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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
37/91

思案投首



訂正です。


前話で祝日の木曜日と書きましたが、シナリオの関係で祝日の火曜日に訂正しました。本当に申し訳ございません!


大会まで時間が出来ましたが、ご了承お願い致します。


 

 

 駅前広場から人が行き交う火曜日の午前中。赤いリードの先ではサルサが軽快な足取りで俺を引っ張ってゆく。隣を歩く進一は携帯を耳に当てている。


「あぁ、久しぶりにトシが来るんだ。だから……うん、そうだな。それが良いか、よろしく頼むよ」


 電話相手は彼の妹だろう、どうやら俺が来る事を連絡しているらしい。彼女のことだ、断ったり嫌がったりせず迎え入れる準備をしてくれるのだろう。そう考えると何だか申し訳ない気が。


「あのさ、もし迷惑なら全然構わないけど……」

「んな訳ねーだろ。愛奈も喜んでたよ」

「………」


 8割お世辞と取っておこう、俺は一般男子と違ってそういう勘違いとかは一切しない……のだと思う多分きっと。


「サルサ、楽しそうだな。こいつ、トシにはまた妙になつくんだよ」

「そりゃ嬉しいな……おっと!? 」

「ほら、引っ張られてるぞ」


 昔からどうも動物には憎からず思われる質らしいのだ、俺は。女子からは全くモテた事が無いというのになぁ」

「モテたことって……穂坂がいるだろお前にはさ」

「心読まないでくんない? 」

「声に出てた訳だが」


 マジでか。あと香織は別にカンケー無い。


「けど、実際お前と穂坂っていつも一緒だろ」

「別にいつもって訳じゃ……」

「それだけじゃ納得出来ないって奴らも結構いるんだな、お前らの様子見てるとさ」

「知るか」


 そういう訂正は香織にでも任せておけば良い。俺は動くのすら面倒なので。


「でも、離れたくないだろ? 」

「家帰ったら離れるな」

「そうじゃなくて、ずっと一緒に居たいなって思ってるだろ? 」

「わがままな子供か」


 俺の精神年齢は年相応だと思う……きっと、多分ね、うん。


「例えば、穂坂に好きな異性が出来てお前のトコに相談しに来たりさ」

「両親にしろよ」

「それで、穂坂が誰かと付き合い始めて、知らないヤツを部屋に呼んでる姿を自室から目撃しちまうとか」

「いや部屋からは見えねーし」


 どこのラブコメだ。

 

「それにしては不機嫌そうな顔してるじゃないか」

「悪かったな、元からこんな顔だよ俺は」


 不機嫌そうな顔なんて年中らしい。


「なら、穂坂にカレシが出来ても構わないと」

「何で俺が気にするんだよ、そんな事」

「………」

「大体何なんださっきから、結局何が言いたいんだよ」


 いくら幼馴染みと言っても結局は他人なのだ。俺があーだこーだ口を出すなどお門違い、もう高校生ならばそんな事は理解して当然だ。


「こりゃ、康太が動くのが先か……」

「何か言ったか? 」

「何でもないよ」


 イマイチ要領の得ない話を交わしつつも、リードに引っ張られながら。藤咲家を通りすぎ小坂を登って15分、俺達はようやく進一の自宅に到着した。


「おー、相変わらずでかいな、お前ん家」

「そうか? 」

「あぁ、この辺じゃそうだろうな」


 ギギっと門を押して敷地無いの庭に入りながら、俺は彼の家を見上げる。

 今にしては古めかしいと表現も出来るであろう木造の一軒家。更にもう一つ小さな建物が隣り合っていて、故にその周りを囲える程の庭がある敷地は結構広い。無論、お金持ちの邸宅とかそんなものから見れば小さいのかも分からないが、俺達庶民から見れば十分過ぎる程である。


「お邪魔しまーす」

「はいよ」

 玄関まで続く石造りの段に足を踏み入れる同時に、ガチャリと扉の開く音がした。


「お、愛奈」

「兄さん、お帰りなさい」


 顔を出したのは女の子。ぺこりとお辞儀をすると揺れる艶やかな黒髪、言うまでもないが進一の妹、東堂愛奈ちゃんである。


「や、愛奈ちゃん。お久しぶり」

「俊也さん!お久しぶりです! 」


 ぱあっ輝かせてくれるその笑顔はとても愛らしい。 

 綺麗な藍色の瞳にはアサガオ色の涼しげなワンピースと白く柔らかなカーディガンがよく似合っている。清楚でおしとやかな雰囲気がよく出ていて凄く………可愛いです。とか調子に乗って思ってたら後ろからそっと叩かれる。


「なーに見惚れてんだオイ」

「いやほら、俺も男な訳だし」

「誰かさん睨まれるぞ」

「………」


 何故こんな楽しそうなんだコイツは。


「ま、修羅場ってのも中々」

「はい? 」

「何でもねーよ」


 ポンポンと肩を叩かれ、進一は先に玄関の方に歩いてゆく。暫し小首を傾げていた愛奈ちゃんも手を向けてくれた。


「あ、俊也さん。こちらに」

「あぁ、うん。お邪魔します」


 


 最後にこの家に来たのは今年の3月末だったか。まだ1ヶ月少ししか経っていないので久しぶりというのも変な感じがするが、それまではもっと頻繁に遊びに行っていたからな。


「……やっぱ日本人は畳だよなぁ」

「おいおい、お前は」

「ふふ、本当ですね」


 一面畳の大広間。周りを障子の襖、中央には漆塗りのローテーブルに紫陽花模様の入った座布団が並べてある。奥には掛け軸と黒い壺、まさに日本の和室だと言わしめんばかりの落ち着いた質素な居間である。


「いや、本当にさ。ここに来ると落ち着くんだよな」

「でも、俊也さんにそう言って頂けると嬉しいです」


 縁側から庭と空を眺めながら、ぼんやりと日なたぼっこでもしたらさぞ和むだろうなぁ。にニッコリと微笑む愛奈ちゃんを見ながらそう思ったり。


「トシに言われると、か。おいおい隅に置けねーな」

「に、兄さん! 」

「まぁまぁ、落ち着いた。あ、トシ。座ってくれて構わないぞ」


 やたら楽しそうな進一が気になったが、促されるまま座布団の上に腰を降ろさせて頂く。進一も向かい合うように座る一方、愛奈ちゃんは立ったまま両手を併せて微笑む。


「あの、俊也さんもお昼食べていきますよね? 」

「え、えーと……良いの? 」

「はい、せっかく来て下さったので是非」


 食べて頂けたら嬉しいです、なんて親切心100%でそんな事を言われたら全力で頷くしかあるまい人として。本当は兄妹水入らずのお昼を邪魔するのは申し訳ない気持ちなのだが。


「悪いな、そんなつもりじゃ無かったんだけど」

「こっちが呼んだんだ、気にすんなよ。それよりさ、昨日部活で……」


 愛奈ちゃんが可愛らしい笑顔で小さく会釈して居間を出ていった後、残ったのは勿論俺と進一。場所こそ違えどいつも通り、教室のように顔を合わせてあーだこーだと他愛も無い話を交わしながら暫しの時間を過ごしていった。



「俊也さん、兄さん、お待たせしました」


 そうこうするうちにお昼の準備出来たようで、愛奈ちゃんが障子越しに顔を覗かせた。


「あ、運ぶの手伝うよ」

「え、でも……」

「お招きして頂いたせめてものお礼だから。気にしないで」

「すみません。では、お願いします」


 彼女の微笑から迷惑ではないなと自己解釈。俺は彼女と一緒に台所に向かうことに。


「俊也さん、今日はありがとうございました」

「え? 」


 居間から廊下に出て少し、愛奈ちゃんがいきなり足を止めて振り返った。彼女の口から出た唐突なお礼に思わず首を傾げてしまう。


「えーと、お礼を言うのは俺の方じゃ……」

「いえ、俊也さんのお陰で兄さんも元気になってくれましたし」

「………」


 その言葉に妙な引っ掛かりを覚える。元気になってくれた……って。


「……進一、どうかしたのか? 」

「………」


 愛奈ちゃんは暫し縁側から庭眺めて少し間を置いて、そっと口を開いてくれた。


「はい。その、最近少し元気が無いような気がしていたので……」

「元気が……? 」

「あ、いえ。何となく、私が感じた事ですから」

「………」


 そうは言うが、愛奈ちゃんが彼に対してそう感じたという事はまず間違いなくそうなのだろう。それは彼女の優れた洞察力もとい兄妹という一番近い関係からの根拠である。


「何かあったの? 」

「それは分からないのですが……少しいつもと違うような気がして」

「……そっか」


 俺は気が付かなかった、いや気が付つけなかった。それは仕方のない事なんだろうか、誰しも学校では見せない顔があるものだ。それは家なり部活なり様々だが、クラスの中だけではどうしても窺い知れないものである。


「………」


 とはいえ、やはり気が付かなかったというのは何というか……最近色々人間観察が怠っていたのか俺は。少なからずショック……かもしれなくもない。元気がないって、一体どうしたというのだろうか。


「あ、俊也さん。これをお願い出来ますか? 」

「え?あ、あぁ悪い。オッケーだよ」


 ともあれ、だ。今この瞬間にあれこれと考えていても仕方ない。愛奈ちゃんお手製のお盆に煮付けや吸い物など─実に美味そうな和食、いや美味いに決まっている─お皿を乗せて居間へと戻り、東堂家のお昼にお邪魔させて貰う事になった。


「それで、こいつ夜まで中庭で眠りこけてたんだと。流石トシというか、何というか」

「薄情な幼馴染みに放置されたおかげでな、目覚めは星空の天井だよ」

「ふふ、でも膝枕なんて本当に仲睦まじいですね。ちょっと羨ましいです」

「いや違うからね!?それには話せば長いようで短いようでやっぱり長い理由が……! 」

「あぁ、恋人未満友達以上みたいな煮えきらない──」

「お前は黙ってろっ」

「くすくす」


 絶妙な味付けの食事に舌鼓を打ちながら、食卓を囲んでの団欒(だんらん)は有意義な時間であった。まぁ、諸々面倒な誤解を解くのにも少なからずの苦労は用したが。



「今日はご馳走様。

本当に美味しかったよ、ありがとう」

「いえ、こちらこそ。お口に合って良かったです」


 楽しい時間というものは早く過ぎるのが常。東堂兄妹とのお昼は談笑を交わすうちにあっという間に過ぎ、気が付けばもう2時手前。いきなりお邪魔してあまり長居も申し訳ないのでお暇する事にした。


 玄関には愛奈ちゃんがわざわざお見送りに来てくれた。しかも作り過ぎたからと料理を袋に入れて持たせてくれるというもてなし振り。それはさぞかし良いお嫁さんになるだろう、無論進一を義兄にしても気後れしない男がいればの話である。更に言えば彼女が進一以上に気を許せる相手にもなるが。


「じゃあ、お邪魔しました」

「はい、またいつでめいらして下さいね」


 ついつい自分も丁寧なお辞儀をしてしまう事に柄にも無いと気恥ずかしさを感じながらも玄関を後にしようと一歩踏み出す。

 そこでふと、彼女の表情が気になった。一瞬不安そうな影が見えた……気がしたから。


「進一のこと、やっぱり気になるよな? 」

「え? 」


 図星だ。表情の変化が大きくなった。


「学校での様子は気が付けてなかったみたいで。ごめん、役に立てなくて」

「い、いえ!俊也さんが謝るような事では……」

「いや、事実だからさ」


 心配なのは当たり前だろう。彼女にとって進一はかけがえの無い大切な兄なのだ。

 俺は、それをよく知っている。


「明日それとなく聞いたりしてみるよ、身内には話しにくい事ってのもあるかもしれないから」

「ですが、その、ご迷惑に……」

「残念ながら全く、基本暇だからね……あ、勿論詮索じみた真似はしないから安心して」

「俊也さん……」


 ようやく笑ってくれた。やはり彼女には心からの笑顔が似合う、家の門から出てなおそう思いつつ、俺は帰路に着いたのだった。




挿絵(By みてみん)


 それから、これといった出来事もなくのんびりとした祝日が過ぎていき、今やそろりそろりと茜色が空を塗り替え始めていた。


「良いなー、俊也だけ愛奈ちゃんの手料理ご馳走になれて、一人だけー」

 リビングのソファーにて。

 昼間のことを話したら案の定香織が頬を膨らませてそんな事を宣ってきた。


「それが目的だったみたいに言うなって」

「うぅ……私は独り寂しくご飯食べてたのに〜」


 ヨヨヨとわざとらしく泣き崩れる仕草をしやがる。だがまぁ、そう言われると少なからず罪悪感が沸かないでもない。


「デザートは俊也に奢って貰おうと思ったのにな」


 罪悪感など一瞬で薄れた。


「……夕凪さん仕事だったのか? 」

「ううん、居た」

「じゃあ一人じゃ無いじゃないか」

「うん、そうとも言う……かな? 」


 何なんだコイツは。


「うー、でも俊也が羨ましいのー」

「はいはい……つーか占領すんな」

「やだ」

「………」


 言うが早いか、ぐてーっと無防備にソファーに身体を預けてくる香織。追いやられた俺は仕方なく下に腰を降ろした。


「愛奈ちゃん、元気だった? 」

「あぁ、相変わらずのよく出来た妹さんだよ」

「良いなー、私も愛奈ちゃんみたいな可愛くて優しい妹欲しいな〜」

「それは同意」

「そしたらね、毎朝ギュ〜って抱き締めてから一日を始めるの」

「それも同意」


 きっと最高の一日がスタート出来るに違いない。進一めっ、毎朝そんな羨まし……超羨ましい事をしているのか。


「俊也はダメだよ、絶対エッチな事ばかり考えるじゃん、考えてするもん」

「お前俺のこと何だと思ってんの?そんなに俺を失墜させたいの? 」

「妹のエッチな本隠してたし」

「人聞きの悪い事を言うなっ、表紙の娘に惹かれただけだ」

「手遅れだよそれ」


 特に何も考えずに、徒然なるままに暫しの刻をリビングでだらだらと過ごす。


「あのー、いい加減ソファー領を占領しないで頂けますか」

「ここで寝る」

「横暴だ、返還協定に応じろ」

「寝るもん」


 全く聞きやしない。このままではこの無防備な暴君に我が家が占領されてしまう。


「つーかさ、軽々しく男の前で寝るなって」

「………」

「おーい」

「………」

「変なコトするぞ、胸触るぞー」

「触るなっ! 」

「だったら起きろ」


 けれど案の定起きない幼馴染み。本気で寝やがるつもりかコイツは。


「……仕方ない、せめてバストアップの足しにでもしてや──」


 ずかんっ。

 鼻っ面を直撃したリモコンの痛みに続きただならぬ殺気すら感じ得た。怖かった、切に。



「なぁ、そういえばさ」

「んー? 」


 結局幼馴染みにソファーを占領されたまま、ようやく顔の痛みも引いた頃、俺はふと口を開いた。


「最近、進一に何か変なトコとか無かったか? 」

「東堂君?どうして? 」

「あ、いや……なんつーか」


 むくりと起き上がった香織の目は先程とは違いはっきりとこちらを見つめ返してくる。


「東堂君、何かあったの? 」

「………」


 さっぱり確証は無いのであまりいい加減な事は口にしたくはないのだが。とはいえ、コイツに嘘が通じるとも思えない。

 素直に今日彼女から聞いた話を口にする事に。


「……そっか、愛奈ちゃんが言うならそうなのかもね」

「まぁ、な。だから少し気になってさ」

「うーん……試合前の緊張、とか? 」


 緊張か、確かにそれもあるのかもしれない。が、何となくそれは違うような……気がする。


「ま、明日それとなく聞いてみるよ」

「うん、私も。愛奈ちゃんも心配してるだろうし」

「いや、お前は黙ってた方が良いな」

「何でよっ!? 」

「問題がややこしくなりそうだから、それにやたら大袈裟になりそうだ」

「むぅ……! 」


 頬を膨らませる彼女には悪いがこの意見は至極的確であると思う訳だ、俺の経験上。


「………」


 それはそうとして。妹の心配が杞憂であればそれに越した事はないのだが………いや、“だが”なんだよな。


「ちょっと出てくる」

「え、どこ行くの?買い物? 」

「運動だよ、少しその辺走ってくるわ」

「何を? 」

「だから、運動を」

「………熱はない、か」

「おい」

「意識もはっきりしてるし、呂律も回ってる……」

「おーい」

「でも、一応病院行った方が良いのかな……」

「言葉の暴力って悪口だけじゃないんだけど、知ってた? 」


 P.S. もう病院は閉まってる時間帯だ。






次回もよろしくお願いいたします!

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