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臆病者の弓使い  作者: 菅原
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二人の魔法使い

 カノンカは剣を握る手に力を込めた。

周りには何十体もの魔法人形ゴーレム

その一体一体は、ブラッドウルフを超える力を持つ。

ガンゼオラにメイレイもさすがに焦っているようで、顔には余裕のない笑みが浮かんでいた。

「貴方……魔王の四本指の一人ね?」

かつて面識があったのだろうか。メイレイは吸血鬼に問いかける。

吸血鬼は薄い笑いを絶やさず答えた。

「ええ、そうですよ。貴方方が殺した、魔王様の忠実なしもべです」

まるで大道芸の道化師のように、大げさに頭を下げる。

 その仕草に腹が立ったのだろう。

メイレイは舌打ちをすると、腰に携えた杖に手をかけた。

ガンゼオラも剣を振る態勢に入っている。


 一触即発の空気が漂う。

だが、吸血鬼は二人を無視した。

「さぁ!行きなさい、ゴーレムたちよ!人間達に最大の苦しみを!最大の屈辱を!ハハハハ!」

その言葉を聞いた数十の魔法人形達は行動を開始する。

大きく広がるように歩を進め、近くにいる兵士達を所かまわずに殴りつけた。

「ひっ、うわああああ!」

「来るな!来るなああ!」

「ぎゃああああ!!」

 その光景はまさに地獄絵図。

勇敢にも立ち向かった王国兵の攻撃は、魔鉱石の体にことごとく弾かれ、逃げ惑う兵士は魔法人形に囲まれて滅茶苦茶に殴り殺される。

まるで、癇癪を起した子供が放り投げる人形のように、屈強な筈の王国兵が次々と吹き飛んでいった。


 王国兵が魔法人形を恐れた理由は三つ。

一つは攻撃が効かないこと。

一つは防御が効かないこと。

そして最後の一つが、意志を持たないこと。

魔法人形は何を感じるでもなく、淡々と作業のように人をなぎ倒していく。

その光景の不気味さといったらない。

 耐えきれずに小隊長が声を上げた。

「てっ、撤退だああ!引けっ!引けええええ!!」

その言葉を皮切りに、王国兵士たちは我先にと敵に背を向け駆けていく。

その中にはガンゼオラ、メイレイ、カノンカの姿もあった。


 いかに剣星であろうと、そこら辺に落ちているなまくらな剣では、魔鉱石の体に傷をつけるのは難しい。

腰に差した一振りを使えば、何体かは倒せるだろうが、焼け石に水だろう。

魔鉱石とは、滅法物理衝撃に強い素材であり、剣とは相性が悪すぎる。

 歯ぎしりをしながら駆けるガンゼオラの目の前で、メイレイが立ち止まり振り向いた。

「何をなさるおつもりか!?」

ガンゼオラの声を無視して、メイレイは魔法発動の準備を始める。

王国兵が撤退したことにより、後を追う魔法人形達は、扇形にまとまりつつあった。

漸く全個体が射程に収まる程度に纏めることが出来た。

「カノンカ!あの時の魔法石、持ってるわよね!?」

言われて思い出したカノンカは、慌てて腰の袋から黄色い魔法石を取り出す。

第四節詠唱魔法フォースチャンツマジックよ!私が合わせるから好きに打ちなさい!」

言うや否や、メイレイも二つの魔法石を取り出した。

一つは茶色。一つは黄色。

彼女らは共に、指の先を傷つけ、零れ落ちる血を黄色い魔法石に垂らす。


 途端に精霊の声が聞こえた。

『今度こそ僕の番だね。続けて!』

元気な男の子の声。

その声は詩を歌い出し、カノンカもそれを続ける。

『汝は全てを裁く神の怒り!』

「汝は全てを許す神の慈悲!」

『精霊の力よ!我が身に宿れ!』

「我が身に宿りて敵を打ち砕け!雷の聖霊よ!」

詠唱と共に、周囲を黄色い光が包み込み、カノンカの白い髪が黄色く染まる。

その時……黒の扇の一番先頭を走る魔法人形が、立ち止まった標的目掛けて、拳を振り上げた。


 剣星も僅かに遠く、カノンカを守る者はいない。

だが彼女は足を止めたまま、魔力を練り上げることを止めなかった。

彼女には分かっていたのだ。彼が助けてくれると……

 突如、一つの赤い糸が目に飛び込んだ。

それは火竜の鏃を使った矢。

その矢はバキンと音を立てて、魔法人形の腹部に突き刺さると、輝く光球を貫いた。

魔法人形は次第に動きを止め、光が霧散する。

「ありがとう!ネイ君!」

それを確認したカノンカは、遠くにいる彼に感謝し、徐に手を空に掲げた


 掲げた右手には青白い雷が走り、ばちばちと放電音を放つ。

その雷は曇天の空まで駆け上ると、灰色の雲の表面を覆った。

次いでカノンカは、魔法の名と共に掲げた右手を振り下ろす。

第四節詠唱魔法フォースチャンツマジック雷神天槌トールハンマー!!」

振り下ろす右手に導かれて、太陽を遮る雲から、巨大な雷が降り注いだ。

 それはまさに、神が振り下ろす裁き鉄槌。

白く輝く光は魔鉱石の体を打ち抜き、内に秘めた精霊すら貫く。

戦場の全ての音を飲み込む轟音。そして目を覆うほどの光の明滅。

その中、メイレイも詠唱を終え魔法を放った。

第三節詠唱魔法サードチャンツマジック連鎖雷撃サンダーチェイン!!」

 魔法人形の体に入った落雷は、暴れながら次の標的へと走る。

更に次へ、更に次へ、何十回と雷が入れ替わった体は、やがて所々が赤く変色し、炭となって崩れ落ちた。


 辺りから黄色い光が消え、魔力を使い果たしたカノンカは力なくその場にしゃがみ込む。

渾身の力で撃った大魔法。

しかしそれでも……同属性の精霊を宿した魔法人形を倒すまでには至らなかった。

また、無理やり広範囲化していた為か、威力もまばらで何体か動いている個体もいる。

 カノンカは俯くと、悔しそうに地面を殴りつけた。

もはや体を動かすこともままならない。このままでは逃げることも難しいだろう。

立ち上がる魔法人形を目の前にして、諦めかけたその時……

「まだよ!」

 メイレイが叫んだ。

手に茶色い魔法石を握り締め、魔法の詠唱を完了させる。

第四節詠唱魔法フォースチャンツマジック大地昇撃ガイアフォース!!」

魔法人形の足元。

茶色い土が、大きな螺旋の渦を描き、倒れている魔鉱石の体を飲み込んでいく。

全てを飲み込んだ大地は大きくうねり、その牙を突き上げた。

それは唯の土塊つちくれではない。多量の魔鉱石を含み圧縮された魔鋼鉄の牙だ。

何本も地面から隆起し、金属がし折れる鈍い音を鳴らしながら、魔法人形の体に滅茶苦茶に突き刺さる。

全ての音が止む頃には、動いている魔法人形は一体もいなかった。


 魔力不足で体が動かないカノンカに加え、メイレイも度重なる大魔法の発動により、肩で息をする程にまいっている。

何をするにしても一度撤退するのがよさそうだ。

そう感じた剣星は、へたり込む二人を抱え、城壁目指して駆けだした。

魔法人形の残骸が散らばる中、後に残るのは、邪悪な笑みを浮かべる一匹の蝙蝠のみ……

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