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07 ご近所さんと大掃除

「コウスケー!」


 師匠だか坊さんだか何だかよく分からないがとりあえずみんな忙しいこの時期、この季節。

 そいつは突然やって来た。


「んぁ、大樹? 俺今手ぇ離せな……ちょ、ちょっと! ちょっとだけ待っててくれ!」


 漫画やらプラモやらが積み上げられていた俺の部屋は大掃除という名の空襲に遭ってまるで地獄絵図。

 突然の来訪に対処できるほどの余裕はこれっぽっちもなかった。

 とにかく玄関へ続く道を確保するために押しのけ積み上げ、雪崩で二次災害が起こらないよう必死に物を寄せていく。

 あぁそれにしてもどうしてこんなに物があるのに捨てられる物が全然ないんだ。

 全部勿体ない気がするぞちくしょう。


 そんなわけで奮闘すること、十数分。

 息も絶え絶えに玄関の扉を開けると、――そこには誰もいなかった。


 ん?


「おい、大樹? まさかもう帰ったんじゃ……」

「あー! コウスケやっと出たな! 遅ぇぞっ」

「え」


 ぐっと下から声が聞こえ、半信半疑のまま目線を落とす。

 ……と、そこでようやく元気さに満ち溢れた大樹と目が合った。

 しゃがみ込んで雪をかき集めていたらしい。

 ふと横に視線をずらせば小さな雪だるまがちょこんと静かに佇んでいる。

 その隣には雪だるまと同じくらいのサイズの、鮮やかなオレンジ色をしたミカン。


「……えーと?」

「ミカン持ってきた! なんか一杯箱で届いてさ、春兄が持ってけって」

「春樹の奴は?」

「寒いから外出たくないって!」


 言って、それは楽しげに、眩しげに笑顔を放つ。

 あ、ちくしょう、若い。眩しい。

 俺だって高校生だぞこのやろう。

 それなのに何でめちゃくちゃ歳くった気分にならなきゃいかんのだ。

 頑張れ俺。若返れ俺。


 まぁでも、実際こいつは昔から変わらないなぁ、と俺は何となくしみじみしてきた。

 だってそうだろ、それに比べて春樹の変わりようったら泣けてくるほどだ。


 立ち上がった大樹は傍に置いていた箱を持ち上げる。

 それは若干重そうで、代わりに持ってやると「サンキュー」と言ってまた笑う。

 よく笑う奴なんだよな。


「あ、てか寒かったろ。悪いな、手が離せなくて……中に入って休んでくか?」

「コウスケ、家ごっちゃりしてるじゃん」

「うっ」


 中を覗き込んだ大樹が遠慮もぶしつけもなくズバリなことを言ってくる。

 ……裏表がなさすぎるんだよな、うん。

 悪気があるわけじゃなくてただただ見たままの光景を口にしたんだっていうのが分かるだけに、なんというか微妙な複雑さが渦を巻く。

 まあ自業自得だけど、掃除してなかった俺が悪いんだけどよ!


「おばさんとおじさんは?」

「買い物」

「んじゃコウスケ一人なのか?」

「まあ、そうなるな」

「ふーん。んじゃ少し一緒にいてやるよ。それならコウスケも寂しくないだろー?」


 笑いをこらえるように――言いたかったんだろうが結局こらえきれずに吹き出し、ケタケタと笑う。

 その生意気な言い方は子供特有で、子供が嫌いな奴からすればめちゃくちゃムカつく可能性もあるんだろうけど……今の俺は妙に和んでしまった。

 いや、年不相応で可愛くない春樹の態度に散々振り回されているだけにギャップでむしろ和むっつぅか。

 ていうかこれでこいつと春樹が兄弟って時々信じられねぇ、マジ疑わしいことこの上ねぇ。

 しかも歳はたったの一年しか離れてないとかどうなってるんだ。


 ――でもあれだ、こいつらの一番上の兄貴はこれまたベクトルが全然違うっつぅかマジで怖いし、ああうん、結論、日向家怖ぇ。


「ま、崩れ落ちてきた物に埋もれないように気をつけろよ。おまえちっこいし」

「んな!? す、少しは伸びてんだからなー!」

「そっか? 今何センチよ?」

「……」

「ん? 何? 聞こえねー」

「だぁー! いいだろもーっ! それより掃除しなくていいのかよっ?」


 ちょっとからかえばすぐにムキになる。

 それがおかしくて笑いをこらえれば、そんな俺に気づいた大樹はますます頬を膨らませた。


 そんなこんなで掃除再開。

 興味を持ったらしい大樹も手伝うと名乗り出てくれたのはありがたいんだが――。


「おーっ、マンガ増えてる!」

「ん? それ貸してなかったっけか?」

「うー、読んでねー」

「あぁ、ほとんど制覇したのは春樹だったか。あいつ読むの速いからな……。そんじゃ今度貸してやるよ」

「サンキュー! あ、アルバム! コウスケどれどれっ?」

「だぁ、こら! 勝手に見んな!」

「ぶはっ、コウスケちっちぇー!」

「馬鹿野郎! 今のお前よかでかいわっ!」

「嘘だぁ! あ、なあなあこれは? 落ちてんぞー?」

「どわああああそれは待て、ええと何だ、あれだ、俺のバイブルだ!」

「ばいるぶ?」

「いいから見んな! はい没収!」

「何だよケチー」

「子供には早いっ」

「子供じゃねーもんっ」

「いいからお前そっち……待てぇ! いいか動くな、踏むなよ、絶対踏むなよ!?」

「は? 何?」

「ストップうううう!」





『何ですか急に。……え? 大樹を引き取りに来い? えっと……あいつ、何かしましたか?』

「いや、そういうわけじゃないんだが……俺の……俺の体力がもたねぇ……」

『……ご愁傷様です』


 ちくしょう、哀れむな。


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