幼馴染みの思い出 2
今回は二話いっぺんに投稿してみました。
前話も読了頂けると嬉しいです!
がらがら。
実に一年振りに。
日曜日の朝っぱら、俺はベランダにあるとある小さな倉庫の扉をゆっくりと開けた。
「そういえばこの中って、随分見てなかったかも」
俺のすぐ横、隣の家の幼馴染みが倉庫を怪訝な表情で見つめている。
今日も涼しげな格好、薄手の白いシャツとピンクのカーディガン、スカートはボタンのついた短いデニムタイプ。毎度思う訳だが、そういうスカートだと素足がもろに出てる訳でいくら幼馴染みとはいえ、健全な男子は目のやり場に困る場合もなきにしもあらずというか……くっ、別に何の意識なんかもしてないからなっ、俺は。
「さて、と」
白々しく両手を上げて伸びをする。
「倉庫整理するかな」
「仕方ないから私も手伝ってあげるよ! 」
別に頼んでない、がそう言うと機嫌を悪くするかもしれなくてメンドーなので好きにさせておこう。
「でもさ、何で急にここを整理しようって思ったの? 」
「んー、別にこれといって理由はねぇけど……」
香織の言葉に曖昧な返事をしつつ俺はがさごそと薄暗い中に手を伸ばす。
うちの庭には白い小さな倉庫。そこを掃除しようと思い立ったのはつい15分前の事だ。
うちの倉庫にはいらなくなったけど捨てるのは流石に勿体無くなったものを放り込んだり、ゴミにするのもメンドーなものを放り込んだり、あと何か隠したいものを放り込んだりと、まぁともかく色んなもんが放り込んである、多分。俺も昔はよく色んなものを入れたりしてたっけ、あんま覚えてないけど。
最近まで存在すら忘れていたのだが、どうしてか今日それを思い出し凡そ一年ぶりに中を覗いてみようと思ったのだ。因みに理由は特に無い、完全な気まぐれである。
「うわっ……何か凄く汚いよここ」
「ま、最後に掃除したのは多分……いつだっけ」
「………」
開けたの自体一年振りなのだ、掃除した時の事なんてさっぱり覚えていない。
「でも、あれだ。何年も掃除されてない倉庫って、掘り出し物とかあるかもしれないだろ?」
「掘り出し物、ねぇ……」
「そう考えると何かワクワクしないか? 」
あからさまに訝しそうな表情をしながらも、香織は俺と同じように暗い倉庫内に身体半分を入れてがさごそと……
「わわっ!? 」
「ん? 」
おっ、早速発見したか。藤咲家の家宝とか……あるわきゃねーか。あの親のことだ、家宝見つけたら即売却するに違いない。
「こ、これは……」
「どれど……んぐをっ!? 」
『禁断の兄妹愛 だめっ、お兄ちゃん。私達兄妹なのに……18禁』
『欲情妹日記 わたし、兄さんに犯されちゃいました……18禁』
『今日から妹ハーレム 妹に囲まれてあんな事やこんな事を……18禁』
エロ本の束であった。ジーザス!
「………」
「ばっ、おまっ!? 」
まじまじと表紙を眺めている香織から強引にそれらを引ったくる。失念していた、年末の大掃除の時香織に見つからぬよう部屋から緊急避難させていたというのにっ。
「俊也って、こういうのが趣味だったんだ……」
「違っ、これはだなっ」
「へぇ、妹ね……妹」
ヤバい。香織さんの声色が恐ろしいくらい冷たくなってきた。これはかなりヤバい、何か知らんがただじゃ済まない。
ともかく、妹萌えとかそういう趣味じゃないという事を云わなければ!
これはアレ、単に表紙の女の子に惹かれただけで買った……なんて言えるかぁっ!でも表紙の娘可愛くてさっ、ショートカットで明るくて元気そうな笑顔、それがどことなく香織に似てて……って違う違う!ともかく表紙に惹かれたのであって他意は無い、筈だっ。
「………俊也」
「はいっ!? 」
とか思っていたらまさに忍者かと思うようなスピードで目の前まで距離を詰めていて。
「焼却」
「………はい」
容赦がない判決を下された。彼女の氷の声色に恐ろしさのあまり無意識に頷いてしまう。
そうしてその後も……
『淫らな放課後 教師と生徒の濡れた教室 18禁』
『秘密の保健室 美人保険医の特別個人補習 18禁』
「はい、焼却」
「香織さん、そんな殺生な……!! 」
分けて隠していた宝が次々と取り出され。
『街角淫乱診療所 貴方の体温、わたしの身体で測らせて……18禁』
『街角淫乱診療所2 大きい、貴方の体温計……18禁』
「これも焼却」
「い、いやっ、それだけは……!! 」
「俊也……」
「焼却させて頂きます」
俺の可愛い本達は最後の審判にかけられては地獄に叩き落とされていった。
『欲情日記 遊びにきたあどけない幼馴染みに欲情した俺は……18禁』
『禁断の幼馴染み 良いよ、わたしの中に出して……18禁』
「………」
「いや、これは違っ!単に表紙だけで他意は……し、焼却だなっ」
「……さ、流石に全部捨てるのは可哀想だし。こ、これは別に良い……かも」
「え? 」
何か例外もあったが。
ともあれ、何とか二人で倉庫の掃除を進めていったのである。ん?エロ本の処分しかしてなくね?
「ううぅ……」
「もう、いつまでメソメソしてるの」
「だって、だって俺の可愛い本達が……」
「バカ俊也……こういうのをこっそり買ってるのがいけないんだよ」
お前は俺の母親かっ!
俺は今、これから消えてゆく魂達と根性の別れを告げているのだ。
「良いから、もう早く整理の続き」
「この鬼畜、外道、鬼嫁! 」
「誰のよ……」
あぁ、この世に救いの神はいないのか。虚しく空を見上げてみるが、今日も呑気な青空である。
「あれ?」
またも倉庫内から幼馴染みの声が。
「あ、これ!わ〜!懐かしい! 」
「今度はなんだよ……」
エロ本は全て─いや、あの三冊だけは何故か助かった─お陀仏となってしまった筈だが。
「ね、俊也これ覚えてる? 」
「あん? 」
「ほら! 」
出てきた幼馴染みが両手に抱えていたのは結構な白い筒のようなもの。
「……望遠鏡? 」
「そっ、望遠鏡!って言っても、おもちゃみたいな安いやつだけど」
確かに本格的な望遠鏡本体に比べたら小さいし軽そうだ。が、その望遠鏡の一体何が懐かしいというんだ?そもそも……
「こんなもん、うちにあったっけ? 」
「えっ、俊也覚えて無いの? 」
「………」
このちゃっちい望遠鏡に何か思い出なんてあっただろうか。そもそもこんな望遠鏡持っていた覚えが……
「あっ、これ親父の望遠鏡か! 」
「そう!俊也のおじさん小さな頃に買ったってやつだよ」
そうだ。親父が子供の頃に買った望遠鏡を俺が小学生の頃貰ったんだった。たった今、思い出したぞ。
「そういや、これ貰った時は大喜びしたような」
「そうだよ、いつもの俊也と違って大はしゃぎしてたんだから! 」
「はしゃいでたのか、俺」
ちょっと想像してみたけど気持ち悪かったのですぐに止めた。
香織は望遠鏡をまじまじと眺めて口元を綻ばせている。
「ねぇ、覚えてる?
これで天体観測した事あったよね、二人で」
「天体観測?」
「ほらっ、向こうにある河川敷で。小学生の時に」
「………」
あぁ……小学生の時、この望遠鏡で星を見ようとした事があった、そういえば。
「あぁ、あの深夜に家抜け出した時だな」
「そうそう!こっそり抜け出した時だよ、お父さんとお母さんに黙って」
「………」
思い出した。今にして思えば、香織に引っ張り回された苦労話の一つだな。
小学三年生の春。俺は親父から望遠鏡を貰った。貰ったといっても買って貰ったのでは無く、親父が元々持っていたものを譲り受けたのだ。正しくはたまたま見つけたけどいらないので押し付けられた、だが。
ともかく、その頃からカメラや写真に興味があった俺は、子供心にちゃちな望遠鏡でも入手に大喜びしたわけである。いつも見ている空を、更に間近に見る事が出来るんだって。それどころか空のその先だって……
「ね、俊也!これで天体カンソクしようよ! 」
「え、夜に? 」
「当たり前でしょっ、夜じゃないと星見えないじゃない! 」
幼馴染みに見せびらかしに行ったら、いきなり今夜天体観測をしようと提案された。
「え!?お父さん達に黙ってるの!? 」
「勿論!黙ってこっそり行くんだよ」
しかも、子供二人だけで親に黙って出ていこうと。まったく昔から無鉄砲な女である。
勿論、まだ純真さを少なからず持っていた当時の俺はそれは反対した。だが、
「もうっ、そんな弱気でどうするのよ!男の子でしょっ! 」
「弱気とか強気とか、そういう問題じゃないと思うけど」
「むぅ、もっと自分から私のこと引っ張っていこうとかって思わないの? 」
「思わないよ」
「……バカ俊也」
この頃から既にバカ呼ばわりされていたのだ。まったく、これ程思慮深く堅実な少年は当時周りを見ても俺くらいのものであったというのに。
「ともかく!
今日の0時に俊也のベランダに集合ね!あの白い倉庫の前! 」
「でも……」
「決まりだよっ、バレたらダメだからね! 」
あの時香織に見せびらかさなければ良かったなぁ。
当時から無駄に押しが強かった香織に無理矢理押しきられる形で、俺達二人は夜中の天体観測を決行することになったのだ。
深夜0時。両親もすっかり寝たのを見計らい、計画的に昼間に寝ておいた俺は眠気にも苛まれること無くこっそり家を抜け出した。しかし幼馴染みはというと……
「あ、俊也……ふわぁ、おはよう」
「………」
眠そうだった。この女はっ、子供心にも内心で拳を震わせたのを覚えている。
まぁ取り敢えず、俺は両手に白い筒を抱えて、香織は三脚等を抱えて家を出た。
うちから徒歩、20分無い程にある河原。小学生の通学路方向に沿って流れる川脇に伸びる広い芝原、空が高く広く見えるお気に入りの場所だった。昔はよく学校の帰り道に寝転んで空を眺めたものである。
そんな河原に辺りの住宅街がすっかり静まり返った真っ暗な中、俺達はまず芝生の上に腰掛けた。
「すごい、綺麗……!! 」
「うん……」
空を見上げた香織が息を呑んでいた。そう、深夜にもなれば田舎でなくとも星空はきらびやかに上空一面を彩る。まるで自分が宇宙のど真ん中に放り出されたような神秘的で不可思議な感覚、また足元が掬われるような不安感に全身は包まれてしまう。
「わぁ……!! 」
隣にちょこんと座って目を輝かせている幼馴染み。そんな姿を見ていたら、まぁ来て良かったかなとも思った訳だ。この時は。
「じゃあ、用意しよう」
二人で用意しよう。そう言ったつもりだったのだが、香織はいつまでも星空を眺めている。仕方なく、俺は一人で準備をすることにした。
三脚の経緯台を立てて、付属品を取り付け、最後に白い筒、望遠鏡の鏡体を取り付けて一応形は完成だ。ちゃちな望遠鏡とはいえ、右も左も分からない小学生が説明書を一生懸命見て組み立てたので、結構時間がかかってしまうのはいた仕方ない。
「ふぅ……」
で、結局天体観測出来たのかというと。
「結局気付いた両親が探しにきてバレちまって、こっぴどく怒られたんだよなぁ、あれ」
「え?そうだっけ、怒られたかな? 」
「お前はなぁ、俺が望遠鏡組み立ててる間にすっかり寝ちまって、怒鳴られようが何されようが起きなかったんだよっ」
そうなのだ。
何とか望遠鏡の支度を済ませて振り返れば香織は爆睡。その天使のような可愛らしい寝顔は俺の神経を逆撫でしたことは言うまでもないだろう。
それから暫くして、駆け付けたうちの両親にあっけなく見つかり一人起きていた俺は母親に散々怒られたという訳だ。香織の両親もやって来て香織を叱ろうとしたが、コイツはすぅすぅと幸せそうに寝てやがったから無罪放免となってしまった。しかも連れ出したのが俺、という冤罪判決まで下される始末。
「あはは、そうだったかな。ごめんごめん」
「………」
そんな苦労思い出の品、望遠鏡の鏡体を眺めながら俺はため息を一つ。よく考えたら、あの頃の香織は無鉄砲全盛期1だったな。因みに2は中学時代。
「ね、俊也。
だったら今日、天体観測に行かない? 」
「は? 」
「小学生の頃のリベンジだよ、リベンジ! 」
何が“だったら”なのかは全く分からないが。
「ね、俊也! 」
「……別に良いけど」
「うん、決まり!
じゃあ深夜0時にここに集合ね! 」
7年前と同じセリフを宣っていた。
で、深夜。あの時の同じように白い倉庫の前には香織が立っていた。背も髪型もあの頃から変わってすっかり女らしくなっている事に、無駄に感慨に浸ったりもした。
『何だか夜逃げみたいだね♪』と楽しそうに縁起でも無い事を口走る様子に、感慨もすぐに失せたが。
「さてと………」
河原に着くと早速望遠鏡の用意に取りかかる。香織に手伝わせようかとも思ったが、以前同様嬉しそうに空を眺めているので放っておいた。
経緯台を立てて、付属アクセサリーなどを取り付けて、ファインダーを鏡体に取り付けて台に固定する。
そうしてバランスを調整しながら、ふと空を見上げてみた。
「………」
上に広がるのはきらびやかな星々。深海のように底が見えない黒い空に我先にと輝きを灯し燃ゆるその塵達は、大きく優しく包み込むような月明かりをバックに一層煌めいている。
そこは宇宙、自分の視線の先には遥か膨大な大宇宙が広がっているんだ。限りなく不可思議でどことなく不安定な感覚はやはりどうして心地好い。
「たまには天体観測ってのも、良いかもしれないな……」
同意を求めるように呟く。
「なぁ、香織」
鏡体からそっと手を離して振り返れば。そうして今、星空をうっとりと眺めているであろう幼馴染みは……
「くぅ………」
「…………
爆睡していた。
「月光下 眠れる子女と やるせなさ……はぁ」
お後がよろしいようで
思い出話二弾目は天体観測でした。
倉庫から色々と関係ないものも見つかっちゃいましたけれどwww
何故最後の二冊のエロ本だけ香織は捨てなかったんでしょうね( ̄▽ ̄)ニヤニヤ
では、次回もよろしくお願いいたします!




