第十話「管理者」
互いの考えが交差し、火花を散らす風澄鈴と冥王院紫苑。
その仲介に入った采だったが、平和的解決を試みようとした時に、妨害が入る・・・
両手に銃を持ち、風澄鈴、冥王院紫苑の両者へと突きつける。
勿論、引き金を引くつもりなど、俺は無い。
俺にとって、いや、この「無意味な殺し合い」を終わらせる答えが出た。
その答えを突きつける為の、「抑止力」。
ただの脅しだ。
「何で君等は戦う?片方が死ねば全て解決する、と考えるのか?」
「ええ、その通り、紫苑を殺してアタシはまた、一番上に・・・」
「なれない。」
「何を・・・」
「・・・そんな事してるようじゃ、なれない。」
俺は理解出来た。
俺自身の事、そして答え。
八島亮が最後に俺に考えさせた答え。
「・・・1番になる為に他人を蹴落とすのは、仕方ない。」
「なら・・・ッ!」
「だけど、このやり方だけは認められない、認めちゃ、いけないんじゃないか?」
誰かを蹴落として1番になる。それは何事にも言える。
勉学、仕事、スポーツ、ゲーム、2人以上の人間が居る社会、起きない事なんてない。
と、いうよりは「常に行っている事」だ。
蹴落とし、蹴落とされ、そしてまた蹴落とす。
「・・・蹴落とすなら、向こうに「戻ってから」蹴落とそう。」
「だから今のアタシじゃ、紫苑には勝てないの!」
「・・・ならば、どうすればいいと思うんだ?」
「こうするしか無いの!」
俺に「視えない刀身」を突きつける風澄。
視えなくとも、その刀身からは威圧感に似た何かが放たれている。
・・・だけど、怖くはない。
風澄には「負ける気」がしない。少なくとも、今の状態の風澄には。
もし、「答え」を突きつけて、彼女がそれを理解した上で襲い掛かられたら、恐らく俺は死ぬ。
・・・死んだら、どうなるのだろうか。無限の苦痛って、どんな感じなんだろう。
「ただ純粋に蹴落とす事ばかり、消す事ばかり考えてないで、少しはさっきそこの同級生に言われたことを思い出してみ。」
「・・・」
「蹴落として、残って、人間としてではなく、「超人」レベルの強さになって面白いか?」
「きっと、いや・・・とても楽しいはずよ。」
「一瞬は楽しいかもしれない。だけど・・・」
「・・・越えられない壁になってしまえば、他の誰かと対等に向き合う事が出来なくなる、ですね。」
冥王院紫苑が言葉を突然発する。
それと同時に彼女は刀を納める。
彼女の言う通りだ。
人とは思えない力を持ってしまえば、誰かからは「自分の才能を生かさせない為の邪魔者」と見られ、また誰かからは「嫉妬の対象」となるかもしれない。
もし、良い方向であれ、恐怖の対象になるだろう。
・・・この殺し合いの果てに得られる力が、何か、分からないが。
「何もかも完璧にしなければならない、その掟を守り、生きてきた。その為、誰かに近づく事、近づかれる事なんてありませんでした。」
「それが・・・何だって言うの!?」
「・・・私が望む事、それは貴方と入れ替わる事なのかもしれませんね。」
「風澄、どうだ?掟に縛られて、1位になれたとしても、誰かに関わる事も無く・・・」
「・・・アンタは・・・アンタは何が言いたいのよ。」
渦巻く風を消し、戦闘態勢を解除する風澄。
ようやく本題に入れそうだ。
「俺が言いたいのは「やり直す」事についてだ、風澄にしても、冥王院さんにしてもだ。」
「・・・はぁ?」
「俺達がやり直したい、って思ったのは、思うように結果が動かなかったから、違うかな?」
「・・・結果、というより過程も過程でした。」
「だとしても、何かが足りなかったと思うんだ。」
そう、足りなかったんだ。
それに気づけなくて、「死」を選んだ。
「何で、冥王院さんは足掻こうとしなかったんだ?風澄は、何で努力をやめた?」
『努力をやめたのはご主人もですけれどね。ぶっちゃけブーメランです。』
「・・・今武装人格に「俺も同じ」と言われたが、その通りだ。頑張ろう、と思う事をやめて、逃げた。」
「逃げる先は、「死」。そんな事は私は覚悟していたはずです。ただ、願ってしまった。」
「・・・願った結果、アタシ達は、こうやって殺し合いを・・・」
『それ以上はちょーっとやめてくれるかなぁ?色々考えられちゃうとボク達にも支障が出るんだけど?』
・・・脳内に響く声。
セヴンではない。
少年か、少女か、その歳の声だ。
同じ声が二人にも聞こえているようで、周りを見渡している。
『・・・出てきたら、すぐに殺してください。ご主人。』
「えっ?」
『・・・いいですか、これだけは・・・絶対です。』
突然に告げられるセヴンからの忠告。
いつもは「殺せ」と直球で言わず、少しふざけた、多少のアドバイスだけだったはず。
ただ、今度ばかりは本気のようだ。
「何だ!?」
「それ、持ってられると困るんだよね。」
少年か、少女か、よく分からない見た目の青髪の子どもが目の前に現れる。
その声は、頭に語りかけてきた声と同じ。
それと同時、俺の右手に握られていたサーベラスは消滅する。
出そうと念じても、戻ってはこない。
『ご主人!撃ってください!!早く!』
「セヴンがそこまで言うなら間違いは無いんだな、殺すべき相手に!」
「・・・遅いですね。さすがは「出来損ない」。」
何が起きた?
まるで形容しがたい、一瞬だけ空間を捻じ曲げられた感覚だ。
弾丸の弾道が目の前のヤツを避けるように曲がった。
「はぁッ!」
「・・・1番目はまだ現役のようですね。十分な動きです。」
軽く後ろへと「飛ぶ」子ども。
風澄の踏み込みを軽く避ける。
「ど、どうしたんですか?二人ともいきなりその子と戦おうとなんて・・・」
「・・・セヴン、コイツは何者なんだ?」
「エアレスも教えて頂戴。」
『ヤツは・・・』
「・・・教える必要はありませんよ。ボクが教えてあげますから。出来損ないと・・・1番目は黙っててください。」
出来損ない?
1番目?
何を言っているんだ?
「ボクの名前は「4th-Mindhacker」。フォースでも、マインドハッカーでも、好きなようにお呼びください」
この名前の「法則」、どこかで聞いた感じがする。
・・・そうだ、セヴンだ。
『Savage Banish Guniter-Saven-、僕の名前に酷似してますが・・・』
「・・・黙っててください。出来損ない、番奪い、味方殺し。」
コイツは、セヴンの声が直に聞こえているのか?
俺だけの頭の中に響く声のはずだ。
それを、聴き取っているというのか?
「ええ、聞こえてます。貴方の考えも。そりゃ勿論。・・・1番目もです。ただ、そこの貴方だけは聞こえませんねぇ。」
冥王院を指差し、溜息を吐いているマインドハッカー、と名乗ったヤツ。
一体何だと言うんだ?コイツは。
性別は分からない、ただ、分かる事は「武装人格」だ。
「あ、正解です。ちなみに・・・女ですよ?」
「・・・性別はどうだっていい。ただ殺せ、ってセヴンが・・・」
「セヴン?彼女はセヴンじゃありませんよ?・・・だって彼女は・・・」
『ッ・・・!』
俺の左腕が勝手に持ち上がる。
それと同時、銃口をマインドハッカーに向ける。
俺の意思ではない、恐らく、セヴンが俺の動きを・・・
「おや危ない。」
『ご主人、すみません。少し取り乱してしまい・・・』
「・・・いや、いい。それよりコイツは?」
『・・・主催者の「一人」です。本来武装人格は一人歩きは出来ませんし、戦闘も行えません。彼女は・・・「4番目のD」です。。』
「フォース・・・ディー?」
「あー出来損ないさんはそろそろお引取りで。ボクが教えますんで。」
「オイ。」
無意識の内に、俺はマインドハッカーと名乗った「4番目」へと蹴りを寸止めしていた。
少し、頭にきたようだ。
自分でも分からないが。
ただ、何故か頭にくる。
でも、それもすぐに理由が分かった。
「今のは読めませんでしたね・・・寸止めでなければ顔面直撃でした。」
「セヴンは出来損ないじゃねえよ。ここまで十分俺と一緒に戦ってきてくれた。」
「フフフッ、でも真相を教えたら・・・」
「変わらない。」
「はぁ・・・いいですか?彼女は「主催者」です。」
「・・・は?」
突拍子も無い発言。
俺と一緒に居た武装人格が・・・主催者?
まさか、最初の声も?
『いえ、違いますね、大体僕が主催者ならとっくにこんなバカげた事・・・』
「キミには意識が無いだけ。・・・そう、7番目「だった」人の意識があるから。まぁ、その意識も今じゃボクが消し飛ばしたんだけど。」
「まさか。」
「察しがいいですね、ボクと契約しません?楽しいですよ?」
「・・・お断りだね。」
「・・・残念、恐らく推測どおりですよ?彼女の持っていた片方の拳銃、それは彼女の姉の物。いわば「記憶の塊」。」
記憶の塊、その表現ならばこの間の現象も察しが付く。
一つの人間が二つの記憶を混ぜ込まれ、自分に何が起きていたか、分からなくなる。
『・・・思い出しましたよ、全部。ごめんなさいご主人・・・』
「キミが謝るべきは、キミが殺した「お姉さん」じゃない?」
『・・・謝罪すべき相手では無い。それは確証が持てるから。殺して当然だった。』
「・・・なら七番目を名乗るのをやめてくれませんか?」
『何言ってるんです?僕は好きで能力名の七番目を名乗った訳じゃないですよ?大体僕に名前なんて本来無い。ご主人がくれた名前が「セヴン」なだけ。7番目を名乗ってる訳じゃなくて「セヴン」が今の僕の名前です。』
「・・・そう。まぁ構いません。だけど、7番目を消した罪は重・・・ッ!?」
肩から先が落ちるマインドハッカー。
そこには、冥王院。
刀を構え、表情はとても、堅い。
「・・・次は首を狙いますね。貴方は、「私達」の敵でしょう、推測ですけれど。」
「首は困りますね・・・それは再生できませんので。」
「・・・貴様は遊びすぎだ。4番目。」
「ぐぅっ・・・痛い・・・痛いですよ・・・チェイン・・・」
右腕を斬り落とされたマインドハッカーの腹を「石突に鎖が。先端に片刃が付いた長柄武器」が貫いている。
その鎖を辿ると、体格の巨大な、茶髪をドレッドヘアーに纏めた男がもう片手に同じ斬槍を手に持っている。
俺と目が合った瞬間、片手に持った槍を思い切り引っ張り、マインドハッカーを絡め捕る。
「・・・すまないな、バカが勝手に暴れて。」
2本の槍を手元に戻し、峰の部分を合わせ、一本の左右対称な斬槍へと変形させ、頭を下げる大男。
「チェイン」とか言ってたな。
変わった武器を使ってる。
まるで鎖鎌と槍、そして剣が合わさったような。
「・・・私は「12th-LuncerChain.WYER-SLASHER」。君たちの嫌う主催者だ。」
「・・・アンタの声、どっかで・・・」
風澄がそう小声で呟く。
俺も聞いた事がある。
そうだ・・・
「・・・あの時、公爵と俺達を戦わせた奴だな?」
「・・・物覚えの良い参加者は嫌いではない。」
『にしては随分と口調が違いますね。』
「・・・一番偉い奴の命令だ。」
『・・・それと僕のサーベラス返してくださいよー。』
「・・・それは、ルール違反だ。本来貴様が契約を出来ている、という事に目を瞑ってやっていた。」
『記憶を消し飛ばしたのに?』
「・・・ふぅむ・・・ならば、直接本人と対話、というのはどうだ?欲しいならば持ち主に・・・」
また無意識だ。
無意識に、銃を向けている。
恐らく、相当セヴンは「キレている」。
「参加者に手を下すのはルール違反だからな、私が直接戦う事は出来ない。」
「・・・じゃあ俺が引き金を引いたら?」
「・・・面白い発想だ。今の発言は「どちら」の意識だ。」
「・・・使用者です・・・というか・・・いい加減・・・傷を・・・」
「・・・私が話している。貴様は黙って戻れ。」
腹部と失った左腕を押さえながら、どこかへと消えてしまうマインドハッカー。
俺達3人は、目の前に居る「チェイン」と呼ばれた12番目の男と対峙していた。
「管理体制が甘かったようだ、謝罪しよう。」
「・・・で、俺はアンタに聞きたいんだけど。」
「答えられる、殺し合い(ゲーム)に支障が出ない、範囲でなら答えよう。」
「・・・アンタ等は武装人格だろ?」
「ああ。」
「・・・何で契約無しで動ける。」
例えるなら武装人格は、契約をした場合、人間というCPU・OSの脳に強制的にインストールされるプログラムだ。
CPU、OS、それらが無ければプログラムが独り立ちする事などないはず。
契約者を介さずに動いている?
とでもいうのだろうか。
「簡単だ、「ある者」と契約をしている。そのある者自体が能力を持ち、我々を「能力を持った人間」として存在させている。」
「・・・ある者?」
「それは言えん。・・・ヒントは、この後にやろう。そこの二人、質問は。」
風澄と冥王院を指差し、チェインはそう発する。
風澄は鋭い目つきでチェインを睨みながら、問いかけた。
「・・・ちょっと・・・アンタ・・・どういう事よ!?エアレスが管理者って!?」
「・・・何を・・・言ってるんだ?」
唐突な発言、俺は、そう反応するしかなかった。
管理者・・・まさか、1番目というのは、その事だったのか。
「・・・1st-AirLessFirst.WIND-BLADE、君はエアレス、と呼んでいる個体か。盛り上げる為、野に放ったが良い使い手が・・・」
「ふざけないで!」
「ふざけてなどいない。」
「・・・アンタ、ゲームの駒としかエアレスを・・・管理者なら、仲間じゃないの!?」
「・・・我々はこの「死後の賭け事」に楽しみを増やすだけだ。彼女もそれを望んでいるのではないか?」
「・・・エアレス、なんとか言いなさい!」
何度も問い詰めているようで、同じ事を繰り返し叫んでいる風澄。
それを無視すると、冥王院へと近寄る。
「・・・君は何かあるかね?」
「・・・生き残れば、何だって、叶うんですよね・・・?」
「保障しよう。やり直す事、以外のことだろうと、保障はする。・・・さて、そろそろ君たちにも時間を与えよう。次に備える為の、だ。」
「ま、待ちなさいよ!」
段々と目の前が暗くなっていく。
二人の声が耳に響く。
「エアレス・・・ッ!・・・何で応えないの!?」
どうやら風澄は武装人格が使用できないようだ。
エアレス自体が拒んでいるか、それとも封じられたか。
どういう小細工をされたのかは分からない。
『・・・ご主・・・気を・・・て』
「な、何を言ってるんだ!?」
脳に語りかけるセヴンの声にノイズが混じり、聞き取れない。
とても不愉快なノイズだ。
「何をしたッ・・・!?」
「・・・お楽しみへの下拵え、と言ったところか。我々も楽しみたいのでね。それと安心したまえ、武装人格への干渉はこの「妨害」だけだ。意識が途切れれば、すぐに戻る。さぁ、楽しんでくれたまえ。」
強制休憩時間という事は分かったが、いつものように、一気に意識が失われる感じではない。
少しずつ、フェードアウトしていく感じだ。
その黒くなっていく様子は
「まるで、自分の記憶と記憶を引き離されているような感覚だった」。




