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1話

扉を開けたら異世界でした。



なんて、昨今オリジナリティに富んだファンタジーな物語が溢れかえるこの世の中で、そんな始まりとしてはありきたりな文章に今更誰も惹かれはしないだろう。かくいう私、宮尾(みやお) 鳥子(とりこ)もその内の一人だ。


なのにどうして突然こんな事を言い出したのか疑問に思うのも無理はない。詰まる所私が何を言いたいかというと……




トイレに飛び込んだら異世界でした。




今まで散々ありきたりだの心惹かれないだの言っていたのに何なんだお前はとか、扉をトイレに替えただけでなんの捻りもない。寧ろより下品になった等と言われても仕方がないと思う。


私だって出来る事なら嘘だと思いたい。だけど仕方がない。これは紛れもない事実であり、現実なのだから。


事の起こりは数時間前に遡る。


高卒で就職という圧倒的不利な状況の中、不況の荒波を乗り越え何とか採用枠を掴んで入社したその会社はなんの因果かブラックと言われる最悪な所で。


人手不足なのか新人にも関わらず容赦ない量の仕事が回ってくる。しかも何故か重要案件ばかりで、ミスすればねちねち嫌みを言われ、その仕事を私に押し付けた社員達はニヤニヤと私が怒られるのを楽しんで見ていた。


そして若い女性は私しかいないらしく、ことある毎に身体を触ってくる上司共。パワハラ、セクハラ、サービス残業なんて当たり前。


そんな職場にもnoと言えない自分にも嫌気がさし、とうとう我慢の限界に達したらしい。元来ストレスが胃に来やすい私は上司のパワハラ中に吐き気を催し、全力でトイレへと向かった。


後方で怒鳴り声が聞こえるがそんなもの無視だ。我慢した所で遅からずあそこで嘔吐(リバース)してしまうのは明白だったし、私にだって自尊心位ある。そんな事してこれ以上晒し者になる位ならまだ怒鳴られた方がましだと判断した。


混み上がる胃液をどうにか押さえつけ、やっとの事でたどり着いた女子トイレのドアを勢いよく開けると、そこには見慣れたトイレの寒々しいタイル張りの部屋ではなく、眼前には世の大半の人間は見る機会が与えられないだろう絢爛豪華な部屋が広がっていたのである。


私が何故ここを異世界だと判断したかというと、いくつか注目する点があるからだ。


まず1つ目、分かっていると思うが今まで幾度となく通ったトイレが突然こんなご立派な部屋に変わるわけがない。リフォームという事もあるが2時間前に行ったばかりの場所がそんな短時間で変えられる訳がないし、大体にして場所が元トイレとか嫌すぎる。


2つ目は開けたはずの扉がいつの間にか消え、私は絢爛豪華なこの部屋にポツンと残されていた。それだけでもキャパオーバーだというのに、私の胃に追い打ちを掛ける出来事が起きた。


最後の決め手になった3つ目。ガチャリと音を立てて部屋に入ってきた人物を見て私の胃は我慢を棄てた。つまりは嘔吐してしまったのだ。でもこれは仕方ないと思う。私と同じ立場なら誰だってこうなると断言できる。


だって眼前……いや、見上げる先にいるのは長身という言葉で片付けられない程巨大な人間だったからだ。私は小人かという程あからさまな差だ。よく見れば周囲の調度品のサイズも明らかにおかしい、でかすぎる。


この3つの事実だけで異世界だと判断した私は間違っていないと思う。一方巨大な人間は足下でダバダバと口からとめどなく胃液を放出している私に気付き、驚いたのか目をこれでもかと見開きこちらを凝視している。


そりゃあ誰だってちっちゃい人間が足下で嘔吐してりゃびっくりもするだろう。逆だったら私だって驚くし寧ろ叫んで逃げるわ。


そうこう思っている内に、巨大な人間は私目掛けて手を伸ばしてくる。ぐわりと勢いよくこちらに向かってくる手に、思いの外びびってしまったようでそのままふ、と意識が薄くなり視界が真っ暗に染まる。出来ればこんな非現実的な事夢であってほしいという思いと、あんな職場戻る位ならどうなってもいいやという投げやりな思いを半々に私は意識を手放した。


そこからの記憶は全くない。



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