第九話「答えまでの道、それぞれの考え。」
八島亮の没後、神無月采は走っていた。
彼は答えを探す為に、ただ只管に走っていた・・・が。
そんな彼に一人の参加者が忍び寄る。
俺はただ、走っていた。
無我夢中で、ただ、先へ。
それは「逃げる」為でも有り、この先で「答え」を見つける為でもある。
死んでしまえば答えは見つからない。
『ご主人!正面!』
「あぁ!分かってる!」
目の前から刀を抜き、斬りかかってくる、白い着物の女の子。黒い髪がよく似合う・・・じゃなくて。
打ち下ろしを避け、急カーブを決める。勿論、足で。
俺、神無月采は今、この女の子に追われているワケだ。
「どこまで逃げても・・・先回りされっ・・・!」
『ですね。』
先へ、先へと入り組んだビルの隙間を走っていると、追い詰められる。
・・・仕方ない、か。
「俺は女の子を撃ちたくない・・・なんて我がままは言っちゃいられない。」
「・・・」
「・・・表情一つ変えずに追っかけてきて、声も上げず・・・まるで人形だな。」
「!」
「遅い!」
踏み込みを見切った。
踏み込もうとする手前、俺は右手に構えたサーベラスで女の子の眉間を撃ち抜く。
しかし、血は出ない。
そのまま、影に吸い込まれるかのように、地面へと消えていった。
「・・・これで何人だよ・・・?」
『同一人物だけで30人は相手しましたね』
「・・・これは加算されるのか?」
『・・・加算は・・・されてませんね。』
死体が残らない者達。
それを何人も倒し続けているがKPが入る訳でもなければ、人数でも無いようだ。
考えられるのは「武装人格の能力」か「主催者の差し金」か
「まだ出てくるか!」
サーベラスで上から降りてくる「全く同じ容姿の参加者」を撃ちぬく。
また、影のように地面へと吸い込まれていった。
一体何なんだ。
『ご主人の推測の前者で間違いなさそうですね。ちょっとした法則が僕には発見できました。』
「それは?」
『さっきから戦ってて思ったんです・・・おおっと!走ってください!』
後ろからまた「同じ容姿」の参加者が現れる。
これ以上戦っても体力の消耗が激しいだけで、此方には何の利が無い。
俺は、走り出す。
「で、推測ってのは!?」
裏路地を抜け、大通りの商店街を走りながら問いかける。
後ろを振り向けば、恐らく最期だ。
『さっきから何人も倒してますけど、その時「1人以上」現れましたか?あの子』
「いや、常に1VS1の状況だったな。」
『でしょう?・・・つまり、分身か何かを「一体だけ作り出して遠隔操作」といった感じでしょう。』
「なるほど、じゃあ使ってるやつを叩けば・・・」
「その必要は有りません。」
商店街の交差点、ビルの上から、また同じ容姿の女の子が飛び降りてくる。
しかし、降りてきた少女は、言葉を発し、笑みを浮かべている。
「日本人形のように美しい」という言葉がとても相応しい女の子だ。
そんな子が、刀を構えている。
が、その刀を鞘に収めたと同時に、後ろから追ってきていたその子の分身らしき者が地へと消える。
「なるほど、この分身は君のか・・・」
「分身?いえ・・・双子です。」
「は?」
ふ、双子?
双子にしちゃ、俺倒した数が多くないか?
「君、双子って・・・分かるよね?」
「はい。」
「・・・でも君ここで俺に会うまで数人けしかけてきてるよね、その双子。」
「はい。・・・あれ?」
「・・・それ双子じゃなくて・・・」
「・・・一・・・二・・・三・・・四・・・四つ子?・・・いえ、もっと・・・」
・・・根本的に何かがおかしい。
撃っていいのだろうか。
しかし、参加者とはいえ、心が痛む。
話を振ったことを、今後悔している。
「・・・うおっ!?」
目の前に現れ、切っ先を目と鼻の先に突きつける、「双子」と呼ばれた分身。
後ろではその「双子」を操っていると思わしき女の子が全く同じ動きを取っている。
ただ、不思議なのは、その「双子」と「女の子」の動きは「鏡合わせ」のように左右対称だ。
まるで「もう一人の自分が鏡から出てきたかのように」
「やるしかないか・・・と言いたいが、今動けば恐らく君は。」
「斬ります。・・・私も、やり直さなければなりませんので。」
「・・・動かなければ?」
「・・・少し、お話し相手になって頂いた後、ご自分で自害なさるか、斬るか、処分します。」
「・・・分かった、動かない。1分、1秒でも生きてなけりゃな。こっちでも。」
・・・上手くいけば、上手くいけばこの状況を打開できる。
俺が狙うのは「休憩室への移行」。
完全に主催の気まぐれではあるが、この休憩室への移行が出来れば、一時とはいえ、逃れる事が出来る。
それに、相手の事情を探ることも出来る。
場合によっては手を組むのも、一つの手段と考えよう。
「では、聞いて頂きましょう、私が、やり直したい理由を・・・」
「・・・まぁ、清聴してやる。」
「・・・私は、生まれてから、全てを完璧にこなす様、教育されました。」
「で、それが嫌で逃げたいと。」
「・・・答えはそれですね。」
話のオチを言ってしまったようだ。
「名家に生まれ、茶道や書道、着付け、和の心を生まれてから、私がここに来るまでずっと教えられてきました。」
「・・・そりゃご苦労さん。」
「・・・私は、学友を見ていて、羨ましく思っていました。皆で騒いだり、遅い時間まで遊んでいたり。」
「・・・・・・まぁ、分からなくもねえかな。」
俺も高校くらいはそうだった。
・・・ぼっち的な意味で。
確かに、友達とつるんでる奴等は凄い輝いてて、羨ましかった。
遅い時間までずっと遊んで、帰れば親父や御袋に怒られる。
そんな奴等が羨ましかったな。
『へー!ご主人ってやっぱりぼっちだったんですね!』
武装人格って便利だよな。
契約者が話をしている間、考えた事に対し文句言ったり茶化してきたり。
「貴方も、同じ境遇・・・ではなさそうですね。雰囲気が学生では無さそうですもの。」
「・・・まぁ、君と同じくらいの時に、別の意味で君と同じ様な事を考えた。って所。」
「・・・では、分かりますね?」
「・・・さぁな。」
分かる訳がない。
俺は名家の跡継ぎでもなけりゃ、普通の家庭に生まれたダメな息子だ。
「生きていた私は常に縛られていました。家訓や、学業、部活動、修行、その他の事に。」
「ご苦労さん。ここは自由だ。」
「確かに自由ですが、これは私の求める物ではありません。人を殺めてまで自由を手にするというのは・・・」
「ならやめろ。」
「えっ。」
「・・・自由になりたいんだろ?その為には「仇成す野郎をぶっ殺して12人に入る。」それが条件だったはずだぞ。」
「・・・そう・・・ですが・・・」
「今の状況を見てみろ、君は俺を殺そうとしている。」
「・・・」
休憩時間を待つまでも無かった。
意味不明、支離滅裂、そんなレベルの言いくるめだったが、それで刀を収めてくれた。
これで良し。
「・・・では、私を撃ちぬいてください。」
「・・・ソイツもムリだ。」
「何故ですか!?貴方も、やり直したくてここにいるのでは・・・」
「・・・12人。」
「えっ?」
「・・・12人、って事を覚えて。こう、話して分かり合えちまったらさ、殺すに殺せないよね。」
相手の感情とか、事情とか、そういうのには弱い。
事情もあって、筋が通っていれば、殺しにくい、というか、俺自体まだ殺すのには慣れていない。
「ですよね。・・・ふふっ・・・ふふふっ・・・」
「・・・ん?」
「失礼しました、こんな、殺伐とした遊戯に投げ込まれているというのに、貴方みたいな方がいるとは思わず。」
「・・・まぁ・・・ムリに殺しあう必要も無いかな、って。他の遠い場所で人数を減らしてる奴等がいるんだろうし。それに・・・」
「それに?」
「・・・まだ、考え中だから。」
そう、俺の「考え」。
やり直すという事に対し、何かを考える。
「やり直すのではなく、もう1回考えてみろ」
八島亮が、最期に俺に言った言葉。
「やり直す」という事を覆すという事なのか、まだ分からない。
「はぁ、考え中・・・ですか・・・」
「最低限、武器を向けられなきゃ戦わないし、こっちから殺そうとも思わないよ。まだやり直そうにも、分からないから。」
「・・・」
「・・・君が協力を求めるなら、俺も、手助けはするよ。ある程度。」
「・・・本当ですか?」
「ああ、俺と同じ影、っていうのかな、そんなのを感じるし。」
『影・・・影・・・ぷぷっ・・・表現が・・・ぶ・・・ぶふぉっ・・・』
煩いぞ、セヴン。
頭の中とはいえ、噴出されるのはとても気分が悪い。
『・・・というか安請け合いしていいんですか?自分の枠が無くなるかもしれないんですよ?』
枠なんて構わない。訳ではない・・・
ただ、俺は「決められてないから」。
だったら、しっかり決まってる人間を優先するのが大事だ。
・・・その中で、決まってない奴を蹴り落とす。
それだけは覚悟している。
八島亮、アイツの分まで俺は、「考えた結果」で「生きる」為に。
「では・・・このSNS?というものでしたっけ。登録を・・・」
「・・・OK。」
互いのケータイを取り出し、登録を行う。
そして、登録を終えたその時だった。
風。
真空波だ。
見た事がある。アイツだ。
「風澄!?」
「神無月!そこ退いて!」
「は、ハァ!?」
風圧に吹き飛ばされて、商店街のシャッターに腰をぶつける。
しばらく立てそうにない。が、ケータイを見てみると、「休憩室転送まであと6分」との表示。
・・・こんな物があったのか。
二人を止めようにも、動けない。
「おい!風澄!やめろ!その子を殺すんじゃ・・・」
「ええ、アタシは殺す!コイツ・・・冥王院紫苑を!」
知り合い・・・なのか・・・?
それに風澄はいつになく、目付きが怖い。
そしていつもより、腕に纏っている風が大きい。
よく見れば脚部、指先、様々なところに小さな竜巻を作り出している。
「おい!」
「神無月、肩持つならアンタも殺すよ!?」
俺の数cm先に風の弾を放つ風澄。
・・・本気だ。
『ご主人、止めないと・・・』
「分かってる、分かってるけど・・・どうすれば・・・」
「アンタはそこで倒れてて!紫苑は・・・アタシが殺す!」
「お、おい!」
「・・・神無月さん、って言うんですね。彼女の言う通り、神無月さんは手出し無用です。・・・これは、私、冥王院紫苑と、風澄鈴さんの決闘です。」
先ほどまでの穏やか、というか柔らかい雰囲気などどこにも無い、冥王院紫苑。
彼女に今ある者は「生存本能」だろう。それも、殺されかけた野獣のような。
「うわっ!?」
風澄の風を纏った右ストレートが冥王院の刀へと直撃した瞬間
俺は、転送される。
―
――
――――
―――――
アタシが、殺さなきゃいけない。
・・・冥王院紫苑。彼女だけは。
「何でアンタがここにいるのよッ!!!」
「それは私の言いたい事です。」
「全部トップを奪って、それでやり直したいなんて、何が、何が望みなのよ!」
「貴方こそ、秀才であり、友人関係も有り、楽しそうに見えますが、何か、不満、不自由がありましたか?」
「アンタのせいで・・・アタシは・・・一番上にはなれなかったのよ!」
「っ・・・!一番上に・・・拘るのですか?」
エアレスの力を使った拳での一撃。
後ろへと彼女を吹き飛ばす。
更にアタシは風を纏った足で地を蹴り、滑るように追撃を加えに行く。
「何!?」
「ありがとう、雛罌粟。」
・・・紫苑が・・・二人・・・?
「雛罌粟」と呼んだ辺り、武装人格?
全く同じ動きをする・・・けど、紫苑とは逆の左手に刀を構えてた。
『武装人格、ですね。鈴。しかし、皮肉が利いてます。花言葉。「紫苑」の花言葉は「君を忘れない」。それに対し、「雛罌粟」の花言葉は「忘却」。とっても、とっても皮肉が利いてますね。』
エアレスの皮肉話には耳、もとい脳も貸さない。
アタシは、今「彼女を殺す」ことしか考えられない。
何で、アタシから奪った奴が・・・
「エアレスッ・・・武装具現化!」
武装具現化。
前回の戦いで手に入れた、エアレスの4つ目の能力。
アタシの右手に、無色透明、見えない刀を作り出し、真空の刃で切り刻む。
「エアスライサー」・・・だったかな。名前は。
そんな事はどうでもいいから、これで、息の根を止める。
「邪魔なのよ!アンタは!!!」
「貴方が私に執着する理由、それが分かりません!!」
鍔迫り合い、見えない刀なのに、的確に競り合う。
「真空の刀」とはいえ、手元は普通。
しっかり鍔もあれば、柄もある。
「アンタのせいで、アタシは剣道部では2番目、勉強も2番目、唯一守れてるのが、生徒会長・・・」
「貴方は、私が来てから、鍛錬をしましたか?」
「・・・煩い!」
「っ・・・」
弾き飛ばした、今ね!
「ごめんなさい・・・雛罌粟。」
「なっ・・・何を・・・」
武装人格が本体と別の動きを取って、突きを代わりに受けた!?
だけど、紫苑本体も刺された部分を押さえてる、これは効いてるのかも。
「はぁっ!」
「好きなだけ、斬るといいです。私には擬似的な痛みが伝わりますが、全くの損傷はありません。ごめんなさい、雛罌粟。」
「ならお望みどおり痛みつけてあげるから!その後に・・・アンタを殺す!」
アタシは、何を考えているか分からなかった。
ただ、ただ紫苑の武装人格を斬り続ける事、それだけを続けてた。
ただ、紫苑は全く痛みのある素振りを見せず、アタシが斬り続けるのを見ているだけ。
「・・・分かりますか?・・・驕るのは良く有りませんが、これだけは言えます。貴方は、確かに才能を持っています。私以上に。」
「何!?命乞い!?」
「いいえ、説得、ですね・・・。私が転校してから、貴方は、部長、主将として、練習はしましたか?」
「アタシはそのままで強い、強いのよ!」
そう、ずっと、強かったから。
いつの日からだろう、練習することなんて、忘れてた。
・・・アタシは、刀を振り回す手を止める。
「・・・才能だけでは、私は貴方に勝てません。」
「・・・ってる・・・」
「すばらしい才能を持ち合わせた貴方が練習をしていたなら、きっと、貴方はずっと、一番上でした。」
「・・・分かってるわよ!!!そんな事!!」
刀を構え直し、真っ直ぐに、走り込む。
目掛けるは本体。
ボロボロの分身には興味なんて無い。
・・・これ以上、聞きたくない!
「もう、手遅れじゃない!二人とも・・・死んで、ここに居て、殺し合いをしなきゃいけないんだから!!」
「・・・そうです、ね・・・ならば、やるしかありません。」
刀を拾い、刃を返す紫苑。
・・・生きていた頃を思い出す。
初めての紫苑との試合。
そして初めての敗北。
それ以降、アタシは自分との戦いをやめたのかもしれない。
「・・・はい、喧嘩そこまで。」
「っ・・・」
「誰・・・って・・・」
巨大な銃声と共に、すぐ近くに現れた男。
神無月じゃないの。
・・・休憩室に入ったというのに、すぐにドアを開けたっていうの?
「手遅れなんかじゃない。二人の戦いを見ていて、俺も、色々と掴めたんだ。」
―
――
―――
俺なりの答えであり、そして、おそらく八島が考えていた事。
そして何より、「今の俺」や「風澄」にとって最善の答え。
それが、今やっと分かった気がする。
これが、他の奴等にとっては最善の答えかどうかは分からない。
・・・ただ、今を変える為の答え、それだけは確信が持てる。




