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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
45/91

暗中縦横

 


 剣道大会二日目。

 前日行われた団体戦、白熱した戦いの熱気冷めやらぬまま、舞台は個人戦へと移る。戦局を乗り越え歓喜した仲間達。或いは後一歩が届かず共に涙した戦友達。隣で戦い、苦楽を共にしてきた者達も、今日に限っては敵同士である。


 昨日の敵は今日の友。

 まさしくこの舞台は今をもって、友の血で仲間の血で己の刀を染め上げる、孤独と裏切りが支配する戦場と化したのであった。


「こんな感じでどうかしら? 」

「ここは関ヶ原か? 」



 そんなこんなで大会二日目。

 体育館に入場した俺達新聞部のメンバーはロビーに集まっていた。(っつても、いつも通りだらだらしてるだけなんだけど)


 部室とさして変わらない。周りの景色が違うだけで、中身はいつも通りのやり取りをしているだけだ。


 

 因みに香織は居ない。集まっているのはそれ以外の四人、彼女はといえば先程田中に会場周りの軽い散歩に誘われて行ってしまった。恐らく香織(あいつ)は田中の真意なんてこれっぽっちも気付いていないだろうが。田中は二人っきりになれると意気込んでいたので変に先走ったりしないか、正直心配で落ち着かない気持ちもあるのだが。俺なんかが「行くな」なんて言う訳にもいかないし……


「─君、俊也君」

「……え」

「大丈夫?もしかして、具合とか悪い? 」


 我に返ると視界に飛び込んできたロビーの景色と共に、島先輩が覗き込んできていた。

 しまった、先輩が話しかけてくれていたというのに。全くどうしたものか。


「……はぁ」

「何だよ霞」

「その反応が予想通り過ぎて呆れただけよ」

「? 」


 呆れた?

 先を促させる意味でも首を傾げてみせると、再びあからさまなため息をついて、霞がこちらをじっと見据えてきた。


「本当に……貴方は香織が居ないと全然ダメって事」

「えらく話題が飛んだなオイ」

「そこは否定しないのね。それと、ちゃんと話題は続いてるわよ」

「あのな──」


 勿論反論しようと口を開きかけたが、彼女の追撃はそれを許さない。


「さっきからしきりに外ばっかり眺めて。そんなに香織が心配? 」

「うっ」

「分かりやすいわね……本当に」


 呆れたと宣っている癖に何故か面白そうに口元を緩めている。視線を逸らしたのは彼女の言葉が図星だったからでは無く、その笑みに何か良からぬ展開を想像してしまったからだ。念のため。



「あ、おーい! 」


 暫くすると、香織が走って戻ってきた。やや息を切らせて。頬がほんのりと紅潮しているのは、走ってきたから……だよな?


「お帰りなさい、香織」

「ごめんね、かすみん。ちょっと遅れちゃったかも」

「そんな事ないわ。

まぁ、誰かさんはずっと気にしてたみたいだけど」

「えっ」

「ふふ……」


 待て霞、そこで何故俺に意味ありげな視線を向けるんだ。いや先輩方もちょっと視線を向けてくるのはアレというか。


「………」


 それ気付いたのか、香織まで俺の方をちらちらと遠慮がちに見てくるではないか。

 何だか変な空気になりそうだ、ってかなっているような気がするので。話題を変えようとそれらの視線を無視しつつ、天井に目を向ける。


「それより、もうすぐ会場入れんだろ。ちゃっちゃと段取りとか決めておこう」

「逃げたわね……」

「やかましい」


 遺憾そうな霞の呟きを無視して、俺は部活の仕事についてメンバーと段取り─と言ってもインタビューの割り振りや記事にする下書きなどの簡単なもの─を決めつつ、時間を経過させるのだった。



 

 



 白熱した剣道大会二日目の男女個人戦。

 三回戦までが終わった、男子ベスト16、女子ベスト8が出揃った所で朗報と悲報をいっぺんにまとめておこう。

 まずは悲報から。ベスト16までの段階で男子はほとんどトーナメントから姿を消してしまった。女子に関しては一名を残して敗退となってしまったのだ。

 だが、反面これは朗報でもある。現状男子は二名、女子が一名残っているのだが。高等科剣道部は男女共に、ベスト16に入ったのは実に5年振りだという。女子の8に至っては快挙といって過言ではない部類なのである。


「由美!やったね、ベスト8!八強だよ八強!」

「もぅ、大袈裟だってば。でも、ありがとう。香織の応援のお陰かな」

「由美ー!」


 女子でただ一人、勝ち残っているのは佐賀良由美。一年生ながらめざましい活躍である。時期エース候補はまず間違いないな。


 甘えるように由美に抱き着く香織。その何とも微笑ましい光景を目の保養にしつつ、男子勢の方に目を向ける。


「やったなぁ田中! 」

「スゲーよお前! 」

「次勝てば8(エイト)だぞ8! 」


 そう。男子で現在勝ち残っている、大会の16人の強者の中に田中康太の姿もあった。これは部内でも快挙らしく、男子勢は普段以上の盛り上がりをみせていた。


「あぁ、藤咲」

「おぅ、ベスト16おめっとさん」

「へへ、ありがとな!」


 今のやり取り青春っぽくないか?

 男同士の友情のワンシーンっぽいやり取りというか……


「それより、穂坂もここにいるのか? 」

「………」


 俺の青春、一秒で終わったんですけどちょっと。

 結局青春は女の子が一番だとでもいうのかやはり。


「あ、田中君。おめでとう!ベスト16だって、凄いね!」

「あ、あぁ、ありがとう。穂坂の応援はかなり力になったよ、大きかったし」

「えぇっ!?

え、えーと……私、そんな声大きかった、かな」

「はは、冗談冗談。力になったよ、ありがと」

「なっ、もう!田中君! 」


 田中、前より緊張せずに話せるようになっているんじゃないだろうか。

 何とも仲睦まじそうな二人、膨れた香織とそれを宥める田中をぼんやりと眺めていると……


「俊也君」

「あ、由美。

八強おめでとう、流石由美だな」

「ふふ、ありがと」


 いつの間にか隣に来ていた由美が、こちらに笑いかけてくる。黒髪のポニーテールがひらりと揺れる。


「俊也君の応援もちょっとは力になったわよ」

「流石俺は存在価値の低さも定評があるな」

「もう、相変わらずのひねくれっぷりね。そんな事言ってないでしょ」

「目は口ほどにものを言うということわざがあってだな」

「そんな目もしてないってば。というかね、『勝ったのは俊也君のお陰だよ♪』なんて言っちゃったら、香織に悪いでしょ? 」


 何が悪いのかさっぱり分からないのだが。取り敢えず今の由美のセリフと声が可愛かったです。


 不意に香織の方に視線を向けてみると、ちょうど彼女からの視線とぶつかった。田中と話している筈の彼女だ、偶々なのかそれとも意図的だったのか。ともかくぶつかった視線だが、慌てて香織の方から逸らされてしまった。

 気にならなくもない態度だが……


「それより……問題は進一の方、よね」

「………」


 ………そうだ。

 男子で勝ち残っている二人のうちのもう一人。それは言うまでもない、東堂進一。中等部の県大会でも準優勝、今大会でもルーキーながら優勝候補の一角とも囁かれているくらいなのだから。


 しかし、周りの予想に反して彼は進行はすんなりとはいかなかった。特についさっきの試合、ベスト16をかけた試合、進一にしてみれば格下の相手だった訳だが。それが結構な苦戦をみせる事になった、驚いたのは周り以上に本人だったかもしれない。それだけ、普段なら考えられない程に調子が悪いのだ。


 内外問わず、周りは単に『今回は東堂の調子が悪いようだ』という認識で通っているようだが……


「ねぇ、俊也君。進一に何かあったの? 」

「えっ」

「やっぱり変だから……それも昨日今日の話じゃない、ここ最近特にね」

「………」


 それは由美には通じないらしい。付き合いの長さからか、それ以外の理由があるからなのか。それは分からない。


「……悪い、俺には何とも」

「そっか……変な事聞いてごめんね」


 アイツの事情を勝手に話すのは気が引けた。それが本当に正しいのか正しくないのか。こんな時香織だったら違った方法をとったんだろう。彼女ならばきっとその性格と行動力で自分が正しいと思う方に運んでいくに違いない。


 そう思いながらも。

 ただ俺は、ゆっくりと首を横に振るに留まる。苦しんでいるかもしれない友人を目にしていても、他人の為だと言い訳をしながら、己の保身の為に二の足を踏む。結局俺は、その程度の人間でしかないのだから。







「俊也、お昼いこっ」

「は? 」

「せっかく良い天気だし、外でさ」


 ロビーに戻った途端、香織に腕をとられた。まだ周りに田中を始め、明条の剣道部員がいるというのに。何故そんな目立つ真似をするんだお前は、目立ちたがり屋さんかっ。


「あらあら、早速見せ付けてくれるわね」

「待て由美、そういう誤解を生みかねない発言は止めろっ」

「ふふ、本当に誤解かしら? 」


 この女、確信犯か。

 見ろ言わんこっちゃない、周りの男子どもがどうも懐疑的な視線を隠すことなく向けてくるではないか。田中もまた例外なく。


 何と言う事だ。

 高校という思春期真っ只中の枠の中で、人間関係を円滑に進めるコツは“目立たない”ことだと経験論的に──


「ほーらっ、早くいこ。由美、田中くん、また後でね!」

「えぇ、またね香織。後半も応援よろしく」

「あ、あぁ……また」


 せめて独白でくらい最後までやらせてくれ。


 何だか後々面倒な雰囲気をひしひしと感じながら、俺は香織に腕を取られたまま外に出ていかされた。


「何で俺だよ、由美とか霞とかと食べてくれば」

「だって、お弁当作ってきちゃったし。俊也の分しかないし」


 うっ……そう言われると何とも。更に言えばわざわざ皆の前でそんな姿を見せれば余計に誤解を受けそうだし。


 お昼を作ってきてくれたというのは、非常にありがたいので


「はい、どーぞ。幼馴染みの香織ちゃん特性お弁当」

「あぁ、サンキュ」


 藍色の包みを手の上に渡される。


「俊也は好き嫌い多いからね、今も昔も変わらずに」

「そうかな」

「つまり、俊也のお弁当は付き合い私にしか作れないと言う訳です」

「ふむ、なる程」

「そ、だから十分に感謝したまえよ」


 包みをほどいてふたを開ける。卵焼き、唐揚げ、ピーマンの肉詰め、ポテトサラダ。冷めても美味しい好物ばかりである。


「ありがたや、ありがたや」

「分かればよろしい」


 少なくとも俺の母親より母親らしい、と言った怒られるので拝んでおく。


「……ここで『香織は良いお嫁さんになるな』とか言えば好感度が上がるイベントに──」

「いやならないから」

「現実もゲームみたいにいったら楽なんだけどなぁ」

「それ誰の本音? 」

「さぁ? 」


 大体は今回の剣道大会、もしくは部活の事についての話題。お昼休みをのんびり気ままに過ごした。


「ごちそうさま、大変お美味ゅうございました」

「はい、お粗末さま」

「いつもお世話になってます」

「いえいえ、俊也のお母さんにも頼まれてますから」


 親しき仲にも礼儀あり。

 まぁ、このやり取りはふざけているだけだが。


「んーっ!

お昼食べたら眠くなっちゃった」

「まだ試合まで時間あるしな、少し寝ても良いんじゃない? 」


 ロビーや休憩室には長椅子もあるし、午後の為に寝ておくのありだろうか。残った三人の試合までは昼休みを挟んでもまだ大分時間がある筈だ。


「ん、そうする。

時間が来たら起こして〜」

「あぁ、了解……って、ちょっと待った」

「ん〜? 」


 そっと。膝の上にその頭を乗せてくる幼馴染み。あぁ、なるほど。眠るってのはここで俺の膝で寝るって事か……いやいやいや。


「お前何してんの」

「寝る」

「どこで」

「ここ」

「いやいや、ロビーとかで寝りゃ──」

「ここで寝るもん」


 そう言って頭を上げようとしない香織。もう勝手に目を閉じてしまう。


「充電なの」

「おいおい」

「午後も頑張る為に」


 そう言われては何ともかんとも。そうこうする内に、すぅすぅと小さな寝息を立て始める香織。

 参ったな、これじゃあかなり身動きが取り辛いぞ。しかし寝るの早いなコイツ。


「………」


 膝の上に乗る彼女の頭。直に感じるその僅かな重みと温もり。そして囁くように溢れる息。

 蒼く綺麗なその髪に触れてみると、彼女は頭だけを小さく動かした。


「……さて、どうしたものか」


 身動きが取れないこの状況。幸い広場のこのベンチ付近は今のところ人気は無いが……出来ればこのような姿を見られるのは避けたいな。いらぬ誤解を受けない為、特に見付かりたくないのは知り合いの中でも──


「あ、藤咲君! 」

「ぐわぁ」


 言い終わる前に懸念が実現してしまった。


 爽やかな五月の風が運んできた一人の少女。揺れる柔らかな髪と白いワンピースが目を引く天使である。


「え、えーと……おはよう、桜さん」

「間に合ったかな、午後からの試合」

「あぁ、うん。まだ時間あるから」


 愛華だった。午前中は部活だったからと、わざわざ終わり次第応援に来てくれるという話になっていて。


「そっか、良かった……って、あ 」

「………」

「え、えーと……」


 問題なのはこの状況で。

 愛華の目線の先は俺の膝の上、後先考えない無防備な幼馴染みだったり。


「ごめん、邪魔しちゃったかな」

「いやいやいや!

その認識は誤解というか、誤っているというか」

「ほほぅ」


 含んだ笑みで俺と香織を交互に見た後で、そっと隣に腰を降ろしてみせた。


「こんな場所で膝枕までしちゃって、誤解っていうのもなぁ」

「無理矢理だって、こいつの無茶苦茶知ってるでしょ? 」

「ふふ、そうかも」


 可愛らしく笑みを溢す愛華、実に罪作りな笑顔である。


「香織ちゃん、昨日も頑張ってたからね。応援に取材に走り回って」

「一番頑張ってるのは剣道部だけどな」

「ふふ、藤咲君も素直じゃないなぁ」


 間違った事は言っていないと思うのだが。


「疲れた香織ちゃんを癒すのは藤咲君の役目だもんね、いつだって」

「いやいやちょっと」

「何だかちょっと羨ましいな、そういうの」

「え……それって」


 どういう意味での羨ましいなんだろう。やや間があって、慌てて繕ったような表情が返ってくる。


「あ、うん。藤咲君が羨ましいって、香織ちゃんに膝枕させてあげられるなんて」

「あらら、そっちか」

「ふふ、秘密」


 それは残念、そう言って小首を傾げるその仕草は中々にグッとくるものが。ガッツポーズに引き続き上位入賞で。


「ん……としや」


 おーいちょっと、いくらなんでもお前そこで寝言とか


「可愛い寝言だね」

「え、あぁ……いや、どうかな」

「ふーむ、やっぱりお邪魔になっちゃうかな私」

「いやいや」


 付き合いの深い彼女にまでそんな風に見えるということは……これはますます他人に見られる訳にはいかないというか、剣道部員に見られでもしたら大事だ。


「香織、そろそろ……」


 まだ早いが小突いて起こそうとした、その時。再びその懸念が実現を。


「オーッホホホホ!! 」

「ぐあ」


 本日二度目。

 今度はやたらと面倒なヤツに見付かってしまったもんだ、ホント。


「華のあるところ、夢のあるところ、白ノ宮の姿あ──」

「はぁ……もう帰れ白ノ宮」

「って、全然態度が違いますのーっ!! 」


 目立ちたがりの前口上が好きな奴だ、相変わらず。現れるにしても少しは愛華を見習って欲しい。心臓に悪いから。


「暫く姿が見えないと思ったら……いつから覗き見てたんだよ」

「んなっ!?し、失礼なっ。この私が覗きなどする訳──」

「ここに座った時からか? 」

「オーッホホホホ!!甘いですわね、藤咲さん!さっきなんて私の尾行にかかれば昨日の大会前から……」

「なるほど、昨日からね」

「はうぅ!! 」


 両手で頭を抱える仕草。リアクションが一番分かりやすいのは彼女の取り柄だと思う。見ていて飽きない。


「ち、違いますのよ!?

別に私、その、藤咲さんを私的感情で見つめていたとか?そんな事では決してなく、穂坂香織率いる新聞部の動向を探る為に比較的ボーッとしている藤咲さんから確認しようと──」

「まぁその辺はどうでもいいんだけど。何だって今出てきたんだ? 」

「ど、どうでも……!?」


 あからさまにショックを受けたように崩れ落ちる白ノ宮。話を遮られたからか、やはりリアクションは分かりやすい。


「こら、藤咲君」

「え」

「もう、今のはちょっとダメだと思います」


 人差し指を立てて、たしなめるように顔を近づけてくる。あれ、何これめっちゃ可愛い。


「ま、まぁよろしいですわ。そんな事を言いにきたのではありませんの」

「「? 」」

「えー、コホンですのっ」


 咳払いのつもりらしい。


 そんな白ノ宮は一瞬こちらを見て、その後広場の出口の方に目を向けた。


「わざわざこんな事をお伝えするのもどうかと思いましたが」

「? 」

「先程、体育館に入ろうとしていた御夫婦と思わしき人物のお姿を偶然見かけまして」


 御夫婦?

 一体何の事で──


「体育館に入ろうとしたそのお二人は、何やら少々揉めた後、入る事を断念して戻っていかれましたが」

「だから何が……」

「西宮さんと、付近の清掃員とおぼわしき方がそう口にしておりましたわね」

「っ!? 」


 びくりと、心臓が跳ね上がった気がした。当事者でも無い癖に、最近いやに耳にするその苗字。まさか、アイツに会いに………いや、でも体育館には入らなかったって。


「それで、その二人は……」

「たった今、体育館の前からお戻りになられたようですから。まだ広場の入口の方にはいらっしゃるかと」


 思わず体育館の逆方向に目を向ける。


「あにゃっ!! 」

「か、香織ちゃん!? 」


 下の方で聞こえた悲鳴に、自分が立ち上がっていたのに気付く。香織が寝たまま地面に転がり落ちていた、がそんな事は今はいい。


「白ノ宮、お前何で……」

「私を誰だと思っていらっしゃるのかしら。天下に轟く白ノ宮の名を持ってすれば、情報網には羽虫一匹とて逃げる隙間はありませんの」

「………」

「他人の過去を勝手に調べた事、いくら職業柄とはいえ言い訳しませんわ」

 言ってから一気にしょんぼりと俯いてしまう白ノ宮。まるで怒られる前の子供のようで。


 全く、そういう態度をとるくらいなら素直に教えてくれれば良いのに。相変わらず損な性格だ。

 

「ありがとな、白ノ宮」

「ふぇ? 」

「じゃ、ちょっと行ってくるわ」


 ちょっと言葉足らずなお礼になってしまったが。

 きょとんとした表情の白ノ宮を後に、広場の入口の方に向かう事にした。



 西宮さんと言った。間違いない、アイツの……進一が呼んだと言っていた、亡き友人のご両親だ。アイツはそれを、自身の中のけじめとする為に、怪我をしても倒れても、無茶を通して今日までやってきたんだ。


 けれど。体育館に入らなかったという事は、やはり……


「……」


 部外者の俺が行ってどうなる問題でも無い。そんな事は分かっている筈なのに、間に合わない、帰ってしまうと思えば思う程、その足は止まらなかった。







「し、白ノ宮さん? 」

「………え」


 一体いつまでボーッとしていたのでしょう、我に返ったのは不意に肩を叩かれたからでした。

 振り返ると、不安そうな表情を向けてくる桜さんのお顔が。


「その、私……あまり事情は分からないけど。藤咲君の後、追った方が良いんじゃないかな? 」

「そ、そうですわね。では、そのお役目は貴女に任せます」

「え、え?私? 」


 その驚いたような表情には『まるで部外者の自分が何故』と書いてあるようで。


「私、これから白ノ宮家について諸用がありますの。ですから、ご心配であればどうぞ追って下さいな」

「で、でも……」


 藤咲さんの去っていった方向を見つめるも、あからさまに躊躇いを見せる桜さん。事情を知らないといえばそれも確かに、けれど勝手に事情を知った私もまた然り。


「まぁ、ご判断は貴女にお任せですの。それでは」

「あ、白ノ宮さん」


 先程落下した香織さんは未だに寝たまま、椅子にこてんと横になっていますの。

 全く何て無防備な。こんな所で、妙齢の女性が一人横になるなんて考えられませんわ。


 そんな間抜け極まりない彼女の側も通り抜け、藤咲さんが向かった方向とは反対の広場の出口へ。

 黒い白ノ宮の車が停めてあるのが目に入ります。


「おやお嬢様。もう、よろしいのですか? 」

「柏木さん、お時間を取らせてごめんなさいですの」

「いえいえ、何のこれしき」


 ずっと待っていて下さったのか、車の側には執事の柏木さんが立っておられました。


「お嬢様の栄光ある勝利の為です、この柏木粉骨砕身の所存ですゆえ」

「勝利、ですの? 」

「あ、いえいえ。こちらの話ですから」


 よく分かりませんが、含みのある笑みを浮かべる柏木さんは楽しそうなので良しとしちゃいます。


「しかし流石はお嬢様、藤咲さんの事となれば白ノ宮の」

「なっ、ち、違いますわっ!!私はただ、気になっただけですの!別に助けてあげようなんてこれっぽっちも──」

「はて?私は助けてあげたなんて一言も申しておりませんが」

「はうぅ!? 」


 いけませんわっ。

 何だか何だか良くない流れですの、えーと、ここはここは。


「は、早く帰りましょう柏木さんっ」

「おや、最後まで見ていかないんですか? 」

「試合の結果は他の方々に見届けていただきますから」


 それよりも私にはまだまだやる事がありますの。穂坂香織なんかとは違い、一つの出来事にだけ留まっている訳にはいきません。


「いえ、そうではなくて。お嬢様が常々気にかけていらっしゃる藤咲さんのご様子を」

「だっ、何を言ってるんですの!?」

「せっかく助け船を出して差し上げたのですし、ここはぐぐっと押すのも戦略の一つかと」

「おっしゃっている意味が分かりませんわっ!!」


 一体何を勘違いなさっていらっしゃるのか、誰が藤咲さんの事なんて気にしてるんですかっ。あり得ませんのっ。


「ふむ……未来の白ノ宮を背負って下さるであろうお方の力にはなるべくなりたいものですが」

「か、柏木さんっ!

早く車を出して下さい! 」

「ホッホッ、老婆心でしたな」


 急いで乗り込んだ後部座席のソファーは何だかいつもより座りにくいように感じてしまって。喉も渇いていないのに、テーブルに置いてあったジュースのボトルからコップに注いで一気に飲み干してしまいました。


 ようやく発車した車の窓から見えた総合体育館の広場に移っていた視線はまたさ迷ってしまって。


「お嬢様にはいざというときの積極的な攻めの姿勢が欲しいですな」

「柏木さんっ」

「ホッホッホ」


 本当にてんてこ舞いですのーーっ!



 



 





こんなダメダメな物語を、それでも読んで頂いて本当にありがとうございます。

ラストです、グダグダな長編ですがいよいよラストです。


長編が終わったら、東雲さんや椎名先輩とか、ペットの話とかやりたい事が色々ありすぎて困るくらいなので、また小話がかさんでしまうかもですが。


では、後ラスト一話……もしくわ二話ほどですが、お付き合い頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!!

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