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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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暫しの沈黙

 兵士が心身を休めている間、国の上層部は王城にて会議を開いていた。

議題は勿論、この先の作戦についてだ。

ある者は声高らかに言う。

「まだ終わりではない!全軍で突撃し、目にもの見せてやろうぞ!」

勇敢な者はそれに賛同し、椅子から立ち上がる。

 また、ある者は力なく言う。

「降伏すれば……命だけは助かるのではないか……?」

現実に絶望する者はそれに賛同し、すすり泣く。

意見はほぼ二つに分かれ、話はなかなか決まらない。

いや……決まらないのではない。決めたくないのだ。

 皆知っていた。そもそも最初から選択肢などない事を。

今魔王軍を率いている者の目的は、魔王であった父が殺されたことによる復讐。

そこから推測されるのは『人間の皆殺し』だ。

この戦争に敗北した時点で、人間に未来はないだろう。

援軍は望めない。籠城も難しい。ならば進軍するしか……打って出るしか人間に勝利はないのだ。

しかしそう決まってしまっては、当然行動に移さなければならない。

弓兵団、銃兵団をものともしない凶悪な軍団へ向けて。


 それまで一言も発しなかった少女が、遂に声を上げた。

「私達が出ます」

小さい体で精一杯背筋を伸ばし、サラシャは言った。

言い合っていた貴族たちも口を噤み、国王の話を待つ。

「その気持ちは嬉しいが……凶暴化してしまうのではないのか?」

国王が問うたのは、彼女自身が言った『魔王友軍が前線に出られない理由』。

だがそれを聞いたサラシャは首を振る。

「魔王友軍ではありません。私達が《・・・》です。私が彼の背に乗って、魔物の血を制御します」

部屋の隅に座っていたクリスタルウルフが立ち上がり、サラシャと共に並んだ。

 辺りの貴族から声が上がる。

「馬鹿な!二人であの軍に攻め込むというのか!?」

「嬲り殺しにされるだけだ!」

自らにその勇気がなくとも、一応味方である者の立場を気遣っての言葉だ。

彼女は今、この部屋にいる者の中で一番勇敢だっただろう。

先程進軍を提案した者であっても、二人で戦場に降りる勇気などない。

頑なにその意思を通す彼女の心に、王国の人間は次第に言葉を無くしていく。

「王国の未来の為に。どうか宜しく頼みたい」

やがて国王がそういって立ち上がり、頭を下げると、皆習って頭を下げた。


 たっぷりの時間をかけ皆が頭を上げたならば、更に作戦を煮詰めていく。

「私と彼が、ゴーレムを全滅させます。そうしたら全軍を上げて攻撃を仕掛けてください」

「成程。クリスタルウルフ殿であれば、それも可能であると?」

「愚問である。我とサラシャ様がいれば倒せぬものなど居らぬ」

皆それが虚勢だと感じた。いくら語り継がれる伝説の魔獣とはいえ、魔王軍はまだ万の兵を残している。

戦場に降りれば、圧倒的兵力で囲まれ、押しつぶされるだろう。

しかし彼ならば、と期待してしまうのも事実。

度重なる議論の末、遂に会議も終え、最終作戦が編まれる。

実に一日の四分の一にも及ぶ長い会議だった。

 貴族たちは足早に部屋から立ち去る。

一人になった国王は、天井を見上げて呟いた。

「神よ……ご加護を」

その言葉を聞く者は誰もいない。


 戦場を濡らす雨は強さを増していた。

兵士は皆屋内に入り、体を冷やさぬように体をふく。

その間、魔王軍は雨曝あまざらしの陣を汲んで、戦場に立ち尽くしていた。

 城壁への攻撃をしてもいいのだが、その効果は薄い。

ならば、いずれ来るべき時の為に、力を温存しておいた方がいいだろう。

タイロンは、一人、獣の背にある傘の付いた籠の中で眠りにつく。

その事に誰も文句を言わず、また誰も座ることもせず。

その時が来るまで、先の銃撃より生き残った魔法人形と同じく、置物のようにただじっと待ち続ける。


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