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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
2nd Semester
82/91

あっちこっちどっち

 

 


「じゃあ、まずは自己PRを1分間でしてもらおうかな。あ、その前に履歴書を出して」

「履歴書⁉︎ 」


 一体どうしてこんな話になっているのだろうか。

 目の前のテーブルに一列に並んだ四人の男女、てか新聞部のメンバーを前に一人、椅子に座って向かい合っていた。さっきまでただの長テーブルだったのに、いつの間にか面接官と受験者の位置関係に様変わりしてしまった。


「あー、えっと君、水原……くん?だっけ? 」

「いや今さっき話してたばっかだろ」

「マナーがなってない。全く社会良識がなっていないわね」

「お前らのがよっぽど良識に欠けとるわっ‼︎ 」


 思わず立ち上がって訴える先には、まるでどこかの司令のようにテーブルに肘をついてこちらに目を向ける俊也と、何かバインダーのようなものを手にしてため息をつく優理の姿。え、なんでこの人達こんな偉そうなの?てか何なのこの空気⁉︎


「まーまー、そう興奮しないで。取り敢えずお茶をどうぞ」

「あ、あぁ……すみません! 」


 横からそっとお茶を出してくれたのはツンツンとした黒髪の男子だった。何だか訳知り顔で、肩をポンポンと叩かれる。

 良かった!この異様な空間において、この人はまともっぽい!


「じゃ、飲んで一息付いたら、面接を再開するか」

「面接⁉︎ 」

「あぁ、無理して長く話さなくて良いから。簡潔を心がけてな」


 やっぱりまともじゃなかった!まともそうにしてる分余計タチ悪いわっ!


「あーもう既に採点始まってるっすよ。お茶は湯呑みを三回回して頂くのが原則。出来てないのでマイナス5点」

「茶道かっ!面接のただのお茶だろっ⁉︎」

「不必要に煩いツッコミ。マイナス15点」

「誰のせいだよっ、しかもそこだけ点数配分高い‼︎ 」


 端に座っている男子が訳のわからないことを宣いながら何やら紙に書き込んでいる。片手でパソコンのマウスを動かしながら、完全にこの変なノリについていってる……これもまともじゃない。


「秋斗うるさい。いいから黙って言われた通りにしなさい」

「ついに名前言っちゃったしよ⁉︎ 」


 はぁ……一体なんだというのか。確固たる決意を胸に、さながら少林寺の門を叩く若者のように、新聞部のドアを叩いたのがつい数分前。入部希望の旨を伝えるや否や、優理に有無を言わさず締め出され。ようやく入れたかと思ったら、テーブルに並んだ俊也たちと向かい合う形で椅子に座らされてこのザマである。


「で、履歴書だけど」

「だからねーよっ」

「全く、最近の若いやつはなっとらんな」

「あんたらと同じ歳なんだけど……」

「まあいい。では自己PRを」


 まるで企業の面接だ。もう何を言ってもこの流れに持っていくつもりらしい。


「はぁ……えっと、水原秋斗です。高校一年で、えー、自己PR……」

「鬱陶しい名前なので改名して」

「そこから⁉︎自己PRじゃないの⁉︎ 」

「水というのは不吉なので終焉の焉にしましょうか」

「2つを天秤にかけろっ‼︎どっちが不吉か一目瞭然だろ‼︎ 」

「じゃあ原よりも城の方がカッコいいな」

「聞いてる⁉︎俺の声届いてる⁉︎ 」

「焉城秋斗か。今流行りのキラキラネームというやつか」

「これ名字だから!先祖代々受け継いできた宝物‼︎ 」


 優理に始まり矢継ぎ早、四方八方から好き勝手な言動が降り注ぐ。もやは暴言の無法地帯といっても過言ではない。


「ふむ……では皆さん採点を」

「採点⁉︎ 」


 俊也たちはいつの間にか持っていたフリップをオープンした。


俊也「8」

聖麻「7」

粋「9」

優理「死」


「何からツッコんでいいか分かんねーよっ‼︎ 」


 なぎ払いたいこいつら。


「これはあれですよ、水原……先輩のツッコミの採点っすよ」

「え、今ナチュラルに呼び捨てにしようとしなかった? 」

「やだなぁ、親しみやすいのでついですよとかんなことどーでもいいんで、採点の内訳に入りますよ」

「既に嘘じゃねーかっ‼︎ 」


 さも面倒そうに頭をかきながら恐らく後輩─中等部の人間だろうか─が淡々と話を進める。


「基本的に採点は17点満点だ。減点方式で点数をつけていくんだが──」

「ちょっと待って下さい、基本的にっていつもやってるんですかこんなこと」

「いや、初めてだけど」


 やっぱりおかしいこの部屋!


「てか17点って。なんかえらい半端な」

「意味はない」

「ねーのかよっ‼︎ 」

「いや17って素数じゃん。他と比べて仲間ハズレにされんだろ?特に17はな、7が数字の中だと浮いた存在とかいう話があるけど、あいつはラッキーセブンていう2つ名があるからな。だけど17はラッキーでも無けりゃ、7も入っててかつぼっちの素数だ。なんか可哀想だろ」

「めちゃくちゃ深い理由あったよちょっと感動した! 」


 これまで沈黙していた俊也がぽつりと語る。


「俊也は思いつきで言ってるだけ」

「返せよ感動を‼︎ 」


 すかさず水をさす優理。ズレているようで連携がとれているようにもみえる。


「まーそういう訳っすよ」

「いや何が 」

「確かにそのツッコミは見事だと思います。けど、そうやって何でもかんでも大きな声でツッコミしてりゃ良いってものでもない。要は緩急っていうんですか?もっとペース配分や流れを考えてつっこんで下さい」

「したくてしてるんじゃねーよ!あんたらが絶え間なくボケるからでしょ⁉︎ 」


 以上選評終わり。

 無茶苦茶な暴論を散々振りかざし、


「おっと、その前に。自己紹介をしなきゃならなかったね。第一印象は何事においても大切だ」

「第一どころかもう第十くらい積み重なってんだけど……」

「そうそう、たまにはそう投げやりなツッコミも織り交ぜて」

「うっせーよ‼︎ 」


 人をツッコミ専用のキャラみたいに言わないでくれない⁉︎


「じゃあ左から順に紹介していこう。まず、優理君からね」


 俊也は相変わらず面接官のような態度のまま話を進めていく。


「初めまして。監査役の火渡優理です。以後よろしくしたくないのでとっとと帰れ」

「そっこー第一印象ぶち壊しにきた! 」


 初めましてでもないし。


「中等部の向井聖麻です。企画立案妨害工作なんかを担当してます」

「すごい物騒なの混じってる! 」

「以後どーでもいいんで特になし」

「最悪な印象増えたよ!」


 この中等部男子は緩急がありすぎてついていけない。


「折濱粋だ、主に文芸担当をしてる感じか。よろしくな」


 まともそうに見えてこの部に染まっているから油断できない!


「初めまして。初めましてって恐ろしい言葉だよな。初めて会う人に向けた挨拶だけど、これ昔会ったけど覚えてない人に使うと凄いダメージっていうか。俺もよくクラスの女の子に使われてたけど、あ、やばい泣けてきた」

「いいから本題に入れよ! 」

「えーっとアレだ、なんだっけ向井」

「事務雑用じゃないっすか? 」

「あー、それそれ。そんな感じなんでよろしく。藤咲俊也です」

「雑用なのにど真ん中にえらそうに座ってるの⁉︎ 」


 もうめちゃくちゃだ。

 原点回帰したい。


「てか何してんだよこれ……俺は入部希望でここに来たんだけど」

「だから面接だよ」

「やっぱ面接なのかよ⁉︎ 」


 知りたくなかった。


「当然。我が社に相応しい人材かどうか、見極めるテスト」

「社⁉︎会社なのここ⁉︎部活だろ!」

「企業理解のある人にきてほしいからね。ちゃんと予習してきたかな? 」

「何の業績があるんだよ⁉︎ 」

「秋斗うるさい。いいから黙って座って」

「んなバカな……」


 俺はぜったいに間違っちゃいない。だと言うのに、目の前に座る奴らはさも良識がありますとばかりにすまし顔だ。もう何が正しくて何が間違っているのか……


「ただいまー! 」


 困惑の果てを彷徨っていた時、元気の良い声とともに、後ろのドアが勢いよく開かれた。


「あれ?皆何やってるの?」

「……ろくなことじゃないと思うけれど」


 入ってきたのは二人の女の子だった。

 一人は青色のショートカットに、パッチリとした明るい紅い目が特徴的な女の子。やや短めのスカートをひらりと揺らし、前に歩いてくる。

 その後ろからは、小柄な女の子が続いた。翡翠色の綺麗な髪に紫陽花色の瞳を……えらく冷めたような視線を俊也の方に向けている。


「見りゃ分かんだろ、入部希望者だよ」

「え⁉︎ホントに⁉︎ 」


 言うが早いか、青い髪の女の子は目を輝かせてこちらに振り返った。翡翠色の髪の女の子は、特に何も反応せずに俊也達の机の方へ。


「入部希望者の方ですか?

あたしは穂坂香織!この新聞部の部長です!」

「あ、えーと……」


 香織という少女にいきなり手を取られ、ブンブンと振られてしまう。何か、物凄い歓迎のされ方だな……逆に怖いぞ。


「俺は水原秋斗!高等部一年だ、部活はえーと、昔入ってたけど今は何も無いな」

「あ、同期なんだね!こっちは2C組だよ、あっちの俊也も。それからかすみんがD組」

「そうなのか、よろ──」


 よろしく、と言う間もなく、香織に両手を取られてまた振られる。


「ようこそ、新聞部へ‼︎大歓迎だよ! 」

「あ、いや、まだ入ると決めた訳では……」


 どちらかというと、考え直そうかと思い始めているんだけどな。

 しかし彼女は手を離さない。むしろぐいぐいと引っ張って──


「是非見学していってよ!そしたらきっと気に入ると思うから! 」

「いや、でも今なんか面接というか」


 ズルっ。

 足元がふらついたと思ったら、堪らずに前のめりになって!やばいっ、地面にぶつかる⁉︎


「きゃあ⁉︎ 」

「うわぁ⁉︎ 」


 むにゅ。むにゅむにゅ。


 ……ん?痛くない?なんか顔に柔らかい感触が。いや、柔らかいだけでなく程良い弾力とハリが。なんだこりゃ。


「………」


 顔を上げて、ようやく状況が呑み込めた。と、同時に顔が青ざめていく感覚を覚える。

 目の前には制服の胸元。赤いリボンと2つの膨らみ……そして、真っ赤な顔をした彼女が。


「え、えーと……」


 バシンッ!

 頬に強烈な衝撃が。目の前に一瞬星が舞っては落ちた。


「おぉ……なんというスキルだ。」

「産まれながらしての才能。これが主人公補正ってやつだね」

「神に愛された証、か……」


 ……なんか面接官たちが盛り上がっているが。


「ヘンタイ」

「わざとじゃねーよっ⁉︎ 」


 優理だけは冷め切った瞳でばっさりと。思わず立ち上がってしまう。


「ご、ごめんね!つい手が……大丈夫? 」


 慌てて駆け寄ってくる香織。まだ顔が赤らんではいるが。


「あ、うん。気にすんな。そもそも倒れたのは俺だし」

「そう、秋斗はバカだからほっといて大丈夫」

「優理ちゃん⁉︎君が言うセリフじゃなくね⁉︎ 」

「ちゃん付けするな」


 コホン。

 俊也が咳払いを1つ、まだ偉そうな面接官のような態度のまま、周りを見渡してみせた。


「どうだろう諸君!入室から僅か数分、彼の才能はとどまることをしらない!彼には更に特別な試験を用意してはどうだろうか!……っと、すまん向井 」

「俺はこっちっすよ」

「え」


 熱くなったらしい俊也が手を伸ばした先には、先程の小柄な女の子が。具体的には、女の子の胸元……というか胸の部分に。バッチリと。


「…………」


 振り返って、みるみる青ざめていく俊也。


「……あ、あーっと、ごめん霞ちゃん」


 ばしんっ。

 本日二度目の乾いた音が、部室に響き渡るのだった。



「……えー、では採点でーす」


 頬を手形をくっきりと付けて、どえらくテンションの下がった俊也が、声をかけると、皆がフリップを。


俊也「深イイ」

粋「論破」

聖麻「大喝采」

優理「変態」


「あの……最早点数でもないんですが」


 因みにそこかしこに危ないワードが散りばめられている。つっこむ方が恐ろしいという周到ぶり。


優理「ド変態」


「って、書き直すなよ⁉︎ 」


 結局つっこんでしまった。


「そろそろ飽きてきたな」

「普通に話を聞きますか」

「じゃあ片付けよう」

「最初からそうして⁉︎ 」


 いきなり面接用の机配置を元に戻す俊也達。どんだけ自分勝手な人達なんでしょうかね⁉︎



 息つく間もなく、またもやドアが勢い良く開いた。


「あ、ここにいた。せんぱーいっ! 」

「げ」


 顔を覗かせたのはまたもや女の子。セミロングの黒髪に、可愛らしい容姿をしている。その娘を見た途端、俊也が顔をしかめてしまった。


「いきなり失礼な人ですねぇ」

「自分の心に嘘は付けない性格でね」

「むー」


 少女は頬を膨らませながら、ツカツカと俊也の元に歩いていく。


「おーっほほほほほほ‼︎ 」

「今度はなんだ⁉︎ 」


 やたら甲高い笑い声が室内に響く。


「この癪にさわる笑い声は! 」

「もう決まり文句みたいになってんなぁ」


 香織と俊也がドアの方に目を向けると同時に、開かれたドアから何と……

 しゃるらーんと仰々しい効果音と共に、金髪縦ロールの、いかにもザ・お嬢様という感じの女の子がポースを決めていたのだ!……誰?


「呼ばれて飛び出て、白ノ宮希妃、ここに参上ですわー! 」


 ……誰か呼んだのか?


「誰も呼んでねーっすけど」


 やっぱり呼んでなかった!


 香織が金髪の少女の前で対峙した。


「希妃ちゃん!」

「あら、別に貴女ごときに会いに来たわけではありませんわ」

「何ですって⁉︎ 」


 早速睨み合う二人。何だろう、パッと見でも分かるぞ……この二人、犬猿の仲だ。


「このような貧困な馬小屋……あら失礼、名ばかり新聞部に、血迷った入部希望者がいるという情報を得ましたので。気紛れに見物に来て差し上げたのですわ」

「頼んでないわよっ」


 悔しそうに歯ぎしりをする香織に対して、余裕しゃくしゃくといった感じで扇子を仰ぐお嬢様。


「彼女は? 」

「あぁ、白ノ宮希妃さん。うちの学校には新聞部の他に、新聞委員会ってのがあってね。彼女はそこの人間なんだよ。まぁ必要以上に対抗意識があるみたいだけど」

「なるほど……」


 粋先輩はそう言って苦笑混じりに肩をすくめてみせる。どうやらライバルってことみたいだ。



「初めましてー」

「え? 」


 ガヤガヤと賑やかな中、取り敢えず所在もなく立っていると、目の前でひらひらと振られた。


「わたし、古湊茉莉です。中等部三年」

「あぁ、俺は水原秋斗。高等部一年だ、よろしくな」

「はい、よろしくでーす♩」


 茉莉といったのは先程の黒髪の少女だ。

 ニッコリと微笑んで、彼女は両手を取ろうと──


「あー、気を付けろよ。そいつ猫被り激しいからな」

「なっ、せんぱい!人様の前でなんてこと言うんですかっ、営業妨害ですっ」

「何の営業だよ……」


 茉莉は再び頬を膨らませて俊也に文句を言いに行く。


「彼女は部員じゃねーっすよ」

「え、違うの? 」


 いつの間にか隣にいた聖麻がポツリと呟く。


「因みに俺も部員ではねーっすけど」

「違うのかよっ⁉︎ 」


 もう何か人間関係が複雑過ぎて分からねーよ‼︎



「………」


 窓を開けて、空を眺める。

 青空は澄み渡り、彼方まで伸びている。雲はのんびりと空を漂い、見続けないと分からないくらいゆっくりと動いている。


 上はあんなに静かだというのに……



「随分賑やかな場所だなぁ……」


 次から次へと。落ち着く間もなく、安定する間もない。

 ……でも、何か楽しそうだ。何となく、優理が気に入った理由が分かったような……気がしないでもない。かも。



「……取り敢えず、座ったら? 」

「あぁ、サンキュ。えっと、君は……? 」

「成條霞」


 霞という名の少女に勧められて、取り敢えず俺はテーブルについた。さて、これからどうなるのやら……


「あ、水原くん!歓迎会どこでやりたい? 」

「もう入部したことになってる⁉︎ 」





すみませんでした。四方八方に話が飛ぶのが通例の新聞部です。どうか1つ、大目にみてあげて下さい(笑)


半ば強引に引き込んだ形になりますが、秋斗くんは厄介な場所に足を踏み入れてしまったことになりますw

これから秋斗くんの事情や経緯なども、少しずつ話に織り交ぜていければ良いなと思います。暫くは9月のとりとめもない話を続けていければと。よろしくお願い致します。

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