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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
Summer Time !!
72/91

光熱砂上のテンプテーション

「語尾にon the beachって付くと何かトレンディーだよな」

「先輩ってホント馬鹿ですよね」


 下らない前置きはどうでも良いので本題へ。


「「はあぁぁああ⁉︎ 」」


 素っ頓狂な叫び声に、ビーチは一瞬静まり返った。日焼けを楽しんでいたお姉様方も、砂でお城を作っていた子供達も、波に立ち向かおうとするサーファー達も、何事かとこちらに振り返る。


「何?事件⁉︎ 」

「進一、田中くん?どうかした? 」


 慌てて駆け寄ってくる香織と由美。発信元である二人は、すぐさま首を横に振ってみせた。


「い、いや!なんでもないんだ」

「そう、大したことじゃない。単に……そう、ゲームの話だよ」


 苦しいか?海にまで来てコソコソ何をやってるんだと訝しむような香織の表情は──


「うーん……ま、いいけど。早く皆もおいでよ!バレーしよ、バレー! 」


 たちまち輝きだした。流石海!多少の疑念も解放感とともに消し飛ばしてくれるんですね素敵!

 ……由美は未だ怪訝な表情のままだが、それでも早く海に入りたいのだろう、首を傾けたまま浜辺へと走っていった。既に雨宮や愛華は楽しそうにボールと戯れている……やだ羨ましい!俺もあの中に混ざりたい!

 という欲求を抑えて。女性陣がすっかりいなくなった所で、俺は声を落として連中を見回す。


「声が大きいぞ」

「そりゃ大きくもなるわ」

「肉が無いって、一体どういうことだよ藤咲」


 野郎五人。声を潜めて輪をつくるこの光景は傍目からどう映るのだろう。しかしそんなことを気にしてもいられない。

 クーラーボックスの中から肉が全て強奪された経緯を手早く説明し、ボックスの中身を改めて見てもらった。


「やばいな」

「あぁ、やばい」


 何がやばいかって。言うまでもない、女の子たちだ。女の子の反応だ。美少女6人の反応である。


「特に火渡あたりは楽しみにしてたみたいだからな……結構上等の肉だったし。この失態が知られたら串刺しにされて俺らがバーベキューにされる危険もあるぞ」

「いや、由美も怒らせたら相当やばい。あいつ、朝は抜いてたし、普段は体重気にしてるから滅多に食べられないけど今日は……って」

「成條先輩も冷静な振りしてますけど、肉にはこだわってましたよ。ほら、肉用にパイナップル用意しとけとか、タレはアレ使えとか言ってましたし」

「マジか……いや穂坂もさ、バーベキュー楽しみだってずっと話してたし、それが可愛くて……やばい、嫌われるかな⁉︎ 」

「そうじゃ、ナマコのやつらに名前を付けちゃろう。マッケンジー、ジョンソン、ネイソン、」


 弦を砂に埋めてもう一度輪をつくる。


「血に飢えた野獣どももそうだが……もっと大切なことがある」

「その言い方こそ聞かれたら殺されそうなもんだけどな」


 もう一度海の方へ目を向ける。女子達はさも楽しそうにビーチバレーを始めていた。あ、「ていっ」と火渡が華麗にスパイク。霞がひらりとかわし、ボールは香織の頭にストライク!「やったなー!」と楽しそうにボールを返す、おいおいボールより愛華の胸の方がたゆんと揺れてませんかちょっとこれどうなのちょっと。もう少し近くでお願い出来ませんか、ってそんなことはどうでもいい!

 夏の陽射しにも負けない輝きを見せる愛華と雨宮の笑顔。二人のそんな笑顔を見れば夏の暑さも吹き飛ばしてくれるだろう。


「愛華と雨宮、あの二人だってこの事態を知ったら胸を痛めるに違いない」

「そうかな?桜さんと雨宮さんなら、簡単に怒ったりしないと思うけど」


 田中よ、それは初心者の意見だ。何の初心者?


「ばっか、彼女達は現代の舞い降りた天使世界代表だぞ。慈愛と可愛さと美しさと儚さを詰め込んだ甘い綿菓子のような存在だ、そんなの当然だろ」

「先輩の話聞いてるとどんな卑屈な時でも自分はまだマシだと思えますよ、ホント」

「全くだ」


 失敬な。


「そうじゃない。彼女達のことだ、失態をおかした俺たちを寧ろ気遣ってしまうはずだ。自分が残念がる気持ちを抑えて、俺たちに「気にしないで」と慰めてくれるかもしれない。想像してみろ、その時の二人の笑顔を」

「「ゔっ……」」


 進一と田中は物凄い罪悪感に苛まれたような表情で言葉を詰まらせた。


「確かに……」

「凄い罪悪感だな……」


 「それはそれで……」とか呟いている後輩の言葉は聞かなかったことにする。


「とにかく、だ。彼女達を悲しませることだけは何としても避けたい」

「でも、具体的にはどうするんだよ? 」

「決まってるだろ」


 もう一度、キャッキャと遊んでいる女性陣に目を向ける。


「バーベキュー開始までに、何としても上等の肉を手に入れるんだ」





「あ、俊也!早く来なよ、バレーしよっ、バレー!」

「いや、それは後でな」

「えー」


 青い水玉のビニールボールを胸の前で抱えて頬を膨らませる香織。いくらか海水を被ったのだろう、蒼色の髪がそっと濡れている。水着も、デニム生地のミニスカートが濡れて太もものラインを浮き出しており、周りの男どもの視線を誘っているが……今はそれを心配してる場合ではない。


「ところでさ、バーベキューの肉なんだけど」

「あ、お肉⁉︎なんだ俊也、もうお腹減ったの? 」

「いや、違くてな」


 何故か嬉しそうに相好を崩す香織に自然とため息が漏れそうになる。楽しみにしているのは明らか……失ったなんて知れたら、と思うと。


「俊也くん、どうかしたの? 」


 しまった。気まずい表情がバレたのか、愛華が心配そうな顔つきでこちらに近づいて来た。


「あ、愛華……」


 ぎこちなく名前を呼ぶ。どうやらまだ慣れていないみたいだ。


「あれ?愛華どしたの? 」

「うん、ちょっと日焼け止め塗り直そうかなって……」


 そしたら、俺が困ったような顔をしていたから気になった……と言う所か。また気を遣わせてしまっているのか、俺は。


 しかし……改めて目にして思う。海から上がった彼女の姿もまたとても魅力に満ちていた。

 ウェーブがかった、ふわりとした髪は水しぶきを受けて艶を帯びていた。濡れた毛先もまた、普段とは異なる美しさを演出している。首筋や胸元の水着から、彼女の身体に残る水滴がつぅっと滴る度にドキリとしてしまう。


「いや、ホント何でもないんだ。ただ、あの肉っていくらくらいすんのかなーって」

「お肉のこと? 」

「単なる好奇心」


 人差し指を頬に、小首を傾げる彼女。隣で同じように香織がふむと考え込むような表情をしている。


 さて、一体どの程度の肉なのだろうか。ここには男子高校生が5人、5人集まれば文殊の知恵、5人の財布が集まれば文殊の財。多少上質な肉でも何とか──


「えっとね、お母さんがくれたんだけど……何か特産品?のサーロインとか何とか、貰い物なんだって」

「………」


 願いは塵芥と化し、儚く夏の海に消えた。



 

「つー訳で、何としてもサーロイン肉を手に入れるぞ」

「「………」」


 沈黙が降りる男子の輪。しかし、痛切な表情をしてばかりもいられない。俺たちに残された道は行動しかないのである。


「なぁ、正直に言うのはダメかな?悪気はないわけだし、穂坂たちだって分かってくれるさ」

「いや、肉となれば話は別だろう……食い物の恨みというのはえらく恐ろしい」


 実体験に基づく感想だ。

 確かに田中の意見も一理あるが、しかし今回は話が違う。相当上等の肉なのだ、こればっかりは……


「まぁ、確かに……それは分かる。俺も経験あるし」

「特に女性に関しては……ねぇ」

「そうじゃ、食い物は命の源じゃからな! 」


 最後の一人は何か色々とズレているが、大体の賛同を得られたので、取り敢えず話を進める事にする。


「けど、高い肉なんてどうやって手に入れるんだよ」

「「「……」」」


 それを考える為にも、とにかく行動しなくてはならない。俺たちは何とか焦りを抑えて浜辺の散策に乗り出した。



「そうだな。例えば……遊びに来てる大学生に譲ってもらうとか」


 大学生と思わしきサークルメンバー10人程の集団を見つけた。今時系というのだろうか、金髪や茶髪の若く派手な女性ばかりの集団である。


「バーベキュー? 」

「うーん、今日はやる予定とかないけどなぁ」

「へー、男の子だけで海なんて珍しいね」


 綺麗な女性達だが、ナンパをしにきた訳ではない。残念ながら目当てのものは持っていないようだ。


「あ、でもでも!あたし家にバーベキュー用のお肉あるから譲ってあげてもいいよ! 」

「え、本当ですか? 」

「うん、あたしの家すぐ側だし! 」


 と思ったら思わぬチャンス到来か⁉︎高いサーロインかは分からないが、最悪肉があれば何とでもなる。調理は男が担当するとか何とか言って、彼女達は遊んでて貰えれば……


 俺たちは期待に顔を見合わせていた。

 最近の女子大生はこんなにも寛大なんですね素敵!ついでに水着も大胆ですね!とくだらない考えを巡らしていると、お姉さんの一人がずいっと身を乗り出してきた。


「そ・の・か・わ・り♩

私達とちょっと大人の遊び、してくれない? 」

「「「え⁉︎ 」」」

「うふふ、君たち結構イケメンだし。一夏の熱い体験とか、ね♩ 」


 大人というのは大人な大人の大人によるアレですよね!

 俺たちはゾッとして顔を見合わせる。


「おいトシっ、何かヤバい状況になってるぞこれ」

「そうだぞ!よりにもよってこんな綺麗な人達と……いやいや!俺には穂坂が──」

「熱い体験?砂風呂かのぅ、それともレンガのサウナか! 」


 進一以外は無視して構わないアホ共だ。


「……つか、見間違いっすかね」

「何が? 」

「いや、女性なら……顎にあってはならないものが」


 冷静に。こともなげな口調で、向井が俺たちの視線を誘ってみせる。どこに?魅惑的な声色でこちらに迫るお姉さんの顔、半分下の口元。


「「「あ」」」


 よく見たらね。太陽の照り付けが強くて分かりにくかったけど、ありますね……剃り残したあとが、何かを。それはきっと、夏の淡い希望だったんだね☆


「あら?あらあら」

「………」

「うふふ、君達にはまだ早かったかな? 」


 沢山のお姉さん─お兄さん?─方が楽しそうにこちらを見て微笑んでくれた。「あーぁ、バレちゃった」「もう、せっかくお持ち帰りできそうだったのにー」と何やら物騒な声が応酬する。

 張り付いて動かない笑顔のまま、俺たちは即座にその場を退散した。


「……危うく海の藻屑と消えるとこだった」

「海ってホント怖いんだな」

「つーか、あんだけ人数がいて気付けないというのも凄いですけど」

「なんじゃ、肉はどうしたんかの」


 改めて海の包容力と恐ろしさを身を持って知った男子5人。俺たちは、たった数分でも大人になれるのさ……世の中を少し知った15の夏。


 アホもそこそこに、俺たちはその後も肉を求めてビーチを徘徊した。



「サーロイン?

そうだね、話はまずデュエルをしてからにしてもらおうか! 」


「願いを叶えたければ、バトルに三回勝つことです……さぁ、貴方のル○グを」


「はっ、バーベキューねぇ。構わないよ、僕の家には腐るほどお金があるからねぇ。ただしっ、僕のク○ッシュギア、ユニコーンに勝つことが出来らね‼︎ 」


「肉……か。懐かしい響きだ、あれはまだ俺が20の頃。ベトナムの森で部族の襲撃にあっていた時の──」


「あら、お肉が無いならフォアグラを食べればよろしいのではなくて? 」


「肉……つまり男子が組んず解れつ肉体美を打ち付けあって愛を育む……キタぁぁああ‼︎ 」


「バーベキュー?そんなことより、ロ○トルしようぜ! 」

「合意とみてよろしいですね‼︎ 」


 ……ろくな結果が得られなかった。というか、ろくな奴がいなかった。最後にいたのうるちさん?凄いやホントにどこでも来てくれるんだね!……俺たちもうダメかもなぁ。


「……どうすんだよ、肉どころじゃ無いような気しかしないぞこの海」

「この暑さですしね」

「暑さのせいだけなら、取り敢えずこの国はもうおしまいだよ」


 世の中上手くいくことの方が少ない気がするものだ。そう簡単に行くなんて最初から思っていた訳ではないが、これは今後の身の振り方すら考えさせられる事態になろうとは。

 殊肉の調達よりも本格的にこの海から退散する事を考慮し始めた時だ。俺は、付近の海の家の壁に貼ってある一枚のポスターに視線を奪われた。


「おい、コイツを見てみろ」

「ん、何だ? 」

「えーっと、何々……」


 黄色に燃ゆる太陽とそれを取り囲む綺麗な水色の空。色鉛筆にしては力強いタッチで描かれたその下には、高々と聳える青いポールとネットを挟んで浮き上がる赤いボールの絵があった。


「夏の……バレー大会? 」

「これがどうしたんだよ」

「よく見てみ」


 バレーの大会が行われるらしい、その宣伝ポスターだった。その何に注目したのか、ポスターにでかでかと書かれている優勝商品だ。


『特上和牛サーロイン バーベキュー用』


 わぁ何てご都合主義なんでしょう。いやしかしその認識は改めてる必要がある。

世の中、大体ご都合主義で出来てるように感じるのが人間だ。さっき世の中は甘くないと言っておきながら酷い矛盾だが、それもまた人間の生き方たる所以である。

 欲しいと思った瞬間に手に入らないと世の中の厳しさを噛み締める。しかし、また何かを手に入れた時に、それが今まさに必要な時も等しく訪れる。世の中ご都合主義だと感じる瞬間だ。総じて、世の中の厳しさと甘さは交互に訪れるものだ。その瞬間は認識出来ずとも、それは次への小さな布石である。

 その基準を冷静に自覚出来る日が来るのは恐らくずっと後なのだろうが。


 要するに何が言いたいのかというと、願ってもないビッグチャンスが到来したのだ。



 時期は何ともまぁ都合のいい今日これからすぐ。しかも参加は大会開始ギリギリまでオッケー。更に更に、メンバーはビーチバレーにも関わらず5名ときた。かなり広いコートなのか?

 会場は……あった、この更に先にバレー用のコートがいくつか並んでいる砂浜がある。


「……やるしか、ねぇな」

「参加しろってことだよな、ここまでお膳立てされてりゃさ」

「ま、たまには運動も悪くないですかね」


 夏の日差しが強くなる一方で、彼等の心にもまた、灯る火があった。それは意地か、プライドか、それともただの自棄っぱちか。


 夏の海で、男達は、今戦士となる。



「なぁ、ビーチバレーのルール誰か知っとるんか? 」

「「…………」」

得意技 引き伸ばし

口癖 次回に続く


下らないことばかりに時間を使ってごめんなさい。次回で終わらせます。もう暫しお付き合い下さいませ。

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