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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
49/91

昼下がりのキッチン

 

 

 オムライス。

 言わずとしれた日本発祥の洋食の代表格である。


 デパートのレストランで食べたお子様ランチのプレートから、三星のシェフが繰り出す銀のお皿の輝きまで。人により様々な思い出が脳裏に過ることだろう。チキンライスを包む柔らかな木葉型。スプーンで一すくい、ふんわりと卵のまろやかさとチキンライスが酸味、スパイスが奏でるハーモニーは絶妙で、口当たりが良く後を引かないそのバランスはといえば、まさに芸術と言えるだろう。

 

 故に、オムライスこそ日本における洋食のトップスターと言っても良いだろう。これは別に、俺がオムライスが大好きな事とは一切関係無い。これを今書いてる野郎がバイト先でオムライスばかり作らされている事もやはり関係無い。

 ………全く関係ない、これっぽっちも微塵も関係な──


 

 


 


 じゅうっ。

 コクのあるまろやかな香りが辺りを包む。


「黄金の絨毯をしいたフィールドに、速やかに白きベースを広げる。固まらないよう、くっつかないようにな」


 十分に熱したフライパンにバターがしかれ、手早くご飯が数回に分けて広げられる。パラパラと黒胡椒がかろやかにまぶされ──


「白いマナは二つまみ、まんべんなく手早く済ませる。しかし高くからだ、さながら天からの恵みを分け与えさせてやるようにっ」


 続けて白光りする岩塩が。すぐにご飯は豪快且つ軽やかに、しかし粒一つ飛び出ることなく巧みなヘラ捌きで炒められる。


「紅のはしっかりと熱する。我が盟約に基づき、その真なる姿を現すがいいっ! 」


 はけられたご飯の場所に、一気にケチャップ……いやトマトベースの何か調味料が。そのまま中火でじっくり煮詰めてゆく。


「傷痕を残さぬよう、常に精神を集中する。足元を掬われぬようにな」


 煮詰めているトマトベースを逐一伸ばし集めながら、更にそこに中濃ソース、刻んだ玉ねぎ、何か赤い液体─ワインだろうか─、パイナップルジュース、生クリームを入れていきながら更に煮詰める。

 次第にトマトの香りはコクと風味が彩る熟成されたものに変わっていく。


「互いの邂逅は丁寧に、しかし手早く。調和こそ世界の理の一端と知る」


 そして、パラパラになったご飯は一気に強火でからめられた。ダイナミックにフライパンが掲げられ、均等に、ばらつきが無いように、手早く。

 が、すぐに弱火に。フライパンは静まり落ち着いた。


「さて、黄金の衣……纏いし時全てが決する」


 卵がとかれたボウル、そこに少量の生クリームを注いでかき混ぜて別のフライパンに。十分熱されたフッ素加工の板に瞬く間に広がる卵。

 ソースにしっかりからめられた熱々のライスが乗せられ、まだふわとろな卵にささっとしかし丁寧にくるまれる。その手際さや見事としか言いようがない。


「これで……」


 滑り込んできた白いお皿に湯気を上げる木の葉型、ふんわり卵の上には最後の仕上げ、デミグラスソースとホワイトソースがかけられ──



終焉(フィナーレ)だ」


 空中に投げられたヘラがクルクルと回って手中に収まる。エプロンが軽やかに広がり、椎名小夜子先輩はその艶やかな髪をそっと撫でた。


 椎名先輩特性オムライスの完成である。


「おぉ……!!」


 そのお皿をまず一番に覗き込んだのは近藤弦。椎名先輩率いる【料理研究同好会】の会員1号である。

きっかけはコイツが椎名先輩を一目惚れして……いや、心意気に惚れたんだったか?まぁどっちでも良いか。


「これは、なんとも……美味そうじゃのぅ」


 弦の言葉につられた訳ではないが、俺も輝かんばかりに存在を強調してくるそいつにはついつい目線が吸い寄せられる。図らずも会員2号になってしまった愚者である。

 ……よりにもよってオムライスだとは。不覚。


「凄い手際の良さ……それに綺麗!」


 そして、弦の隣で興味津々で覗き込むのは穂坂香織。コイツは会員ではないのだが、何故かこうして同好会の活動場、家庭科室にいる。



 さて、テーブルに乗ったオムライスを見つめる三人。そして任務完了といった面持ちで腕を組む先輩。何だか妙な構図というか絵面というか。


 昼休みのことだ。のんびり一人ぽつんと教室にいた俺だったのだが。突如、下級生のクラスに何の躊躇いも無く入り込んできた椎名先輩により、抵抗する間もなくここまで連行されたのだ。弦はとっくに家庭科室で準備をしていたので流石というか何というか。香織に至ってはひょこひょこと勝手について来た始末。

 今回は手本だという事で先輩が作ってくれるとの事。ただで昼が食べれるならばと残ってもようかなと……オムライスだったし。



 そんなこんなで今に至る。

 テーブルに座った俺達の前に出来立てのオムライスがそれぞれ並ぶ。確かに凄い手際だな……


「色々と初めての試みも盛り込んでみた、是非とも食してみるがいい」

「え、それって実験台──」

「愚か者、単なる人体実験では無い」


 人体実験って言ったよ今この人。


「これは立派な活動だ。こうしてマナ生成術において、より良き改良を突き詰めてゆくのは前線で戦う我々の使命だ。常に変化する戦局において新たな試みは必要不可欠だろう」

「誰と戦ってんですかだから」

「細かい事は置いといて」


 確かにどうでもいい。


「とにかく口にしてみるがいい、これからお前らも生成術に磨きをかけていかねばならんからな」

「はぁ」


 言われるがままに、スプーンを手にとってホクホクと湯気を上げる卵へ。


「………」


 柔らかい。そっと触れただけで卵がふんわりと掬われる。くるまれたライスと一緒に口へと運んだ。



「!!」


 あまりに唐突だった。閃光、それは突き抜けるような衝撃と共に脳天から爪先に駆け抜ける。


 例えるならば調和。全て事象を手のひらに乗せて、微笑みを浮かべる菩薩のごとく。


「う、美味いぞこりゃあ!! 」

「やだ……嘘みたいに美味しい」


 柔らかなとろふわ卵はどこかコクがあり不思議なまろやかさを、しかしそれでいて後を引かない。チキンライスのデミグラスベースの南国風の酸味とスパイス、絶妙なパラツキと炒め加減。それらを互いが主張しすぎず控え過ぎずと最大限に生かされている。完成された調和がそこにはあった。


「美味しい……」


 卵にかけられたデミグラスソース、更にその上からかけられたホワイトソースも絡み具合がまた素晴らしく。箸ならぬ、スプーンの進むスピードは自然と早くなってゆく。

 隣では弦が凄い勢いで食いつくしており、香織も驚いたように口元に手を当てている。



「ふむ……それなりに口には入れられるみたいだな」

「いや、それなりどころか」


 一流、超一流だ。

 掛け値無しに断言できるほどのレベル、そう言っても全く過言ではない。


「……そうか、ふむ」


 驚いた。普段アレな言動を放つ姿─調理中ですら─からは想像出来ない、料理に関してはお店顔負けの実力だ。料理研究同好会というから勿論出来るとは思っていたが、まさかこれ程までとは……


「うぅ」

「ん?

どうしたんじゃ、香織。具合でも悪いんか? 」

「ううん、そうじゃなくて……何だかちょっと、敗北感というか」


 落ち込んだように少し肩を落とす香織。

 ……どういう意味だろう。


「こんな凄いのを見せられると……その、女子として負けてるかなぁ、なんて」

「? 」

「あー、ううん。やっぱり何でもないかも」


 ひょっとして、このオムライスの事だろうか。そういや香織もオムライスが得意……というか、よく作って貰っているな。

 確かにこのオムライスは美味しいけれど、だからって香織のが負けてるとは思えないが。


「ほうほう」


 しかし何を思ったのか、弦は香織と椎名先輩の顔を交互に見つめて頷く……いや、目線はそれより下に、二人の膨らみの方に向けられて──っておい。


「まぁあれじゃ、そがな気にする必要は無くてのぅ」


 ポンポンと肩を叩かれる香織は年相応。15歳の女の子らしい、平均的な膨らみは制服の上からもちゃんと分かる。一方、向かいの先輩は明らかに異なる。例えるならば双丘、明らかに大きなその膨らみの前では……平均的も控えめに見えてしまうというものか。


「発育ん大きい小さいなんざ、大事なんは──」

「誰も胸の話なんかしてないわよっ、バカっ!! 」


 メリッ。

 弦の足の甲には容赦ない香織の鉄槌が。てか、踏まれた足から聞こえてはならない音がしたような……


「───っ!?!?!?」


 転げ回る弦。それでも声をあげないのは男らしいが、残念ながら今のはお前が悪い。


「な、何? 」

「いやまぁ……」


 赤くなった香織が慌ててこちらに目を向けてきたので、さっと視線を逸らす。

 因みに、ついつい彼女の胸を見てしまっていたのは内緒。


「俺は平均的くらいが一番好きだけどな」

「えっ」

「あー、ほら。何事も極端なものよりは平均的というか、平穏なのが一番って言うか──」

「と、俊也の好き嫌いは関係ないしっ」


 見えすいた慰めなんて要らないもん、と呟いて顔を背けられてしまった。慰めるも何も、これに関しては本音なのだが……まぁいいか。また機嫌が治ってから……いや、いつ治るかは分からないけど。




 ま、最後のはゴタゴタはともかく。

 取り分け暇な昼休みや放課後に、無料(ただ)でこれだけ美味しい料理をご馳走になれる機会があるならば、たまにはの話だが、料理研究同好会の会員であるのも悪くないかも──


「さて、ではお前達のマナ補給の間に今までの我々の昔話、聖戦時の秘話を語ってやろう」

「……え? 」

「なに遠慮をするな。時には団欒もまた、戦い疲れた兵達の羽休めには必要な力となり得るのだ」

「………」


 前言撤回。


「ゾディアックと我々料理研究同好会の戦いは、今から遡ること数年間……といっても、それは一般に我々が感じている時間の流れとは大きく異なる」

「………」

「例えるならば、そうだな……この世界ともう1つ世界とに重なる唯一の時間帯、仮にこれをX時間としておこうか。それを──」



 やっぱりこの同好会は苦手です。



 


 


挿絵(By みてみん)


 



 


 放課後。

 部活の無いものは既に帰宅しているであろう空が茜色に染まりつつある夕方、椎名小夜子は家庭科にてため息をついていた。

 別段活動がある時間帯ではなく、俊也達もとっくに下校しているのだが、彼女はここに残っているのである。


「うん、とっても美味しいですね♪」

「………」


 その呆れたような表情は目の前のテーブルに腰かける一人の女子生徒に向けられている。


「明日菜」

「はい? 」


 名前を呼ばれた女子生徒が小首を傾げた。腰まで伸びた長く艶やかな黒髪が軽く揺れる。


「全くお前という奴は……よくもまぁノコノコと私の元に来れるものだな」

「ふふ、さよちゃんの料理が急に食べたくなっちゃって」

「だかといって、私達には互いの立場というものがあってだな」


 再びため深々と息をつく小夜子。


「さよちゃんはさよちゃん、私は私、ですよ」

「はぁ……その言葉は聞き飽きたぞ」

「もう、昔から強情なんだから」


 女子生徒は困ったような顔になったが、テーブルに置かれた料理を口にするとすぐに幸せそうな表情に早変わり。


「……言っておくが、こんな事はお前が幼馴染みだからであって。連中とは決して相容れるつもりは無いからな」

「………」

「連中とはいずれ決着をつける。だからこのままではお前とも本当に敵同士──」

「あ、これ美味しいです♪」

「聞けっ」


 二人の交わす言葉だけが響く、夕暮れの光射し込む家庭科室。


 そんな光景を、俊也達が目にするのは多分もうちょっとだけ先の話……






ご拝読頂き、誠にありがとうございます。

もう少ししたら、本編の流れにまた戻る予定です。具体的には部活にあれこれ関わる案件から始まる7月、そして夏休みへと話は進みます。


相変わらず遅い話の進み具合ではありますが、何卒よろしくお願いいたします!!

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