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臆病者の弓使い  作者: 菅原
112/119

帰る者

 王国軍の兵士に異変が起きていた。

最後の戦いが始まって暫く、士気の維持もうまくいっているし、指揮官の号令も完璧だ。

なのに、次々と兵士は倒れていく。

体が思うように動かない。剣が何倍も重く感じる。

彼らの体は限界だった。

命に関わる緊張の連続。

何度も何度も高揚と絶望を繰り返し、消耗する精神。

心の弱き者は、この五日間一睡もしていない。

 鼓舞で士気を上げる、という行動は、諸刃の剣である。

一時的に自身の限界を超える身体能力を得ても、いずれはその反動が襲い掛かる。

今、彼らに起きている異常こそがそれだ。

度重なる疲労と傷により、限界を超えて耐えていた身体が悲鳴を上げ始める。

動きが鈍った者から、一人また一人と死んでいく。



 戦場の一角、見覚えのある一行の姿があった。

カルテア・シグナリスが率いるパーティー『スリズの星』だ。

彼等は辛うじて、五人全員生きていた。

だが、彼らにも体の異変は起きていて、その動きは緩慢だ。

「くそ!周りの奴等みんなやられちまった!」

パーティーメンバーの一人が叫ぶ。

周囲は魔王軍だらけで、王国軍の鎧を着た人間など一人もいない。

五人はそれぞれ隊列を組んで、迫りくる敵兵を対処する。

「援護はどうしたんだ!?何であの英雄様はこいつらを狙わない!」

この戦争で英雄となった弓使い。

彼等も見覚えのある貴族は言った筈だ。

1000の距離を離れたゴブリンの頭を打ち抜く、と。

ならば眼前にいるこのゴブリンとオーガの頭を、早く打ち抜いてくれ。

メンバーの四人は皆そう願う。


 だがカルテアは違った。

彼は気づいていたのだ。

絶え間なく援護があることに。

今も近くにいるオーガ兵が一体狙撃された。

メンバーが気付かないのも無理はないだろう。

何千何万といるうちの一体倒れたところで、分かる筈がない。

ましてや心身共に余裕はなく、自分が生き残ることだけで精いっぱいの状況だ。

 しかし、事実カルテアは何度も彼に命を救われていた。

魔王軍の中に孤立してしまっているスリズの星は、もはや助からないだろう。

それでも彼の英雄は、彼らを見捨てることなく矢を撃ち続けている。


 近くにいるオーガ兵が矢で倒される様を、運よく目撃したカルテアは切に思う。

(俺は……なんて人を馬鹿にしていたんだ)

それはとてもとても遅い改心。

ここは戦場であり、遠く離れた英雄に、謝罪や感謝を伝える手立てはない。

いずれは彼らの命もそこらへんに転がっている死体同様、消えてなくなってしまうだろう。

……だが。

「皆!」

突然上げたリーダーの声に、パーティーメンバーが揃ってカルテアを見た。

「皆と一緒にいられて、俺は幸せだった!」

カルテアの顔は笑顔だ。

そして目からはある決意が見て取れた。

それを受けて、メンバーもみな笑って頷く。

命尽きるその時まで。

スリズの星は、力の抜ける体に鞭を撃つ。



 我武者羅に剣を振り回していた最中、カルテアはある異変に気付いた。

雨だ。

カルテアは兜を冠っている。

雨は当然その頭上から降ってくる為、兜がそれを遮る筈だ。

だというのに落ちてくる筈の雨は、何故か下から打ち付けられて、カルテアの顔を濡らしたのだ。

不思議に思ったカルテアは、我慢出来ずに雨が降る黒い空を仰ぎ見る。

その行動にメンバーが疑問の声を上げた。

「おい、何してるんだ!……リーダー!!」

メンバーの声も今のカルテアには届かない。

武器を下ろし、呆然と立ち尽くしている。

突然抵抗を止めたカルテア目掛けて、オーガが剣を振り上げた。


 風が吹いた。

眼を塞ぎ、身体が吹き飛ばされそうな程の突風。

その風は確実に自然発生したものではなく、カルテアらの周囲を逆巻く。

城壁から見えたそれはまさしく竜巻。

しかも天を覆う雲にまで達する巨大な竜巻だ。

それを見た弓使いは、ここにはいない筈の名を呟く。

 吹き荒れる風は雨を横に飛ばし、その強風は周囲の魔族兵を人形のように吹き飛ばす。

竜巻は更に強くなり、雨を降らす分厚い雲をも吹き飛ばした。

その一角だけ太陽の光が差し込む。

突然風が止み、全ての兵がそれを見た。

太陽の光を受け輝く、半透明の羽根を持った小さな緑鳥の姿を。


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