第三話「新しい通貨とその通貨の使い方と」
戦闘後、強制的に休憩室に送られた神無月采に待っていたものは・・・
どこだろう、ここは。
俺は、何をしていた?
・・・そうだ、人を・・・
今でも鮮明に覚えている。
俺の放った弾丸で滅茶苦茶になってしまった人間。
「はぁ・・・はぁ・・・夢・・・夢だよな、俺は・・・」
「どこが夢ですか。」
「・・・」
「・・・」
起き上がった瞬間、目が合う。
そこにはその時の「共犯者」である「武装人格の少女」が座っていた。
「待て、何でお前がここに居る。というか俺は・・・」
「あー・・・休憩時間です。与えられた休憩時間。」
「・・・アトランダムで与えられる、ってやつか。」
コクリ、と頷く少女。
・・・思えばこの子合った時は法衣なんて着てたけど今は近所の高校の制服だな。
・・・・・・ん?ちょっと待てよ。世の中には「アイテム制課金」という物がある。まさか。
おいまさか。
「・・・あのー・・・武装人格さん?ちょっといいですかね。」
「いきなり敬語でどうしたんです?」
「・・・この減ってるKP、どういう事だ。」
そっぽを向く武装人格の少女。
動かぬ証拠を突きつけた感じだ。
買い物アプリのKP使用履歴を見ると・・・
『殺害アシスト+300点・・・合計500KP』
『自分より高スキル・高武装の参加者を殺害+1000点・・・合計1500KP』
『衣装「制服」購入-500KP・・・合計1000KP』
『現在KP・・・1000KP』
・・・何一つおかしいところが無い。
犯人はコイツだ。
「・・・で、どういう事なんだ?」
「・・・えっと、着ます?」
「着ねーよ!」
「初めての殺し(キル)で心が病んでると思ってせめて僕でご主人の目の保養になれば・・・って。」
「・・・そ、そう・・・か、だけどKPは有限で・・・ってちょっと待て!?何ですぐに買ったものが・・・」
「衣装や銃弾、この程度ならばすぐに調達されますよ。」
「武器やマガジンは別ですけど」と付け足して微笑む武装人格。
弾だけ買う事は出来るのか・・・
だとすれば、G17をそのまま運用することも出来る訳だ。
しかしこの子の能力とは相性が悪い。
いくら弾数が完璧だろうと、サブマガシンが無ければリロードは出来ない。
この子・・・そういえば・・・名前知らなかったな。
「そういえば・・・君、名前は?」
「あれ、こんなピーキーハズレ武装人格と本当に契約するつもりですか?」
「・・・当たり前だ、そのピーキーを使いこなせる自信があるからな。」
握手をする。
あれ、やけに温い水が・・・泣いてるのか・・・?コイツ。
「・・・こ、こんな武装人格でいいんですか・・・?僕みたいに、特殊能力を忘れて、「武装」も一種類の・・・特徴も無い・・・」
「忘れた、か・・・保障は無いけど戦ってる内に思い出すだろ、多分。」
確かに特殊能力を忘れているのは他の人格と比べると劣っている。
だが「武器が使える」事に変わりは無い。
ちょっと「何かが足りない」だけだ。
涙を流すこの子を宥める事数分後だ・・・
「・・・で、名前は?」
「Savage Banish Guniter-Saven-です。」
「えっ、ちょっ・・・もう1回」
「Savage Banish Guniter-Saven-。」
え、いや、名前?
流暢な英語で話される、名前、なのかどうか分からない言葉。
名前というよりプログラム名?
「で、さ・・・えっと、さべーじ・・・ばにっす・・・がねいたー・・・せぇヴん・・・さん?」
「・・・いえ、Savage Banish Guniter-Saven-です。」
「ややこしいんだよ!!」
「だ、だって!武装と契約プログラム以外を忘れてしまい、固有名称なんて・・・」
「固有名称、っていうと、さっき倒したやつの「エンヴィス」みたいな?」
「そうです。・・・あった気がする・・・というかこのプログラム名から作っちゃってください!」
「はぁ・・・うん、分かった。けど覚悟はしろよ・・・」
・・・考える事数十分。
俺の意見は大体否定される。
サヴェージ、S.B.G、ガナイタ。
・・・うん、最後のは悪意があってやった。認めよう。
「・・・あの、もっとまともなの無いんですか?」
「・・・うーん・・・もうこれは最終策なんだけど、セヴンってのは?」
「・・・あの。」
「ん?」
「なんでその名前がすぐに出てこなかったんですかッ!!!」
何故か怒鳴られる。
・・・だって最後の切り札は最後まで取っておくから最後の切り札なんでしょ?
だからその最後の切り札を・・・
「・・・あの、まさか「最後の切り札は最後に出すもの」なんて思ってたりしていません?」
「・・・思ってました。」
「僕はジョーカーは早めに切る派なんで。というかこういう真面目な時は・・・」
「まぁまぁ落ち着け!」
とにかく宥める俺。
冷蔵庫からコーラを取り出し、手渡す。
プシュッ、という音と同時にケータイが震える。
そんな事よりまず、自己紹介だ。
「・・・で、俺は神無月采、宜しく、セヴン。」
「・・・ご主人は、采ですね?」
「・・・いや、采だけど・・・呼び方はご主人じゃなくても・・・」
「・・・うーん?その方がしっくり来る、って僕の中の何かが・・・」
「・・・」
「それはいいとして、今ので150KP差し引かれてますよ?」
「ハァ!?」
ケータイを確認する。
すぐに取り出し、見る。
・・・本当だった。
『飲料購入-150KP・・・合計850KP』
・・・ありえない。
「テメェは葬式場の飲み物売りかッ!!!!!」
思わず目視できないルールを作った者へと叫びかける。
油断ならない、もしインターバル中に腹減って冷蔵庫の物食べたら-何KP、なんて。
もしこれでtwiboinのフォロワーがもし居たとして、(※)飯テロなんてされてみろ!
※飯テロとは夜中においしそうな食事の画像をSNSで呟き、相手の空腹感を煽る精神攻撃である。
「でも、まぁ・・・葬式場みたいなもんだよなぁ。」
「・・・ですよねー死後ですからね・・・「棺桶」の中、って感じですかね・・・」
「・・・棺桶・・・」
棺桶の中に広がる別世界。
そこで行われる殺し合い、それに俺は参加させられている。
それを今思い出した。
「あ、そうだ。ご主人に追加アプリを・・・」
「ん?・・・うおっ!?」
セヴンの周囲を0と1が回転する。
そして、その0と1は俺の持っていたスマホに収束し、消える。
その画面に増えていたのは「匿名掲示板」というアプリだ。
「こういうのご主人好きかなーって。部屋的にも。」
「・・・まぁ、ありがとう、な。でも・・・いや、何でもない。」
・・・ゲームの棚見て言うんじゃねえよ。
これは俺の意思とは別で勝手に形成された部屋だ。
とりあえず、開いてみるか・・・
真っ先に気になったスレッド。
「【乞食】睡眠者多数KP稼ぎ時、急げ【あくしろ】」
睡眠者?
「どれどれ?」
「ご主人も書き込みするんです?」
「しないけど?」
「そうですか。それで・・・ふむふむ。」
適当に俺とセヴンで読み進めていく。
どうやらここではなく、東京や神奈川辺りで起きている事らしい。
「路上や公園、建物内、所構わず参加者が睡眠していて、それを殺害しKPへと変える」という行為。
・・・昼寝する余裕があるのか?
「これは超常タイプの武装人格か、それとも他様タイプの武装人格か、ですね。」
「・・・そのタイプは何?」
「えっと、説明しますね。」
セヴン曰く、武装人格には大きく分けて4種のタイプが存在するらしい。
まずセヴンのような「遠距離タイプ」、銃や弓などが該等するとの事。
そして前に戦った相手のような「近距離タイプ」、刀、剣、棍棒、その他諸々近距離系。
特殊なタイプで「超常タイプ」。これは近距離・遠距離共に使える超常能力らしい。
最後に「他様タイプ」。「神話」や「御伽噺」に登場するような武器や、一風変わっている武器がそれに当たるとの事。
「可能性としては、超常タイプで催眠術や洗脳、その類の人格ですね。」
「・・・だけど眠らせて放置、なんてするか?」
「ですよねぇ、範囲型、って可能性も捨て切れはしないんですけど。」
「範囲型、か。」
広範囲に対し、眠らせる事が出来れば、目の前の敵だけ倒して、他を放置して逃げる事が出来る。
可能性としてはあるかもしれない。
だが、現在の俺達の戦闘区域では関係の無いことだ。
「さて、時間は・・・」
「まだまだありますね。」
休憩は3時間。
趣味を読み取られていたから良いものの、この3時間、何も無い休憩室に放り込まれた参加者はどうするのだろうか。
「で、ドア開ければ?」
「放り出されて次の休憩時間まで戦わされます。」
「・・・クソスレでも眺めて過ごすか。」
「ご主人らしい過ごし方ですね。」
「・・・お前意外と言うな。」
俺がスマホを眺めていると隣に座っているセヴンがスマホを突きつけてくる。
コイツはスマホを持っていたのか。
それ以上に、俺が驚いたのはtwiboinだ。俺のアカウントを見せてくる、が・・・
書いた覚えの無いプロフィールが表示されている。
「どういう事だ、セヴン。」
「武装人格用アカウント、ですね。主の個人情報を見て、確認する為の。だからさっきのクソスレという単語も・・・」
「・・・へえ、ちなみにこの個人情報、漏れたりは?」
「繋がりが全く無い・・・ププ・・・ご主人・・プププ・・・ぼっち・・・」
「いいから早くしろ!」
数分間、セヴンは笑いっぱなしだった。
正確には「笑いを堪えていた」。
殺人ゲーム(こっち側)来たら全部繋がりが消えたんだ。
元は何百居たはずのフォロー・フォロワー数。
だけどこっちに来た途端0になった。
ともかく、セヴンの笑いが収まったようだから話を聞こう。
「あぁ、落ち着けました、はい。例えば、戦闘中、共闘してくれた方とかと相互(※)しますね?」
「そうだな、もし相手に敵意が無いなら。」
※相互とは 双方共にフォロー、ネットゲームで例えるなら友人登録やお気に入り登録をする事。
「それでもしも、相手が武装人格を使っていたとします。」
「として?」
「その場合はご主人のデータが見られます。」
「・・・はぁ・・・でも、この程度のデータ見られてもな?」
書いてあるデータは簡潔で、とてもひどい。
参加者名:神無月(Kannnazuki) 采(Sai)
年齢:23
趣味:ゲーム、インターネット
職業:会社員(死亡直前に解雇)
交友範囲:ほぼ無に等しく、ネットが友達
特筆すべき能力:無し
二回ボタンを押し、上へと画面をスライド。
そっとアプリを閉じ、KPで物資を調達しようと考える。
「まず・・・9x19mmパラベラム弾を・・・」
手元にG17を持ち、マガジンを確認する。
勿論軍人ではないから、何発入るか、なんて知らない。
「マガジンには種類がありますからねぇ、ご主人のは17発タイプです。」
「ありがとさん。170ポイントで・・・17発購入と。」
「すぐ届きますよ。」
そうセヴンが言った瞬間に、部屋のチャイムが鳴る。
開けて大丈夫なのか・・・?
「宅急便です。」
「ほら、早く出ないと。」
「いやでも外出たら・・・」
「この間は大丈夫ですよ。」
セヴンを信じ、ドアノブへと手を伸ばす。
そして開けると、そこには「よくいる配達員のお兄さん」だ。ごく普通の。
「神無月采様ですね?」
「あ、はい。」
「確かに渡しましたよ。」
そう言って、配達員は去っていく。
外を見ると、知らない場所だ。
「ホテルの廊下」のような。
いつの間にか俺はホテルに送られていたのか?
その「廊下らしき場所」を見ていると、何故か頭が痛くなる。
早いところドアを閉め、セヴンの方へ向かう。
「・・・ここは何処なんだ?」
「休憩室です。」
「・・・いや、外はどうなってるんだ?」
「それは僕にも分かりませんね、恐らくここもまた別の次元か、それとも専用に作られた部屋か。とりあえず箱開けちゃってください。」
疑問や不安の要素は多い。
考える事を止め、手渡された小包を開けていく。
その中にはキッチリと17発の銃弾が包装されていた。
「・・・で、どうすればいいんだ?」
「マガジンの先に弾を詰めていきましょう。」
「了解。」
1発、1発丁寧に込めていく。
しかし10発目を越えた辺りから、なかなか上手く入らない。
「へたくそですねぇ。」
「銃なんて扱った事ないっての。」
「貸して下さい。」
「あっ、おい。」
半ば強引にマガジンと弾を取られる。
手馴れた手さばきで銃に弾が込められていく。
最後の2発は少し大変そうだったが、すぐに全発収まった。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう・・・」
「まだマガジン入れちゃダメですよ、ご主人の事だから引き金引きそうですし。」
反論の余地が無い。
試しに撃ってみよう、とか少し思ってしまった。
セヴンに言われなければ恐らく一発無駄にするか怪我してるかしていた。
「さぁ、そろそろ出るか。」
銃を持ち、立ち上がる。
右のポケットに本体を、左にはマガジンを。
早速出ようとしたら・・・
「ストップですご主人!!」
何故かストップをかけられる。
「何だよ。」
「出る前にはマガジンを入れておきましょう。」
「・・・ダメやら入れろやら・・・」
とりあえずコイツの言う事に間違いは無さそうだ。武器関連で。
あくまで武器関連だけだが。
マガジンを入れてから、セーフティを掛ける。
「よし。」
「さぁ行きましょう!」
ドアを開け、外へ出る。
その開けた景色は景色は廊下ではなく
あの日倒れた、大学だった。
「なぁ」
一室にて、独り言でセヴンに問いかける。
どうしても気になる事があった。
『はい。』
「・・・もしも、だ、ここで戦ってる最中に、休憩室に送られていたらどうなってたんだ?」
『そのまま、です。』
「送られるだけ、か。」
『はい、送られてから戦闘していた相手は「待ち伏せ」するか「移動するか」しますね。』
「それって下手すれば戻ってきた瞬間に殺されるんじゃ・・・」
『まぁ、そうなりますね。』
非情だ。
この仕組みを理解している参加者が相手だった場合、3時間待ってから戻ってきたところを強襲するだろう。
尤も、3時間待てるタイプの人間と待てないタイプの人間に分かれるが。俺は後者だから移動するだろう。
相手が待つのを得意としていたら、一発で終わりだ。
「対処法って無いのかよ。」
『ありますよ?』
「・・・あるのかよ」
『休憩室でKPを500払うと周辺地域の別の場所へと移動させてくれます。』
「あ、ポイント掛かるのね。」
一応脱出手段はあるようだ。
・・・しかし、その出た先も安全とは限らない。
『ちなみに1000KP払えば確実に安全なところへと運んでもらえますよ。』
「高ェよ!」
『あ、あまり声を張り上げないほうが・・・』
「そ、そうだな。」
自然に出てきたフリをしながら、廊下を出て、正門まで辿り着く。
そして駅へ。
また電車に乗り、誰も居ないであろう「地元だった田舎町」へ。
『隠れるんですか?』
「一応・・・なっ・・・!す、すいません!」
「・・・坊主、落としたぞ・・・と。」
黒いスーツを着て、髪の毛を上へと立たせている男に肩をぶつけてしまう。
明らかにヤバい。
それに拳銃まで落としてしまった。
・・・拾って渡してくれたが・・・
・・・待てよ、「拾って渡してくれた」?
『なるほど。』
頭で納得しているセヴン。
この動作は俺でも納得が行く。「今銃を構える」という動作。
俺にぶつかって俺の存在を認知できる。
つまり、この男は「参加者」だ。
「おいおい血気盛んだなぁ。ソイツぁ・・・いい事だが。こっちは善意で拳銃を拾ってやったんだゼ?」
「・・・う、撃ちますよ・・・」
倒さなきゃいけない相手。
しかし腕が震える。
撃てない。
「・・・ストーップ、ストーップ・・・おじさんは戦う気無いんだぞ。その何千人居る中で一人殺しても大差出ねェだろ。」
やる気の無い声で両手を挙げ、降参を提示する男。
仕方なく、拳銃を仕舞うとしよう。
「・・・ふぅ、兄ちゃんなかなか「新参」にしちゃ、気迫あるな。」
男は俺の肩を軽く小突く。
口元を少し笑わせながら。
「・・・何なんですか・・・俺より前に居た参加者、って事は分かりましたけど・・・」
「そうだな、それが答えだ。俺は「八島 亮」、一応参加して・・・数ヶ月・・・か?オイ、フレア、覚えてるか?」
「フレア」と呼ばれた何か。恐らく武装人格だ。
話をしているが、武装人格の声は聞こえない。
『武装人格と契約者同士の会話はその人たちにしか聞こえないんですよ。』
「ふーん・・・」
確かに、考えている事がダダ漏れだと何もかも見通されてしまう。
八島亮と名乗った男は溜息を吐きながら、すぐ近くのベンチに座る。
そして両手に缶コーヒーを出す。
どうやらKPで購入した飲料などはすぐに手元へと出てくるようだ。
仕組みは不明だが。
その片方を俺に投げ渡してくる。
「・・・ま、友好の証だ。飲んでくれ。」
「・・・毒とか?」
「ハハッ、まさか。俺の武器は・・・コイツだ。」
八島亮は指を弾く。
すると、反対側の親指から煙が立ち上がる。
「・・・煙?」
俺は貰ったコーヒーを飲みながら、煙を眺める。
「フレアの名の通り、霍乱用として扱う武装だな。」
「・・・意味は?」
「あるぜ?このフレアはミサイル用じゃねえ、参加者用の・・・弾落としだ。」
「銃弾を?」
無言で頷く八島亮。
本当に「実弾を落とせる」ならばとても強い武器だ。
だが、攻撃はどうするのだろうか。
「アンタみたいに話し合いで解決できりゃいいンだが、解決できねェ場合は・・・」
内ポケットから取り出される拳銃。
リボルバー型だ。
4インチの短いリボルバー。
「最悪、撃つさ。」
「・・・・・・やり直す気あるのか?」
「あぁ、あるとも。無けりゃとっくに眉間を自分で撃ってるっての。」
八島亮はコーヒーを飲み終わると同時に立ち上がり、空き缶を踏み潰す。
そして手に取り、ゴミ箱へと投げ入れる。
「さて、おじさんはそろそろ・・・伏せろ!!!」
いきなり表情を変え、叫ぶ八島。
俺も咄嗟に伏せる。
すると、横にあった木が倒れている。
「・・・な、なんだ・・・」
「・・・おいおい、こっちは敵意、無いんだぜ?・・・コイツは別だが。」
「・・・」
俺は銃を構え、その木を倒したであろう者へと向ける。
そこに立っていたのは黒髪ポニーテールの少女。
腕には「風」を纏っている。
本来、風は目に見えない者だ。
だが、ハッキリと見て、ハッキリと伝えられる。
あれは「風」だ。
「女の子相手に2VS1かぁ、笑えるね。」
「・・・おじさん戦う気ねェよ?だから1VS1。」
「・・・アタシは全員殺して、やり直すんだから。」
「かーっ、これだからお若い参加者は。」
「煩い!!」
「・・・ひゅゥッ・・・」
少女が腕を振り上げると同時に、コンクリートが裂けた。
本来裂けるはずのないものが裂けている。驚きだ。
驚いている場合じゃない。
その裂いた物、恐らく・・・真空波のような何かを、指を弾いただけで八島は無効化したようだ。
しかし真横で大きな音がしている。
・・・無効化した訳じゃない、あれは「逸らした」んだ。
「諦めて他行け他。おじさんは戦う気がねェっての。」
『撃たないんですか!?』
「・・・ああ、撃てる気がしない」
小声でセヴンに語りかける。
俺にはとても、撃てる気がしない。
何故か、俺にもわからないが。
「・・・はぁっ!」
「チッ・・・おじさんも本気をちょっとだけやらせてもらうか・・・」
瞬時に移動する少女。
その移動した少女の首根っこを掴み、持ち上げる八島亮。
「ぐゥゥ・・・」
「・・・遅ェな、随分と。殺す気あんのか?中途半端な気持ちで参加してンのか?あァ?」
「アタシは・・・負けない・・・」
「何にだ、こんなくだらねえ戦いで?」
「これも・・・向こうでも・・・一番上を・・・」
「一番上・・・ね・・・ッ!?」
無意識の内に一発発砲していた。
八島は驚きからか、少女の首根っこを離す。
「・・・いいか、枠は12人、俺たちは今3人、他に千何人も居る。だから、今ここで殺しあう必要も無いだろ。」
「・・・ま、コイツの言うとおりなワケだ。譲さんもとっとと去りな。」
「・・・・・・エアレス・・・」
どうやらこの少女もまた、武装人格を所持しているらしい。
数分後、少女は腕から風を消す。
「・・・ふぅ、説得成功か。やるじゃねえか、若いの。」
「別に、見てられなかっただけですよ。」
「・・・そうか、ったく・・・最近の若ェのは血気が盛んだな。」
「そうですね。」
「お前もだ。」
小突かれる。
気づけば、弾を一発使ってしまった事を思い出す。
・・・10KPが。
「・・・確かに、12人が残ればいい・・・っ!?」
少女は一瞬で、どこかへ消えていった。
だけど、俺はその消え方に見覚えがある。
・・・どこで見たかまでは覚えていない。
「・・・時間だったか。」
「時間?」
「・・・3時間の経戦で休憩に持っていかれたってワケだ。・・・ま、出た時には考えが変わってると助かるねェ。」
立ち上がる八島。
俺も釣られて立ち上がる。
「・・・さァて、おじさんもそろそろ、ここから離れないとな。」
「・・・何故?」
「・・・さっきの嬢ちゃんの考えが変わってなかったらって考えてみ?おじさんは殺害対象だ。」
「・・・俺もだな。」
こんなところで油を売っていれば、戻ってきたときに一網打尽だろう。
この八島という男ならどうにか出来そうだが、俺は確実に殺られる。
「さァ、またどこかでな。」
「・・・」
去っていく八島の背中を黙って見送る。
八島のようなよく分からない男も居れば
さっきの少女のようにいきなり襲い掛かってくるヤツも居る。
・・・どの考えが正しくて、どう動くのが正解なのか、分からなくなる。
そんな分からない中でも、進むしかない。
そう思いながら、俺は、行くアテも無く、歩き始めた。