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アンドロイド・オリジン6・西暦2035年

「ラナ。お前の作戦は大方こんなところだろう。まず買った盗撮虫型カメラをすべて保育園内に配置し、その映像を自分の頭のコンピューターで同期する。それによりお前は保育園内部の全体を見渡せる視野を得ることが出来る。それを処理するには、人間並みの脳では不可能だが、どうせお前のことだし脳の処理速度を上げる違法拡張ファイルでも準備してあるのだろう。それに加え武力を強化するプログラムも。

 バリツは予測が命の武術だ。それを膨大な視野と処理速度によって行うのは、オリエントの諺でいうオーガにこ棍棒だな。

 そして侵入は下水道から行う。流石に建物の内部とはつながっていないが、園庭の影にまだ犯人側が見つけていないマンホールがあってそこから侵入する。そして虫カメラにより犯人たちの動向に注意し、隠れながら人質達のいる部屋へ。

 おそらくもっとも武装が強くなるのは人質のいる部屋付近と、出入り口付近だ。そしてそこに機関銃を持った者がいる可能性は高い。一人ぐらいなら不意打ちでお前でも制圧できるだろう。そして奪った機関銃で他の物を制圧。もし違法アンドロイドがいるのなら、脳のコンピューターに侵入し、クラッキングにより無力化。無論レジストされるのだが、多少運が悪くても5人の内一人には成功するはずだ。

 そして他の物は保育園全体の見回りをしている。銃声に気づき、人質のいる部屋に戻ってくるだろう。だが残りは所詮武装したチンピラだが大半だ。そして警察も機関銃の音がしたとあっては突入せざるを得ないだろう。特殊部隊が人質がいる部屋まで来たら窓から飛び降り、入ってきたマンホールから脱出。こんなところだろう。

 素晴らしいよ。さすがは我が娘だ。完璧な作戦だ。天才だな。

 さあ、お前の失敗を酒の肴にして今日は飲むからとっとと行ってこい」


 ◇ ◇ ◇


『博士』は私達に話しかけるなり、そう一気にまくし立てた。

 アビーは何が何やらわからないと言った顔でポカンとした顔をしていた。

 

「確かに」私はとりあえず博士のペースに飲まれないようにする「一見『そう簡単に行くか』という作戦ですが、私の中で入念なシュミレーションを行い……」

「だから素晴らしいと言っているじゃないか。止めないから行ってこい」


 そこで私は口をつぐんだ。

 成程、彼にこうはっきり言われると、欠陥だらけに見えて止めたくなる。私を止める方法だとすると、悪くない手だ。

 そこでアビーがようやく口を開いた。


「その、博士……とやらだっけ?貴方は自分の作ったアンドロイドの思考をすべて把握しているのかい?」


 博士は私からアビーに視線を移し、全身をくまなく嘗め回すように観察した。


「アビーだったか。お前の制作者とも私は親しくさせてもらっているよ。もし会う機会があったら『ジェイムズがよろしくと言っていた』とてでも言っておいてくれ。

 さて質問に答えようか、確かに私はラナの体内情報を把握してはいるが、常に思考を情報化してコンピューターに保存しているとかではない。思考を読み取れるのは、ラナが自身のソフトに対して違法行為をしている場合においてだけだ。まあ心拍数と呼吸回数と体温くらいは常に把握しているがね。それらの結果により、病気の有無、生理周期なども」

「もしかして私の制作者も……?だとしたら気持ちが悪いな……」


 アビーは背筋に寒気が走った、というようなポーズをした。


「医者がそのようなものを把握してるようなものなのだし、当然のことだ」


 私は話しが関係ない所に行っているのに焦りを感じ、話を遮る。

 

「そんなことは既に知っているのでいいです。それはそうと私の作戦に欠陥があるのなら言ってください」

「だからそんなものはないと言っているじゃないか」


 私は目を細めて博士を見つめた。表情は読めない。

博士は倫理観がずれていて、愉快犯のように人を馬鹿にする所もあるかと思えば、気まぐれにまっとうなことを言いだすこともある。

 この場合は明らかに馬鹿にする物言いだが、だからこそ真実を語っているという可能性もある。

 もし私が保育園に侵入し、失敗し、人質を死なせたとあっては無論博士にも責任が回ってくるのだが、それを気にしない精神性が彼にはあった。

 いや、さすがに命にかかわることに対しての愉快犯的な行動はなかっただろうか。

 以前彼の導きで研究室を爆破したこともあったが、幸い負傷者はいなかったはずだ。

 私ともども何故そんなことをして今の地位にいるのかは不思議ではあるが、やはり実力はあるようで、それを庇う養母のコネ力も強く働いていた。

 よく考えると、倒すべき敵とは彼のことではないのかとたびたび思うのだが、残念ながら私は制作者には暴行を与えることに加え、恨むことすらできないようが出来ないようプログラムされてるため、モヤモヤした気持ちを抱えたまま黙っているしかないのだった。

 無論博士に救われた人間も数多くいるはずだし、私自身も何度も助けられている。

 私は目を閉じる。

 保育園と警察達の両方に意識を集中すると、犯人は『一時間後にヘリで脱出するので、10万ポンド用意しろ、さもなくば人質を殺す』といっている。彼ほどの財力を持っている者が10万ポンドほどの金を欲しがるとは思えない。おそらく金を手に入れたという事実が欲しいのだろう。しかし、仮に金が用意されても脱出時に人質をこっそり殺すようだ。警察達はまだもめていた。

私は目を開けた。


「わかりました、行ってきます」

「ちょっ……」


 止めるアビーを振り切り、私は路地裏に向かって走った。


 ◇ ◇ ◇


「まあまて」


 必要な物を近くのホームセンターで買ったのち、川の用水路から地下道へ入ろうとしたところで先回りをしていた博士に呼び止められた。

 私は今、目出し帽をかぶり、上下黒い服で統一していた。

 博士には答えず通り過ぎようとすると、急に耳鳴りが頭に響いた。


「――っ」

「あわてるな」


 博士はポケットからカードフォンを取り出し私に見せた。

 

「今、あるプログラムをお前の頭にインストールした。これでさらに作戦の成功率が上がっただろう」


 そのプログラムのせいか、少し視界に靄がかかったような気がした。

 足元がふらつく。私は頭を押さえた。


「何を入れたんです……?」

「お前の欠点を補う薬だ」

「……」


 何か言いたかったが時間がない。私は急いでその場を後にした。



 博士が説明したように下水道を通り、保育園の地下まで向かう。汚物や鼠の死骸の臭いが漂っていた。

 マンホールはあらかじめ調べておいた通り、ロックの必要のないものだった。バールを使用し開けて外に出る。

 そこは外からは見えない死角になっていて、さらに虫で調べた所、近くに人はいない。

 盗聴器や隠しカメラがあるか調べるための虫型の機械も、すでに保育園内に配置しており、準備は抜かりなかった。

 あらかじめ数匹の虫によって開けておいた窓から侵入する。

 犯人が話の配置は人質達が集まっている部屋に4人、内2人が違法アンドロイド、後は機関銃を持った男と、武装した下っ端が一人。

 人質の部屋に機関銃を持った者が2人以上いた場合は少し難しいことになったかもしれないが、このは位置であればなんとかなるだろう。まずは隠れながら目的の部屋に向かう必要があった。大きめの保育園とはいえ、6人もの武装した者が巡回しているなかを進むのは難しいかもしれないが、虫カメラにより園内すべてを把握している。

 3階にある人質のいる部屋まではスムーズに進むことが出来た。

 部屋の前に見張りがいたが、隙を見てバリツ式チョークスリーパーにより眠らせた。

 人質は子供が10人、保育士が2人。他の者は最初の時に逃げたようだ。だとしたら犯人が保育園に入りこんだと気に死なせなかったのは、慎重だと取るべきか。

 一瞬博士の言っていたことが頭をよぎる。

 いいや、大丈夫だ。作戦に抜かりはない。

 警察もまだ突入をするつもりはないようだ。

 アンドロイドに対してのクラッキングと、機関銃を持った男に対してのテーザーガンの発射を同時に行おう。相手の呼吸を確かめて撃てば暴発はしないはずだった。

 深呼吸をする。

 3秒後に突入する。

 3……2……1……


 ◇ ◇ ◇


「――ッ」


 扉を蹴り破ろうとしたが、カメラに想定外の者が映っていたため、あわてて中断した。

 私が侵入したマンホールから人が出てきていた。

 迷彩服で全身を包んでおり、猟銃のようなものを持っていた。

 全身から汗が流れ出る。

 盗聴している情報から考えて、警察関係者ではない。犯人側の者でもない。

 ではそのことから推測できる情報は一つ。


――ヴィジランテだ。


 確かにこの事態は想定外だった。

 彼が動画の再生数目当ての馬鹿か、訓練を受けた自警員かで対応が変わってくる。

 しかし見た所迷彩服の男は見周りとばったり出くわすルートで進んでいた。

 そして次の瞬間銃声が園内に響いた。迷彩服の男が撃たれる映像をカメラが捕えた。

 そして銃声を聞いた部屋の中の男が、子供たちに向かって拳銃を向けた。

 私は電撃銃を構えながら急いで扉を開けながら、違法アンドロイドの頭に侵入しクラッキングを行う。

 ワイヤー針は拳銃を構えた男の心臓部に見事当たる。

 だが暴発した弾が子供の一人の頭部を果実のように破裂させた。

 男は体を痙攣しながら崩れ落ちる。人質たちの悲鳴が部屋中に木霊した。


/"クラッキングはレジストされ失敗に終わった。

/"これからに最善の一手は機関銃を拾い上げ、アンドロイドに打ち込む。

/"私自身にセーフティがかかっているため、殺人は出来ないので注意を。

/"だがこの場において犠牲者を増やさないのは不可能

/"だがこの場において犠牲者を増やさないのは不可能

/"だがこの場において犠牲者を増やさないのは不可能

/"一秒後アンドロイドAが指から銃弾を打ってくる。


 私は電撃で倒れた男の、機関銃を拾い上げ、片方の違法アンドロイドの足の関節部にむかって撃つ。


「がっ――」


 暴音と共に、アンドロイドの足がもげ、崩れ落ちた。数発の弾が、関節部以外の金属部位に当たり、跳弾したが、人質には当たらなかった。

 数人の人質達が悲鳴を上げながら、部屋から逃げようとするのを、もう片方のアンドロイドが撃つ。

 少女の背中から血しぶきが飛び、倒れこんだ。


――やめろ。やめろ!


 機関銃じゃあだめだ。自身のセーフティが中途半端にかかる。

 機関銃を落とし、素早く拳銃を拾い上げ、テーザーガンは生身の男へ、銃弾はアンドロイドの関節に向かって撃った。

 両弾とも命中し二人とも倒れこんだ。急いで、アンドロイドに向かい、ロープで首を絞めて落とす。

 

/"既に部屋の前に犯人連中が到着している。


 私は虫型カメラで位置を確認しながら扉に向かって拳銃を撃つ。不意に足を撃たれてひるんだ男に向かい、バリツ式飛び膝蹴りを頭部にお見舞いした。

 あと残り三人。

 辺りを見回す。

 二人の子供の死体。

 怯える子供たちが、私を悪魔のように見ていた。顔が同級生の返り血で汚れている者もいた。男の子、女の子、保育員。

 嘔吐感がこみ上げてくるが堪える。

 息が荒い。バリツ式呼吸術で整える。

 下の階にいるアンドロイドにクラッキングを行うも失敗。

 ふと丁度下の階に犯人たちが集まっているのが見えた。


『止めてください!いや止めろ!』

『うるせえ!これ以上なめられたままで終わってたまるか!』

『ここで人質を殺したら脱出できなくなる!』

『もう遅い!』


 男の一人が天井裏に向かって何かを投げた。

 円形の物体で粘着状の物質で覆われているようだ。

 男たちが急いで部屋から出るのが分かった。

 虫を物体に近づけてみる。


"/粘着手榴弾


「皆急いでこの部屋から逃げ――」


 言い終割らないうちに下方から衝撃が走る。爆風により廊下に向かって吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。

 遅れて爆音が劈く。

 意識が飛びそうになるのを唇を噛んで耐えた。視覚機能にノイズが走る。

 足の骨が片方折れているのが分かったが、無理やり立ち上がり、私は部屋に向かって向き直った。

 建物全体が燃えている。

 部屋の壁にはには大きな壁が開いていており、部屋の床も爆発の衝撃でなくなっていた。

 下の階を覗き込むと、瓦礫が散々としており、赤黒い肉片が飛び散っていた。

 人の手や足と思しきものが所々に見えた。

 数少ない生存者の悲鳴と怒号が交じり、赤い炎が燃える中、私は意識を失った。  

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