第七話「二丁の魔犬」
10VS1の変則殺し合い(ボーナスゲーム)を制した神無月采。
その采に褒賞が渡される。
その褒賞とは・・・
目を開けば、そこは「いつもの休憩室」
気が付くまで「何時間」が経っていた?それとも「何日間」?
ヴァンデル公爵との戦いを終えて、生き残って・・・
「・・・おい、セヴン、後休憩は何時間だ?」
「へ?あと軽く10時間はありますよ?」
TVに向かって家庭用ゲーム機を寝転がって楽しんでいるセヴン。
・・・10時間?おかしい。3時間のはずでは。
「ちょっと待て、休憩は3時間じゃ・・・」
「生き残った褒賞、じゃないんですかね?ゆっくりする時間。大切ですよ、これ。」
「・・・それだけ、なのか・・・?」
それだけだとするならば、あの戦いで散った数人は何の為に奴に心臓を抉られた?
答えは簡単だ。人数減らし、だろう。10人ずつのグループを何百人の中から作り、同じ事を別の場所で行わせる。
そうする事により人数を一気に減らし、ゲームの進行をスムーズに出来る。
結局の所、物を得たのは俺たち参加者ではなく「主催者(ヤツ等)」だけ。
俺たちが得たのは少しの休息。
10時間の休息でも、俺の意思次第では、すぐに終わらせて戦いに戻る事も出来る。
ドアを開ければ、その先は時間に関わらず、戦場なのだから。
「あぁ!ありました!得た物!僕、ちょっとだけ、記憶と能力を・・・」
「それは本当か!?」
寝転がっているセヴンの肩を掴み、揺さぶる。
記憶と能力、とても重要だ。
「武装人格の記憶」、一体どんな物なのだろうか。
「やめてください!ご主人!死んでしまいます!」
「早く教えてくれ!」
「あっ、死んだ。」
コントローラーをその場で落とすセヴン。
頭をクッションに埋め、すねてしまったようだ。
「・・・わ、悪い。」
「・・・・・・ご主人、悪いと思うならこの世界的有名なゲームで亀の甲羅踏んで残り回数増やしておいてくださいね」
「・・・はい。」
武装人格に良いように使われる主人。
・・・大変なんだぞ、亀の甲羅を踏むだけの作業は。
俺が操作してから数分画面の中ではキャラクターが永遠と甲羅に篭った亀を踏み潰していた。
「それでですねー!」
すっかり笑顔が戻ったセヴン。
昔は三次元なんてクソ喰らえ、と思っていたが・・・
純粋に可愛いようにも思えてくる。
邪念を払い、早いところ記憶と能力について聞かなければ。
「・・・で?記憶って?」
「いいですか?武装人格になる前の事です。僕は・・・参加者でした。」
「・・・へ?」
「参加者です。今のご主人と同じ。」
「な、何が起きたんだ?それは。」
「さっき戦ったヴァンデル公爵、居ますよね?」
「・・・ああ。」
「あの時のヴァンデル公爵と同じ状況に置かれました。」
ヴァンデル公爵と同じ状況。
それはつまり、「無限の蔑み」、「無限の苦しみ」から一時的に解放され、10VS1の戦いをする、という事なのだろうか?
どちらにせよ、「無限の蔑み」や「苦しみ」を一度味わい、半分武装人格として目覚めた、という事なのか?
「・・・僕に課せられた「試練」は、ヴァンデル公爵と同じ物でした。」
「10人を殺せ、って?」
「はい。勿論、一人残らず殺しました。この能力で。・・・いや、今はご主人と僕の、能力ですね。」
そう言って手に出して見せたのは、銃。
見た事もない形をした、リボルバー。
見た目こそトーラスレイジングブルやマテバ6ウニカに似ているが、それを足して2で割り、何かを更に足した感じだ。
「・・・何だ?それ?」
「もう一丁出して完成しますね。」
もう片手にも、同じような形をしたリボルバーを出す。
とても、変わっているが、とても、カッコいい。
最初に出した右手に持ったリボルバーは黒く、アウターバレルに犬の頭を3つ持つバケモノの赤いエングレーヴが彫刻されている。
左手のリボルバーは、白く、また、そこには2つの頭を持つ犬のバケモノのエングレーヴ、此方は金色だ。
エングレーヴをよく見ると、両方とも、「グリップ近く」まで彫られており、その近くには龍の頭だろうか?それらしき彫刻がある。
「・・・武装具現化、サーベラス&オルトスです。」
「ウェポン・・・マテライズ・・・」
「まぁ、風澄さんのエアレスさんが風を刃にしたりしますよね?それと同じ感じです。僕は武器を作り出します。」
なるほど、コイツは基本的な物がなくなっていたのか。
・・・だけどリボルバー作るだけじゃあ、今までと同じじゃないか?」
「今までと同じ、って思いましたね?」
「ああ。それじゃリロードも必要だから何回も・・・」
「リロード?要りませんよ?」
「はい?」
銃は弾切れを起こしたらリロードをしなければならない。
その概念が無い、というのか?
「このサーベラスとオルトス、凄い所は1発でも撃ってから0.5秒程度念じればフルロードされるんです。サーベラスは装弾数9発、オルトスは8発。リボルバーとしては破格の装弾数ですよ!」
通常のリボルバーであれば6発辺りだろう。9発と8発、見たところシリンダー部は普通だ。
6発タイプの穴だが、一体どのような仕組みになっているのだろうか。
「ちょっと、見せてくれないか?」
「いいですよ?あっ、でも撃たないでくださいね。」
「分かってる。」
サーベラスを手に持つ。
その時に、頭に何かが流れ込む。
全く覚えのない、記憶が流れ込んでくる。
ザッピングの様に、全く知らない光景が次々と目の前に浮かぶ。。
高校だろうか?女子と話す俺、高校は一人だったはずだ。
大学のような場所で勉学に励む俺、ここまで真面目に勉学をしたことなんて無いはずだ。
頭に拳銃を突きつける俺、拳銃なんて、生きていた頃持ったことはない。
そして次に見えた光景、100人を越した人間に囲まれ、ライフル銃を掃射される。
その後、何か行動を起こしたようだが、その先が、流れ込む前に頭はいつも通りに働き始めた。
「何だったんだ・・・・・・」
「どうかしました?」
「いや、何でも。・・・さて、ちょっと見てみるか。硬っ・・・シリンダー硬っ・・・」
シリンダー部がどうやっても開かないようになっているサーベラス。
押しても、引いても開かない。
「この先は企業機密です」みたいなものか。
「・・・次はオルトスを見せてくれないか?」
「はい。」
サーベラスとオルトスを交換する。
オルトスのアウターバレルを握った時、また、だ。
頭に流れ込む、知らない何か。
さっきと同じだ。
しかし、視点が違う?
高校のような場所では話していた相手の立ち位置に俺は居る、そして大学ではその手前の席、拳銃を突きつけている誰かが目の前に居る。
誰なのか、それは分からないが。
最後の光景は、見えなかった。
「おっと、オルトスも・・・開かないか。」
「それは勿論、リロードの必要性が無いのに、開ける必要あります?」
「そうだな。」
オルトスも返し、ベッドへと歩き出す。
何かが一気に流れ込んだせいで、頭が疲れた。
今は何も考えたくはない。
そのまま、眠りに就いてしまいたかった。
俺が眠ってから、何時間が経ったのだろうか。
足辺りに重さを感じる。
「・・・寝すぎですよ。」
「へいへい・・・っと。」
時間を確認する。
まだ5時間程度しか経っていないようだ。
何やら不機嫌そうなセヴンが足の上に座っている。
「僕の話を聞く、って言っておいてすぐ寝ちゃったんですから。」
「・・・あぁ、そうだった、悪い。サーベラスとオルトスを手に持ったら・・・」
「・・・・・・知らないし、記憶にも無い何かが見えた、ですね?」
「何故・・・?」
「そりゃそうです。それは僕の記憶ですから。」
サーベラスとオルトスを持った時に見えた何か。
・・・それは、セヴンの記憶なのか?
「・・・もっとも、僕は知らない記憶なんですけど。教えてくれます?」
「ああ。」
俺が見た光景をはっきりと伝える。
嘘偽り無く、オブラートにも包まず。
直球で伝えていく。
「・・・ふむふむ、100人以上に囲まれた記憶はありますね。あれは確か「参加者として死ぬ」前の光景です。」
「何でまた・・・」
「それは思い出せません。ご主人こそ、まだ何か見えていたけど黙ってるんじゃないんですか?」
「いや、これで全部だ。」
溜息を吐いてから倒れ掛かるセヴン。
勿論俺の脚から胴体にかけて倒れ掛かる。
「で、その他の光景は何だったんだ?」
「・・・生前、ですね。恐らく。」
「恐らく、って・・・覚えてないのか。」
「はい、すみません・・・ただ一つ思いだせるのは「双子の姉」が居た事ですね。サーベラスで見えた物、それは恐らく姉の視点。」
「・・・オルトスは、セヴン、か・・・」
小さく「はい」と答える。
起き上がり、ベッドから降りると手元にオルトスを出すセヴン。
自分の頭に突きつけてから、すぐにオルトスを下ろす。
そしてまた、手元から消す。
俺には疑問がある。100人以上に囲まれた光景が見えたのは「サーベラス」を持った時だ。
オルトスでは見えなかった。
「はぁ・・・何も、思い出せませんね・・・」
「ちょっといいか?」
「はい?ご主人どうしました?」
「・・・サーベラスはお姉さんの視点、なんだよな?」
「恐らくは。」
「・・・じゃあ何でサーベラスでお前の覚えている事が見えたんだ?」
何を思ったのか、両手にオルトス・サーベラスを出し、軽く、壁へと構える。
セヴンはそのまま、引き金を引いた。
まずオルトスを一発、そしてサーベラスを一発、それを交互に繰り返し、オルトスの弾が切れたところで、床へと崩れる。
「僕は・・・僕は・・・一体・・・?誰なんだ・・・?」
「おい?大丈夫か!?」
息を荒くし、小声で何かを呟いている。
その手に持っていたリボルバーを落とし、目から涙を流している。
「姉さんって誰・・・?そもそも姉さんなんて・・・?じゃあ僕が死んだのはどうして・・・?僕が見ながら死んだのは・・・?」
「おい!おいってば!」
「131人・・・それを相手にしたのは僕だ・・・だけど何で・・・他の人の記憶に?僕は・・・」
何かを呟こうとするセヴンを、俺は無意識に抱きしめていた。
セヴンは延々と呟いていた言葉を止め、俺の胸元で涙を拭う。
「・・・少なくとも、今のお前は「セヴン」であって他の誰でもない、それでいいだろ。昔の事が知りたいなら、最後の最後まで俺に付き合え。」
「・・・はい・・・勿論・・・」
「泣きたきゃ気が晴れるまで泣け。お前が泣いてると調子が狂うし・・・その、戦えないだろうが!第一!」
泣き続けるセヴンを抱きしめる事数十分・・・
セヴンは泣き止んだが、離れようとしない。
腕は、離したはずなんだが。
「あの、セヴンさん?ちょっと・・・」
「いいじゃないですか。僕とご主人の間柄・・・」
「いや認めねえぞ!」
「まぁまぁ、落ち着いて。」
「・・・落ち着くのはお前だっての。」
「もう落ち着いてますよ、僕は。」
いつも通りの笑顔を俺に向ける。
それは作り笑顔ではなく、心から笑っている、すぐに分かるような笑顔だった。
何でだろうか、彼女を笑顔に出来た事が、少し、少しだけ、嬉しい。
「・・・そうか。」
「あっ。」
少し強引に立ち上がり、ベッドに座る。
俺を追うようにセヴンは隣に座ってくる。
気まずい。
関係はそこまで変わってないが、時にまかせて色々言ってしまったような気がする。
「・・・そういや、武装人格も武装人格なりに考えたりするんだな。」
「そりゃ考えますよ。一応「武装人格」と書いて「武装人格」と読むんですから。人格ですよ、人格。」
「そうか、人と同じ、か・・・」
うんうん、と頷くセヴンの頭を軽く撫でる。
コイツも元は人だった、って事がよく分かった。
「・・・で、これからだけど。」
「サーベラス・オルトスをどうするか、ですね。」
「ああ。」
確かにリロードの要らないリボルバーは強力な武器だ。
しかしそれを使う事で、もしもセヴンに何か影響を及ぼしてしまうなら、使うべきではない。
「使いましょう!」
「はぁ!?」
予想外の元気の良い返事だ。
コイツはどういう神経をしているんだ?
やっぱり分からない。
「でも使ったらセヴンに影響が・・・」
「出ても大丈夫です。」
「何でだよ?」
「・・・もし、良い影響なら、思い出す機会かもしれません。それに悪い影響で、さっきみたいになっても、ご主人なら、きっとなんとかしてくれます。」
「・・・俺が・・・か。」
「はい。」
頼られた事なんて無かったから、何というか、身体が痒い。
「任せておけ」なんて今の調子じゃ言えそうにもない。
女性経験とついさっきの咄嗟の発言のせいで、だ。
「別に、何も言わなくていいですよ、僕は、信じてますから。」
「・・・任せておけ。」
何故だろう。
勝手に口から言葉が滑り出る。
言わなきゃいけない気がしたが、言わないつもりでいたのだけど。
「ふふふ、信じてますからね、ご主人。」
「過度な期待はやめてくれよ?・・・まぁ、やるだけはやるから。俺も。」
二人で同時に立ち上がる。
考える事は同じだ。
「さて、行くか。」
「はい!テストですね!」
「・・・テストっつーか・・・なんつーか。」
「テスト兼早いところこんな殺し合いを終わらせる為の戦い、ですね!」
「まぁ、そんなところだ。」
人を殺すのがまだ苦手な俺。
そしてもしかすると、人を殺せば何か嫌な事を思い出してしまうかもしれないセヴン。
害は一致しているが、利が無い。
だけど進まなきゃ、何も見えてこない。
俺も、コイツも。
「休憩は、終わりだ。」
「はい!」
ドアノブに手をかけ、ドアを開ける。
一歩踏み出す。そこは、最後に八島亮と別れた公園だ。
その先で目に焼きついた光景。
それは「14人に囲まれてる八島亮。」
「・・・チィッ!戦いたくないんだけどね、おじさんねぇ!」
「知ったことじゃねえんだよ、俺たち12人がやり直す!」
「12人!?君たち14人に見えるんだけどさあ!おじさんからすると!」
銃を使わず、蹴りと煙だけで相手の剣や銃を蹴り落としていく。
まるで映画の主人公のような動きだ。
武術家にも見えなくもない、足捌き。
だが・・・
「クソッ・・・バット如きが俺に当たるなん・・・て。」
「テメェ等!そのままコイツぶっ殺すぞ!」
咄嗟だった。
俺がサーベラスとオルトスを抜き、囲んでいるヤツ等二人の頭を撃ちぬいたのは。
セヴンは大丈夫だろうか。
『大丈夫ですよ、ご主人。そのまま助けちゃいましょう。あの人胡散臭いけど。』
「ったく、世話の焼けるオッサンだな!」
「・・・お前・・・神無月、生きてたか・・・ハハッ・・・」
「余裕だっての。」
嘘だけど。
余裕で生き延びた訳じゃないが、少しでも強がりたかっただけだ。
「おい、お前ら。二人減ったじゃないか。これで12人だ。」
「・・・あ・・・?」
「・・・おじさん言っただろ?14人居たって、お前ら。・・・んで、コイツが殺してくれたお陰で、2人減って12人。14-2は分かるよな?」
手から煙を消すと、懐から銃を抜く八島。
背合わせで構える俺。
その周囲には12人の参加者。
よく集まったものだ。
『壮観ですねぇ、まぁ、僕的にはテストには丁度良さ気です。』
「だな。少しでもヤバそうなら言えよ?」
『はい、お言葉に甘えて。』
「ヤバいのはテメェの命だ!」
発砲しようと構えた男の頭が弾け飛ぶ。
八島の銃から煙が上がっていた。
「・・・ったく、武装人格とイチャイチャしてるヒマあるなら、手伝えよ。その為に乱入してきたんだろ?」
「ヤバそうなヤツが言うなよ。」
銃を持った相手を的確に撃ち抜きながら、八島と背遭わせで戦う。
サーベラスとオルトスは、まるで俺の手のように、とても馴染んでいた。
あまり狙わずとも、放てば相手の頭を食いちぎり、心臓を噛み砕くが如く、高速で相手を撃ち抜く弾丸。
マグナム弾レベルの威力はあるだろう。
それに比例した反動も無く、本当に、手足のようだ。
「お前さん、戦い慣れてきたんじゃねえか?」
「いいや、いい相棒のお陰でさ。俺だけじゃ・・・ここまではやれない。」
「そう、か。何にせよ、いい事だ。生き残るには・・・仕方ないしな!」
俺と八島は次々と掛かってくる見るからに柄の悪い男達を始末していく。
八島は剣や刀で掛かってくる敵を蹴りで無力化し、俺は右手のサーベラスで銃を持った相手を撃ち抜き、左手のオルトスで無力化した相手を撃つ。
流れ作業だ。
「そろそろ・・・」
「お前さんだけでも、逃げたらどうだ?」
倒れてる最後の一人に銃を突きつける。
震えながら後ろへと下がっていく男。
その男を八島は蹴り飛ばす。
「どこへでも逃げちまえ!」
「そうだな・・・お前らと一緒に地獄へな!」
震えていた男はその場の砂を掴み、俺たちへと投げつけてくる。
砂が目に入り、前が見えない、が・・・
俺は無意識に引き金を引いていた。
「・・・ん?」
「・・・当たっ・・・た・・・?」
『恐ろしいですねぇ、サーベラス。なお僕には何の影響もありませんでした。』
「・・・なら良かった。」
セヴンに何もなかった事を安堵していると、八島に肩を叩かれる。
そして胸ポケットから缶コーヒーを取り出し、俺に渡す。
コイツいつも缶コーヒー持ってるな。
「・・・助けてくれてありがとさん・・・と言うべきか・・・」
「ん?」
「・・・遅いんだよお前!神無月!俺はお前さん待ってたんだよ!そしたらあの兄ちゃん等に絡まれて・・・」
「・・・・・・それは・・・早くに出てきたアンタが悪いと思う。」
『ですね』
「・・・で、だ、俺はお前に話がある訳だ。」
一体、早い時間から出て来て、八島は俺達に何を告げるつもりなのだろうか。
不安と、不信感の中、俺達はすぐ横のベンチに腰をかけた




