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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
2nd Semester
83/91

のーぷろぶれむ新学期

 

 

「じゃあ秋斗くんは優理ちゃんとは、中等部からの仲なんだね」

「あぁ!一年の時からの付き合いでさ、持ちつ持たれつの関係っつーか、つまり──」

「腐れ縁以下クラスメート以下」

「つまり他人以下っ⁉︎ 」


 やたら大きな声のツッコミに、思わず顔を上げる。

 見れば先程入部希望とやって来た水原秋斗が、右手を振りかざして必死にツッコミを入れていた。


 香織と粋先輩が彼と向かい合うようにして座り、優理がやや不貞腐れたような表情で、少し離れた椅子に座っている。

 更に離れた窓際で、俺はぼんやりと文庫本を開きながら……あんま読んでないけど。奥では向井がパソコンを開き、何やら難しそうなグラフと睨めっこしていた。


「せんぱーい、アイス食べたいです」

「てか何でお前いんの? 」

「えー」


 隣ではだらしなくテーブルに腕を伸ばす古湊の姿。いやホント、何でこいつ当たり前の顔してとけ込んでんの?そして何で不満顔なの?


「……用がないと、来ちゃダメなんですか? 」


 ダラけているかと思いきや、急に顔を上げて。上目遣いでうるうると瞳を潤ませ、頬はほんのり紅潮して、艶やかな唇から、そんな甘い言葉が零れる。だから俺は──


「ダメだろ、部外者だし」

「はうぁ⁉︎ 」


 何かダメージを受けていた。アホだな。


「くっ、ホントアレな性格してますね……」

「お前にだけは言われたくない」


 媚びの押し売りはゴメンだ。


「おーっほほほほほほ‼︎

幼稚で見え透いた誘惑などには引っかからない。それでこそ、私が認めたライバルですわ! 」

「お前も何でいるんだよ」

「はうぁ⁉︎ 」


 また勝手にダメージを受けて倒れるのは白ノ宮。何この流れ、流行ってんの?乗り遅れてんの俺だけ?

 優雅に振っていた扇子を落としてガックリと膝をつく。


「何ということですの!先程頑張って考えた前口上と共に、華麗に参上しましたのに! 」

「あー……そうだったか?」

「思い出してくださいまし!このままでは不法侵入したような変な人間と思われてしまいますっ」


 いきなり腕を取ってぶんぶんと訴えかけてくるお嬢様。気付いていないのかその豊満なバストが腕に当たったら当たらなかったり、ちょっとそんなToLOV○る求めない!


「……誰ですか?このいかにもお嬢様お嬢様したお嬢様は」


 お嬢様100パーセントだな。

 隣の古湊がいやに冷めた視線を向けてくる。

 さっきの幼稚っていうワードにカチンときたんだろうか。


「あら、それはこちらの台詞ですわ。このような幼稚な顔に、見覚えなどございませんが」

「へぇ? 」

「何ですの? 」


 バチッ。お互い冷ややかな視線がぶつかり合い、火花を散らした。

 ……何で初対面で敵意向けあってるのこの娘たち?



 あとは……そういや霞は?と辺りを見回そうとして、ふと目があった。彼女は読んでいたであろう本に目を戻さず、ジッとこちらに視線を寄越している。


「……んだよ? 」

「別に」


 何とは無しに、霞の近くへ。隣の椅子に腰掛ける。と同時に、また秋斗のツッコミが聞こえてきた。


「なんか、今日はえらい騒がしいな」

「あら、貴方だって年中下らない事でよく騒いでるじゃない」

「あー、はいはい。どうせ」


 俺だってそれなりの理由があって騒いでいるんだが……いや、そもそも好きで騒いでいるわけでも……てか騒いでるか?

 何がおかしいのか、クスリと口元を緩める霞。本を閉じて意味ありげな視線を送ってくる。


「けれど、それも今日限りかも知れないわね」

「今日死ぬみたいな言い方だな……」

「彼、一見貴方と全然違うタイプに見えるけれど、役割自体は似ているじゃない。むしろ、大袈裟なリアクションをとれる彼の方が重宝されるんじゃないかしら」


 あの……役割とか真顔でそんな怖いこと言わないでくんない?


「え、まじで被りなの?ここまで来てまさかのリストラ?つーか俺ってあんな感じなのか、違くねーか」

「さぁ、別にどうでも良いのだけれど……

一般良識がある点は貴方と被ってないんじゃない? 」


 ニッコリと。また良い笑顔で辛辣なセリフを放ってくるこのS女。


「……相変わらずいい性格してんな」

「お互い様ね」


 自覚していらしたのですね。

 

 フッと口元を一瞬緩めて、また本を開いて視線を落とす霞。


「………」


 僅かに開いた窓からそよ風が入りこむと、彼女の髪を優しくさらった。窓際で本を開いて頬杖をつく姿は、いやに絵になっている。


 こうして黙っていれば美人なんだよな、なんて改めて思ってしまう程には。そういや、クラスの野郎共もそんな話してたっけか。


「……何? 」

「別に、見てただけ」

「お金なら貸さないわよ」


 黙っていれば、な。


 ため息をつきながら先程座っていた席に戻ると、いつの間にか古湊がこちらをまじまじと見つめてきた。

 勿論華麗にスルー。俺は部屋の喧騒を物ともせずに、窓の外に目を向けつつ優雅にコーヒーを──


「せんぱいって、成條先輩みたいな人がタイプなんですか? 」

「ぶっ‼︎ 」


 吹き出した。


「なっ、ななな‼︎

そうなんですの⁉︎私聞いておりませんわよ⁉︎ 」

「がはっ」


 視界がブンブンと揺れる。体に沁み渡っていたカフェインが体内でシェイクされる物すごい奇妙な感覚ががががが。


「そんな、んじゃない、ってか、そもそもお前に言う、言う必要もないだろっ、てか手離して……」

「必要ない⁉︎ 」

「でぇっ」


 後部に熱い衝撃。

 思いきり突き離されたので後頭部をテーブルにぶつけたようだ。


「ってて……」


 ズキズキする頭を摩りながら目を開けると、何故か白ノ宮が肩を落としてしょんぼりどしている。

 霞はといえば、あからさまに訝しげな視線を寄越してくるし……


「私も聞いてないですよー」

「お前な……」


 この状況を作り出したこの後輩はといえば、さも可笑しそうに、小悪魔チックな笑みをこちらにだけ分かるように向けてきた。


「で、どうなんです? 」

「どーもこーも、何でそんな話に」

「じゃあ穂坂先輩とか……あ、もしかして」

「………」


 ……これだから頭お花畑は。


「……そうだな、多少計算高くて猫被りな一面もあるけど、実は周りの事を気遣ったり子供たちの事を大切に思ったりと意外にも優しい一面もある後輩の女の子……」

「え」

「なーんて奴は、絶対ゴメンだからな」


 決まった……今までの仕返しとばかりの一抹の心地良さを覚えつつ、見ればジト目の後輩と視線がぶつかった。

 カチンと。

 あからさまに古湊に、マンガで言えば怒りマークが浮かんでいるというのか、そういうのがはっきり分かった。表情だけらにっこりと笑顔になるものの。


「ま、せんぱいの好みとか心底どーでもいいですけど。ヘタレで卑屈で性格の悪い所を直さないと、一緒になってくれる人なんて物好きな人な現れないと思いますけどねー」

「へーへー、肝に銘じときますよ」

「……無駄でしょうけどー」


 わざとらしく頬を膨らませるこの後輩は放っておいて、俺は鞄を肩に立ち上がった。


「あれ、俊也どこに行くの? 」


 向こうの方でさっきまであーだこーだと騒いでいた香織達がいつの間にかこちらを向いていた。


「静かな所」

「へ? 」

「んじゃ」


 どうせ今日は何もないだろうし……帰るときにでも戻ってくれば良いだろう。こーゆう時は避難に限る。


「ちょっと俊也! 」

「また後で」




 ❇︎




「もうっ、勝手なんだから」


 背を向けてひらひらと手をふり出て行った俊也を見送ると、香織は唇を尖らせて不満を零した。


「なんか、掴み所のない奴だなー」

「そればっかりは、アンタに同意ね」

「いや、優理も大概っつーか、痛っ⁉︎ 」


 思いきり脛を蹴られた……痛い。


「でも、どこに行ったんすかね? 」

「あんな男は放っておきなさい」


 窓際では聖麻がパソコンから視線を上げて、ドアの方を眺めている。

 反面、霞は全く興味なしといった表情で雑誌を広げていたが……さっきチラチラと見ていたのはツッコんだら怒られるのかな?


「おーっほほほほ!そういう事ですのね‼︎ 」


 今度は先程入ってきた金髪のお嬢様、白ノ宮希妃が高らかに笑い声をあげていた。


「藤咲さんにもようやくこんな名ばかり新聞部よりも、私達新聞委員の魅力に気付いたのですわ! 」

「何ですってー! 」


 すかさず立ち上がって睨みつける香織。まさしく水と油だこりゃ。


「というか、白ノ宮先輩がうるさかったから出て行ったんじゃないですかねー」

「あら、貴女のそのいやしい心に嫌気がさしたのではありませんこと? 」

「へぇ? 」

「何ですの? 」


 今度は中等部だという後輩の古湊茉莉と視線をぶつけていた。こっちは火と油だな。


 そんな時だ。

 コンコン、と。やや控えめにドアを叩く音が聞こえてきた。


「あ、はーい! 」


 香織がドアに駆け寄っていく。軽く肩を叩かれる感覚に振り返ると、粋先輩が苦笑混じりに眉を吊り上げていた。


「どう?新聞部は」

「なんか、ホントに騒がしい所っすね」

「四六時中なんか起こりそうだからな」


 確かに。アクが強い人が多すぎて既に満腹な感があるまである。


「ていうか、本気で入部する気なわけ? 」

「うーん……」


 離れて座っていた優理が怪訝そうに訊ねてくる。そういう彼女は何を持って、この場所を選んだのだろうか……それが気になる。


「せっかくなんで、入部しないにしても投資とかしてみません?俺今良い話もってるんすよ」

「いやどういう⁉︎ 」

「心配しなさんな。たったの5分で儲かる話があるんすよ」

「悪徳商法かよっ‼︎ 」


 いつの間にか隣でパソコンを開いていた聖麻が、画面を指差してそんな事を宣う。こいつまさか株とかそんな事してるんじゃ……いや、あり得そう。

 

 と、香織が何やらドアから誰かを招き入れたようだった。


「皆、依頼人だよ」

「依頼人? 」


 入って来たのは小柄な女の子だった。栗色の髪を2つに分けた……というか依頼人とは?


「なんだか最近ね、うちに相談事を持ってくる人がちらほらいて。まあ何でも屋さんみたいな」

「何でも屋さんって……」

「ちゃんと、その人に関わる記事は書いているけどね」


 ほら、こっちだ。

 粋先輩が手招きをし、俺は依頼人と呼ばれる彼女の前へ。香織が真ん中に、粋先輩と優理が座り、その隣に俺はそっと椅子を引き寄せたのだった。





❇︎




「ふぅ……」

「お疲れですか?」


 目を細めて外の景色を眺める先輩。その横顔があまりに美しすぎたのはさて置いて、そっと零れたため息が気になった。 


「ふふ、心配してくれてます? 」

「あ、いや……まぁ、新聞部(うち)のことでも色々とご迷惑をおかけしましたし」


 悪戯っぽい笑みを浮かべられ、思わず視線を逸らす。何故かたどたどしい口調になってしまった。


「大丈夫、体力には自信ありますから! 」

「先輩、運動とかなさるんですか?」

「あ、信じてませんね?こう見えても、小学校の水泳大会で3位入賞した実績があるんですよ」

「……安心しました」


 そう言って、ほぼ同時に笑い合った。

 小学校の時の話を持ち出してどうするんですか。結果は結果ですから。



 屋上の扉を開けたのがちょうど30分前。今日も今日とて快晴の青が広がる学園の最上階には先客、東雲明日菜先輩がいた。仕事が一区切りついたという彼女と、ゴタゴタを丸投げして逃げてきた俺とでは思うところも全く異なるのだろうが。

 それでも、屋上(ここ)には穏やかな風が吹き抜ける。


「そう言えば、新聞部、存続が決まって良かったですね」

「あ、いやその節はホントにありがとうございました。先輩のお陰で──」

「いえ、香織ちゃんや俊也くんの努力の賜物です」

 

 綺麗な黒髪が残夏のそよ風に揺れてたなびく。 彼女のそんな姿はまぁ、何だ、俺のような小市民には尊さすら感じるので………それと何だか、いたたまれなくなって。


「……俺は何もしてないですよ」


 少し、言葉に詰まって、それでも首を振った。だと言うのに、先輩も首を振る。


「いいえ、俊也くんの力があってこそですよ」

「まさか、俺なんて──」

「大丈夫、自信を持って……貴方には、人を変える力がありますから」


 屈託のない笑顔で、そんな恥ずかしいことをこともなげに言ってのける。


 ……あれ?なんか、こんな光景を前にも───




 ───大丈夫、自信を持て。お前には人を変える力があるんだ。


 手を置いてやると、まだ涙の溜まった両目を、それでも精一杯向けてきた。


 ───ホントに?


 無垢な声色で。純真な瞳で。何事にも晒されていない、綺麗な心が。

 それはとても辛くて怖くて、見るに堪えないくらいに狂おしくて、そして無性に、尊く思えた。


 ───約束する。


 こんな汚い自分を。こんな汚れた自分を。向き合うことが許されるなら、聞いてくれる人がいるのなら。

 だったら───せめて笑顔だけでも



「──くん、俊也くん?」

「え?」


 ハッとすると、隣から心配そうに覗き込んでくる先輩の顔が……ってか。


「ち、近いですよ先輩っ」


 カッと顔が熱くなると同時に、慌てて一歩距離を取る。パッチリとした黒い瞳がこちらをしっかり捉えていた


「大丈夫ですか?

顔が赤いですが……もしかしたら風邪でも」

「引いてませんっ、大丈夫です! 」


 こういう所はとても鈍感な人だった。


「ちょっと、既視感(デジャヴ)っていうか……ボーッとしちゃって」

「デジャヴ? 」

「はい、たまにあるんですよね……なんか覚えないのに覚えてる、みたいな変な感じ」


 初めてきた場所なのに見覚えがあったり、初めて会った人なのに顔を知っているような気がしたり。

 苦笑いをしてみせるが、先輩はいたって真剣な表情でこちらを見つめてくる。


 やべっ、ちゃんと話を聞いてなかったことに怒っているのだろうか。


「俊也くん」

「は、はい」


 一歩。距離を詰められる。

 え?何この雰囲気?屋上で女の子と二人きりなのに全然トキメキ的な展開にならないんだけどどゆこと?

 などとふざけている余裕もなく、先輩は真剣な表情をこちらに向け続ける。


「……本当は、貴方は」


 一体先輩が何を言おうとしたのか、その先の言葉が続くことはなかった。可愛らしい着信音が、彼女のポケットから響いたからだ。


「はい、東雲です」


 表情がいつもの優しげなものに戻った。生徒会の電話だろうか、資料がどうこうと何やら話を始めた。


「………」 


 何なんだろう。今のは。

 適当な言葉が見つからず、手持ち無沙汰に空を見上げる。

 少しずつ薄くなってゆく入道雲はそれでも高々と青空に伸びている。


 暫く眺めていると、電話が終わったのか先輩が別れの挨拶をしながら携帯を閉じていた。


「ごめんなさい、そろそろ生徒会に戻らないと」

「あ、いえ。お疲れ様です」


 いつもの明日菜先輩だ。何も変わらない……いや、いつもの〝俺が知っている〟明日菜先輩だ。


「あの、先輩──」

「はい? 」


 さっきのは一体……

 尋ねようとしたが、彼女の笑顔の前に、言葉は結局宙を彷徨った挙句残暑の風に掻き消されてしまった。


「えっと……また明日です」

「はい、また明日」


 にっこりと手を振って。先輩は屋上を後にした。




❇︎




「おーい、俊也! 」

「……」

「俊也ってば」

「……んぁ? 」


 んぁって。

 「俊也ならきっと屋上」という香織の予言通り、屋上でぼんやりと突っ立っていた。何か心ここに在らずって感じみたいだけど……大丈夫か?


「部長さんが出動だってよ、戻って来いって」

「……あ、あぁ。さんきゅな、小林」

「水原だよ!水原秋斗っ‼︎ 」


 誰だよ小林。


 相変わらず容赦ないボケをかます俊也を半ば強引に引っ張って屋上から校舎へ。別に部員でもない俺がここまでする必要もないのだが……まぁ相談も相談だ、乗りかかった船というか何というか。まだ優理がここに入部を決めた理由も掴んでいないしな。


「で、部活なんだろ? 」

「という話で」

「何で外に出てんだ? 」

「いや、俺にも詳しいことは……ただ、ここに来いって」


 ヒラリと揺らしてみせる俺の手には明条の地図。赤い印で丸が付けられた部分を指差してみせる。


「どこ? 」

「さぁ?」


 俺たちは何故かお互い首を傾げつつ、校舎を出て歩いていくのだった。



中々話が進まない上に更新遅くなりまして申し訳ございません。次でなんとかまとまるようにし……たいです。本心です。ごめんなさい頑張ります。

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