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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
2nd Semester
85/91

昔話は慎重かつ正直に




 長かった休みも明けてみれば呆気ないもので。何事もなかったかのように日常が流れ、また学校の時間もまた当然のように流れてゆく。あぁ、心に巣くったこのそこはかとない寂寥感がまた何とも言えない……やだ詩的。

 

 

「──から、くれぐれも夏休み中の浮ついた気持ちのままでいないように。学生の本分は勉強だからな。くれぐれもそれを忘れないように。しっかりと自覚を持って生活するよつに」


 しかしまぁ、夏休み明けってのはどの教師も同じことしか言わないんだな。


 始業式から始まってここ数日間。校長先生から担任まで。聞き飽きたといって差し支えないだろう教室内に響くお決まりのセリフに若干の感心すら覚えつつ、右から左へ。ぼんやりと聞き流しながら、窓の外に流れる雲を目で追う。あぁ、鳥になりたい。空に最も自由に近づけるあの存在になれたなら、どんなに幸せなのだろうか。……でも、鳥って縄張り争いとか過酷そうだよね。人間以上に敵とか多そうだしなぁ……群れに媚び諂う生き方しか出来ないならいっそ俺はおいいつまで続くんだこの話。


「──以上。来月修学旅行だからってはしゃいだり羽目外したりするなよ。京都っても遊びばかりってわけじゃないんだから」


 え?


「あー、それと。実行委員を決めとかなきゃならんからな。明日の放課後までだから……委員長、放課後とかで適当に決めといてくれ」


 は?


「じゃ、HR終わりな。よろしく」


 ひらひらと手を振りながら教室を後にする担任の後ろ姿を、唖然と見送りながら……え?修学旅行?何それ?

 困惑しつつ辺りを見回すが、クラスメートは当たり前のように「班決めどーする? 」「どこ回ろうか?」「京都って何が美味しいの? 」とか話し合い始めていた。


「………」


 あれ、俺来る学年間違えたかな?だって修学旅行ってアレじゃん、二年生の最大のイベントじゃん。青春の始まりにして学生の集大成とも言えるビックウェーブじゃん。しかも京都とかど鉄板。


「でも俺、まだ一年生なんだよなぁ」


 いやはや、羨ましいなぁ二年生。来年になったら面倒に思うのかも知れないが……ま、そりゃそん時考えりゃいいか。取り敢えず自分のクラスに戻──


「あれ、俊也どこ行くの? 」


 ……やっぱり自分のクラスでした。てへ☆




「はぁ⁉︎信じらんないっ‼︎ 」

「貴方……ここの学生という自覚はないの?いくら自分の存在価値を見出せないからといって、そこまで卑下することは無いと思うのだけれど」


 バッシング吹き荒れる我らが部室。目の前では香織と霞が呆れ果てた視線が遠慮なくぶつけられる。

 まぁ言わんとしていることは最もなんだがしかし待てこちらにもそれなりの言い分がある。因みにそこまで卑下してない。


「学校行事も把握出来てないとかホントドン引きですよねー」

「いやだから言い分がだな……っだから何でいるのお前」


 当たり前のようにテーブルに頬杖をついてそう宣うのは中等部の古湊茉莉。部員ではない、念のため。


「む、そんな言い方ひどくないですかね」

「だってお前部外者だろ」

「ですけどー」


 バタバタと足をばたつかせて抗議の視線を向けてくる。何それ可愛いなオイ。


「まぁそれは置いといてだな……こちらにも言い分が──」

「藤咲被告の発言を認めます」

「あ、どうも……って待てその言い方」


 いつの間にか香織の隣にいた優理が何故か両手をテーブルの上に重ねて厳粛なポーズ。しかも片脇にある


「じゃあ、俊也被告」

「被告をとれよ」

「裁判長、被告人の発言は本題から逸脱しています」

「本題が常軌を逸脱してんだよっ」

「異議を認めます」

 

 認めちゃうのかよ……

 向井まで悪ノリしてきやがって何だかよく分からない方向に転がっていく。悲しいかないつも通りの部室の風景だ……いつからこんなんなっちゃったの?どこで間違えたの?


「とりま裁判長判決を」

「俊也と秋斗をゆーざいとする」

「俺カンケーねぇだろっ⁉︎ 」


 その割に間髪入れずにツッコミを差し込むあたり、さてはお前狙っていたな?

 最近入部した水原秋斗はやや離れた位置からやたら大きな声で異論を唱えている。


「けど、俺ら二年にも修学旅行があるけど……明条って毎年修学旅行あるのか?」

「ほら見ろ!粋先輩だって知らないじゃねーか」

「先輩は転校生だし仕方ない。よってむざい」


 誰かハー◯ィーを呼んでくれ!この裁判長理不尽すぎる!


「二年生は国外の修学旅行だけど、一年生は毎年京都のだけれど」

「……なんか名のある私立校みたいだな」

「みたいじゃなくて、そうなのよココは」


 たまに忘れそうになるが、よくよく考えると明条は無駄にでかい中高一貫校だったな。進学校であると同時に、歴史も深く云々。

 

「しかし、京都かぁ……」

「京都……八つ橋生八ツ橋あぶり餅やきもち長五郎餅松風柚餅抹茶ロールケーキ抹茶おはぎ金平糖抹茶バームクーヘン」


 優理は目を輝かせている。お菓子ばっかりよくそんなスラスラ口にできるな。


「確かに、京都といえば歴史ある名所の代名詞だものね。定番の深泥ヶ池や貴船神社、風情に定評のある清滝トンネルも是非通ってみたいわ。あとは、花山トンネルや笠置観光ホテル、老ノ坂トンネル付近にあるモーテルにも足を運んでみようかしら」


 何で怖い場所ばっかなの?心の霊がバンバン出てくるような名所ばっかなの?

 てかアレか?これは霞も楽しみにしている感じこれ?


 ……霞と行動するのは止めておこう、マジで怖そう。


「あら、来てくれないの?心霊スポットに生贄役は必要でしょ」

「心を読まないでくれない? 」


 必要じゃない。求めてない。


「あ、せんぱい。私のお土産お願いしますねー」

「あん?何で俺が買わにゃならねーんだよ」

「まぁまぁ、可愛い後輩の為ですから。お土産は六角堂のお守りで」

「お守り? 」

「恋愛成就のパワースポットがあって、そこの縁結びのお守りです。あ、せんぱいのとかじゃないですから。勘違いさせてしまったらごめんなさいですけど私としては──」

「1ミリも考えてねーから」

「むー」


 相変わらず口の減らない後輩だ。


「あ、じゃあ私のお土産は八ツ橋の──」

「オメーは行くんだから自分で買えっ! 」

「ちぇー、俊也のケチ」


 何その暴論。

 頬を膨らませる幼馴染を軽くあしらいつつ、壁にかけられた時計を見上げた。午後2時。始業したては授業が早く終わっていいな。


 さて、今日もテキトーに部活しますか。……てか俺らって部活してることになるのか?なんか本来の活動が忘れられてきているような気がしないでもないが。ま、いっか。


 と、古湊がぐいっと身を乗り出した。どうやら相談があるようだ。理由もなしに来ていたわけではないらしい。


「で、皆さんにご相談なんですけど」



 テストが、やばいです。



 彼女のその一言は修学旅行で浮き足立つ皆─日頃から冷静かつクールな俺には関係ないがな─を、一気に現実へと引き戻した。






 正直な話、学力テストほど憂鬱なものはないと思う。成績に直結する定期や期末は明確な意図が汲み取れるのでまだ何とかモチベーションを見つけられ……ない事もないのだが。これが学力テストとなると話は別だ。


 まず日程。本番─定期や期末を本番と呼ぶのもいささかどうかと思うが─と本番の間というまた微妙に嫌なタイミングに挟んでくる。「やっとテスト終わったー!」と思ったら翌月にはもう待ち構えている。それでそれを超えたらまた翌月には本試験だ。うんざりするヤツである。


 次にテストの立ち位置。

 成績に直結せず、生徒の学力を測るため、延いては生徒の学力向上を目指す為に行うというが、しかし結果は張り出されるし進路希望調査と一緒に行う為か、やたら具体的な判定とかいう紙が突きつけられる。

 外部から受注している模試をそのまま学力テストだのと宣っているので、〇〇大学へ何人受験希望で何人が受かるだのと鬱陶しいくらいに主張してくるのである。そもそも明条学園で学力を測るというのなら、明条の人間が作った問題を出すべきであり、生徒の学力向上を本当に願っているのであれば、授業を教えている先生が各クラスの平均点などを考慮し、心を込めて作るべきである。外部受注など手を抜いているとしか思えない。これは最早テキトーに仕事をしてますよアピールをしつつ、生徒の学力を測るなどといった戯言を放つ教師どもの悪辣な実態を暴く機会を与えられているのだとしか」

「良い加減にしなさい。それ以上無駄口を叩くなら、見限るわよ? 」


 ピシャリとそう切り捨てて。きつい睨みをきかせてくる目の前の女の子に、内心で両手を挙げて呆気なく降伏する。

 怖えよ、何なのこの子。前世は蛇か何かなの?


「それよりも、問題は? 」

「……ダメだ、分からん」


 仕方なく俺は、息をついてペンを投げ出した。カランと音を立てて一回転、ノートの端に軽く当たる。

 改めてノートを見るが訳の分からん数式がズラリ、自分で書いておいて難だが何だこれ。隣の教科書にも同じ数式が書かれている辺り、そのまま写したのだろう。そりゃわからんわな。


「………はぁ」


 心底呆れたとばかりに、目の前からもため息が。見れば霞が額に手を当てていた……ふむ、彼女もこの難問には頭を抱えざるを得ないようだ。


「やっぱり難しいよなこれ」

「呆れているのよ」


 違ったらしい。


「貴方の場合、分からないのではなくて分かる気がないのでしょう」

「うっ」


 痛い所を突かれて思わず顔をしかめた。前者と後者では大きく意味合いが異なる。説明するまでもないと思うが、前者は結果までの過程が考慮されるが後者の場合は総じて非難の対象になる。結果が全てのこの実力社会においてどちらも結果が伴っていないのであれば、どちらも等しく非難されてしかるべきなのに。実に不平等な世の中である。


「違うぞ霞、そうじゃない。分かる気がないから分からないんじゃないんだ。分からないから分かる気が起きないだけだ」

「だから、分からないのはその気がないからじゃない 」

 

 堂々巡り。


「……はぁ、なんでこんなのの世話をしないといけないんだか」

「こんなのって言うな」


 こっちだって誰が好き好んで数学なんぞに教えをすがるものか。

 大体、何故俺がお勉強しているのだろうか。駆け込み寺よろしく助けを乞うてきたのはあの後輩じゃなかったか?」

「どこかの誰かさんがあまりにも成績が酷いからこういう流れになったんじゃない」


 それは良いとして、いや良くないけど。

  

「貴方、進級する気はないの? 」

「落第ギリギリみたいに言わないでくれない? 」

「あら、常に崖っ淵だと自覚すらも無くなるのかしら」


 くすりと口元を緩めてとんでもない

 しかし残念だったな、学力テストは成績に含まれないんだよ……自覚はあったっぽい、泣きたい。



 渋々ながら、それでも2時間はスパルタ指導をあれやこれやと何とか耐えて少しは公式を暗記したりもして格闘していた訳だが……まぁ勉強ばかりでは頭も痛くなってくる。


「ちょっと息抜きしたんですが」

「息抜きって何かに集中していた人がするものじゃないの? 」

「失敬な、今世紀最大の集中力を──」

「へぇ? 」

「……ちょっとはしてました」


 自分なりには結構頑張っていた……はず。


 まぁ仕方ないわね。やれやれとため息をついて、そっと椅子を引いた。俺も休憩がてら学食にでも行こうか……その前に教科書を片付けてしま──


「………」


 ぴったりと。教科書の無機質な感触ではなく、少しひんやりとそれでも柔らかい感触が直に。

 俺が伸ばした手の下には、教科書ではなく、綺麗な白い指がそっと覗いていて……まぁここに自分以外の人なんて1人しかいない訳で。


 えーと……これは要するに、要するな。


「わ、悪い」

「別に」


 慌てて手を引くと同時に、顔が一瞬熱くなるのを感じた。が、そんなあからさまな動揺を見せる訳にもいかない。弱みを握られたらどんな立場に追いやられるか……いかんっ、手が当たったくらいで何を俺は乙女かっ!乙女なのか!いや乙女なのかも知れないわけない!

 ぶんぶんと脳内で頭を振って冷静さを取り戻し……たい。あれ願望?


「………」

 

 霞はというと、何事もなかったように表情1つ変えず。髪先を人差し指に絡めて、くるくると弄んでいた。

 なんていうの?その辺の空気に触れたからって誰が気にするのかしら、とでも言いそうな感じ?……動揺しちゃった僕がばかみたいっ!



 何故か一抹の敗北感を抱えつつ、勉強疲れを両肩にじわりと感じながら学食に向かうと……


「あーうー」


 テーブルにだらしなく突っ伏している後輩の残念な姿が。極力関わりたくないので気にせずさっさと通り過ぎ──


「………」


 ぐいぐい。

 見ればその後輩が突っ伏したまま、しかししっかりと制服の裾を掴んでいるではないか。


「……何? 」

「可愛い後輩が苦しんでるのに無視しないでください」

「ほー、どこに可愛い後輩が? 」

「うぅ……あたまいたい」


 どうやら憎まれ口を返す余裕もないらしい。確かこいつは香織や粋先輩に勉強を見てもらっていた筈だが……それほど頑張って勉強したのだろうか、仕方ない甘い物くらいなら。


「で、何食べたいんだ? 」

「さっすが、話分かりますねせんぱい♩」

「てめぇ……」


 パッと顔を上げた古湊は全く疲れた様子もなくキラキラと目を輝かせていやがった。

 腹立つことこの上なかったが撤回するほどの話でもなかったので奢ってやることに。


「いーつも違う女連れてるなぁ、藤咲? 」

「誤解を招く発言は止めて下さい? 」


 ニヤニヤと口元を緩めた蘭さんの絡みを避けつつ、頼まれた甘いものを買ってテーブルに戻ると、2人で適当につつき始めた。


「しかし、なんでまた勉強教えてくれーなんて駆け込んできたんだ? 」

「やー、割と切迫つまってきまして」

「お陰で俺まで勉強させられる羽目になったんだぞ」

「それはせんぱいが日頃からちゃんと勉強してないからでしょ」


 返す言葉もない。


「それに、私達中等部はただの学力テストじゃなくて高等部進級の基準になりますからね……」

「あー、そうだったな」

「うぅ……なんで中高一貫なのにふるいがあるんですかー」


 そういや俺らも去年必死で学力テストに取り組んだっけ……いや、取り組んでないな。無理矢理取り組まされたんだ、香織らに。


「当然です。同じ学校じゃなきゃ東堂先輩へのアプローチも出来なくなっちゃいますから」

「あーまだ引きずってたんだその設定」

「ちょっ、何てこと言うんですかっ‼︎人をその辺のチョロい系みたいに言わないで下さい! 」


 お前こそ何て事言ってやがる。


「あ、あとぉ、せんぱいと同じ学校に行きたいからに、決まってるじゃないですかー」

「俺で練習するなよ……何の得も意味もねーだろ」

「せんぱい……そんな自分を最低最悪の人間産業廃棄物みたいに思わなくても」

「言われるまでそんなけったいな言葉すら思いつかなかったわ」


 そこまで人間捨ててねーよ。


「まぁいいや、テキトーに頑張って」

「むー、なんか言い方が投げやりです」

「はいはい、凄いぞ偉いぞよくやったなー」

「……ここまで気持ちがこもってないと逆に清々しいですね」


 半目の後輩から発せられる抗議の視線を背中にひしひしと感じつつ、しかし気にしない。


「ま、動機はなんにせよそれだけモチベーションかまあるのは良いことかもな。気をつけねーと藍さんみたいに行き遅れたり──」


 ガッ。頭部に物凄い圧力が。

 そう、例えるなら頭蓋を思い切り鷲掴みにされて、雑草のごとく引っこ抜かれるような──っていうか。


「痛だだだだだだだっ⁉︎ 」


 引っ張り上げられてる!

 この地上の重力どうなってんのってくらい理不尽な力で……わぁい視線高いや。


「あー、ここに使い勝手の良さそうな雑巾があるな……どう掃除してやろうかねぇ」

「…………」


 ギリギリギリ。

 割れそうな痛みを抱えた頭だけ振り向かされると、そこにはそれはもう飛びっきり美しい笑顔の藍さんが──


「コ、コンニチハー」


 ゴッ。





「まぁ、とにかくアレだな……モチベーションは高ければ高いほどいい」

「いやせんぱい血出てますけど大丈夫ですか」

「そうだよ、勉強も恋愛も血を出すくらいの痛みがともなうんだよ」

「出てるのせんぱいですから、ていうか血まみれなんですけど」

「あぁ、泥くさく汗まみれになっても掴みとる、時には血まみれにもなる。そんな覚悟が──」

「いやバカなんですか」


 ドン引きしている後輩に構わず、向かいに藍さんがどっかりと腰掛ける。


「つかいいんすか購買の方は、さぼり?」

「良いのよ……今は客いないし」

「俺らが客なんすけど」

「というか、スルーなんですか、せんぱいの惨状は無視なんですか? 」


 藍さんはため息をつきながら、持ってきたマグを口元に運んだ。一息ついてこちらに目を向けてきた。


「で?藤咲はまた女の子誑かしてなに企んでるんだい? 」

「人聞きの悪過ぎること言わんで下さい」

「そーです!こんなの……わたしにだって選ぶ権利くらいありますっ」

「おーいどういう意味だコラ」


 無礼極まりない後輩と睨み合う。仮にも先輩に向かってこんなのとは……仮にもって言ってる時点で既に負けてるんだよなぁ。


「そうよねぇ、こんなのは流石に願い下げよね」

「あれ、そっちフォローしちゃうの? 」


 形勢変えがたし。切り返すか。


「そーゆー蘭さんはどんな男がタイプなわけ? 」

「私も興味あります!」

「あたし? 」


 突然振られるとは思っていなかったのだろう、藍さんはきょとんとしてこちらを見ると、やがてふむと頬に手を当てて考え込んでしまう。

 仕方がないので古湊の方へ目を向けると、彼女が挙手でもするかの勢いで口を開く。


「藍さんもこの学園の卒業生なんですよね? 」

「……まぁ、そうなるわね」


 そんな話、そういえば昔聞いたことがあったっけ。何故古湊がそんな話を知っているのかは疑問だが。


「やっぱり体育会系だったんですか?なら肉食系より敢えて大人しめの男子とか──」

「あら、私運動部じゃないわよ?というか、運動部には入った事ないし 」

「え、マジで? 」


 意外だ。男子高校生を片手で持ち上げるようなポテンシャルの持ち主だし、なんか凄い格闘技とかやってたのかと思ってた。山奥の秘伝の道場出身とか──


「そりゃどーいう意味だい藤咲? 」

「い、いや、運動神経とか良さそうだしずっと体育会系なのかと思ってサ」

「いーや、全くその反対。髪も染めないで、品行方正。お淑やかで控えめで三歩後ろを歩くような、それはもう模範的で清楚な女子高生だったんだから。今と変わらず」

「へぇ」


 どの口が言うのか。


「じゃあ、帰宅部だったんですか? 」

「ちょっとちょっと、何だかあたしの話に変わってないかい? 」

「まぁまぁ、今後の参考に」


 何の参考だよ。


「部活ねぇ?入ってっちゃ入ってたけど……んー、アレは部活っていうのかねぇ」

「?」


 藍さんはそう言って目を細めると、どこか懐かしそうな顔付きに。あれ、これあれか、回想シーンに突入か。それとも超重要な伏線で後日の長編とかで盛大に回収される案件なのか。実は藍さんは学園にはびこる悪鬼羅刹を討伐する組織に属していて、それは高校時代にとある不思議な部活から始まった的な。学園奇譚・明条鬼隠払師とか──


「すみませーん」

「っと、お客さんだ。んじゃこの話はここまで。アンタらもこんなとこで駄弁ってないで勉強しなよ」


 レジの方にいつの間にか生徒の姿が。藍さんはさっと立ち上がるとそう言い残して購買の方へ去っていった。


「あー、良い所だったのに」

「知られざる学園の秘密があらわになる寸前だったのになぁ」


 その後ろ姿を眺めつつ、二人してため息。勉強しろという現実を突きつけられて更にため息。割とこのまま昔話とかに移行しつつテストの件忘れたかったのになぁ。


「藍さんって何歳なんですかね」

「あー、そうだな……」


 俺らが中等部入った時には学園にいたから……少なくとも4年はここにいるとして、大学出てからここにきたとして最少で28、か?でも短大だと26か、うーむ。


「でも、何でずっと購買で働いてるんですかね?」

「それは俺も思ったなぁ」

「あ、何か大切な約束とかがあるのかも!卒業式で交わした思い出が」

「はいはい、お前ホントそういうの好きな」


 軽くあしらうとジト目で頬を膨らませる。乙女チックなのは結構だが、だったら別に購買の仕事じゃなくても……


 げしっ。

 背中に衝撃、と目の前に地面が迫って──


「ぶべらっ⁉︎ 」


 椅子から転げ落ちたのは顔面の痛みと同時に理解できた。一体どこのどいつが……見上げると、


「ども……霞さん」


 満面の笑みの女の子が一人。


「あなた、人に教えを請うておいてどういう了見なのかしら」

「いやぁ……本当に」


 うわぁ、ここまで人を見下す事かま板についてる友人も他にいないや。

 つかこの位置だとスカートの中見える!見えちゃう!何この娘今流行の「当ててんのよ!」ならぬ「見せてんのよ!」を習得しているのか、つーかホントに見え……リボン付きの白──


「がはっ 」


 もれなく顔面に何かぎ落とされ、いや叩きつけられた。数学I、分厚い教科書だ角めっちゃ痛い。


「いやすまん、別に忘れてたとか逃げたかったとかお家帰りたいとかそういう訳じゃないんだよ、ちょっと休憩してて」

「あらそう?後輩を誑かして楽しそうに談笑していたようにしか見えないけれど」

「いやいや、かすみん先輩。楽しそうって、私にだって選ぶ権利くらいありますよ! 」

「そうね、ごめんなさい。こんなのとひとくくりにされたら迷惑よね、不謹慎だったわね……あとその呼び方はやめて」


 君ら二人のやり取りなのに何で俺ばっかダメージ食らってるの?不謹慎なのは二人じゃないの?



 心身共に傷だらけになりながらも迎えにきた霞によって捕縛、古湊もまた香織たちの元へ戻るため、3人で購買を後に、中庭を通り抜けて──


「あの……」

「?」


 ふいに呼び止められて振り返る。穏やかな男性の声、だろうか?

 中庭のサークルベンチの近くに、木の陰からその人はゆっくりと姿を現した。


「俺、ですか? 」


 きゅっ、きゅっ。両側の車輪を押して、こちらに近づいてきたのは車椅子の白髪の男性だった。


「あの、明条の生徒さん……ですよね? 」

「そうですけど……」


 白髪だが年はそんなにいっていないようだ……寧ろ俺たちとそう変わらない年齢にも見えるが。


 男性は優しげに目を細めて、しかしどこか緊張したような困惑したような面持ちで、おずおずと口を開いた。


「人を、探しているのですが……その、心当たりはないでしょうか」


 

 




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