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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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銃兵団

 城壁の上にいる遠距離部隊は、翼竜を処理した後も、絶えず魔王軍に向けて攻撃を放っていた。

だがそれも魔法人形ゴーレムが合流するまでで、前線までやって来た奴らは、そのまま先頭を切って城壁へと攻めてくる。

 魔法人形の体は強靭で、鉄の鏃程度は通さない。

また、体に宿るその魔力量から、魔法にもある程度の耐性を持っている為、城壁の上にいる者の攻撃は大体が無力化されてしまっていた。


 ネイノートは、残り少ない火竜の矢で魔法人形の腹部を狙う。

威力的には問題なく、それらを倒すことは出来るのだが、やはり頭をもたげるのは矢の残数だ。

火竜の矢であれば倒せるが、肝心の火竜の矢は、受け取った時点で僅か二十。

これまでも幾らか使っているので、現在では半分まで減っている。

 幾ら巨人を殺した英雄とはいえ、鉄の鏃で魔鉱石の魔法人形(オブシド・ゴーレム)を倒すことは難しいだろう。

皆、効果が薄いことを百も承知で攻撃し続けた。


 前線から撤退してくる王国軍を見た兵士は表情を凍りつかせた。

また、その一団の中に、賢者と剣聖の姿を見つけた者は、一種の錯乱状態に陥る。

『魔王軍とは、人外と名高いS級冒険者ですら、撤退をしなければならない程の強敵である』

真実は、相性や色々な策謀、戦略を踏まえた上に出来上がった状況なのだが、思考する余裕がない兵士は単純にそう考え、力が及ばぬと結論付けてしまう。

それを……自分が安心するためだろうか。辺りに喚き散らしたのがいけなかった。

「剣星様でも斬れない魔物がいるのか!?」

「賢者様の魔法でも倒せない魔物がいるらしいぞ!」

その噂は次々に広まって、王国軍の士気を下げていく。

これから城壁の前で、魔王軍との最終防衛戦が始まるというのに、兵士達は既にその存在に恐れをなしていた。



 皆恐怖に震える中、規則正しく行動する一団がいた。

撤退してきた王国兵を受け入れると、蓋をするようにその一団が前に出る。

黒を基調とした服を身に着け、腰には金色の銃を携えていた。

背中には銃と同じく、金の刺繍で、勇者の世界の文字で『銃』と描かれている。

彼等こそ、先の大戦で人間に勝利をもたらした『銃兵団』である。

一人の兵士が声を張り上げた。

「弓兵団に負けるでない!総員構えぇ!!」

号令と共に、列を成して並ぶ兵士は銃を構える。

綺麗に整列するその様に、後ろで見る兵士は感嘆符を漏らした。

「恐れるな!我らの力は絶大である!放てぇぇ!!」


 ドォォォン!!

   ドォォォォン!!


 一拍おいてから、幾つもの破裂音が鳴り響いた。

打ち出した鉄の弾は雨粒を弾きながら飛び、魔法人形の体に突き刺さる。

威力は驚く程で、誰も剣で傷つけることが出来なかった魔鉱石オブシドの体に、次々と穴を開けていった。

 銃兵団は流れるように、後続の兵士と交代で銃を撃つことで、絶え間ない銃撃を可能としていた。

一列目の兵士が銃を撃つと、次いで二列目の兵士が銃を撃つ。

三列目の兵士が銃を撃つころには、一列目の兵士が装填を終えている。

 無数に飛ぶ銃弾は魔法人形だけに留まらず、その後ろにいる魔王軍の兵士にも被害をもたらした。

魔鉱石程の強度があっても穴が開いたのだ。多少硬くても、狼の毛皮、鉄の鎧程度では到底守れない。

戦場にいる兵士は、火薬と血の匂いで鼻が馬鹿になり、鳴り響く破裂音と悲鳴で耳も馬鹿になっていた。


 どれほど続いただろうか。

鳴りやむことがないかと思われた音も漸く止み、戦場には静寂が訪れていた。

耳を塞ぎ、反射で目まで塞いでいた兵士達は、恐る恐るその手を放し前方を見る。

まず目に入ったのは、穴だらけの魔法人形、その後ろにも多くの兵士が魔物の姿で転がっているが確認できた。

 王国兵は歓喜の声を上げた。

まるで戦に勝利したかのように讃え、喜ぶ。

その声が余りにも大きかった為に……城壁の上で戦場を見ていた数人の兵士しか、それに気づかなかった。


 前線にいる一人の兵士が気付き声を止める。

それは流行病のように、瞬く間に兵士の中に広まっていった。

声を無くした戦場に、魔王軍の足を踏む音が響く。

銃撃より生き残った、魔法人形の腹部の輝きが怪しく光る。

 

 まるで、さっきまでの事がなかったかのように歩き続ける魔王軍に、銃兵団は気圧された。

既に全弾を撃ってしまったらしく、銃を構えたまま右往左往するのみ。

悪戯に逃げ出さなかったことを褒めるべきだろう。

銃兵団より後ろにいる兵士ですら、その姿に後退りをした。

 堪らず銃兵団の隊長が声を上げる。

「退却だ!引け!引けぇぇぇ!!」

かつて魔王軍を打破した銃兵団。

彼等の力を持ってしても、今目の前にいる魔王軍は止めることが出来なかった。

敗れたわけではないが、銃兵団の退却に王国兵の絶望も増す。

もはや剣を握る手に力は籠っておらず、このままでは無駄に命を散らすのみ。

それを悟った国王は、ついに撤退の合図を送った。

いつもは昼の報せを鳴らせる鐘の音が鳴り響く。

その金を聞くや否や、兵士は皆、先を争うように城壁の中へと入っていった。

 ついに人間は城壁の中に籠り、籠城戦を余儀なくされる。


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