剣は、黒の少女に迫る。

それを止めたのはやはり剣聖だった。

「おいたが過ぎるぞ!勇者よ!」

鬼の形相で睨むガンゼオラを前に、勇者は舌打ちをし少し飛び退くと、空いた手で頭を掻きむしり喚きだした。

「ぁぁああ!!イラつくんだよ!年寄りだからっていつもいつも、いつもいつも上から目線ですかしやがってぇえ!」

 勇者が再び聖剣を構えると、聖剣は強く光り輝きだす。

その光は目を開けているのも辛くなる程強くなっていく。

やがて眩い光が収まると、胸を剣で貫かれた剣星が崩れ落ちていた。

「ガンゼオラ!?くっ……そこの鳥さん!」

賢者はウィンを呼んだ。

意志を汲んだように、ウィンが咄嗟に唱えた魔法は空間通門ゲート

賢者は魔法の力で倒れているタイロン、剣聖を引き寄せ、黒い穴へと放り込む。

続いて自らが飛び込み、次いでサラシャ、ウィンも穴へと飛び込んだ。



 勇者の前には一つの影があった。

赤褐色の肌に、一本の角を持つ魔物。

『転生者』のオーガキングだ。

その姿を確認した勇者は声をかける。

「お前にも期待してたんだがな……まさかそっちにつくとは思わなかったよ」

「俺はあんたみたいに人間を恨んでいないし、この世界を憎んだりもしてないんでね。静かに暮らせると思う方についたまでさ。それをあんたが壊すというなら……容赦はしない」

オーガキングは巨大な斧を片手で振り上げると、それを肩に担ぎ体勢を低く取る。

その隙の無い体勢を見て、勇者も聖剣を構えた。

「流石『転生者』。あの老いぼれよりも骨がありそうだ」

そういうと勇者は、漸く纏っていたローブを脱ぎ去った。


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