第六話「ボーナスにならないボーナスゲーム」
準備を終え、神無月・風澄の二人は旧参加者と呼ばれた者との戦いへ赴く・・・
恐らく日本のどこかではあるはずのビルの屋上。
俺たちは、倒れていた。
-
--
---
「準備はこんな物でいいだろう。」
「銃のマガジンってこんな数本で大丈夫なの?」
俺と参加者・風澄鈴は来るべき挑戦の為に準備をしていた。
順調だった。はず。
武具を整え、開始を待つだけ。
「いいんじゃないか?風澄にはエアレスの能力があるだろう?」
「・・・まぁ、そうだけど・・・こんな拳銃一丁で・・・」
「いやいやいや!グロック18をバカにしちゃいけませんよ!セミ・フル切り替え可能で尚且つ取り回しやすく・・・」
風澄鈴はグロック18をKPで購入し、数本マガジンを調達。
それに対しセヴンは薀蓄を始めている。
さすがに特殊部隊が着ているボディアーマーのような物を調達するKPは無かった。
「・・・しかし、突然こんな事があるのはおかしくないか・・・?それに主催の文面も・・・」
「そうね、確かにSNSの文面はテンション高いし、アタシの聞いた主催の声は冷静そうな女性だったし・・・」
「・・・俺もだ。」
俺がこの「強くてやり直し(ニューゲーム)の為の殺し合い」に参加する前に聞いた声。
それが主催であるならば、今回のは「らしく」ない。
俺が聞いた声は「冷静な女性」のものだった。この殺し合いを上から見て楽しんでいるような者ではなさそうだった。
だが、今回の文面はおかしい。
その女性が書くとは思えないような文面。まるで人数を減っていくのを楽しんでいる、残虐な何か。
そうとしか形容のし様が無い。
「何者なのかしら、主催って。」
「・・・さぁ?ただ推測で行くなら現時点で二人以上居るかも、って事だな。」
「あと・・・ちょっとKP余ってない?」
「・・・余ってるけど、何で?」
「・・・日本刀とか、欲しいかなぁ、って。」
「セヴン、KPの取引のやり方は?」
「はいはい、お任せを・・・」
KPの受け渡しを行い、日本刀を購入する風澄。
確か、生きていた頃は剣道部だった、とか言っていたな。
ならば銃よりも此方のほうが使い易いのかもしれない。
「・・・で、そろそろだけど。」
「あぁ、準備は?死ぬなよ。」
「既に死んでるっての。アタシは大丈夫だけど、そっちこそ、万全?」
「全然大丈夫だ・・・」
俺がそう言葉を発した瞬間、目の前が真っ白になる。
そして・・・
--
---
----
ビルの屋上で、俺や風澄、他に8人が倒れていた。
目を開けて立ち上がると、すぐさま、鎖が床から「生えた」、と形容するのが正しいのだろうか。
その鎖に拘束される。
周囲の俺以外の9人も立ち上がると、すぐに鎖に拘束される。
「・・・どういうつもりだ?」
『対象はあれのようですね。』
『その通り、君たちの頭に聞こえているかな?』
「誰だ!?」
セヴン以外の声が頭に響く。
気さくな男の声だ。
「・・・お前が、主催か?」
『まぁまぁみんな一斉に怒らないで、ねぇ?とりあえず目の前の男を見てみようよ。』
「・・・何だ、あれは。」
一斉に正面の男を見る参加者達。
・・・その状況に、俺は絶句した。
中世ヨーロッパの貴族のような格好の男が、磔にされている。
その状態は俺たちより酷いものだ。
肌は青白く、金刺繍の入った服には血が飛び散っている。
弱弱しい腕に長く伸びた白髪。
まるで吸血鬼だ。
『・・・これが、君たちの倒すべき今回の敵「ヴァンデル・R・ヴルード」公爵だ。』
公爵・・・?
明らかに現代日本ではありえない単語が聞こえたような気がする。
見た目は確かに、中世ヨーロッパの公爵だ。
『このゲームの第・・・えー・・・何回だったかな、忘れたが。最初の方の参加者だ。』
参加者?
一応以前の殺し合いは終了しているのではなかったのか?
『君たちの言いたい事は分かっている。確かに、もうこの男が参加していたゲームは終わっている。・・・勿論、「ヴァンデル公爵が13人目」という結末で、だ。最後まで生き残ったはいいが、他の参加者に殺されてしまった。そして・・・彼は死よりも辛い「試練」を永遠に続けていた。君たちも聞いたであろう「無限の蔑み」「無限の痛み」と呼ばれる、「試練」。それに今の今まで・・・何百年・・・耐えていただろうか?』
この殺し合いは数百年という単位で行われていた、というならばこの磔の男が「公爵」というのも納得が出来る。
しかし、本当ならば何世紀も、同じ事を願う人間は居た、という事になる。
だが主催はどうだろうか?毎回変わっていたのだろうか?
そもそも声だけの主催は人間なのだろうか?
そんな疑問を思っている間に主催と思われる男は話を続ける。
『彼は願っていた。「やり直して、娘を殺した大公、それを行った下賎を全員殺す」と。彼は娘を「魔女狩り」によって失っていたらしいんだ。・・・魔女狩りについては、分かるよね。端折るから。「魔女と認定された娘は殺され、ヴァンデル公爵は悲しみに打ちのめされた。」そして・・・自殺を図る。その時彼は願ったんだ。・・・分かるね?君たちと同じだ。だが、君たちとはもう違う。2回死んだ公爵にやり直す権利は残されていない。』
魔女狩り、大公、権利、まるで嘘のような単語だらけだ。
本やインターネットでしか見た事の無い単語。
『・・・で、公爵にも君たちにもチャンスだ。ここで「特別な殺し合い(ゲーム)」の説明だよ。君たちと公爵の鎖を同時に外す。・・・そして、分かるね?』
「殺しゃいいんだろ?」
黒いパーカーを深く被った男が不気味に笑い、大声で問いかける。
偶然にも俺の隣で鎖に縛られている。
息が荒く、まるで「飢えた狼」のような男だ。
『その通り。だが・・・10VS1、これでは不公平だろう?公爵には二つ、特別な条件だ。一つ目は彼は「人間ではない存在」へと変貌した。二つ目は・・・』
「御託は要らねェ!さっさと始めようぜ・・・!」
ここで話を止められると周りの皆さんが困るのだけど、説明途中だけど。
しかし怖くて声は出せない。
この男は「タダモノではない」というのが正しいのだろうか?そんな空気が渦巻いている。
『・・・じゃあ、スタートだ。君たちの頭の中で笛が鳴る。その音と同時に、君たちの鎖は外れる・・・では、健闘を祈るよ。』
主催と思わしき男の声が聞こえなくなる。
そのまま数分が経過する。
始まらないのではないか、と思った時、笛が響く。
鎖はすぐに地に落ち、一斉に武器を構える参加者達・・・
しかし、発砲はしなかった。
「おいおい・・・?コイツ死んでるよ・・・」
二丁のリボルバー拳銃を構えながら一人の男が、倒れている公爵へと近づき、座り、眺める。
スタートと同時に公爵は磔から解放されたと共に地面へと倒れたのだ。
ピクリとも動かない。
「なんだ、一人も死者出ずに勝ちかよ・・・」
「おい!後ろだ!」
「あ?」
そのリボルバーを持った男が振り返った瞬間には、遅かった。
彼の腕は、食いちぎられていた。
「公爵によって」だ。
肩から先を思い切り・・・
「う、腕が・・・!?」
「・・・血が・・・戻ってきたな・・・」
口から肉片を吐き捨てると同時に小声で呟き、顔色が普通になる公爵。
腕を食いちぎられた男の頭を掴み、持ち上げる。
そして公爵は・・・思い切り心臓目掛け、手を突き刺した。
「槍」のように公爵の腕は男の肉体を貫き、心臓を取り出したかと思うと、握り潰す。
その握り潰した手には「赤い長剣」が握られていた。
「・・・どういう・・・事だよ・・・?何が起きてる・・・」
『・・・人間ではない、こういう事ですね。一番近い例えが「武装人格」です。』
「・・・セヴン、教えてくれ。」
M4A1のボルトハンドルを引きながら、問いかける。
更にいつでも撃てるように、アイアンサイトを覗き、公爵の頭を狙う。
『僕達の能力は武器を作ったり何だの、ですね・・・?それにとても近く、彼も「能力」を有しています。恐らく・・・』
「さぁ、次に私の武器になる者は前に出るといい。私が勝たねばならぬのだ。」
『今の発言で確証が持てましたね。「人体を武器へと変化させる」。彼は・・・武装人格と元・参加者のハンパ者、みたいです。』
「・・・そうか・・・どっちにせよ、倒さなきゃいけないんだろ。」
一発、撃ち込む。
しかしその弾丸は軽く、赤い剣の一振りで真っ二つに斬り落とされる。
「そうかッ!貴様が獲物と成りたいか!」
「撃て!お前ら撃て撃て!」
一人がそう叫ぶ。
全員が公爵へと銃弾を撃ちこむ。
「・・・遅い、遅すぎるな。」
人間ではない、という確証を持たせる発言と行動。
数振りで周囲のフルオート射撃を遮断する。
『・・・有り得ませんね・・・』
「なら、コイツを喰らえ!」
「ぐっ・・・?何をした・・・?」
背後へとこっそりと回っておき、一気にダガーナイフを左胸へと突き刺す。
・・・手応えはある。
確かに、刺した。
刺したダガーナイフをそのままに、後ろへと下がり、発砲を行う。
「・・・私が死ぬとでも思ったか?」
血を流しながら、俺の撃つ弾を全て軽く弾く公爵。
コイツは一体何者なんだ、人間ではないことは確かだ。
だが、あまりにも反則すぎる。
「ちょっ・・・エアレス!?どういう事よ!?」
「・・・風澄、コイツは・・・マジでヤバい。」
「そこのテメェ等!お喋りしてんじゃねェ!でねぇと・・・俺が全部手柄を持ってくぜ!」
飢えた狼、と形容するのが正しそうな男が此方を向き、怒鳴りつけてくる。
それと同時に一気に走り、公爵との距離をつめる。
「はァッ!」
「ほう?」
「俺の剣を止めるとは、やるな・・・流石人外野郎だ。」
「・・・褒め言葉か?それとも貶しか?」
「・・・両方だ、クソッタレ!」
男のフードが捲れ、長い赤茶髪と、鋭い目つきが露になる。
そして、片手に持ったサーベルのような剣とは逆の手に、片手でグレネードランチャーを構え、至近距離で放った。
爆音が響き、戦いは終わった、と思われた。
煙が辺りを包み、前が見えない。
「やったぜ・・・クソッタレ。俺の勝ちだ。ククッ・・・」
「・・・誰の勝ちかね?」
「ッ・・・!?」
体中に火傷を負い、胸にダガーナイフが突き刺さった公爵が煙の中から現れ、剣を振り下ろす。
それを間一髪赤茶髪の男はサーベルで抑える。
「・・・この程度の痛み、羽虫に噛まれた程度だ。・・・貴様は最後に殺してやろう。貴様は・・・下賎と同じ臭いがする。」
「がはっ・・・」
鋭い回し蹴りを入れ、男を蹴り倒すと、とてつもないスピードで他の参加者へと飛びかかる。
その飛びかかられた参加者は胸を貫かれ、そのまま投げ飛ばされる。
『・・・ご主人ご主人』
俺はセヴンに呼ばれても、恐怖で何も考えられず、立ちすくんでいた。
次は俺が狙われるかもしれない。
狙われれば、終わりだ。
『能力が分かりましたよ、ボーッとしててもいいから死ぬ前に聞いてくださいね。「再生」と「異種化」です。所謂ヴァンパイアです。つまり・・・』
「日の光・・・だけど、平気じゃないか、アイツ。」
『他にもあるでしょ?ニンニクとか、銀の何かとか。』
「・・・それも無いだろ。」
「ちょっと!?神無月采!何ボーッと話してるの!?」
「わ、悪い!」
銃を構えなおし、公爵へと撃ちこむ。
すぐに弾が無くなり、リロード。
その繰り返しで予備マガジンは無くなってしまった。
「・・・ふむ、余興はこれまでかね・・・?私に血肉を・・・」
「切り刻む!」
風澄の放った風の刃が公爵の肩と髪を裂く。
公爵の肩から血が飛び散り、白髪を汚す。
「傷・・・!?そして・・・先程の珍妙な術・・・魔女だな・・・?」
「魔女じゃなくて、超常能力、ってとこかしら?バケモノさん。」
「・・・そうか。どちらにせよ「貴様のような珍妙な術を使う者の代わり」に娘は殺された・・・貴様のような者のせいで!!」
「危ない!」
蹴り飛ばされた男の近くに落ちていたサーベルを拾い上げ、咄嗟に走り出す。
何でこんな行動に出たのか、分からない。
けれど、やらなければいけない気がした。
「・・・魔女に加担する者め・・・」
「そうだな。今の時代、魔女なんて居ないし、アンタのような上流階級も必要・・・無いんだよ!」
「何ッ・・・」
力が緩んだ公爵の腕を斬り落とす。
剣なんて初めて扱ったが、意外と使えるものだ。
「風澄!コイツの能力は「再生」と「異種化」だそうだ、俺の武装人格がそう言ってた!心当たりが無いか!?」
「再生・・・異種化・・・エアレス、何かある?」
風澄が話している間に、俺は片腕が落っこちた公爵と追いかけっこだ。
途中、公爵は立ち止まり、ビビって動けない参加者の胸を貫き、心臓を取り出す。
また、握りつぶす。
すると、落とされたはずの公爵の腕が再生する。
「はぁ!?」
「・・・フン、臓がある限り、私は死なぬ。つまり、この娯楽遊戯、私の勝ちである。」
「それはどう?」
「魔女の小娘・・・!」
再度腕を落とされる公爵。
その腕を落としたのは「真空の刃」。
風澄の武装だ。
「神無月!もう片方を落として!「再生」は相手の心臓を握りつぶして、自分の血肉へと変貌させる能力だって、エアレスが!」
「ならばこれで!」
「分かったところで貴様の素人同然の剣捌きでは・・・!」
「退け、ヘタクソ。」
「あっ!?」
俺は突き飛ばされ、サーベルを手から奪われる。
その突き飛ばしたのは、赤茶髪の男だ。
俺からサーベルを奪うと同時に両手で構え直し、すぐに公爵のもう片腕を斬り落とす。
鋭い一撃。
「殺し慣れている」といったところだろうか。
俺の一撃よりも軽いが、人体の弱い部位を狙い、斬りつけた一撃だ。
だが、公爵は、男の肩へと噛み付いた。
「痛ぇ・・・!噛むんじゃねえ!腐れジジイが・・・!」
気が付けば、無意識の内に片手にデザートイーグルをセヴンの能力で作り出していた。
そしてアイアンサイトを覗き、公爵の頭を狙う。
『今です!』
「終わりだ・・・ッ!」
破裂する公爵の頭、飛ぶ肉片。
噛み付いていた歯すら吹き飛ばす。
その場に落ちた胴体を、噛みつかれていた男が踏み潰し、剣を突き立てる。
「・・・勝ち、か?」
「ククッ汚ぇ肉だな・・・だがこの血の臭い、たまらねえな、勝手に剣を盗みやがった事は許してやるが、顔は覚えたぜ・・・」
「そりゃどうも。」
明らかにヤバそうな男に振り向かれ、剣を突きつけられる。
だが、公爵を倒した、という事で心に余裕が出来ているのか、勝手に口が・・・
「・・・終わり、よね?」
「・・・のはず。」
『お見事!まさかヴァンデル公爵を倒しちゃうなんてねえ!ビックリ!後で生き残った・・・1、2、3・・・4・・・5・・・うん、5人だね。でも前線に出てたのは数人。その数人には「いいもの」をあげよう。』
「本当にいい物なのかねえ。」
「さぁ?主催からすればいい物なんじゃない?」
横で不気味に笑っている男を放置し、二人で会話を続ける。
そんな時、主催らしき男は咳払いをする。
『とにかくおめでとう。第・・・何回だったか忘れたけど今回の突発イベント、楽しかったかな?』
「最低で最悪だ。」
『そりゃ結構!公爵には「また」、痛みを味わってもらわなきゃね!さて・・・まずは君たちに休憩時間の後に本編の続きをしてもらおう。今回の参加者数名は見所があるって、他の奴等も言ってるし!』
「おい?他の奴等って?」
『はいはいとにかくおめでとう!それじゃあね!』
俺の質問なんて、全く聞かず、声は途切れる。
そして、俺の目の前は、また真っ白になる。
気が付けば、また、休憩室に俺は居た。




