あきら君は今日も通常運転でお送りいたします2
昭くん、変なネタが浮かんでしまって………
また中身はうっすいですが、書いてしまいました。
昭くんの第二弾、学校のお友達編です。
小学校の時、担任の先生に言われたこと。
『昭君、嫌なことを嫌と言えるのは立派なことだと思うけれど…
お友達にはもう少し言葉を選んであげましょうね』
余計な御世話だと思った、そんな三年前。
「あ」
「わあ!?」
夕暮れ迫る学校の、何の変哲もない教室。
うっかり学校に忘れてしまったモノ…携帯ゲームの充電器を回収しようと昭君は遠慮もせずに施錠前の教室へ入ったのだけれど。
ドアを開けた瞬間、謎の黒装束で白仮面な怪人とエンカウント!
昭君の顔を見て、怪人は固まった。
何故なら、怪人は着替え中の無防備な姿であった。
上半身は完璧に怪人だ。
しかし下半身がいただけない。
怪人は、ズボンを穿き替えている途中であった。
引き締まった下半身に、かつて一世を風靡した某バトルマンガ主人公のプリントが微妙な空気を演出している。
「失礼、着替え中だとは思わなくて」
「え、いや…っ」
「邪魔なようなら出直すけど、忘れ物回収するだけだから入って良い?」
「え゛!?」
ちょ、待…っ、と。
そんなことをもごもご口走る怪人には目もくれず、昭君は一直線。
己の目的だけを目指し、すたすたと自分の席に向かう。
窓際一番後ろの席。
冬場に電気ストーブが設置される為、コンセントが近くにある。
昭君はこっそりコンセントに差しっ放しだった充電器を回収すると、いそいそと鞄に詰めている。
怪人は平然とする昭君に固まっている。
どんな反応をすればいいのかわからず、佇む怪人。
丸出しのトランクスが、とてもマヌケだ。
「ところで康則、何してるの」
そんな怪人に、昭君が会心の一撃!
クリティカルを繰り出し、怪人…康則はぐらりとよろめいた。
「おま…っ 俺の正体に気付いて!?」
「いや、今日の体育の時とトランクス同じだし」
「あ゛」
「あと、髪型と声変わってないから」
「うあー…っ!」
自分の正体が完全にばれている。
それを悟り、怪人…康則はばりばりと頭を掻き毟った。
その苦悩が表れているかのようだ。
「……………すまん、昭!」
「一万円で許してあげる」
「何の謝罪かもまだ言ってないのに金銭要求!?」
「第一声で謝るくらいに後ろめたいんなら毟れるかな、と」
「お前怖いな!? 中学生に一万円とか鬼だろ!」
「それで、何の謝罪?」
「うー………っ 驚かないで聞いてくれ!」
「むしろ僕が驚くくらいの話をしてほしいね」
「 実は俺、【暗黒組織ダークダイヤ】のメンバーなんだ…! 」
「中ニ病は卒業したって言ってなかった?」
「中ニ病じゃねーよ! マジの方だよ!」
「ふぅん。それで、それがどうしたの」
「え゛…どうしたの、って、それはないんじゃ」
「えーと、【紅蓮の闇貴神】だったっけ」
「あぶふぁ!?」
「『俺の炎は闇をも飲み込む…喰らえ、魔法少女よ! ダークライトファイヤー!』…って、凄い決め台詞だよね」
「ぐはぁっ!? げふっげほげほげほ…っ」
「もう少し日本語力と言い回しの説得力とセンスを磨いた方がいいと思う」
「俺の正体裏も表もしっかりバレてる!!」
「あからさまだったと思うよ」
「え、マジで…?」
「正体を隠したいなら、しっかり髪型と声も変えた方がいいと思うけど」
「え、これって結構前からバレてた感じ…?」
「町の破壊活動をTV中継してたし。四か月前くらいには既に」
「四か月前って俺が組織活動始めた直後じゃねーか!!」
「中学生のバイトは基本禁止のはずだから、先生にはばれないように頑張ってね」
「しかもバイト扱い!? そりゃ雇用契約結んでるけど!」
「ところでなんでこんなところで着替えるのに、ドアの鍵閉めなかったの?」
「か、かぎ…? しまった、俺…!」
「今後は注意したら? それじゃあ僕、用事は済んだから」
「…って、待て!」
平然と教室を去って行こうとする昭君。
彼の心は既に帰宅を遂げ、TV画面の向こうで世界を救うことでいっぱいだ。
しかし去り行こうとする昭君の腕を、康則君はがっちりと掴んで引き留めた。
「どうしたの?」
「どうした、ってことはないんじゃねーの…?」
「僕、早く家に帰ってTV画面の向こうで魔王の野望を阻まないと…」
「俺が怪人だった事実よりゲーム優先!?」
「何か用があるんなら、早く言ってくれない?」
「………俺の正体を知ったんだ。ただで帰す訳にはいかない」
「ただで帰してくれないなら、山田さん家のアンゴルモア(犬)の全身毛刈りの犯人だってこと公表しても良いけど」
「逆に脅迫された!? お前、なんでそれ知ってんの!?」
「見てたからだけど。写メいる?」
「しかも証拠まで握られた!」
「それじゃあ、そういうことで…」
「…って、帰ろうとすんなっての! 安心しろよ、ちゃんと従えば危害をくわえたりしないから」
「康則、悪人みたいだね」
「だから俺は悪の組織の幹部なんだってば!!」
「隠す気皆無だね」
「お前にゃもろバレしてんだから仕方ねーだろ!? とにかく、正体を知ったからには昭にも組織入りしてもらうからな。正体を知ったら仲間になるか、死か…! これがダークダイヤの掟だ」
「ネズミ講は、ちょっと…」
「悪徳商法じゃねーよ!!」
「ゲームの時間が減るから、組織入りは駄目」
「………え、じゃ死を選ぶの?」
「九十五年後くらいなら良いよ」
「ほとんど百年後じゃねーか! とっくに寿命で死んでるだろ!!」
「それじゃあどっちも嫌かな」
「どっちか! ちゃんとどっちか選べよ…!」
「死ななくても、取り敢えず秘密が保たれれば良いんじゃない?」
「あー…? 何だよ、口約束くらいじゃ放置できねーぞ」
「誓約書を書くから、ちょっと待ってくれない」
「誓約書? 昭、そんなもので………って、ちょっとおい? 何してんの?」
問答の末、昭君が取った行動。
それは何故か懐から携帯電話を取り出すことで…。
何をする気かと身構える康則君(未だパンツ丸出し)の前で、昭君は動じることもなく平然とボタン(ガラケー)をプッシュする。
やがて呼び出し音の後に繋がったのは…
「あ、和兄さん?」
高校生の、昭君のお兄さんで。
何度も昭君の家に遊びに行った康則君も、そのお兄さんは知っていて。
脳裏に浮かぶのは女受けしそうな優男に見えて、実はスポーツ万能なバスケ部レギュラーな爽やかお兄さん(モテモテ)の姿。
確かに頼りにはなるのだろうが、何故電話など…?
もしや早速口を割る気かと、康則君は全身に力を入れるが…
「今学校にいるんだけどね。そう…そう、うん、教室。それで兄さんに、破棄できない誓約書を送ってほしいんだけど。………そう、それ。絶対に破れない奴。制約の代償? 一番重いので良いよ。相手? うーん………秘密」
康則君には謎の会話が繰り広げられている気配がする。
何の話かと首を傾げる、怪人中学生。
だけど驚きの光景は、その後だ。
電話が終わるのと、同時に。
いきなり。
光が溢れた。
昭君の目の前、視線と同じ高さに輝きながら現れたもの。
それは、淡く金色の光を放つ羊皮紙で。
一緒に綺麗な羽根ペンまで付いている親切なサービス。
驚いて腰を抜かしかけた怪人康則を気に留めることもなく。
昭君は目の前に現れた羊皮紙にさらさらと何事か書き始めた。
それは、署名で。
最後に血判までしっかり押してから、紙とペンを康則君にまで差し出してくる。
「え、これなに」
「だから、誓約書」
「いま、いま、こう、光がこう…ぱーっと」
「誓約書の空間転送サービス付き」
「ねえよ! 普通はそんなん付かねーよ!!」
「取り敢えずこの誓約書に康則が署名してくれたら完了。だから、書いて」
「え、すごい怖いんだけど…」
「ちょっと約束破ったら心臓が爆裂四散するだけだから大丈夫」
「それどこが大丈夫だって!!? っていうか和さん何者!?」
「兄さんは前世、異世界で魔法の得意なダークエルフだったんだよ」
「なにソレ中ニ病!? なんでお前もそんなの平然と受け入れてんの!?」
「だって兄さんは兄さんだし」
「おま…っ……………大物だよ、昭」
「納得したところで名前書いてくれる?」
「待て。色々おかしいだろ、待て」
「兄さんの魔法が掛かってるから威力は保証するよ。この間もTV壊されたし」
「安心材料がその情報のどこにあんの!? ってか和さん、マジで?」
「暖房の効いた部屋で手から数十の氷柱を自然発生させられる中ニ病患者が、果たして今の日本に何人いるだろう」
「皆無だよ! 皆無だよ、それは…!! って、和さんってマジもんのダークエルフだったの? 和さん、かっけぇ!」
今は爽やか風味だが、あの和さんだったら相当に格好良かったのだろう、と。
見たこともない和さんの前世を思って反射的に妄想の世界に突っ込みかけた現役悪の幹部(元中ニ病患者)。
「うん。異世界からTS転生してきたらしいよ」
「…って、前世女かよ!!」
中ニ病で鍛えた妄想力が、脳裏に思い描いていたイケメン(笑)ダークエルフを一瞬で混じり込んだ情報により、ニューハーフ風に変貌させてしまう。
女の姿を想像するより、その中間へと突っ込んだ。
脳裏に描いたおぞましい風貌に、康則君の顔が引きつる。
「お前、本当になんで平然とそれ受け入れてんの!?」
「だって兄さんは兄さんだし」
「お前……………ほんと、大物だわ」
自分の一般常識から隔絶していたはずの、その素情。
しかし常識はずれは自分だけではないと知った康則君。
得体の知れない誓約書を突き付けられ、疲労の極致。
結局この日は、康則君の混乱からうやむやになり…
後日、正気に戻った康則君から昭君はしつこく悪の組織入りを勧誘されることになるのだが。
そんな要求もすっぱり黙殺。昭君はその後もTV画面の向こうで世界を救うため、お友達の誘いを断り続けるのでした。
暗黒組織ダークダイヤ
→ 世界征服を狙っている癖にご町内の平和くらいしか乱していないお騒がせ組織。無駄に技術力だけはある。
正義の魔法少女と対立しているが、最終的に戦闘行為から派生した器物破損が一番被害をもたらしている。
幼稚園バスをジャックするのはお約束。
だがしかし妙に幼稚園児に纏わりつかれるので何の悪事にもなっていない。
教室で着替えていた理由
→ 組織の本部に通じるワープポイントが、教室の掃除用具入れだから。
実は校内には怪人以外にも下位の戦闘員が結構いるらしいので、学校がワープポイントに。
怪人
→ 悪の組織のお約束、色もの幹部(四天王)。
主な仕事はご町内の平和を乱すこと。
雇用条件は保険不適用の上、戦闘になれば危険手当として一回につき五千円が給料に加算される。
時間給で時給は一時間800円。下級戦闘員は650円。
内訳は以下の通り。
【紅蓮の闇貴神】←中学生
【悪の魔法少女エメラルド☆キッス】←悪堕ち小学生
【超合金ゴールデンスクラップα】←宇宙からやってきた巨大ロボ
【暗黒武闘士スターサフィ】←社会人