森の狩人
大陸の東に位置する大山脈。
その周りには実り豊かな大森林が広がっていた。
人間の住む国の周りは見渡すかぎりの大草原が広がっており、国から山脈までを森と二分している。
国に比較的近いその森の中。
木々の間を一匹の兎が駆け抜け、そのあとを一人の少年が追い駆けるのが見えた。
翡翠石のような瞳、若葉のような緑の短髪、小柄で細いその体の通り、兎と同じかそれ以上に素早い。
背中には、木で作られたシンプルな弓を一つと、矢が十本ほど入った矢筒。
防御力をほとんど考えていない長袖と長ズボンのみの服装は、動きやすさを重視したせいだろうか。
少年の名前は“ネイノート・フェルライト”。
彼は森で生きる狩人である。
息を潜め気配を消したネイノートは、矢を一本取り出し弓に番える。狙った兎は、呑気に草を食んでいた。
一瞬息を止め、矢を放つ。
放った矢は木々の隙間を縫い、木漏れ日を浴び一筋の白い軌跡を残しながら、吸い込まれるように兎に突き刺さった。
短い悲鳴を漏らしながら、兎はすぐに息絶える。
彼はこうして毎日狩りをして暮らしている。
森の中を駆け森の恵みを糧に暮らす狩り人。
十六になる彼は幼き頃よりこの生活を続けていた。
亡き父と母の優しき心、強き心を受け継ぎながら……
ネイノートは腰に兎をつるし帰路に立つ。
木々が生い茂った迷宮のような森の中を、散歩をするかのようにするすると歩いていく。
やがて見えてきたのは、一軒の古びた小屋。
「ただいま」
彼は軋む戸を開けながら、誰もいない小屋の中に声をかけた。
丸太をそのまま切り出したような机に椅子、それと寝台が一つだけの簡素な小屋。
人が一人暮らすのが精一杯の物だったが、彼にはそれだけで十分だった。
部屋の中心にある炉に火を起こした後、処理していた兎肉に塩を振って火にくべる。
肉に火が通るまで弓と矢の整備をするのが彼の日課だ。
豊かな森には、果実を始め多くの食料があり、それを求めて多種多様な生物が共存している。
またその生物を餌とする魔物も数多く生息しているため、人間が住むには適さない。
魔物とは凶暴で残忍だ。
人間を襲って食う魔物も沢山いる。
しかしネイノートが住む家が建つ位置は、森の中でも草原に近い表層で強い魔物は滅多に出てこない。
また長年暮らしていたせいか、魔物もこの家の位置を覚え近寄らなくなった。
いつもは夕食を取った後腹を休め寝るだけなのだが、今日の彼は忙しく動いていた。
頻りに道具を漁り、武具の整備に余念がない。
傷に塗り込む傷薬、少量の干し肉に香草、弓一つと矢を二十本。
獲物の下処理をするためにナイフを持つ彼だが、戦闘で刃物は使わない。
その代わりに弓を使う彼としては、矢をもう少し持っていきたいところだが、沢山持って行っても身動きがしにくい、と考え、二十に留めた。
何回も何回も確認し、漸く満足すると彼は寝台に潜り込む。
明日は決行の日だ




