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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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鉄壁の城塞

 城壁の中に入った兵士は、大きく深呼吸をして、今生きていることに喜ぶ。

兵士が皆城壁をくぐったことを確認し、厳重な落とし戸が落された。

魔族の姿が見えなくなった事で、皆安堵の表情を浮かべる。

だが戦が終わったわけではない。

王国軍は現在、援軍が加わった状態であり、更なる援軍は望めない。

そんな状態での籠城戦など、既に負け戦といえるだろう。



 城壁の内側で怪我人の処理をしていた、勇者の仲間である『聖女』“キュオレ・B・メルメッテーゼ”は、閉まった城壁の下へ駆けつけていた。

彼女の近くにはローブを身に付けた女が何十人と集まる。

彼女達は、キュオレが選んだ精鋭治癒術師である。

王国の城壁が難攻不落の城塞と呼ばれていたのは、彼女達のおかげであった。


 キュオレの号令の元、十人程の治癒術師が城壁の上へと駆けのぼる。

現在城壁の上は一番の危険区域だ。

魔王軍の立場から言えば、眼前には20の高さもある堅牢な城壁。

その上から降り注ぐ攻撃はなかなかに厄介だが、それさえ止めてしまえば、もはや勝ったも同然となるだろう。

故に城壁の上は今、魔王軍に集中攻撃されていた。

空を飛ぶことの出来る魔物、翼を持った石の悪魔『ガーゴイル』、亡霊となった彷徨う魂『ウィスプ』、雷を操る鳥『サンダーバード』等々、多種多様な魔族が集まる。

彼等が放つ攻撃は、殆どが魔法攻撃だが、魔王軍の攻撃はそれだけではない。

地上からもその有り余る身体能力を使って、槍や石を投げてくる。

 城壁の上にいる兵士は、直ぐに逃げたい衝動に駆られるが、ここで逃げてしまってはいずれ蹂躙されるだけだ。

抵抗なき城壁は壊され、魔王軍がなだれ込んでくるだろう。

それを防ぐためにも、皆歯を食いしばって戦闘を続けた。


 なぜキュオレ達治癒術師がそんな危険な場所へ向かったのか。

怪我人の治療の為ではない。それは偏に防衛の為である。

彼女らが向かう先は、戦争が始まる直前に弓兵団が立っていた広間。

王国をぐるりと囲む城壁には、あれと同じような場所が幾つか設置されていた。

 キュオレは広間の中心に立つと、魔法の詠唱を始める。

「光の聖霊よ……我らに慈悲を、我らに祝福を……災いから守る術を私たちに与え給え!全方位完全魔法障壁オーラルド・フルシルディオ!」

発動した魔法は、大魔法を超える魔法。この世界の言葉では『儀式魔法』と呼ばれるものだ。

それは何十という魔法使いの力を持って発動する神の奇跡。

その奇跡の力は、広場に刻まれた魔法陣を伝って、城壁の中を駆け巡る。

十人全てがその魔法を発動して漸く、鉄壁の城塞が出来上がった。

 この魔法が守るのは城壁だけではない。

ぽっかりと空いた頭上までもが、強力な魔法障壁で護られていた。

これにより魔王軍の攻撃は、全て防ぐことが出来るようになる。


 この魔法の弱点を上げるならば、まず燃費の悪さ。

一流の魔法使いを何十人と使いながらも、維持するためにまた何十人という魔法使いを必要とする。

魔力が尽きる前に、前任者から引き継ぎ交代を……という作業を繰り返さねばならない。

それだけの手間と人手を割いても、発動していられるのは丸一日といったところだろう。

 もう一つの弱点はその強度にある。

この魔法障壁は、火竜のブレスに匹敵する程に強力な攻撃でもなければ、力負けをすることはない。

しかし、その強力な障壁はこちらの攻撃も弾いてしまうのだ。

魔法も銃も、そしてネイノートが放つ矢でさえ、魔族に攻撃を与えることが出来なくなる。


 国王がこの策を選んだのは、魔王の存在があったからだった。

ここにいない勇者を本当に倒したのであれば、例え20の高さを誇る城壁であっても、無きに同然。一蹴されるだけだろう。

この魔法を使うことで、もしかしたら敵の侵攻を遅らせることが出来るかもしれない。

そう考えた上での咄嗟の行動だった。

 国王の予想は当たっていて、この障壁を見た魔王タイロンは、顔を崩し舌打ちをする。

それを人が知る術はないが、兎も角当面の安全は確保出来たようだ。

しかし、何時までも籠城しているわけにはいかない。

時間制限はたった一日。少なくともその間に、再び戦闘準備を済ませ、攻撃に出なければいけない。

王国の中では、再び慌ただしく兵士が走り回っている。

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