第八話「個々の選択」
集団を新たな武器で蹴散らし、ようやく話に入れる八島亮と神無月采。
その話とは、警告だったはず、だが・・・
俺、神無月采は八島亮と背合わせで立っていた。
「死体」の上に。
「・・・やれやれ、おじさんも困ったもんだ。」
「こんなチームもどきを組んで襲ってくるやつも居るのか。」
「・・・最近の若いのだねぇ」
「そんな訳ないだろ。」
八島亮、この男の話に真面目な返答をしていたら持たないだろう。
どこまでがふざけていて、どこまでが真面目か、分からない男だ。
「戦いたくない」、この言葉に信用が置けるのか、それとも。
「で、話がどうとか・・・」
「・・・ん・・・ああ、そうだったな。まぁ、お前さんに注意、っつーか・・・警告だ。」
「警告?」
小声で「ああ」と八島は呟くとケータイを取り出し、掲示板を見せてきた。
一度見た事があるスレッドだ。
道端で寝ている参加者が都心付近で多く出ている、という内容だったはずだ。
「・・・コイツについてだ。」
「道端で眠らされたらぶっ殺される、って事?」
「・・・いや、「眠らされたら殺られる」事に変わりは無ェんだけど・・・この書き込みを見てみろ。」
その八島が指差した書き込みは、その眠っていた人間が殺害される瞬間についての書き込みだった。
「黒いフードを被った男が引き金を引いたら目の前で眠っていた6人ほどと一般人が一気に焼死体になった。」という内容。
一気に焼死体になった、という点が気になる。
「これも武装人格の力?」
「・・・だろうが・・・まぁ問題はそこじゃねェ。場所だ。」
「場所?そんなの都心だったんじゃ・・・」
俺は目を疑った。
その眠っている相手を殺した奴は「この近くに居る」という事だ。
「いいか?コイツには触れるんじゃねェ。コイツはヤバいとかそんなレベルじゃねェ相手だ。」
「何で分かるんだよ。」
「・・・俺はコイツと一度殺り合ってる。その時は武装人格なんざ持ってなかったから煙でどうにか逃げたが・・・」
「・・・そんなにヤバい奴なのか?」
「ヤバいなんてモンじゃねェ!言うならば「干渉禁止」だ。参加者だけじゃ収まらずそこら歩いてる俺らが見えない奴等が居るだろ?」
「まさか。」
無言で頷く八島。
その「干渉禁止」の男は目に映る「人間」と見なしたものを殺して回っているのか?
それとも何かの意図があるのか?
「・・・いいか、絶対見つけても戦おうなんて考えるんじゃねえ、あれは「現代のジャック・ザ・リッパー」だ。」
『ジャック・アリオク・・・この間の痛々しい名前の人をぶっちぎって殺してる数が多いですね。』
八島の話を聞きながら、俺は殺害数のランキングを見ていた。
セヴンの言う通り、他の参加者にかなりの差を付けて「ジャック・アリオク」という名前の参加者が1位になっている。
「・・・ジャック・アリオク、って奴か?」
「そうだ。黒いフードに近接系武器、そして焼夷弾を撃てる銃、この特徴を覚えておけ。」
黒いフードを被った近接系武器の男。
一度遭っているような気がする。
・・・そうだ、あの時だ。
ボーナスゲーム、生き残っていたサーベルを持った男。
もしも、奴がそうならば・・・?
「危ねェ!」
咄嗟に突き飛ばされる。
一体何があったというのだろうか。
「噂をすれば何とやら、ってか・・・」
「クククッ!噂だ?俺を呼んでたのか?テメェ等。」
「やっぱり・・・!」
「お、おい!?神無月!お前まさかコイツと遭った事・・・」
「・・・前回のボーナスゲームとやらで・・・同じだったな。」
「・・・あぁ、あの時俺のサーベルを持って行った奴か。今すぐテメェをブッ殺したいところだが・・・」
黒いフードを脱ぎ、茶髪に鋭い目つきを露にするジャック・アリオクと思われる男。
口元を笑わせ、両手を挙げる。
何を考えているんだ?
「・・・おや?殺した数1位が降参かァ?」
「・・・降参じゃねえ、ちょっとテメエ等に協力してもらうぜ。」
「・・・は?」
「拒否権は無い。」
「ふざける・・・な・・・?」
俺の真横を通り過ぎる弾丸。
熱が頬を掠める。
その弾丸は有らぬ方向へと飛んでいき、粉々に砕け散った。
「ジャックさんよ?ちょーっとばかり・・・いや、荒々しいんじゃねえか?頼むにしちャあよ。」
「・・・八島亮・・・!」
「・・・頼むならキッチリ頼めや。」
「・・・・・・手伝え。」
八島へととてもアウターバレルが長い、シングルアクションアーミーを突きつけ、脅すジャック・アリオク。
このままでは八島亮は危ないのではないか?
しかし気になる事が1つある。
何故コイツは「八島亮」の名を知っていたのか?
それがとても気になるが、今俺の頭にあるのは、殺人鬼を殺す事だけだった。
気がつけば片手にサーベラスを持ち、弾を放っていた。
「ッ・・・何て弾圧だ・・・ククッ・・・面白ェ・・・!」
回転力を増しながらサーベルの刃と競合い、刃を粉砕しようと直進する弾丸。
このままなら、サーベルを破壊し、ジャックを殺す事が出来る。
「インビンシブルッ!!」
ジャックは叫んだ。
武装人格であろう名前を。
その瞬間に、サーベルの刃が紅く輝き、銃弾共に弾け飛んだ。
「・・・テメェ・・・俺にインビンシブルを使わせるとは・・・・・・チィッ・・・対価か・・・」
刃の無くなったサーベルの柄を地面へと投げつけると、銃を構えるジャック。
何故か、サーベルを持っていた方の腕を押さえている。
よく見れば、コイツの腕には弾は当たっていないはずなのに斬撃痕が出来てる。
もう一発撃ちこもう、と思ったが、八島が俺の手前へと腕を突き出してくる。
「撃つな」って事だろう。
「そういやァ、テメェの武装人格は「言葉に出来ないほど圧倒的な力」を持つ代わりに本来の使い方以外をすれば代償が必要なんだよな?」
「ご名答さんだ、「言葉に出来ないほど」の通りだ。大体の事は何だって出来る。が・・・」
本来の力、というのは「武装人格」を武器として扱う事だろうか?
それとも別に能力を持っているのだろうか?
「殺しに関連していなければ使用すら出来ないだろ?」
「その通りだ、八島のクソったれが!」
銃口を八島に向けるが、八島は笑顔で立っている。
まるで、八島はジャックと何度か戦っているか、それとも生前の知り合いだったか、そんな雰囲気だ。
「はははっ!そのまま銃を撃ってみろよ?勿論俺は反撃しないさ、殺しは嫌いでな。」
「どの口が言いやが・・・るっ!!」
放たれた弾丸。
しかしその弾丸は急カーブを起こし、俺の目の前を突っ切ってから、地面へと落ちる。
これは俺にも理解は出来た。
八島亮の武装人格、フレア。
確か「チャフ」や「ダミー」、「誘導」といった用途で扱うと言っていた覚えがある。
「オイオイ?今のは俺がフレアを使わなくても避けられたぜ?おじさんは欠伸が出ちゃうねェ。」
言うとおり、あくびをしながら俺のほうへと笑顔を向ける八島。
そのまま、俺のほうを向いたまま、口を開く。
「・・・まぁ、こういう奴だ、要注意だぞ、おじさんとの約束だ。」
「・・・あ、ああ・・・分かっ・・・」
話している俺の目の前に、紅く輝く何かが止まる。
拳だ。
傷だらけの拳、ジャックだ。
一気に距離を詰めた辺り、かなりのスピードだ。
「・・・まともに動かねえか・・・クソ・・・」
殺るしかない。
このまま野放しにしておくと恐らく俺が殺られる。
俺は、サーベラスの銃口を向ける、が・・・
「なぁ、ここはおじさんに免じて殺すのは勘弁してやってくれ。殺すのも嫌いだ、それに現場を見るのも・・・」
「何を言ってるんだよ、アンタは!?注意したのは・・・」
「注意はしたさ、だが、「殺せ」とは言ってねェだろ?」
わけが分からない。
何故八島はこの殺人鬼を守るんだ?
コイツを野放して、12人の中に入れた場合、「やり直し」て何をするか分からない。
「・・・オイ。」
「な、何だよ!」
突然話しかけてくるジャック。
声は怒っているが、殺意は感じられない。
「テメエは13人目か、14人目くらいに残ってたら殺す、俺は約束だけは絶対に守る。俺のガラじゃねえけど・・・この場は頼む。」
今のジャックには「殺人鬼」ではなく、言葉にしづらい「人間らしさ」みたいな物があった。
殺人鬼としてではなく、「一人の人間」として俺に対話を試みてる、それだけは理解が出来る。
・・・だが、コイツの言うことを信じていいのだろうか?
「まぁ、何だ、おじさんからも頼むわ。」
「・・・何で殺人鬼の肩を・・・」
「肩を持つ訳じゃねェ。・・・まぁ・・・何て言うんだ?・・・償いか?いや、生前の反省?いや・・・」
「・・・うるせえぞ、八島。」
八島の「償い」?
・・・「反省」?
一体何がコイツ等にあったんだ?
ただ分かるのは、八島とこのジャックには、生前か、此方側で何かしらの関係があったという事だ。
俺は、無言で左手にオルトスを出し、突きつけていた。
右手のサーベラスは八島に突きつける。
何故この行動を取ったのか、自分にも理解が出来ない。
無意識、危機感、恐怖心、疑問・・・その辺りだろうか?
「お、おいおい・・・おじさんも巻き添え?」
「・・・どういう魂胆だか教えてくれ。俺には理解が出来ない。八島亮、アンタがこのジャック・アリオクと何か関係あって、それでそのジャックは無差別殺人者、だろ?肩を持つ訳じゃないとは言っていたけど、俺にはそうしてるようにしか見えない。」
「・・・・・・ジャック、話しちまってもいいか?」
「・・・お前に任せる。俺はコイツを最後に殺すと決めたからな。」
俺がコイツに最後に殺されるのは確定らしい。
だが、理由を聞きだせるのは大きい。
何の理由も無しに「無差別殺人者」を野放しにするのも危険だから。
そうこう考えていると、大きな溜息を八島が吐く。
「あぁ、分かったよ。おじさん・・・いや、俺はジャックを、向こう側で殺した。」
「向こう側?」
「・・・まぁ、参加者共がやり直そうと行きたがってる方だ。いや・・・?戻りたがってる方ってのが正しいか。」
自分から死んでおいてな、と小声で呟く。
この話の頭の時点で「八島亮」という男が危険だという事は理解できた。
生前の知り合い、という事だ。
次に、ジャックが口を開く。
「俺の求めていた事、それは「復讐」だ。八島や、他の奴等に対する・・・」
「・・・じゃあ何で他の奴等は仕方ないとして、関係の無い一般人を・・・?」
「・・・どの野郎が参加者か分からねえ。なら全員纏めてブッ殺して進む。12人には入れねえだろうが。」
その通りではある。
認めたくは無い。
しかしそうしなければ、先手を取る事はまず不可能だろう。
特に人通りの多い場所などでは。
「・・・生前、俺や、八島はテロリストだった。ある日、バカデカい銀行を襲った。」
「んで、俺とジャックが貰った仕事は「金庫を吹っ飛ばす」事だ。威力の高い遠隔爆弾をデカい金庫に引っ付けて、ドカン。って訳だ。」
「その遠隔爆弾を持っていたのは外でシャッター閉めて車に乗ってた上司だ。」
「後は分かるな?」
「・・・まさか、八島とジャックは爆発で・・・」
二人は同時に頷く。
ジャックは拳を強く握って、地面を殴る。
「・・・クソッタレ共のせいで、俺は死んだ、そこの八島も対象じゃあ、あるけどな・・・」
「・・・ま、俺が「もうちょっと見張っておけ」なんて言ったせいなんだけど。」
「・・・で、その復讐と俺があんた等を殺さない、それ、どういう関係?」
「まずはおじさんに向けてる銃を戻してくれ。・・・あぁ、勿論戦う気は無いよ?」
口調を戻し、両手を挙げる八島。
俺は仕方なく、サーベラスを戻す。
・・・一応、一応だがまだ信用出来ない為、ジャックにオルトスは向けておく。
「俺が殺すべき男も死んでいた。その男は最近そこらの奴等を眠らせて回ってる奴だ。」
「・・・そいつを特定出来た、と?」
「ああ。ディモルツ・ヴィエンという男だ。表向きはバイオリン弾きだったが、裏じゃ俺らを指示していた「若頭領」だ。」
「頭領の息子って訳で、俺らは逆らえなかった訳だ。・・・で、ソイツを発見したからジャックは殺しに行きたいそうだ。」
オルトスを戻し、手を突き出す。
銃を突きつけておいて今更協定なんて遅いだろうけれども。
その手を握るジャック、そして八島。
「・・・約束は守る。テメエは度胸がある上に面白ェ。最後に盛大に血をブチ撒けてくれよ、ククッ!」
「・・・どっちがそうなるかな。まぁ、敵が少なくなるなら俺は構わない。」
ジャックは走りながら駅方面へと向かっていった。
八島と俺は、その背中を呆然と見ていた。
「・・・ぶっちゃけると、おじさんやり直す気無ェんだわ。」
唐突に俺の肩を叩いて、溜息と共にそう語りかけてくる。
やり直す気が・・・無い?
初対面の時は「やり直す気が無ければ自分で死んでる」と言っていたはずだ。
「・・・なんつーの?「向こうでも面白い事」なんてありゃしねえ。戻っても「テロリスト」のレッテルが消える訳じゃねえ。」
確かに、その通りだ。
事件で死んだとはいえ、犯罪組織の一員だった者が生きていた、というだけで「強くてニューゲーム」どころか「もう1度ゲームオーバー」だ。
「・・・それに気づいちまってよ、前には「やり直してえ!美味い酒が飲みてえ!」とか思ってたんだ。」
「・・・なら、もう1回、やり直せばいいんじゃない?」
「おいおい、だからやり直したくねえって・・・」
「生き残って「真っ当な人間としてもう1度最初から」って。そうすれば、八島、アンタは悪人としても見られないで、もう1回真っ当にやり直せる。」
「・・・・・・有りだな。」
「だろ?」
「でも俺はソイツは嫌だな。」
八島はタバコに火を付け、煙を吐く。
それと同時に言葉を発す。
「それはズルだ。才能・金、それもズルだけどよ、それは一番ズルだ。成してきた事、生きていた事を否定する、そうじゃないか?」
「・・・」
「俺はそんなやり直しはしたくねえんだ。俺が屑に成り下がるまで、それまでの過去を無かった事にする。そんな事はしたくねえ。」
そう言うと、服の内ポケットからリボルバー拳銃を取り出し、俺へとグリップを向け、渡そうと前へと押す。
俺は、色々な考えが絡まって受け取れなかった。
「・・・ジャックみたいに、復讐とかはしないのか?」
「・・・別に、俺は気にしちゃいねえ。元々生前やってた仕事に後ろめたさはあったしな。・・・とっとと受け取ってくれ。」
グリップを握ると、八島はバレルから手を離す。
そして、すぐ近くのベンチへと座り、目を瞑り、口元を微笑ませる。
・・・俺は、大体の事は察した。
「俺を殺すのは、お前だ。神無月采。」
「・・・撃てるかよ・・・」
「ははは・・・さっきまで俺に銃向けてただろ?その時も撃つ気は無かったのか?」
「それとこれは別だろ?」
指で銃の形を作り、自分の頭を突く八島。
俺も覚悟を決める。
真っ直ぐにリボルバーを構え、アイアンサイトの頂点に八島の頭を収める。
「・・・悪いな。」
「俺こそ。色々と教えてもらったりしたのに最後に思い切り疑って、銃まで突きつけた。」
「ははっ、気にする事ァ無ェよ。そう謝れるような人間はそうそう居ないだろ?」
「・・・大体こうすると思う。」
「・・・お前は根っから良い野郎だ。だからこそ生き残って、やり直せ。いや・・・やり直すのは嫌いだ。もう1回、考えてみろ。」
「は?」
言っている意味が俺にはわからなかった。
「考えてみろ」、やり直す事ではなく、何を考えるんだ?
少しだけ考えよう、と思ったが、八島は溜息を吐きながらタバコを咥え、火を付ける。
「・・・答えはお前が見つけろ。ただ「やり直そう」としてる連中より、お前はまだまだ、時間もあれば、「色々な機会」だって待ってるんだ。」
「・・・機会・・・?」
「・・・ああ・・・っと、そろそろいいだろ、おじさん覚悟決めてんだからよ、さっさと撃て。」
もう一度リボルバーを構え直す。
グリップを力強く握り、引き金に指を掛ける。
「・・・・・・本当にいいのかよ・・・これで・・・?」
「構わねェさ。」
『ご主人、相手の意思を尊重するべきですよ。』
「でもこんな事は・・・」
「この殺し合い(ゲーム)的にはナシだ。だけど俺が自害するよりは、少しでもお前に遺せるだろ?この先戦い抜く為の物、同時に辛い物も遺しちまうだろうけど、そこはガマンしろ。」
「分かった・・・」
この先、俺は「八島亮の自殺を手伝ってしまった」という事を背負いながら戦う事になる。
それが怖くて引き金は引けない。
指が震える。
「自殺」とはいえど、俺が「殺す」訳だ。
無抵抗の相手を撃つ、という事が怖くて仕方なかった。
「・・・オイオイ、分かったんじゃねえのか?覚悟くらい決めろ。大体、元からこうするつもりだった訳だ。話ってのも、これだ。」
「・・・・・・ジャックの事じゃなくて、こっちが本題だってのか?」
「・・・ああ。お前さんになら、向こう側を任せられる。そう確信出来たワケだ。」
「・・・・・・」
八島が微笑む。
それと同時に鳴り響く銃声。
頭部から血を流し、八島はベンチにもたれ掛かる。
口に咥えていたタバコは火が消え、灰が同時に、地に落ちる。
『行きましょうご主人。』
「・・・ああ・・・」
腕で目を拭う。
リボルバーは八島の胸ポケットに戻す。
そして最後の「考えてみろ」の意味を考えながら、俺は歩き出す。
その「答え」が何なのか、戦い抜いて、見つける為に。