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 ある雨の夜、仕事帰りに夜里はアパートのゴミ捨て場で狐を拾った。一応は都会である街で、濡れそぼった狐はところどころ泥がついて汚れていた。それなのにその狐は、まるで血統書付きの猫のような高貴な雰囲気を纏っていた。ただの野良狐ではないと主張しているようだった。

 夜里は狐を拾ってどう世話するのかとか、自分ひとり生きていくので精いっぱいなのにどうするんだとか考えるより先に、自身が濡れるのも構わずに濡れ狐を抱き上げてアパートに連れて帰った。

 風呂場で狐の汚れを落とし、ドライヤーで毛を乾かしてやると、純白のふわふわとした毛皮を纏っていることが分かった。白というよりは白金だろうか。光に当たってきらきらと輝いているように見える。アルビノなのかもしれない。

「お前はこんなにきれいだったんだね。どうしてゴミ捨て場にいたんだい。捨てられたのかい」

 夜里は狐のふわふわのけ触りを楽しむように、撫でたり耳の裏をかいてやった。すると狐は気持ちよさそうに目を細め、寝る体勢へ入っていった。

 狐がすっかり寝入ってしまうと、夜里は夕飯の支度をした。といっても、納豆と野菜ジュースのみだが。諸事情で一か月ほど休職していたのだが、その間ほぼ部屋から出ず、たまの買い物で菓子を買いあさり、それを食べてはだらだらと過ごしていたため、それ相応に体重が増えてしまった。さすがにまずいと思い、まず食事制限をすることにしたのだった。

 ものの数分で食べ終わると、狐を洗う時にあらかじめたいておいた風呂に入った。

 夜里は風呂で本を読むことが日課になっている。たまに携帯端末を持ち込むこともあるが、たいていは本だった。仕事柄、湿気の多いところに本を持ち込むことに抵抗はあるが、ぼーっと考え事をしながら入るのは嫌だった。何せ消極的な性格故、考えることといえば将来に対する漠然とした不安と、いっそのこと命を絶ってしまったほうがすっきりしていいのではないかなどというようなことばかりで、せっかく風呂に入っているのに全くリラックスできないのである。

 本が湿気ってよれないように換気扇を回すのはもちろん、窓も少し開ける。冬であるいま、外気が入ってくるとしばらくは寒いが、熱い湯につかっているとちょうどよく感じてくるのでそれまで我慢だ。そうして数分湯につかりながら本を読んでいると、不意に擦り硝子のドアの向こう側に人影が見えた。

 確か玄関の鍵は閉めた、はずだ。確信はないが習慣化しているのでおそらく閉まっている。

 夜里は慌てて腰にタオルを巻きつけておそるおそる風呂場のドアを開けた。

 そうしている間に人影は風呂場の前から消えており、見間違いかと思いつつも手早く体を拭いて部屋着に着替え、部屋に戻った。

 するとそこには――。


 そこには見知らぬ白い髪の美しい青年が夜里のベッドに我が物顔で腰かけていた。


「だれ?!」

「わたしは竜胆。お前が先ほど拾ったかわいい狐だ」

 そんな馬鹿な。

 なんというファンタジー。

 ありえない。

 頭がおかしくなって幻覚でも見てしまっているのだろうか。しかしそういう精神疾患は患っていないはずだ。月一で精神科に通っているが医者からそのような宣告は受けたことがない。

「け、警察呼びますよ!」

「落ち着け。ケイサツが何か知らんが、ひとまず落ち着いてわたしに茶をよこせ。そしたらわたしの話をしてやろう」

 そんなもの聞きたくないしなにちゃっかり茶を要求しているんだ!

 夜里はそう叫びたかったが、確かに落ち着く必要はあった。

 夜里はとりあえず湯冷めしないように半纏を羽織り、電気ポットから白湯をマグカップに入れてテーブルに置いた。そしてベッドに座る不審者とテーブルを挟んで向かい合わせの位置に座り、白湯を一口含んだ。

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