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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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戦場を駆ける狼

 相変わらず雨は降り続ける。

二日に続く雨は年を通しても珍しい。

なにもこんな時にならなくてもよかろうに。

城壁の上で兵士がひとりごちる。



 時は迫っていた。

門の傍には武装した兵士が剣を抜き放ち、今か今かとその時を待っている。

城壁の上でも弓使い、魔法使いが身を隠し、じっとその時を待つ。

やがて広間にいる治癒術師が、一斉に魔力の供給を止め、その場を急ぎ離れた。

魔力の残滓により、少しだけ続くその儀式魔法は、暫くして役目を終える。

儀式魔法の効果が消えた証に、城壁が一瞬淡く光った。

 正にその時、雨を受けながら白く輝く狼が、城壁の上に姿を現した。

魔王軍の兵士は指を指し、その姿を確認する。

そんな兵士を見下ろしてクリスタルウルフは咆哮を上げた。


 クリスタルウルフは20もの高さのある城壁から飛び降りる。

背に乗っているサラシャの魔法により強化された体は、その高さをものともしない。

彼は着地と同時に、戦場を駆け抜けた。

その速さは凄まじく、瞬く間に魔王軍との距離が縮まっていく。

 城壁の上から確認した魔法人形ゴーレムの数は二十三体。

大体の位置は覚えているし、腹部が煌々と光っている為、存在の確認は容易い。

クラストは駆けるルートを模索しながら、前足に魔力を纏わせた。

彼は一番近い場所にいる一体の魔法人形に向かって駆ける。周囲にいる魔王軍兵士の中で、その速さに反応できる者はほぼいない。

主だった妨害もなく魔法人形の前に躍り出たクラストは、魔力武装オーラを纏わせた右腕を薙いだ。

雪を斬るかのような手応えと共に、魔鉱石の体が二つに割れる。

自重により崩れ落ちる音で兵士が振りむく頃には、クラストの姿はそこにない。

 今だけは、火竜のような巨体ではなく、唯の狼と同じ体躯であることが利点となっていた。

その姿を確認出来るのは遠くから眺める者だけ。

それも辛うじての話で、白く駆けるその姿は正しく雷の如く。

魔王軍兵士が驚く間もなく、二体目の魔法人形が崩れ落ちた。



 タイロンは前線で暴れまわるクリスタルウルフを目で追いかける。

「まったく……一番厄介な者が残り、敵に回るとはな」

近くにいる吸血鬼は何も言わない。

共に四本指に入る身でありながら、クリスタルウルフに敵わないことは本人も分かっているからだ。

 タイロンは近くにいるオーガから剣を取り上げると、狙いを定めて放り投げた。

高速で飛ぶそれは、一直線にクラストの上にいるサラシャを狙う。

クラストを狙ったところで、クリスタルウルフの強靭な体毛は、その衝撃を吸収してしまうだろう。また、自身に向けられる敵意よりは気付きにくい、という理由もあって、彼は狼上のサラシャを狙った。

 目まぐるしく動く標的目掛け、吸い込まれるように剣は飛ぶ。

四体目の魔法人形を切りつけた直後。

気付いても回避が難しい瞬間で剣はサラシャに襲い掛かった。

彼女がその剣に気付き、驚きの声を上げようとした時……

一つの矢が飛来する剣を叩き落とした。



 城壁の上では一人を除いて座り込み姿を隠していた。

一人というのは勿論巨人殺しの英雄ネイノートだ。

「ネイ君!?なにしてるんですか!」

上がった声はソーセインのもの。

彼も作戦を聞いていたが、城壁の上の者は、魔法人形ゴーレムが全滅するまで姿を隠している作戦だった筈だ。

だがネイノートは、弓を構え、魔王軍に向かって矢を放っていた。

驚愕に固まる兵士とソーセインに振り向き、彼は叫ぶ。

「情けなく思わないのか!?あいつらは王国の為に命を懸けて戦場を走っている!王国を守るべき俺たちが隠れているのは何故だ!」

 その理由は唯一つ。敵の攻撃を城壁から逸らす為。

儀式魔法を発動していない城壁は、補強されているとはいえ、唯の岩の塊だ。

どんなに頑丈であっても、集中攻撃を受ければいずれは崩れ落ちる。

ネイノートの取った行動は、作戦を無視した行動であり、敵兵の注意を引き付ける原因となるだろう。

だが……彼の狙撃がなければ、サラシャとクラストが危機に陥ったのは確かなのだ。そして、起きてしまったことは無しには出来ない。

つまり、姿を現したネイノートに攻撃が集まるのは当然。

背中を向けた緑の少年目掛けて、城壁の下から三つの槍が飛来した。


 ガィン!!ガガン!!


 鳴ったのは金属音。

鉄が圧し折れるような音を出し、槍がたたき落とされる。

ネイノートの背を守るのは、赤い鎧に黒い盾を持った冒険者。

完全武装したロンダニアだ。

彼は作戦を無視したネイノートをたしなめるわけでもなく、同様に声を張り上げる。

「おい!こんな小さな子でも立ち上がってるんだ!お前たちはどうするんだ!?」

彼も歯がゆかったのだろう。

ただ隠れていることしか出来なかった自分に。

ロンダニアの声に即座に反応したのはごく一部。だが、一人また一人と立ち上がる。

 立ち上がった者は、矢を打ち、銃を鳴らし、魔法を歌う。

その姿に魔王軍が気を取られれば取られる程に、クラストとサラシャに向けられる意識は少なくなる。

兵士が立ち上がった様を見たネイノートは、再び矢を番え戦場を睨みつけた。


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