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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
Summer Time !!
80/91

星の見える窓



「……分りました。超ド級にヘタレなせんぱい一人で行かせるのは私としても目覚めが悪いので一緒に行ってあげます」

「お前人の事言える義理なんですかねそれは」

「いきなり“お前”呼ばわりとか恋人気取りですかちょっとナイですね、いやいやナイですあり得ないです」

「いい加減にしねーと言葉の傷害罪で訴えるぞ、心が多大なる損害を受けた」


 目の前に広がるのは、月明かりすら入り込まない、闇に包まれた廊下。昔は白く綺麗だったであろう壁は、内のアスファルトが剥き出しになっていて……錆ついた鉄筋も不気味さを一層引き立てている。


 その奥から、つい今しがた、人の笑い声が聞こえてきたのだ。女の子の声がする、という噂と一致するのかはまだ分からない。空耳、だと思いたいが……


「で……声、聞こえます? 」

「いや……」


 俺の服の裾をキュッと握って、古湊は恐る恐るといった様子で前方に目を向ける。こういう所はやはり女の子らしい。

 何だかんだと言い争ったりしながらも、後輩と調査を続けることになったのは良いのだが…ここってホテルのどの部分なんだろう。なんだかここだけ様相が異なりすぎて──


「とりあえず……行くか」

「はい……」


 一寸先は闇……という程大袈裟ではないが、しかし通路の奥は闇しかない。ユラユラと蠢いているその先へ、一歩、一歩と足を進めていく。


「せんぱい……なんか気の紛れる話して下さい」

「俺がんな気の利いたこと言えると──」

「何でも良いですっ 」


 何なんだ、余裕ぶったり怖がったり、女の子ってホント複雑ね!


「えーと、アレだ……ご趣味は? 」

「え? 」

「だから、ほら、お前の趣味は何だという話でさ」

「……お見合いですか? 」


 はぁ?と物凄くムカつく顔で呆れられていた。何でも良いって言ったじゃん……


「えーと、じゃあ何だ……古湊は部活とか入ってるのか? 」

「いえ、特にはないですね」

「そうなのか……」

「なにかやってそうに見えました? 」

「うーん、マネージャーとかやってちやほやされてそうなイメージがあったから」

「ふふん」


 何故か自慢気に、嬉しそうに口元を緩める古湊。


「美人マネージャーですか」

「いやそんなこと一言も言ってないんだけど」

「いいえっ、ちやほやされるマネージャー=美人マネージャーです!」


 暴論も甚だしい気がするが……


「つまり、せんぱいもそう思ってるって事ですねー」

「……まぁ、否定しないけど」

「え」


 自分で言い出した癖に、認めた途端、目をぱちくりとして惚けてしまう。キョトンとした表情で。


「性格は難ありだけどな」

「ぐっ……一言多いですね」

「だから人のこと言えないだろそれ」


 加えてそう言うと、今度は異議ありの視線で睨んでくる。

 喜怒哀楽が激しいというか、色々と忙しない奴だ。


「私、あんまり運動とか得意じゃないじゃないですかぁ」

「その知ってる体で話すのやめてくんない?全く知らないから」

「だから、そういうの向いてないんですよねー」

「そもそも会話が向いてない気がしてきたよ」

「体育会とかって敬遠しがちですし……でも茶道部とか、なんかそういう清楚系?っていうのも合ってないっぽいですし……気分屋とかよく言われちゃいますし」

「清楚系て……」

「どこにも入れそうにないっていうか……ま、縛られない女っ、的な感じですかねー」


 あははー、と軽く笑ってみせる古湊。どうしてか、少し無理をしてるような笑顔にも感じられた。理由は分からないけど……



「そういう意味だと、新聞部(うち)はぴったりかもな」

「へ? 」


 つい、そんなことを口にしてしまった。


「あー、アレだ。うちって気分屋な奴、つーか変な奴多いしな」


 自由人の集団といっても過言ではない気がする。


「それに、部員大歓迎キャンペーン期間だし。うちの部長さんはとにかく部員増えれば泣いて喜ぶからな」

「そうなんですか? 」

「何分廃部の危機まで宣告されてる身でね、生き残りをかけた正念場って訳」

「………」


 慌てて、言い訳のようにそう付け加える。が、事実それは正しい。人数の問題で廃部寸前にまで追い込まれている現状だ。何とか人数は揃ってきたが、先の事はどうなるかは分からない……まぁそんな心配するほど部に思い入れがある訳でもないのだが。あと人が増えれば仕事減るし。


 暫くきょとんとしていた古湊だったが、ハッとしたようにこちらに睨みを寄越してきた。


「って、それ私を変な奴扱いしてるって事ですか!」

「え、それ間違ってるか? 」

「全然ッ違いますっ、せんぱいの方が100倍変人ですっ」


 100倍ときた。そりゃ光栄ダネ。


 なんて話をしていたら、暗闇の中に、一つの扉が見えてきた。不意に、今自分達がどんな状況にあるかを一気に引き戻された。再び上着の裾が強めに引っ張られる。


「せんぱい、部屋が……」


 それは、見るからに異様な扉だった。

 廃墟、とはいえホテルだ。先程まで見てきたのは、黄ばみ剥がれた壁に埋め込まれるようにして並ぶ、くすんでヒビ割れた木製のドアばかりを目にしてきた。


「………」


 これは全く違った。何というか、綺麗過ぎる。まるでここだけ、時の流れから切り離されたような……

 確かに、他の扉も昔は綺麗で格調高かったものであることは窺える。だがこの扉は綺麗“だった”ではなく、現状綺麗なのだ。クッキリとした木目、光もないのに滑らかに感じる表面、金属のノブにはサビ一つない。明らかに異様だ……


「待った」


 ふら〜っと、ドアノブに手を伸ばしていた古湊を慌てて制止する。目が慣れてきた、よく見ると、ここの通路の壁も比較的真新しい感じがする……おかしい。


「せんぱい?」

「ここは……」


 開けちゃいけない気がする。そう言おうとして、しかし口をつぐんだ。



 冷静になろう。マンガやアニメでもあるまいし、幽霊とか異次元とかある訳がないではないか。いや、こういう言い方すると巻き込まれるパターン起きそうだけど、いやいやナイナイ。怖くてなんかそんな感じがしてるだけだ。きっとアレだ、修繕工事とかしてたんじゃないかな?廃墟だけど、何か新たな用途の為に、今はきっとその途中で──

 


「っ⁉︎ 」


 不意に服が思い切り引っ張られる感覚。


「あ、あれ! 」


 古湊の視線の先、それはいた。

 ヒラリと、赤いワンピースのようなモノをはためかせ、暗闇の奥に立つ子供の姿が。一瞬、それはクスリと笑ったような気がした。かと思えば、また暗闇の奥に消えてしまう。




「………」


 状況に頭が追いつかず、取り敢えず顔を見合わせる。ぞぞっと、背筋に寒いものが這いずるのを感じた。


「せ、せせせせんぱいっ!あああアレって!」

「お、落ち着け後輩」


 ぐいぐいと腕を引っ張ってくる後輩を窘めようとするものの、自分の声も上ずってるのが分かった。

 そうだ、落ち着け。冷静になれ。隣で慌てている人間がいるからか、何とかそう自分に言い聞かせることが出来た。


「追うぞ」

「えっ、マジですか……」

「あぁ、謎は全て解けた」

「……は? 」


 幽霊等の可能性は当然だが除外。となれば、あれは現実に生きている人間だ。見たところ、子供、それも女の子のようだった。

 今回の依頼は、夜中に廃墟から女の子の声がする、だ。となれば恐らくは……


「近くの子供とかが悪戯心で侵入したとかな。無垢な年齢なら面白がって入り込んだりしててもおかしくはないだろ」

「な、なるほど……」


 十分おかしいが、幽霊云々よりは遥かに可能性がある。そう思わないとやってられない。

だからそれを確信に変える為に、進まなければ。



 という訳で、扉を無視して、通路の奥へと足を進めていった。おっかなびっくり、時には目を瞑りそうになりながらも。

 最初は余裕ぶっていた古湊は、今やすっかり慎重かつ恐る恐るといった様子だが、それでもやはり、好奇心の方が勝るのだろう。多少強がりじみた軽口を叩きながらもついてきた。


 どのくらい歩いただろうか。ついに通路は突き当たりに至った。が、女の子の姿はない。

 すると今度は、右手に階段が見えた。窓がないので下は暗闇が不気味に包むばかりで、恐怖心は一層強くなる。


「………」


 無意識に息を呑み、そしてゆっくりと足を踏み出していった。隣に女の子、それも後輩がいる為か、下らない見栄を少々、何とか平静を保つ。

 一歩、また一歩。降りていくうちに、暗闇は少しずつ、溶けるようにして後退していった。目が慣れてきたのだろうか……いや、


「……あれ? 」


 単純に、前方から光が出てきた。窓があったのだ。


「ここって、さっき通った場所だよな」

「え、ええ……多分」


 先程の真新しい壁や通路の面影はどこへやら、階段を降りた先は、廃墟の建物そのものだった。剥がれた壁と汚れた廊下、錆が目立つ窓。最初にこの建物に入ってから、目にしていた光景となんら変わらない。


「てことは、やっぱり上の階は工事とかの跡か」

「そうですね、だからいやに不気味に感じたんですよ」


 言い知れない安堵感に俺たちは思わずホッと息をつく。この廃墟自体相当怖いが、先程の場所よりは遥かに現実味があるからだ。

 だが、まだあの女の子の行方が分からない。月明かりのせいで、いやに明るく感じる通路を、また進んで行く事にする。


「いやー、でもさっきはせんぱい見事なヘタレっぷりでしたねー。ま、まさかその反応が母性本能をくすぐるであろう計算を私に向けるという」

「オイ、露骨にテンパってた奴が何言ってんだ」

「私は良いんですっ、女の子はギャップがあった方が可愛いんですっ」

「はっ、おめでたい奴だな……」


 随分会話に余裕が出てきたな……やべーよコレ麻痺ってるわ。とまぁ気力?が回復したのか比較的軽い足取りで進むこと5分。



 グスッ。

 静まり返った廊下に、再び人の声が聞こえてきた。


「……聞こえましたよね? 」

「あ、あぁ」


 けど、さっきの笑い声と違って、なんだか嫌に悲しそうな声のような……

 同じような声が再び響く。声の聞こえた方向へとやや早足で向かうと、一つだけ完全に閉まっていない扉を見つけた。ひょっとして声はこの中から聞こえてくるのか……何となくそんな気がして、俺はノブに手をかけた。


「……鍵、かかってないんでしょうか」

「よく考えりゃそうだよな……掛かってて然るべき──」


 ガチャ。

 空いちゃったよ……大丈夫かコレ。


「お、お邪魔しまーす」

「誰に言ってるんですか……」


 キギ……っと、古びた木が地面の金具に擦れて軋む嫌な音が耳を掠める。

 流石にズカズカと入っていける程度胸は無いが、例の女の子の謎を解かなければ、それこそ安心して寝ることが出来ない。


 ぐすっ。


「ッ⁉︎ 」


 ドアを開けて、汚れた壁に挟まれた狭い玄関を抜けると同時に、再び声が聞こえた。今度は今までで一番、ハッキリと。


「ばかっ、引っ張るな」

「ほら、せんぱいの専用案件ですよっ」

「俺はいつからゴーストバスターになったんですかね⁉︎ 」


 慌てて背中に隠れ押してくる後輩を何とか引き剥がそうとしているうちに、ルームの一室に躍り出てしまう。

 ええいこうなりゃ覚悟を決めろ、一体何が待ちうけていやがる!逸らさずに、視線を部屋へとぶん投げるように向けると……



 そこに、少女の姿を見つけた。

 やや、間を置いて。目があった。


「……あ、れ? 」


 赤いシャツに、花柄のスカート。赤いサンダルを履いた女の子が、ベッドの上で、体操座りのような格好で、座っていたのだ。


「りこ……ちゃん? 」

「え? 」


 暫く唖然としていると、裾から手を離して、古湊が一歩前に出た。ポツリと。そう声をかけながら。


「………」


 顔を膝に埋めていた女の子が、おもむろに視線を寄越した。

 ……この子、見覚えがある。いや、それどころか、つい昨日見たばかりだ。『ひまわり』にいた子供……その中で、隅っこに座っていた女の子。あの、ずっと俯いてた女の子だ。


「どうしたの、こんな所で! 」


 慌てて駆け寄る古湊だったが、女の子は視線を向けたまま、顔を上げようとはせず、動こうともしない。心なしか、肩を震わせているような……


「りこちゃん……? 」

「………」


 よくよく見ると、彼女の目尻にはうっすらと涙が浮かんでいるのが見えた。オイオイ、これは幽霊とか言ってる場合じゃ……もっと良くないことが起こってたりするかもしれない。


 後輩もそれを察したのか、強張った表情ながらも驚かせないよう、そっと寄り添う。


「大丈夫?もしかして、誰かに連れて来られたりとかした?」


 ふるふる。首を横に。

 ようやく女の子が反応を見せた。


「じゃあ、誰かから逃げて来たとか?怖い人に声かけられたりとかしてない? 」


 ふるふる。これも違うようだ。顔を見合わせて取り敢えず安堵の意を示し合う。どうやら事件に巻き込まれているといった事はないらしい。


「りこちゃん一人? 」


 コクリ。僅かに首を縦に振って見せた。

 女の子がこんな場所に一人でいる時点で、かなり奇妙な話ではある。いったい何が……


「ん? 」


 思考しながら、ふとある物に目に止まった。

 ベッドの傍らに、画用紙が一つ、置いてあったのだ。両端が少し丸まっているのだが……


「せんぱい? 」


 そっと紙を手に取ってみる。古湊もこちらを覗き込んでくるので、あわせてゆっくりと広げてみる。

 

「これは……」


 絵だ。クレヨンで目一杯描かれた絵。


 一面黒い夜空に、黄色い点がいくつも乗っかっている。そして、その夜空の下、望遠鏡を囲んだ三人の絵が、描かれていた。


「………」


 一人は男性。緑色の服に……これはリュックだろうか、黄色いリュックを背負っている。その隣にはピンクの服を着た女性が、茶色の鞄のようなものを持っている。


 そしてその間に、女の子が。赤いお洋服を着て、リボンをつけて、オシャレをして描かれていた。



 三人とも、満面の笑顔だった。


「なぁ古湊……これって」

「はい……」


 多分、ご家族の絵だと思います。



 言うまでもなく、ベッドに座る彼女はこの真ん中の少女なのだろう。父と母、家族のとても幸せそうな絵。笑顔が溢れる、キラキラと輝いた宝石箱のような日々。

 彼女が何故、『ひまわり』に預けられることになったのかはわからないが……その日々が失われてしまった。



 ズキリと。胸に言い知れぬ鈍い痛みを覚えながら、古湊の言葉にゆっくりと頷く。絵を閉じて、少女の傍らに戻そうとした。


 すると、女の子の瞳がそろりとその絵を追うように動いた。



「……お母さん」


 ポツリ。か細い声で、少女はそう呟いた。


「……」


 きゅっと唇を噛み締めて、何かに耐えるように肩を小刻みに震わせている。屈んで、膝をついて目線を合わせる。


「……これが、お母さん? 」


 頷く。


「これは、どこか旅行に行ったのかな?」

「……星」

「星? 」


 同じように屈んでいた古湊が、優しい声色で尋ねると、


「お母さんと……お父さんと……一緒に」

「見に行ったんだね」

「……うん」


 俯き加減だった女の子は少しだけ警戒を緩めてくれたのだろうか、おもむろに顔を上げて、俺たちと少しだけ目を合わせてくれた。


「どうしてこんな所に? 」

「……約束」


 約束?

 彼女は小さくそう言って、窓の方へと目をやった。倣うように、その四角い枠へ、カーテンも外されて剥き出しとなったそのガラスを望む。


「あ……」


 思わず息を呑んだ。



 視界いっぱいに飛び込んできたその光景。

 一面に深い漆黒が広がり、そこに満天の光の粒が散りばめられていた。一粒一粒が、煌々と命を燃やしている。それが何百、何千と一斉に輝いているのだった。


 美しい星空の絨毯は、どこまでも高く、どこまでも広く、俺たちを見下ろすように伸びていた。


「………」


 暫く見入ってしまった事に気が付いて、ふと横に目をやると、古湊もまた同じようにポカンとした間の抜けた表情で、窓の外を見上げていた。

 ここまで綺麗な夜空は、郊外とはいえこの辺の都会付近では滅多に見れないだろう。


 俯き加減のまま、今にも消えいりそうな声を絞り出す。


「お母さんと、お父さん……また見ようねって」

「それで……」


 天体観測の約束。

 それはきっと、彼女にとって最も大切な思い出なのだ。何よりも、誰よりも、一番優先することであり、彼女の支えだった。


「……必ず戻ってくるって……だから、星が見える場所で待ってて……って」


 どんなことがあっても、子供を捨てるなんて許される事ではない。そんな事は、言うまでもない事だ。そうやって周りの人間が誰しも声高に人徳や義心を謳う。それは決して間違っている事とは言えない。人間を、人間たらしめる理性が故に。

 だが、他人のそれは度々凶器ともなる。幾つもの顔の無い義憤が、当人達をどれ程追い詰めるのか、ほとんどの他人は想像することが出来ない。だから負の鎖は余計に強く縛られる。顔の無い良心は、たちまち刃となって、人を傷付けてゆく。



 例えば、今目の前で両親を思い泣いている女の子。彼女の両親へ、考えも無しに怒りをぶつける事は正しいか。いや、正しい正しくないという分別で片付けることがそもそも出来ることなのか。

 俺たちは、ご両親の心を知る術がない。彼等にどんな事情があったのか、知る由がない。その事を大前提に置かなければならない。知らないことは悪いことではない。全てを知ることなんて不可能なのだから。だが、知らないという事を意識することは出来る。その前提に立たずに、闇雲に正論を振りかざすことは、状況を解決する手段として上等とは言い難い場合も多いと思う。ならば、だったらば、一体俺たちに何が出来るのだろうか……



 その時だった。


「大丈夫」


 その光景に、思わず目を見開いた。

 いつの間にか、俺はただ、目の前の少女を包み込む、後輩の小さな両腕を見つめていた。


「大丈夫だから」


 それは、気休めでも偽りでもない。心の底からの言葉。単に場を収めようとするいい加減さを微塵も感じない。ただ、この少女を助けたいと願う、純粋でとても力強い言葉。そんな風に感じ取れた。


「……ごめんね。気付いて、あげられなくて」

「………」


 冷酷な現実と非常な世界、それらを全て踏まえた上で、古湊の抱擁は続いた。

 その腕に抱かれた少女は、暫く呆然としていた。何が起こったのか理解出来ない、その温かさを、彼女は久しく知らなかったのだろう。ただただキョトンとしていて。


「でも、もう大丈夫」


 それでも、古湊の言葉は、暗く沈んだ室内にほんのりとした温かさを灯す。


「りこちゃんがそんな悲しい顔をしてたら、お父さんもお母さんも悲しんじゃうよ」


 そっと、少女の瞳に色が戻った。


「皆一緒だから。一人じゃないから。

だから、私達と一緒に、お父さんとお母さん……待っててあげよう? 」


 じわりと。その瞳が大きく揺れて。


「笑顔で……ね? 」


 すすり泣くような声はやがて、大粒の涙と共に流れ落ちた。胸が詰まるような辛く切ない悲しさが、しかし希望を持てるような温かさに包まれた、心を洗い流すような、少女の本当の声が、星空の下に木霊したのだった。


 その光景に、自分の中の何かが重なり、強く胸を打った。思い出なのか、なんなのか。記憶にもない不思議な光景だ。だから思った。

 彼女の声に応えてやることが、出来ることが自分達にあるのかどうか。部外者の、何の関係もないような自分達に。そんな大層な人間なのか俺は。それでも、何か一つでも出来ることがあるのだったら……俺は、







 それからどのくらい経ったのだろう。


 泣き声を聞いて集まってきてくれた皆。事情を古湊が説明して、泣き疲れて眠ってしまった少女を抱え、俺たちは入り口まで戻った。『ひまわり』の優香さんに連絡をとり、迎えに来て貰うことにした。


「なぁ、古湊……お前」

「いやー、もうホント怖かったですよぅ。せんぱいは全然頼りにならないですし、東堂先輩が一緒だったら、色々良かったんですけどー、なんて」

「は? 」


 さて、少女を諭し保護した後輩だが、大人しくしているのか思いきやそんな事は全くなく。きゃるるん☆スタイルにいつの間にかフォームチェンジ、今がチャンスとばかりに、進一達にアピールを仕掛けていた。……頼りにならなかったのは認めるけど。


 けれど、優香さんと共に帰ることになった彼女は、別れ際にふと真剣な表情になって、ご迷惑をおかけしましたと、頭を下げた。


 思う所があって、優香さんに手を引かれ、いつの間にか目を覚ました少女の元に駆け寄った。


 

「……星、好きか? 」


 おもむろに声をかけて、ポンと、優しく少女の頭に手を乗せた。すっかり泣き腫らして、真っ赤になった瞳が、不思議そうにこちらを向いた。そして、おずおずと頷いてくれた。


「そっか、何座が好きなんだ? 」

「……アルゴ座」


 そして割とマニアックな回答が飛んできた。



 優香さん達が行った後、改めて新聞部のメンバーを振り返る。霞や進一を始め、事情を聞いた面々は、思い思いの表情である。結局帰らず入り口で待っていた部長も愛奈ちゃんも、今ばかりは怖がるよりも、少女の件が気になっているようだった。


「なぁ、みんなにちょっと相談があるんだけど……」






❇︎❇︎❇︎





 二日後。

 夕暮れの照らす、『ひまわり』のグランドには、施設の子供皆が集まっていた。気の強そうな男の子も、小さな女の子も、皆が〝それ〟を物珍しそうに、夢中で見つめていた。


「ねー、これなぁに? 」


 幼稚園くらいの女の子だ。霞の裾をちょいちょいと引いて質問をしている。


「これはね、望遠鏡よ」

「ぼーえんきょう? 」

「えぇ、お空のお星様を見る道具なのよ」


 相変わらず、俺には見せたことのないような優しい笑みで答えている霞。


「これどーしたんだ? 」

「新聞部のお兄さんお姉さん達が寄贈してくれただぞ、大事に使うんだぞ? 」


 今度は小学四年生くらいの男の子がやや興奮気味に、尋ねてくると、進一が望遠鏡を優しく撫でながら優しく語りかけている。



 『ひまわり』の子供たち、そして俺たちにも、白い望遠鏡の周りに集まっていたのだ。だから今、グランドはかつてない程賑わっている。



「へー、あんたにも星眺めるなんて趣味があったのかオッさん」

「オッさんじゃねーってんだろガキんちょ」

「ガキじゃねーってんだろオッさん‼︎ 」


 生意気なやつは、皆の輪から少し離れて木に寄りかかっている。因みに俺も輪から離れているがそこは気にしない。


「ねーねー、りこちゃん!何か見える⁉︎ 」


 そして、人だかりの中心。望遠鏡の目の前には、少女の姿があった。


「りこちゃんは、お星様に詳しいからね。質問があったら、彼女に訊くといいよ」


 粋先輩が爽やかな笑顔でそう言うと、皆の期待に満ちた眼がりこちゃんへと向けられる。彼女は照れて俯いてしまうが、


「おぉ、すげー!」

「りこちゃんすごーい!」


 そんな恥ずかしさなどお構いなしに、子供達はやんややんやと彼女へ楽しそうに話しかける。


「う、うん……これは、ね」


 戸惑いながらも、りこちゃんは望遠鏡の説明をしてあげていた。たじたじで、どもってしまって、それでも……



 彼女の頬にさした赤みは、喜びの証だと、はっきり分かるものだった。



「わたし!イチゴ座がみたい!」

「わたし、ラベンダー座」

「おれダイオンガー座」

「歪んだ社会の中でも変わらない一番星、そんな存在になりたい……なんて、思ってた時期もあったよ昔はね」


 おい一人絶対に子供じゃないやつ混じってたぞ。



「そうだね、この望遠鏡はスーパーモデルだから、未知なる発見が出来ちゃうかも! 」

「「すげー‼︎ 」」


 またあの幼馴染は、調子に乗ってテキトーな事を……まぁ、親父から貰ったものだし、割と本格的なモノなのは事実だ。


「おーいちびっ子諸君、今から星座盤を手裏剣のように投げるから白刃取りしてとってけよー」

「ちょっと危ないでしょ!普通に渡しなさいよっ」


 教室の奥から、向井と古湊が四角く立派な星座盤を持ってやって来た。


 眩しいくらい、笑顔と笑いの溢れる場所が、ここにはあった。その光は、夕暮れよりもきっとずっと強くて、とても温かいものなのだろう。

 その場所に、一人の少女が、少しずつでも良いから、足を踏み入れることが出来るように……御節介な不安と、それよりも強い安心を、そこに見て取れた。十分すぎるものだった。



 そっと、グランドから教室へ。

 教室の奥では、優香さんがニコニコとご飯の支度をしてくれている。愛奈ちゃんもそのしたごしらえに加わっていた。窓の外から見えるグランドの様子を見ては、二人で嬉しそうに笑みを零していた。


「なんか、手伝えることありますか? 」


 とはいえ、事実手持ち無沙汰な現状だ。なんとなく輪の中に入れない僕は、安住の地を求める。


「あら、俊麻呂君」

「俊也です」


 落語じゃないんだから。


「ふふ、ありがとう。じゃあ、これを手伝ってくれるかしら? 」

「うっす」


 お星様の型を渡されて、トレーの前へ。

 丸い肉とジャガイモのこねものを、星型に形作ってゆく。


「……俊蔵くん、ありがとう」

「何にもしてませんよ」

「いいえ、目に見えなくても……とても大切なモノを貰ったわ」


 俺たちにしてあげられる事、なんてそんな言い方は傲慢かな。単に、したいことがあった。だからあの後、それを皆に伝えた。


 『ひまわり』で天体観測をしてみるのはどうか、と。皆二つ返事で了承してくれた。そして、昨日1日かけてその用意をしたのだ。自分一人ではどーして良いか分からなかったものも、皆が集まり提案すれば、それもすぐだった。ウチにあった望遠鏡を綺麗にして『ひまわり』に寄贈すること、星座盤をみんなにプレゼントすること、何より『ひまわり』の笑顔の輪の中にりこちゃんが自分から入っていけるきっかけを作ってあげること。余計な御節介なのは百も承知だったが、それでもやらなきゃいけないと思った。


 天体観測をしてみよう。優香さんと古湊に相談し、子供達は勇気を持ってりこちゃんへと手を差し伸べた。そして、


「りこちゃんが、自分から歩み寄ってくれた結果ですよ。彼女が、それから子供達が勇気を出したから」

「えぇ、そうね……」


 優香さんは目を細めて、作業の手を止めた。


「ここは、『ひまわり』は本当な良い子達ばかりよ」

「ですね」


 拒絶され続けた相手に、また誘う勇気を持って踏み出すことは容易なことじゃない。にも関わらず、彼等は躊躇いなく踏み出した。それぞれ色々な事情、深く傷付いている子供達ばかり……そんなものは何も知らない外の考えだ。ここの子供達はとても強く、逞しく、毎日を生きている。それがはっきりと分かった。そんな強さに、りこちゃんもまた、勇気を出して応えてくれたのだろう。俺はただ提案しただけ、きっかけも結果も、全て子供達の中で巡っているのだ。


「結局自分なんて上っ面だけというか、口では何とでも言えるけど……後味が悪かったから嫌だったというか、つまり自分の事しか考えられない人間っすから。お礼を言われるのは筋が──」

「……なるほどね」


 噂通りの人なのね。何がおかしいのか、優香だけでなく、隣にいた愛奈ちゃんまでクスクスと笑っていた。


「噂、ですか? 」

「ううん、何でもないわ」


 それでも。そう言って、優香さんはいきなり手をとって


「ありがとう……藤咲俊也君」


 


 優香さん達の手際の良さに比べて、俺はごく一般的なスピード。少し遅れて始めたとはいえ、彼女達が終わる頃にも、まだ三分の一も終わってなかった。彼女達は手伝おうと言ってくれたが、何だか情けないし、何よりまた手持ち無沙汰になっても嫌だったので、


「お二人は少し休んで下さい、子供達に顔を見せてあげたり……ちゃんとやっときますから」


 という訳で、教室に一人残ることになった。

 にしても、こういった単純作業って無心になれるから楽でいいよなぁ。いやでもずっと同じことが続くと考えるとそれはそれで怖いよなぁ。とかよく分からない雑念を脳内に張り巡らせながら仕事をしていると……



「あれ、せんぱい一人ですか? 」


 入り口から古湊が覗き込んできた。後ろから夕暮れに照らされ、橙色に染まった髪と、


「どっからどー見ても一人だろーが、それ以上に見えるなら眼科にでも──」

「その言い方がもう独り者っぽいですね」

「ほっとけ」

「……優香さん達は? 」

「休憩中。グランドに出たんじゃないのか? 」

「……そーですか」


 用は済んだろ、とばかりに俺は作業の方へ集中する。集中……集中……集……


「んだよ? 」

「え? 」

「え?じゃなくて、まだ何か用があるのか? 」


 古湊は動かず、というかむしろこっちに近付いてくるので気になる。


「いえ、別に用事ということでは」

「あ、そう……」

「って、何で後ずさるんですかー」


 近付いてくるので自然と後ずさる。

 だって何か良からぬ事を企んでそうだし警戒しておくに越したことはないだろ」

「ひどっ、ホントにわたしの事何だと思ってるんですかねぇ……」

「人の心の中を読むな」

「自分で声に出してたじゃないですか……」

「あーじゃあ気にすんな、建前だから」

「絶対本音です今のっ! 」


 そう言って頬を膨らませる古湊。相変わらず今日もそのアピール癖は絶好調らしい。


「せっかく、せんぱいが一人寂しくしているから、お手伝いしてあげようと思ったのに」

「いらん帰れ」

「ちょっ!可愛い後輩に対してなんですかその言い草はっ」

「お前の場合常に策略めいたものが見え隠れしてる気がすんだよ……あと自分で可愛い言うな」


 と言って追い返そうとしたのだが、ひょいと古湊が余ってた星型の型抜きを奪って、隣に陣取る。


「相変わらず失礼ですね、善意ですよ善意」

「善意という言葉の意味を辞書で引いてから──」

「一人より二人の方が効率もいいし、楽しいですよ? 」

「……はぁ」


 もうツッコむのにも疲れたので、テキトーにさせておこう。




 あーだこーだと、下らないやり取りを何回往復したか分からないが、ひとまずトレーにあった全ての型抜きと卵を塗って小麦粉をまぶす作業を終える事ができた。


「よし、これで終わりか」

「ね、二人の方が効率良いでしょう? 」

「へーへー、助かったよありがとう」

「感謝の意が薄いですねぇ」


 不満気にジト目を向ける後輩だったが、ため息をついてまぁ良いですと引き下がった。それでどこかに行ってしまうのかと思いきや、ずっと隣に立ったまま。何事か、もしかして具合でも悪いのか、と声をかけようとすると──


「……ありがとうございました」


 ぺこりと、頭を下げてそんな事を言ってきた。


「え、いや」

「今回の事で、せんぱいにも色々とご迷惑をおかけしましたし、お世話にもなったので」

「……俺は別に」


 何もしていない。と口にしようとしたがあっさり遮られる。


「あー、良いですせんぱいの捻くれアピールは。いりませんそういうのは」

「んだよ捻くれアピールって、そんなもんアピールしてどーなるんだ」

「そーゆうのに弱い女の子も世界のどこかにはいるかもですから」

「ねぇちょっと?俺がまるで君みたいに下心のみで動いてるみたいな理解止めてくれる? 」

「誰が下心のみで動いてるですかっ、わたしは純粋に答えてるだけです!」

「俺だって純粋に答えてるだけだっての」

「と、とにかく! 」


 パチンっ。目の前で両手を叩いて猫騙しをされた。


「せんぱいの言い分なんかどーでもいいんです、理屈とか過程とかそんなの関係なくて……りこちゃんの件も含めて、色々とありがとうございましたという話です」

「……わ、わかった。礼は受け取っとくよ」

「それで良いんですっ」


 まったく、どんだけ捻くれてるんですか。

 はぁ。深々とした重いため息、溢れたのは古湊とほぼ同時だった。


「何でせんぱい如きのお礼にこんなに手間をかけなきゃいけないんですか」

「嫌ならしなきゃいいだろ……」

「あー言えばこう言う」

「そりゃお互い様だ」


 ……けど、そんだけの礼を言うために来たというのも律儀というか難儀というか。よく分からん奴である。


「あ、後アレです」

「どれ? 」

「この間の事はぱっぱと忘れて下さいね」


 この間……というと、りこちゃんを諭した件について、だろうなぁやっぱり。


「別に悪いことじゃないだろ……まぁ意外な行動だったが」

「悪いことです、あんな姿を見られてせんぱいの好感度が上がったら一大事ですから」

「余計な一言のせいで台無しになってるから安心しろ」


 それもまたわざとらしく。取って付けたような。


「アレは……昔同じような事があって、その時のやつを真似てみただけです。それだけです」

「真似てって……誰の」


 そこで、ピッと口元に人差し指を添えられる。


「せんぱい、女の子の秘密を詮索するなんて悪趣味ですよ? 」

「………」


 ……なるほど、然りだな。


「あ、でも別にわたしの設定が由来とかそんなんじゃないですからね。それを知ったせんぱいが好感度アップに乗り出しても残念ながら御断りするので時間の無駄でもないような気もしますけどつまりそーゆうのは時間をかけてゆっくりやるべきですぐに設定公開とか浅はかにも程がありますから無理に好感度上げに来られても──」

「しねーから安心しろ」

「むむぅ」


 わざとらしく頬を膨らませる古湊。「せんぱいみたいな人じゃなくて、東堂先輩と二人だけの時なら好感度アップだったのになー」なんて文句を宣いながら、あからさまに顔を背ける後輩。


 よく分からない奴だ。ふわふわしてるかと思えばしっかりしてるようで。難儀な性格かと思えば変に律儀で。何も考えていないようで、いつも何かを企んでいるようで。学校での姿も、私生活の姿もほとんど知らないが……ただ、ここの子供達をとても大切に思っている。毎回余計な一言が付くけどな。


「でも、感謝は感謝です」

「……だから分かったって」

「今のはりこちゃんと子供達を代表してのお礼ですよ」


 少しだけ。本当に少しだけ。

 古湊茉莉という女の子を、理解できたのではないか。そんな気がした。

 全く、ひねくれてるのはどっちなんだか……


「せんぱい? 」

「なんでもない、優香さんに出来たって伝えてくるよ」

「今笑ってませんでした? 」

「笑ってねーよ」

「いーえ、笑ってました」


 あーだこーだと、また下らないやり取りをしながら教室を後にする。

 射し込んできていた夕焼けは、先程よりも暗くなってきているのにどうしてか暖かく、どこか心地よいような気分がした。これから星が出てくる。都会の明かりは強くて、見えない星は沢山あるが……それでも、ここの子供達は見上げてくれるのだろう。


 いつか、自分達だけの星を見つける事が出来るようにと……






「……あ、」

「?」


 不意にりこちゃんが前から走ってきた。俺たちの前で足を止めると、おずおずと顔を上げた。


「どうしたの? 」

「優香さんが……終わったらこっちに……持ってきて……て」

「そっか。わかった、今から行くって伝えて? 」


 古湊が頭を撫でてそう言うと、頷いてまたパタパタとその場から


「あ、そうだ」

「? 」

「君に聞きたい事があったんだけど……」


 ふと思い出した疑問。振り返る彼女に


「りこちゃんは、どうしてホテルを走り回ったりしてたんだ? 」

「? 」

「いや、俺たちが部屋に行く前、上の階の廊下にいただろ?」


 廊下で俺たちの前に現れる前も、隅に人影を見たりした。ひょっとして、最初から俺たちを案内するつもりで……


 と思ったのだが。


「……部屋から、出てない、よ? 」

「……え? 」


 りこちゃんは、そう言い残して、今度こそ皆のいるグランドへと戻っていった。

 で、残されたのは二人。もとい、顔の青ざめた先輩と後輩。


「……せんぱい? 」

「……うん」

「今の、どういう事ですか? 」


 りこちゃんと会う前、俺たちは廊下で人影に遭遇している。それを追っていったら、彼女の部屋に辿り着いた。だから、人影はりこちゃんだと信じて疑わなかったし、それ以外考えられないのだが……


『……部屋から、出てない、よ? 』


 ……つまり?


 じゃあ、あの時俺たちが遭ったのは?確かにあの階だけ何かいような雰囲気に包まれていたが……



「せ、せせせせんぱい!」

「だぁっ⁉︎」


 いきなり腕を掴まれたので危うく心臓が止まるかと思った。


「星見よりお祓いに!今すぐ厄払いに! 」

「ば、ばばばバカなこと言ってんじゃねーよ。んなのあるわけが」

「だって現に!赤い服の女の子がっ」

「お、落ち着けよ。アレだよ、近所の平行世界の子供が遊びに来たんだよキット」

「せんぱいが落ち着いて下さい! 」


 ちょっとした、いや大騒ぎになったのは言うまでもない。主に、俺たち二人だけが。







 同時刻。名条学園 映画研究同好会室。


「お疲れーっす」

「お疲れ。いやー、しかし一昨日はいい感じに撮影が進んだね、今回のホラー作品」

「なんせ廃墟ホテルを使った作品だからね。まぁ、セットとかは新しく作って置いてるけど」


 小さな個室で四人ほどの男女が、お菓子をつまみながら談笑をしている。


「最上階をリフォームしたってセット。アレは本格的でいい仕事してますよ」

「実際歩いてると、いきなり真新しくなってね。異様な雰囲気として映像としてもいい味出してますからね」

「まー僕らは許可取ってますからアレですけど…何も知らない人が肝試しとかで迷い込んだらヤバイっすよねあの階」

「あー、それは怖いわ」


 あっはっは。明るい笑いが室内に飛び交う。


「あ!そーいや、幽霊役の小畑さん。休憩時間に人脅かしたって自慢してましたな」

「え?それって、マジで肝試しで来た人がいたってこと?」

「さぁ……ただ、もしそうならまずいっすね。下手に幽霊廃墟だとか騒がれたら、あの場所使えなくなるかも」

「今度廃墟の入り口に張り紙しておこう。映画研究会が撮影用に使ってますって。許可貰ってるしね」

「そうっすね、ははは。しかしまさかその人達ホントに幽霊だと思ってるのかな」


 はっはっは。先程よりも大きな笑い声が、室内から廊下にまで漏れていた。俊也と茉莉が知るのは、もうちょっとだけ、先の話。




 そんな、夏休み最後の1日。8月31日。





 


長くなりまして、大変申し訳ございません!

これにて、夏休み完了です。次回からは二学期!また新しい仲間が増えちゃったりします。〝彼〟の視点で二学期のスタートを切るべく、鋭意制作中ですのでよろしくお願いします!


───────


「では、これより面接を始めます」

「面接⁉︎入部したいのに面接があるのかよっ⁉︎ 」

「当然、わが社に相応しい人材かどうか、見極めるのが僕たちの役目だからね」

「社⁉︎会社なのここ⁉︎部活だろ! 」

「うるさい。冷静に、とっとと座って」

「冷静に皆おかしいだろ⁉︎ 」



─────────


さてはて、二学期はどんなスタートになるのか。後もう少しいろんなキャラを掘り下げていく学期でもあるので、何卒よろしくお願い致します。

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