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アンドロイド・オリジン2・西暦2035年

お助け倶楽部とやらに同意したわけではない。ただし私も確かに彼女を助けるのと同じくらいに、他人を助けると言うのは悪く無い意見に思えた。元々手伝い等は多めにしていたのだが、その日からはさらに他人から物事を引き受けるようになった。

 それは同じ学校の生徒にまでおよび、ベベと二人で受けることが多くなった。そのためいつの間にか私達二人はお助け倶楽部のようなものになっていた。

 これが計算だったとしたら大したものだと思う。

 数年の月日が流れ私達はエディンバラのセカンダリースクールに通っていた。

 ベベの荒っぽい性格は歳を重ねるごとに落ち着いていき、今では明るくて元気な娘といった程度だった。


「いつまでもお助け倶楽部じゃ格好悪いし名前つけようよ。候補としては『マイティ・シスターズ』『シルバー・スチューデント』『メタル・コミニティ』『ガールオブスティール』などなど」

「アンドロイドは主に合金部分と有機物質部分できていますが、金、銀、鉄のパーセンテージは少ないです」

「そこは比喩よ比喩」


 セカンダリスクールに進むにあたって私達はセント・アンドリュースの屋敷からエディンバラの寮に移り住んでいた。

 スークールは中世の城を数分の一ほどに縮めた外観をしており、大した歴史はないのだが、景観維持のためかわざと汚してあった。

 近年は酸性雨に強い煉瓦が見直されており、この学校もそう言った理由からこのような外観をしていた

 時は7月、つまり少し暖かさを感じれる秋真っただ中だった。

 排気瓦斯を多く含んだ霧がかかっており、遠くでガス灯型のLED街頭がぼんやりと光りっていた。

 スクールと量は同じ敷地内にあり、模造樹の並木道を越えるとすぐに付くことが出来た。

 そんな中をベベとクラスの者と話しながら歩いている。


「名前を付けるとヴィジランテじみてくるのでどれも同意しかねます」

「その意見百回くらい聞いた」

「恐縮です。ベベ」

「褒めてないよ。ラナそういえばあの娘今日も来てなかったよね。えっとなんだっけ――」

「あ……あ…あのベベ……ラナ……」

「何よメグ。あ、あなたもいい名前思いついた?」

「メグもベベに言ってやってください。どれもダサいと」

「はっきり言ったわね!?」

「あ……いや、ガーネットエンジェルズとかは……」

「何がガーネットなんです?」

「何がエンジェルズなのよ」

「ごめん……適当に言った……」

「まあ、私達には似合いませんが別の方なら案外悪くないのかもしれませんね。ねえベベ」

「そうよメグ!あなたガーネットエンジェルって名前で自警員やりなさいよ!」

「え……それはちょっと……」

「似合ってますよ、ガーネットエンジェル」

「そうよ。素晴らしい名前よ。ガーネットエンジェル!」

「えへへ……そうかな……」

「ガーネットエンジェル!」

「ガーネットエンジェル!」


 しばらく同じクラスの少女はニコニコと笑っていた。だが何かを思い出したようにハッとし、その場に立ち止まった。

 私達二人も立ち止まる。


「そうじゃなくて!」


 少女は今まで出したことの内であろう大声で言った。


「頼みごとがあって話しかけたの!」


 ◇ ◇ ◇


 少女の名はメグと言った。

 クラスではあまり目立たず引っ込み思案と言う印象が強い子であったため、記憶ホルダーから彼女の名前を探し出すのに数秒の時間を必要とした。


「……初めは気のせいかなっ、て思ってた……」


 彼女は椅子に座り、暗い面持ちでそう切り出した。

 話は寮で聞こうと言うことになり、今現在は私とベベの住んでいる部屋にメグを招待している。

 我々はスクール指定の制服を着ていた。ワイシャツにネクタイをつけ、灰色のセーター、下はチェックのスカートをはいていた。


「……むしろ初めは少し喜んでしまったの……何せ宿題が知らないうちに終わってたのだから……」

「確かにそれは嬉しい」


 ベベが頷き、同意を示した。

 ここは『他人が勉強を終えたって、自分に何の得があるんです?』という真面目なことを言うべきかもしれないが、私は不真面目なロボットなので黙っていた。


「……次は靴だった……寮にある靴の大部分の古い靴が高そうな靴に取り換えられてた……お気に入りの奴だけは残ってたんだけど逆にそれが怖くて……そして服、下着、とだんだん取り換えられるものがエスカレートしていったの……学校のノートもわかりやすくまとめてある奴に変更されていた……警察に言ったら『モノがよくなってるなら羨ましい限りだ』って、明確な実害がないと取り合ってくれないみたいで……」

「とんだあしながおじさんスレンダーマンね」


 つまりメグはストーカーの被害に会っているとのことだった。

 彼女に得のあることばかりではあるが、さすがに気味が悪いのだと言う。


「しかし」私は顎に手を当てて、コンピューターをフルスロットで動かす「ノートが分かりやすくまとめられていた、ということは犯人はクラスの者の可能性が高くなりますね。ただ、ここはガールズスクールですよ。教師もほとんど女性ですし。まあ、今時珍しくありませんが。珍しくありませんが」

「何で二回言ったの?」ベベは私の入れた紅茶を口に運んだ「けれどもそうとは言い切れないと思うの。実行犯はクラスの人かもしれないけど、裏に命令した男がいるとか」

「となると実行犯はお金目当て、でしょうかね」


 我々の通っているスクールは、イギリス全土から見ても上から数えた方がいいくらいに規則の厳しい場所ではあるが、だからこそ抑圧されて青少年少女を非行に走らせやすいと言うのもあるのかもしれない。


「メグ、あなたのルームメイトのお名前をお聞かせ願ってもいいでしょうか」


 不安そうにあたりを見回していたメグは、話を振られたことにより背筋を伸ばした。


「……そんな……!アビーを疑っているっていうの……?」

「アビー、ですね。ありがとうございました」

「……」


 頭の中にアビーで検索をかけ、教室での振る舞いを思い出す。

 確かに彼女とメグが話しているのを複数回見たことがある。ただ彼女自身はコミュニケーション能力が高く、彼女だけと親しいというわけではないようだ。


「アビーははした金で友達を売るような子じゃないと思うけど」


 ベベの言葉にメグは大きく頷いていた。


「でははした金でなく、親兄弟が病気で大金が必要などは?」

「ス……ストーカー被害が始まったころぐらいに両親と旅行に言った写真を見せてもらったけど、二人ともピンピンしてたよ……兄弟姉妹はいないって……」


 写真なんていつ取ったか証明できないものだが、両親については調べればすぐにわかるあろう。


「アビーに相談はしたんですか?」

「……してない……巻き込んだら悪いかなって……あ、いや、べべとラナはブドウやってるから大丈夫かなって……」


 確かに私達は数年前から東洋の武術であるバリツを習っていた。かの大探偵も使っていた勇書ある武術である。


「それは気にしてないわよ。遠慮なく頼って」

「……ありがとう……」

「学校には相談したのですか?」

「相談したら『本校で内密に入念に調査します』って言われたんだけど、その後何度聞いても調査中だとしか答えてくれなくて……たしか理事長先生が病気だって噂が立ってるけどそれ関連で忙しいのかも……」


 私はベベを見た。それに対してべべも私を見て頷く。


「とりあえずは現場を見てみましょう」


 ベベは大きく手を叩いた。


 ◇ ◇ ◇


 結論から言うと調査の結果はおもわしくはなかった。

 新しく増えた靴などに、銀紛などを使い、指紋を調べてみたが、メグとアビー以外のものは見当たらなかった。

 また部屋はカードキーで必要があるのだが、それは生徒証明書と兼用となっているのだった。その生徒証明書は特殊なICチップが入っているため、偽装はほぼ不可能。そしてその部屋を開くことが出来るのはメグとアビーと寮の管理人だけであった。管理人はマスターキーを使って部屋を開けることが出来るのだが、そのキーは学校側が厳重に保管しており、取り出すにも許可が必要となる。

 建物に入るのにも生徒証明書が必要で、その他の方法で入るのには、マンションのように内側から住民の許可が必要となる。

 メグは常に生徒証明書を肌身離さず持っている、と言っていた。生徒証明書は授業の出席確認にも使用する。教室の入口に端末があり、そこにかざすことで出席したことになるのだ。

 つまりカードを取り換えられた形跡はほとんどない。あったとしても日中は数時間の間に彼女のポケットに戻しておく必要がある。授業が終わってからも、学内での売店でも生徒証明書を端末必要があるため、盗んで戻すと言うのはかなり難しくなっている。

 では窓からならどうだと思ったが、彼女たちの部屋は地下にあり、窓はない。

 学生の部屋で窓がないなんて日当たりが最悪なのではと言う疑問があるかもしれないが、家賃が大幅に低い特別な部屋なのだ。また自ら発光する疑似窓が付いており、時間に合わせて太陽光を再現できるという優れものであった。

 部屋の隅々まで探したが、隠し通路のようなものは見つからなかった。


「すべての情報がアビーが事件にかかわりがあるっと言っていますね」

「学校自体が犯人って可能性も捨てきれないけどねー」


 私の言葉にべべはしっくりこないという顔を浮かべていた。

 私達はメグと別れ一旦部屋に戻っていた。

 アビーと話をしたかったのだが、メグがまだ彼女にストーカーの話をするのは待ってほしいと言っていたので、他にできることをしようというわけだった。

 私は携帯端末カードをガラス製のの出っ張りに差し込んだ。すると壁に映像が浮かび上がる。それと同時にテーブルにキーボードの形をした光が浮かび上がり、私はそれを指で叩きインターネットに接続した。


「やっぱり動画探すの?」

「可能性は低いですがもしあったらかなり事の運びが良くなりますから」


 ベベが私の横に並んで座った。

 近年劇場型犯罪の増加により、動画で犯行予告をネット上にアップロードする者が多くなった。勿論それが原因で逮捕された犯罪者の数は多い。しかし犯行予告をしてなおも捕まらない犯罪者は、一部でカルト的人気を誇ることもあった。

 どこぞの動画チャンネルで、有名な評論家が『こう言った愉快犯が増えているのは、現在の国家情勢の不安化から、冷戦の再発の予感、そしてその先にある核戦争への恐れから来ているのだと思われる。現に終末を唱える宗教が多々ある。犯罪者達にとっては世界の終わりのための宴なのであろう』と言っていた。

 とりあえず国内でのここ一か月でのスートーカーの犯行予告を探して見たところ、一軒だけヒットした。

 だが予告場所も遠く、内容も今回の件とは一致しなかった。さらに調べるとすでに逮捕されているようだった。


「殺人予告まで行くと警察も動いてくれるみたいだね」

「では殺人予告をでっちあげ、警察に動いてもらいます?無論私達とわからないように」

「おぉっと」ベベは一瞬迷うそぶりをした「……やめましょう。それない。それはない」

「そうですか。わかりました、あ――」


 そこで気になる記事を見つけた。

 何でも先週にテレビで犯行予告が流れたみたいだ。

 数十年前からネットが普及したことによりテレビの全体視聴率が下がり、テレビ局の数もかなり少なくなっていた。だからそんなテレビに犯行予告映像を送りつけるとは珍しいと言えば珍しい。そもそも大抵はいたずらと処理されるし、たとえ本物であっても流されることはほとんどない。

 ただ今回はそのテレビ局の支持する政党寄りの思想を持った者の犯行だっので、ネガテブキャンペーンのためにその動画を流したのだと言う噂が立っていた。

 だがその番組はもともと胡散臭い動画をよく流していたため、今回もやらせだろうとあまり注目されてなかったようだ。


「政治に関する犯行予告かあ。関係なさそうだね」

「そうですね。放送された動画を手に入れるには骨が折れそうですし」


 テレビ番組の動画を公式以外の手段でネット上からアップロード及びダウンロードなどしようものなら、ネット上を巡回している著作権管理AIが直ちにこちらを発見し通報してくる。映像関係者や音楽関係者、そしてゲーム関係者が違法アップロード撲滅のために共同で作った、努力と魂と怨念のこもった高度なAIなのである。

 なのでネット上では犯行予告や犯罪自慢より、著作権違反の方がはるかに速く動画が削除される。

 そして私の知り合いでテレビを録画している者などほとんどいない。

 今できることと言えばこのくらいだ。

 明日はベベがメグやアビーの友好関係を洗い、私は街に出て情報を調べると言うことになり、その日は終了した。

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