3話
イケメンだのと周囲から持て囃されている芸能人なんかとは比べようもなく、カッコいいという言葉では言い表せない位神々しく美しい。
本当にこんな人間存在するのか、実はここは異世界ではなく天国なんじゃないかと考えてしまう程神がかりな存在の彼に見惚れていた私は、いつの間にか目深に被っていた布団がずり落ちて自分の姿が露になっている事に気がつかなかった。
その事に最初に気が付いたのは私ではなく目の前の巨大な人間で、目覚めている私の姿を確認すると大きく目を見開いた後彼は破顔一笑した。
あ、駄目だ。これいけないパターンだ。
普通こういう時ってあんな微笑み自分だけに向けて見せられたらドキッ、とかポッ、とか恋愛モード一直線になろう筈なのに私ときたらギリィ…ッと音が聞こえるんじゃないかって位激しく胃痛が悪化した。
元々美形に対する免疫がなかった上に突然レベルカンストした美形が現れ、神々笑顔を向けられた事で私の脳と胃はそれが負荷と感じて恋愛要素ではなくストレス要素として判断したらしい。
それだけでストレス感じるってどれだけ私の胃は繊細なんだ。良くこんな身体(胃)であの職場一年も持ったよ。
自分のストレス耐性の低さに驚いていると、笑顔のままこちらへ歩み寄る彼。
あ、止めて。貴方が近づく度胃がギリンギリン痛みだしてるから。来るならせめてその笑顔引っ込めて!!
せめてもの抵抗に、ずり落ちていた布団を掴んでもう一度被ろうとしたその時、突如鳴り響く重低音と耳鳴り。あまりの音の大きさと痛さに、布団を被る事も忘れて咄嗟に手で耳を塞ぐ。何が起きたのか全く分からず、なのにどんどん音は大きくなっていき耳を塞ぐので精一杯な為正確な状況判断が下せない。
かの人はなんともないのだろうかとちらりと上を見上げると、いつの間にか彼は鳥籠の前まで来ており、何か慌てたように必死にこちらに話しかけている。だけど彼の言葉は異世界だからなのか理解できず、寧ろ彼が必死で何かを喋る程音は大きくなり私の耳と胃は拒否反応を示した。
その事でなんとなくこの音の正体に気が付いた私は断腸の思いで耳から手を外し、ジェスチャーでそれを伝える。
まずお互いの口を指差してから口の前で指で×を作り塞ぐ。次に耳を指差し今度は手のひら全体で耳を塞ぐ動作をする。簡単な動作だけどこれを何度も繰り返す内に、最初は理解できず首を傾げるばかりだった彼が途中から合点がいったという表情を浮かべて口を閉ざす。するとあれだけ鳴り響いていた重低音がぴたりと止んだ。
なんて事はない。あの音の正体は彼の声だったのだ。確かにこれだけの身長差……いやサイズの差があれば異世界で言葉が通じないという以前に、普通に言葉を発してもまともに聞こえる筈がないという事を失念していた。
落ち着いた耳鳴りと胃痛に安堵していると、カシャカシャと小さく鳥籠が音を立てているのに気付く。びくりと肩をすくませそちらを見れば彼が指で鳥籠をつついていた。多分私の意識を自分に向けようとしたのだろう。
私が気付いたのを確認すると、彼は一度閉じたその口をまた開こうとしている。またあの耳鳴りがっ!と怯えて反射的に耳を塞ごうとしたが、聞こえてきたのはあの重低音ではなく涼やかな音色をした声だった。