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ディテクティブスクワッド・プロローグ/アンドロイド・オリジン・プロローグ ★

ディテクティブスクワッド プロローグ


 //小宇宙型量子コンピューターによる類次元的存在の観測文書//

                                      

                          宇宙歴×××年××日


 そこは君の隣であり、誰も登ったことのない成層圏より高い山であり、幾百億の次元の狭間でもある場所であった。

 つまりそこはどこでもなくて、人類には定義づけや、観測が不可能な場所であった。

 しいて似ている様で真逆の言葉で表すとすれば、量子空間の揺らぎの絶対に観測できない場所、つまり人類の忘却地点であり暗黒地点である

 だがどうだ、そこには確かに情報を交換し合う存在があった。

 ここでの情報は数京分の一の低位の言語に落とす翻訳をし、普通の会話としてあらわしたものとする。

 そしてそれらの会話をする者を次元生命体と仮に呼ぼう。

 それに彼らは個と言う概念がないため、誰が誰の言葉と言うわけではないので、誰が話しているなどはない。


「我々は現在、未曽有の危機に陥っている。早急な対策が必要である」

「問題などありえない、種の保存など有機的生物の悲しき呪縛だ。例え次元そのものが崩壊しようと、気にすることではない」

「私はそうは思わない。逆説的に言えば崩壊を避けた結果がこの子の空間の存在だからだ」

「ならどうする」

「『探偵』を集めるのだ。いかなる因果であれ、物語と言う形に落とし込んでしまいさえすれば、解を求め得る存在を機械仕掛けの無ネモエクスマキナを」

「この問題の解を回答し得る候補は五体

『キャプテンオーク』

『4236』

『ガーネットサーチライト』

『QLLボーイ』

『アンドロイド2』

 ではこれより因果関係の整理に当たりこれらの者を集める。

 その集団の名は」

探偵部隊ディテクティブスクワッド


 ◇ ◇ ◇


挿絵(By みてみん)


 //アンドロイド オリジン プロローグ//


 私の頭部への衝撃と同時に視界に閃光が広がった。

 それにより記憶媒体への損傷を受ける。復元と現状確認を一秒間の間に、並行して行う。

 衝撃により、私は地面に突っ伏した。上手く受け身をとれなかったことにより、頭部から地面に激突す。

 僅かに頭を上げ、目の前の者を観察する。

 そこには巨大な人型の金属の塊が、拳を前に構えていた。無駄の多い無骨なフォルムをしており、鎧を着た人間にも見える。しかし私の知識媒体によると、それは拳闘用ロボットであることがわかる。

 ロボットの拳にはトゲのようなものが生えていた。

 おそらく私はそれに殴られたのだ。 


「おらもう終わりかポンコツー!」

「まだまだ始まったばかりだろー!」

「もっと殴られろー!」

「犯せー!」


 周りから下品な野次とも歓声ともつかない、害鳥の鳴き声にも似たものが飛び交っていた。腐臭交じりの熱気がこもっており、旧型の私の脳が焼き切れそうだった。

 記憶媒体の復元および修復が完了する。

 そして私の役割を思い出し、現在今何をすべきかを瞬時に思考した。

 私と目の前の彼の立っている場所は、ロボット用裏闘拳場である一辺が7ヤードほどのリングの上であった。周りを金網で囲われており、それに触れると電流が流れる。その向こう側に観客である人間たちが奇怪な笑顔を張りつけながらひしめき合っていた。

 現状の問題を打開するのに、一番の枷となるのが私が少女の形をしていて、相手の大きさが二回りも大きいということだろう。

 損傷した体の部分を上手く動かし立ち上がる。

 その間にも目の前の彼は拳を構えたまま上下に揺れていた。

 私が立ちあがると同時に、錆びついた機械音と共にはまたも私に攻撃を仕掛ける。人間にはできない関節の捻りを加え繰り出した高速の拳であった。

 大げさな動作だったために私はそれを読んでいた。その拳を避けようとする。

 しかし、自身の損傷の度合いの計算が間違っていたようだ。上手く避け切れず、顔面に拳を受け私はまたも弾き飛ばされた。口内にあたる歯を模したパーツが外れたのが分かった。

 それと同時に室内を埋め尽くす、歓声が大きくなった。

 今度はあおむけに倒れた私に、彼は馬乗りになる。

 そして拳を振り上げ、私の顔面を何度も殴りつける。

 金属と金属が打ち付け合う鈍い音だ。

 その音が会場に広がるたびに歓声は大きくなった。

 私は第五世代のアンドロイドなため感情があり、痛みを感じる。

 しかし今の私は他人事のように『恐らく顔面は見れたものじゃなくなっているだろう』と冷めた目で自分自身の現状を観察していた。


「ごめ……んなさい」


 うめき声。

 私の口部から発せられたものだった。

 どうも頭部コンピューターの動きと今現在感じている感情と隔離が激しい。伝達回路の一部が繋がっていないのだろう。

 だが私はその謝罪の言葉を発する自分に何の疑問も持たない。むしろ当然の言葉であると過去のメモリーとの照合から理解していた。

 その言葉を命乞いとでも勘違いしたのか、目の前の彼は興奮したように勢いを増した。

 だがこれは命乞いではない。これは贖罪の言葉だ。

 そうは思っても彼の拳の勢いは増すばかりだ。それでいていたぶっているようでもあった。

 断続的な痛みと共に時間が過ぎ去っていく。

 どれくらいの時間が過ぎ去ったのだろうか。時計機能はとっくに壊れていた。

 やがて意識の混濁により五感が交じり始めた。

 拳を打ち付けられたことにより甘い。

 観客の歓声が眩しかった。

 彼のホール式の洗濯機のような外見は臭い。

 混ざる。

 混じる。

 上が右になり、

 下が東になる。

 そんな混沌とした意識の中でいつの間にか拳の雨がやんでいた。

 そろそろとどめを刺されるのかなと思ったが、なかなか予想した衝撃は訪れない。

 自己修復プログラムにより五感が戻り始めた。

 周りが先ほどとは別の意味で騒がしい。


「警察だ!賭博法違反で逮捕する!」

「畜生!誰がチクリやがった!?」

「ここのボスが誰かわかってがさ入れしてんだろうな!」

「黙れこのクズどもが!」


 銃声が響き、悲鳴が聞こえた。

 まだ視覚機能が回復しないため、完璧な現状把握は困難だが、どうやら私という個体の死は一時的に免れたようだ。

 誰かが目の前に立つ。


「あの、あんた10年前のスーパーヒーロー……じゃなくてスーパーヴィジランテをやっていたな」


 若い男の声であった。

 その言葉により私の心臓部のファンの動きが少し早くなった。懐かしい記憶だ。


「私のメモリーにはそう言った記憶もありますね」


 だが私は何でもないことのように言う。だがそれは強がりで、その記憶は私を構成する大切な事実の一つであった。

 発声機能の損傷は既に修復されていたようだ。思っていたより流暢に言葉を発することが出来た。


「いや間違いないって。確か誘拐されたって噂を聞いていたんだが、裏闘拳場に売られていたんだな……胸糞悪い。多分この試合は少女型のアンドロイドを大型のアンドロイドで虐めるという企画なんだろうが。かわいそうに」

「お心遣い感謝します。しかし状況から考えさせていただいたところ、あなたは警察官でしょう。毎回被害者に同情していては身が持たないんじゃないですか」


 そもそも悲鳴や銃声はまだ飛び交っている。私となんか話している場合じゃないだろうに。


「それを気にするのは被害者の役目じゃねえよ。そろそろアンドロイド用の救急車が来るから待ってな」

「それでは頼みたいことがあるのですが……」

「いいぞ」

「即答ですか……無理な頼みごとをしたらどうするつもりだったんですか」

「まあ一つぐらいならいいよ。実はな……」


 そこで男は一旦言葉を区切った。

 まだ視覚機能は回復しない。だが男の表情が言葉の強弱からわかるような気がした。

 これはもしや……

 照れている?


 男は言う「いやな。実は子供のころあんたのファンだったんだよ」


 それはそれは


「それはそれはなんというか……ありがとうございます」

「まあだから一個ぐらいならいいよ。かわりにサインでもくれよ」


 私は顔面部の人工筋肉を動かし、口角に当たる部分を上げ、男に向かって微笑んだ。


「いいですよ。名前をお聞かせ願ってもよろしいでしょうか」

「ああ、俺の名は――」


 ◇◇◇


 そこからはノイズが走り記憶は途切れている。

 記憶が途切れている?

 何故リアルタイムの話なのに記憶が途切れているという話になる?

 それを言うのなら『意識が途切れた』だろうに。

 だが視界が次の場面に移った時私はその訳を理解した。

 そこは病室のようであり、空虚な実験室のようでもあった。

 床や壁が病的なまでに真っ白だった。この部屋にある存在は三つ。私と、私が座っているベッド。

 そして目の前にいる初老の老人であった。

 そうだ、私は今記憶を再生している。

 だが新しい記憶と古い記憶を保存する部分が混乱していることにより、記憶と現実の混濁が起こっているようだ。

 私あの後スリープしたいと男を騙して、腹部ハッチを開け、自身を永久にアンインストールする手順を踏ませたはずだ。ならばこれはもしや走馬燈という奴だろうか。

 アンドロイドも走馬燈を見るのか。


「誕生おめでとうラナ」


 初老の男は言った。

 そしてこの光景は忘れもしない、私がこの世に生まれた記憶だったのだ。


「誕生おめでとうラナ」


 男は繰り返す。私の実父と言えるその男は、祝福などと言うものを一切感じさせない声でそう言ったのだった。

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