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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
2nd Semester
86/91

白夢の語り部

※修正があります


登場する白木さんについてですが、設定をいくつか変えております。


・高等部所属だった

・女の子との思い出は高校2年のとき

・女の子との関係性

・それに伴い会話など細かい部分


物語の進行上修正致しました。これに伴い以降の話も修正が入っておりますがご了承お願い致します。



 狐につままれる。そんな体験は皆さんはあるだろうか。長いこと生きていれば、それは雪女に出会ったり、謎のセールスマンが憧れの女性との仲を取り持ってくれたり、月の聖◯戦争に参加したりすることもあるかもしれない……全部バッドエンドじゃん。


 ま、そんなことはともかく。

 まさか、夢にも思わなかった。何気ない些細な相談事から、世にも奇妙な数日間が幕を開けるとは──




 

「人を探しているのだけれど、心当たりはないかな」


 そう言って。

 車椅子に乗った男性は、白くか細い手でゆっくりとタイヤを押しながら俺たちの前へ来た。



 人探し?

 横を見ると霞と目が合う。どうしようか、と目で訴えかけると、軽く肩を竦めてみせた。古湊もきょとんと小首を傾げているのみ。

 

「…………」


 向き直ると男性と目が合った。優しげな男性の細い目が、こちらと合う。優しげで、しかしどこか儚げな、そんな瞳が。男性はじっとこちらに目を向けて──


「えっと……?」

「……前にどこかで、僕と会ったことあるかい? 」


 唐突にそんな事を言われた。喉元まで出かかった間の抜けた声を辛うじて飲みこむと、隣を見るが霞も古湊も当然だが答えを知る由もない。

 かなり困ったような顔になっていたのだろうか、男性は苦笑してみせると、「勘違いみたいだ、ごめんね」と首を振った。


「どなたを探しているんですか? 」


 話を戻して。

 霞が尋ねると男性は身を引いて考え込むように、遠くを見つめるように視線を空へ向ける。


「友達……」

「友達? 」

「友達を、探してるんだ……」


 友達か。

 見た感じ高校生くらいで、俺らと同い年くらいか、少し年上か。でもこの学校で見たことはないし、人探しをしていることを鑑みるに、他校の人だろうか。


「名前は?」

「それが……よく分からないんだ」


 今度こそ間の抜けた声が一斉にはもる。

 そりゃそうだ、人探しでよく分からないとは……

 男性は申し訳なさそうな色を滲ませつつ、微笑んでみせた。


「──多分、そこまでは許してもらえなかったんだと思う」

「え? 」

「ごめん、何でもないよ……無茶な話だったよね」


 残念ながら。とはいえ、無下にする訳にもいかず。中庭のベンチに移動して、詳しい話を聞くことにした。古湊は勉強があるだろうと戻るように促したのだが、曖昧な返事でこちらについて来る。どうやら戻る気はないらしい……仕方がないので、香織にラインで簡単に事情を説明すると、二つ返事で「こっちは大丈夫だから。その人の力になってあげて」ときた。ったく、心底お人好しというか……



 さて、人探し。名前が分からずとも詳しい特徴は分かるはず。人物像の特定から入ることにする。

 と、その前に自己紹介。


「僕は……、白木光。昔、明条(ここ)の高等部の生徒だったんだ、もう5、6年前の話になるんだけど……」


 やはりここの卒業生だったのか。高等部ということは今はもう社会人なのだろう……かなり若く、それこそ同い年くらいに見えたが……まぁ余計な詮索はしないでおこう。


「髪は青くて、長かったかな」

「ここの生徒です? 」

「多分、ね。最後に会ったのは2年生だから」

「? 」


 ということは、今ここにいる生徒というわけではなさそうだ。卒業生かなにかだろうか。


「僕は生まれつき体が悪くてね……とても難しい病気みたいで、色々な病院を転々としてきたんだ……学校も通える時間も少なくて、入退院を繰り返して」

「……」

「2年生の春、始業式の翌日に倒れて、入院することになったんだ」


 ポツリ、ポツリと。遠い目を空に向けたまま、ゆっくりと語り始める。



 病院から退院許可が出て、やっと学校に通えると思ってたから結構ショックだった……覚悟はしていたつもりなんだけど。

 結局、高校は合わせて半年くらいしか通えなくてね、1年生もほとんど、3年生は一度も。だから友達なんてほとんどいなかったけど……でも、どうしてもちゃんと通いたかったんだ。


 

 入院から2週間くらい経った頃かな……容体も安定してきたから、病院の中庭を散歩していたんだ。

 あの日は肌寒い曇り空で、まだまだ風が肌寒かった……僕は少しでも気を紛らわしたくて、外を歩きたかったから。少しだけ無理をして外に出てた……


 でも、途中で雨が降ってきてね。傘なんて持ってなかったから、慌てて戻ろうとしたんだけど、手が滑って……車椅子から落ちて転んでしまったんだよ。



 そんなときだった。


「大丈夫?」


 傘を上に広げて、手を差し伸べてくれた。


「なーに暗い顔してんの? 」


 それが、彼女との出会いだった。



 

「…………」


 病院で知り合った女の子。

 それが彼にとって、唯一友達と呼べる存在だったのだという。語る男性は嬉しそうな、楽しそうな……しかしどこか儚げで、今にも消えて無くなってしまいそうな脆さがあった。


 その日偶然知り合ったその女の子は、明条の制服を着ていたのだという。それから毎日、とはいかないが1週間に1回、期間が空いても1ヶ月に1回は、中庭で会って話をしたのだという。

 しかし、何故その女の子はその後も彼の元に通ったのか。


「僕のクラスメートだったみたいでね。でも1人だけずっと休んでいる僕が気になってたんだよ」

「随分お節介焼きなクラスメートですね、そりゃ」


 思い切り小突かれた。隣を見れば霞が目を細めてこちらを睨んでいる。お前は余計な事を言うな、と。

 え?ほとんど表情変わらないのに何で分かるのかって?ふふん、日々バッシングを受け続けている俺にとって、この程度は造作ない。寧ろ次にスタンバってる言葉すら分かるレベル、もう君の気持ちは予約済みさ!あれ、プロポーズしてないこれ?してないなアホか。



 白木さんとその女の子は学校の話などを中心に色々な事を話し合ったそうだ。と言っても、彼女の方がクラスの出来事などを沢山話して、ほとんど一方的なものだったようだが。

 

「入院続きの僕じゃ出せる話題なんて暗いものばかりでね。きっと彼女もそれを分かってたんだ……少しでも、僕がクラスの一員なんだって思わせるために、明るく話し続けてくれた」

「わぁ、良いお話じゃないですかー」


 目を輝かせる古湊。

 しかし聞けば聞くほどお節介なタイプのようだ、どこかの部長さんのように。


「でも、僕の病気は思ってた以上に深刻で……手術しなきゃいけなかったんだけど、日本では難しいものだったんだ。それに、成功率も低かった」

「………」

「怖かった……とても。動くのも、それでもしダメだったらって考えることも」


 ──でも。


「その人に……その人たちに勇気をもらったんだ。だから、動こうって決めた。でもそれを伝えることだけはどうしても出来なくて……結局黙って、出て行っちゃったんだ……それきり、ね」


 黙り込んでしまう白木さん。


「って、ごめんね……こんな話。なんだかつ、話し込んでしまった」

「あ、いや……」

「忘れてくれて構わないよ……そもそもここにいるかも、名前すらも分からないんじゃそもそも無茶だよね」


 キュッキュッ。

 白木さんはタイヤを後ろに押して、そっと俺たちと距離をとる。また探しに来るから。そう言って、申し訳なさそうに微笑む。


「もし、気が向いたら話相手になってくれると嬉しいな。僕は、今は隣町の総合病院にいるから」


 総合病院?

 隣町ってーと、確かに大きな総合病院があったなぁ。俺も何回かお世話になったことがある。


「まだ定期的に入院しないといけなくてね」


 そろそろ病院に戻らないと。

 そう言って弱々しく笑うと、ゆっくりと向きを変える。

 去っていくその後ろ姿を見つめて、いくつか覚えた引っかかりについて思案を──


「せんぱい……」

「ん? 」


 くいっ。シャツの裾を引っ張られる。

 見れば後輩が何とも言えない表情をこちらに向けてきていた。


「どーするんですか? 」


 ……どうすると言われても。


「名前も分からない、まして卒業生の話だとすると……特定は厳しそうね。6年も前の話なら、この街にいるかすら怪しいわ」

「だよなぁ」


 おっしゃる通り。情報があまりにも少な過ぎて……というか、6年前に高等部の生徒なら今は社会人の可能性が高い。ずっとこの街にいる可能性もあるが、外に出てしまっていたときてもなんら不思議ではない。しかし、それよりも引っかかることがあった。


「何か変じゃないか? 」

「何がです? 」

「色々あるけど……例えば名前」


 小首を傾げる仕草をする古湊。きょとん、という擬音が聞こえてきそうなほど。つか首傾げるのに上目遣いする必要ある?


「会ったのが1回や2回ならともかく、半年ぐらいの付き合いで名前も知らないってのは不自然だろ」

「確かにそうね……」


 ましてクラスメートなら尚更だ。いつか復帰してくる、復帰を待っている友達の名前を覚えないなんて考えにくい。


「嘘だって言うんですか? 」

「……それも違う気がする」

「はぁ」


 はっきり断言できる訳ではないが、白木さんが話してくれた言葉に嘘があったとは思えなかった。まぁ勘なので根拠はないが、それに悪い人間にも見えなかったので……作り話で生徒を狙う不審者とか、その線もないだろう。まぁこれも直感だが。


「内容に嘘はないけれど、隠してる、もしくは伝えてないことがある……といったところかしら」

「あぁ、そう、そんな感じ」


 口元に手を当てて、言いたいことをまとめてくれる霞。なんかそういう仕草をしてると探偵みたいだな……


「でも……悪い人には見えませんよ? 」

「別に悪者なんて言ってねーだろ」


 だから、どうするのか……か。

 古湊の表情を察するに、どうやら力になりたいようだ。何がそうさせようとしているのかは分からないが………自然と口元が緩むのを感じた。


「範囲が広過ぎるわね……さっきも言ったけれど、名前も分からない上に記憶も数年前のもの。このまま闇雲に動いても得るものは無さそう」

「でも……」


 珍しいな、こいつがここまで食い下がるのも。いや、珍しいというほど付き合いもないからこれは偏見かな。


「だから、私たちでもう少し調べてみましょう」

「かすみん先輩……」

「かなり厳しい条件だから徒労に終わる可能性も高いわ。メインで力を入れるのではなく、飽くまで時間や余裕があるときに、出来る範囲で調べるということで」


 やだ何このイケメン、素敵。 

 落としてから上げる。これぞイケメンの常套手段……といつまでもアホな事を宣っている場合ではなく。


「事の真偽も含めて、暫くは俺たちで何とかしてみるか」

「そうね、取り敢えず貴方にはアメリカに行って調べてもらえるかしら。一石二鳥でしょ? 」

「何が一石二鳥なの?調べものが進む上に俺を国外追放できること? 」

「そこにつっこむんですか……せんぱい」


 我ながら何て卑屈なツッコミなのか。


「それはそうとして、勉強を再開しましょうか」

「「ゔっ……」」


 改めて現実を突きつけられて、ガックリと肩を落とす先輩と後輩であった。




 

 

 

 

「で、かすみんの特別レッスンはどーだった? 」

「スパルタだよ、スパルタ。赤子を崖から投げ出すごとき所業だ」

「始まる前に教育終わってるしそれ……」


 すっかり日の暮れた帰路。

 香織と並び住宅街を歩きながら、俺は深々とため息をついた。


「ま、でも基本は何とか、多分」

「基本が出来れば数学は大丈夫」

「……くっ、出来る人間の上から目線」


 出来ないやつに限って基本を基本とは捉えてないものである。悲しいかな、それが現実だ。でも公式の丸暗記は基本と考えることはあながち間違いでもないはず。

 

「ま、去年はかなり切迫詰まってたもんね」

「進級かかってりゃな……」

「数学と理科は泣きついてきてそれはそれは大変だった。もう泣きながら土下座して教えを乞うてきたもんね」


 断じてそんなことはしていない。気持ちは泣いていたけど。


「マークシートならまだ楽だったんだけどな。記述は部分点貰えるけどその分構成を考えんのが大変だから……」

「へ? 」

「ん、なんだよ」


 きょとんと。香織は足を止めて目をパチクリさせる。


「学力テストはマークシートだよ? 」

「え、あれ……」


 ん?そうだっけか?

 んー、学力テストは記述の……いや違う違う、マークシートじゃねーか。去年受けたばっかりじゃん。何言ってんだ俺は。記述模試か何かの試験と被ったのかな。


「あぁ、そうだった。だから去年は消去法の効率化とかにも頼ったんだっけか、喉元すぎれば暑さ忘れるっつーか」

「………」


 悪い悪い。再び歩き始めようとするが、香織は立ち止まったまま。


「香織? 」

「……ねぇ、俊也」


 いつになく真面目な表情で見つめられたので、面を食らって思わず息を呑む。じっと、こちらを見つめて──


「最近、変わったことない? 」

「か、変わったこと? 」


 変わったこと……はまぁいっぱいあるっちゃある。例えば部員が増えたりとか、変な知り合いが増えたりとか、最近目まぐるしく環境が変化している気がするが。


「そうじゃなくて。俊也個人のこと。例えば、既視感を覚えたりとか、知り合いじゃない人に声かけられたりとか」

「………」


 いやに的確な指摘に、思わずドキリとした。開けてはならないナニカを剥がされそうになるような、そんな言いようのない焦燥感がじわじわとあてられるような。

 とても嫌な感じが身体中を襲う。あれ、これこんな話だっけ?もっとこうほのぼのな感じのじゃなかったっけ?

 そんな風にふざけないとやってられないような感覚──


「やっぱり……」

「やっぱり? 」

「それは……」


 ゴクリ。


「影の組織による、記憶の改竄だよ! 」

「………」


 …………


「はぁ? 」


 何言ってんだこいつ。

 さっきまでの緊迫した雰囲気が一気に緩む。


「寝てる間に組織に拉致された俊也は別の記憶を植え付けられたんだよ!不都合な真実を知ってしまったために」

「………」

「俊也!今すぐ病院に──」

「はいはい、分かった。帰ったら相手してやるから」

「そんな悠長な、組織は今も俊也を狙って」

「なんで暗殺対象みたいになってんの?世界の秘密握ってるの俺? 」


 そういや先週、影の組織と戦うスパイ映画を観たっけか。いやぁ、疑問息もつかせぬ展開ばかりでかなり面白かったが。すぐ影響受けるんだからこいつは……胸を撫で下ろし、安堵すると意識してのんびりと歩みを進める。

 ……何で安心してるんだ?浮かんだその疑問は自答するかとが出来なかった。


「そういえば、話変わるけど」

「えらく急だな」


 相変わらず緩急の使い方が凄まじい。


「俊也って、最近あの子とよく一緒にいるよね」

「あの子って……古湊か? 」

「ふーん……名前も言ってないのにすぐ出てくるんだ」


 何故そこでジト目をする。


「いや、お前があの子なんて呼ぶ人間で、かつ俺がよく会うなんてあいつくらいしかいないだろ」


 まさかピンク髪のイマジナリーフレンドがいるとかそんなとんでも展開になるとは思えないが。そして些細な約束がやがて大きな事件に巻き込まれていく……あぁ、最高の作品だったよ。ボロ泣きしたよ、L◯Cもよろしく!こっちもボロ泣き必須!最高!……何言ってんだ俺。


「まぁ……そうだけどさ。俊也って、年下好き? 」

「おい何か良からぬ考えを巡らせてない?違うからね?そもそもあいつ、進一狙いだし。俺のこと目の敵にしてるし」

「へー」


 あと俺は年下よりも……いや、年上好きって訳でもないかな。上か下か、そんな選択肢を強いることから最早間違い。

 決めぬなら、まとめて引こう、上か下。

 人間として最低だなこの回答。


「ま、それは良いとして。その俊也に懐いてる茉莉ちゃんなんだけどさ」

「だから懐いてねーって」

「最近よく部活に来てくれてるじゃない? 」


 来てくれてるっつーか、勝手に居着いてるだけなんだが……

 てか、まさかこいつが言いたいことって。


「だから、部員になってくれないかな?」

「………」


 マジでか。


「いやお前、あいつ部員どころか相談持ち込んでくる側じゃねーか」

「そうだけど、せっかくよく来てくれてるんだし」

「大体あいつが新聞部とか、ないだろ。よく考えてみてもないない」

「そうかな?寧ろ合ってる気がするけど」


 うーむ、この部長さんの人選はよく分からん。


「ね、今度勧誘してみてよ! 」

「え、俺が? 」

「うん、なんかいける気がする!大丈夫! 」


 また根拠のない自信だこと。

 そんなこんなで、俺たちは家路につくのだった。





ご無沙汰しております。

中編です。色々考え続けて2ヶ月経ってしまいました。申し訳ございません。

この中編が終わったら、修学旅行編としゃれこもうかと……

よろしくお願い致します!

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