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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
34/91

椎名先輩のクッキングバースト24時……いや、45分

今回は二話いっぺんに投稿してみました。

よろしくお願いいたします!

 


 唐突な話で申し訳ないが、俺は友達が少ない。


 だからといって某作品のように友達をつくる為の部活を作ったり、生徒の悩みに協力する為の部活に入ったりするつもりは無いので悪しからず。


 あまり社交的ではない性格を年が上がる事にこじらせ、卑屈な考えやひねくれた性格を育んだ結果、年中ダルそうな顔をしている─とよく幼馴染みに言われる─俺に対して進んで友達になろうとする人間がいるとは思えないから、それは至極当然の摂理であるのだろう。

 一緒に悪戯したり馬鹿騒ぎする悪友、いつも軽いノリで付き合える人間、放課後一緒にカラオケに行ったりボーリングに行ったりする友人、そんなスクールモダンな関係は数える程しか……いやそもそもない。

 けれど、別にそれが苦という訳でも無く。幼馴染みや部活の数少ないメンバーとの慎ましやかな関係でそれなりにやっている、そんなスクールライフ。


 だというのに最近……


「貴様っ、NO.13からの刺客の分際でっ!!そこになおれぇ、叩き斬ってくれる!! 」

「先輩ぃぃぃ、包丁はいかんのじゃ!包丁はぁ!! 」

「………これは危険」


 変な関係が広がりつつあるような気がする……


 


 



 

「そこのCODE02よ! 」

「? 」


 3時限目の授業が終わってこれから昼休みになろうという。移動教室から戻る為にポケーと一人廊下を歩いていると、不意に鋭い声が聞こえてきた。

 CODE02?はっは、とんだ呼ばれ方だな。一体どんな厨二病を患わせたんだか、こんな廊下のど真ん中で呼ばれた奴にも同情するよ。


「おい待てCODE02っ!藤咲、お前のことだっ」


 うわぁ藤【崎】とか名字被ってんじゃん止めてくれよ周りに勘違いとかされ─


 「聞こえないのかっ!CODE02、藤咲俊也! 」

 

 わぁい………俺かぁ


「………」


 顔を上げると見知った人物が目の前でこちらを見下ろしていた。そんでもって、廊下ではクスクスと失笑や『やだー何あれ』とかひそひそ話が立ってきた。


「ちょっとこちらへ!! 」

「あっ、おい!何をする貴様っ」


 最早手遅れと知りつつも階段ホールまで緊急避難。勿論その人物の手を引いて。


「おいっ、どういうつもりだっ」

「……それはこっちのセリフです、椎名先輩」


 もう言うまでも無いだろうが、椎名小夜子である。


「いきなり廊下のど真ん中人の名前を叫ぶのは止めて下さい」

「愚か者、そう大衆の目ばかり気にしていてどうするのだ」

「俺は先輩とは違うんですっ」


 注目される事を嫌う安穏を愛する人種なのだ。


「大体、そんなに目立つような事ばかりしてたら、ほらあれ、『ぞでぃあっく』?でしたっけ?それに目を付けられますよ」

「ゾディアックだっ。

ふんっ、目を付けらる等元より、奴等から退くつもりなど毛頭無い」

「………」


 威風堂々である。


「では、さっきの変な呼び方は何なんですか? 」

「変な? 」

「だからコードなんとかって」

「あぁ、CODE02か。変なとは失礼だなっ」


 CODE02。ポイントとしては02の所だろう。01で無いところから、構成員的な意味が……


「君のコードネームだ、特に意味はない」

「変えて下さい」

「何だ、気に入らなかったか」

「色々言いたい事はありますが、まぁそうそう事です」

「ふむ……そうだな。

ではラウンド02というのは……」


 椎名小夜子。

 所属、料理研究同好会会長。特徴、思考と言動に思春期特有の不安定な部分が多々見られる。あと目付きが怖い。以上。


「せめて名前くらいは普通に呼んで下さいよ」

「名前か……藤咲?俊也? 」

「どっちでも良いですけど……」


 どうでもいいので早く教室に戻りたいのだが。


「ならば間をとってトッシーとするか」

「アンタわざと言ってんだろっ!? 」


 

 


 間


 

 


 何故か【間】が終わると俺は家庭科室の椅子に座っていた。何を言ってるのか分からないと思うが俺も何が何だかさっぱりだ。


「藤咲俊也並びに近藤弦。これで面子も揃ったな。ふっ、これだけ頭がいれば我がホームの活動に相応しい」

「………」


 目の前で仁王立ちして不気味な微笑を浮かべる椎名小夜子。


「おう!俊也、遅かったな。待っちょったぞ」

「………」


 そして同じ移動教室だったにも関わらず俺を待っていたとほざく近藤弦。


「先輩ー」

「ん? 何だ? 」


 取り敢えず起立して挙手をしてみる。


「メンドくさいので帰りま─」

「唸れレヴァナントっ!! 」


 ぐぼぁ。

 鳩尾に鋭い衝撃、すぐさま痛みが広がってくる。俺は成すすべも無く、その場に踞ってしまった。


「……現状のご説明をお願い致します」

「よろしい」


 悲しきかな脱出は不可能なようなので。お腹を押さえながら、今振るったであろう拳に息を吹き掛ける暴君Sayoko・Shina帝を見上げてみせた。


「今日は昼に活動をしようと思いついてな。お前を含めたメンバーを緊急召集した次第だ」

「………」


 この暴君の思い付きでも活動するのかこの同好会は。以後襲撃に備え、肝に命じておこう。


「……で、まぁ活動するのは分かりましたけど」


 今からそんなに部活を行う時間があるのか。最も長い昼休みとはいえ


「無論だ。時に我々は迅速且つ的確にマナを生成し、生命力の回復をはからねばならぬ境遇に陥ることもある」

「………」

「故に、こうしたゲリラ的にメンバーを召集する必要がある訳だ」


 かくも迷惑甚だしいシステムだった。


「早速マナ生成を始めるぞお前達」

「先輩っ、本日の献立はなににしますかのっ」


 弦、お前……

 エプロンを着けて、三角巾を着けて、フライパン片手に軍隊直立立ちで準備万全。


「ぶはっ! 」


 そのあまりの滑稽っぷりに思わず盛大に吹き出した。

 あはははははっ、意外と似合ってるぞお前その格好っ!やべっ、写真に納めたい!


「おい、モタモタするな藤咲俊也」

「へ? 」

 俺が内心で膝を叩いて笑っていると、先輩から無理矢理何かを押し付けられた。白い生地の何か。

 ………ま、まさか、これは。


 


 間


 


「おー!俊也も装備万端じゃなぁっ! 」

「………」


 俺は弦を笑った事を激しく後悔していた。何故かって?俺も似たような姿しているからだ。

 青い三角巾にピンクの可愛らしいエプロン、はっはっは……あー、死にたい。


「ほほぅ、中々似合っているではないか藤咲俊也」

「全然嬉しくありません、つーか俊也で良いです」


 誉められてこんな惨めな気分になるのは初めてだ。後、フルネームで呼ばれると背中がむず痒くなる。


「そうか。では俊也、それから弦。早速だがホームでの活動を始めたいと思う」

「おうっ」


 こんな姿、知り合いに見られたら即行首をくくるぞ。


「本日の献立は……

天使の黄衣を纏いし鮮血の晩餐だっ! 」

「「………」」


 差し出された紙に書かれたタイトルを見て俺と弦はうーんと唸る。


 さて、解読を始めようか。まず『天使の黄衣』だが……天使、といえば柔らかい感じだったり優しい感じだな。フワフワ〜っとした雰囲気だ。そして黄衣。文字通り黄色い衣だ……天使のような黄色い衣、優しい黄色い衣、フワフワ〜っとした黄色い衣、フワフワ!?


「そうかっ、オムライス! 」

「うむ、流石だ俊也。中々の理解力だな」


 全然嬉しくない。


「そういう訳で、本日はオムライスを作ろうと思う」


 先輩─あれ、そういやこの人だけはいつも通りの制服姿なのだが、まぁ良いか─はコツコツとキッチン台の方に歩いて行くと軽々フライパンを片手にとりくるくると華麗に回してみせた。ちょっと格好良い。


「さぁ、二人ともキッチンに着け。今回は一人一人に作って貰う形にしよう」

「「………」」


 促されるままに俺と弦は各々また違うキッチンに着く。ふむ、今回は個々という事はメンバー共同で作る事もあるのだろうか。


「って、ワシはオムライスなんて作った事ないぞ? 」

「なに、心配するな。

ここは料理研究同好会、敗北から勝利への過程を見極めるのも活動の一つだ」


 つまりは取り敢えず作ってみろという事らしい。弦が納得したように頷いたので俺もキッチン台に着く。卵、鶏肉、玉ねぎ、ご飯(タッパー入り)がキッチン台に。なるほど、情緒不安定な発言ばかりが目立つこの人だが、活動の用意はちゃんとしてくれているようだ。


(後、必要なのは……)


 台の下からサラダ油、塩胡椒、ケチャップを探し出して並べた。

 俺はあまり料理はしない方だが、まぁオムライスくらいは作った事がある。出来は、まぁまちまち。香織が作るオムライスと比べると人間どうしてこうも差が出来るのだと痛感するが。 さて、早速取り掛かろうとフライパンに油をしいて火を……


 こんこんっ。


「? 」


 肩を叩かれる感触に振り返るとそこには見慣れた翡翠色の髪。そうして愛想の表情。


「霞?お前、こんなトコで何してるんだ? 」


 成條霞だった。


「それはこちらのセリフよ。貴方はこんな場所で一体何をしているの? 」

「それは……」

「しかもそんな不気味……おかしな格好をして」


 不気味なのか……俺は今の自分の格好を改めて悔いた。


「香織とのお昼じゃ無かったの?今、部室にいるわよ? 」

「あ……」

「………」


 しまった。そういえば、今日はお弁当を作ってきてくれたんだったか。


「あー、香織は」

「大変ご立腹ね。今は粋と“仲良く”二人きりでお昼を食べてるわ、彼に手作りのお弁当を渡してね」


 もの凄く含みのある言い方をされた。霞はジトーっとこちらを睨んでくる。


「……後で謝っとくよ、香織にも先輩にも」

「粋にも? 」

「香織の愚痴を散々聞かされてるだろうからな」


 そう考えると非常に申し訳ない。


「あら、あの二人結構良い雰囲気よ。くっついたら良いカップルになりそう、香織を幸せにしてくれそうよ」

「……何でそれを俺に言うんだよ」

「少なくとも、約束をすっぽかす人よりは、ね」

「うっ……」


 しかしこちらにも言い訳はある。


「香織から聞いたと思うけど、料理研究同好会に入れられちまったんだよ」

「えぇ、聞いたわ。新聞部を裏切って入部したって」

「尾ひれあり過ぎだろっ、別に裏切ってねーよっ」


 どんな話になってんだ。


「で、その同好会と何の関係が? 」

「今活動中、格好見りゃ分かんだろ」

「だったら、そう言っておけば良かったのに」

「昼休みにいきなり拉致られたんだよ、携帯とか教室の鞄の中だしな」


 不可抗力、そういう解釈にしては貰えないだろうか。あまり香織の機嫌を損ねると後々面倒なのだ。


「おい、俊也。一体何をしているのだ」

「あ、先輩」

「ん?そちらは? 」


 入口から顔を出してきた椎名先輩、すぐに俺の隣にいる霞に気づいたようで怪訝な表情になる。それに対し俺は咄嗟に口を開いていた。


「え、えーと……彼女は見学者です」

「なっ」

「俺の友達なんですけど、ちょっと見学したいなーって言ってて……」


 くいっ。

 裾を引っ張られたが敢えて無視。そのまま椎名先輩に目で伝える。


「フッ、そうか。ならば自由に見学してゆくといい。今はちょうど活動中だからな」

「あー、ありがとうございます」

「俊也、君も早くキッチンに戻りたまえ。モタモタしていると時間が無くなるぞ」


 そう言い残してひょいと引っ込んでしまった。残ったのは俺と俺を睨み付けてくる同級生だけ。


「……どういうつもり? 」

「いやー、何故かつい咄嗟に口に出ちゃったというか……」

「………覚えてなさい」

「………」


 恨み言を後ろから浴びせられながらも、俺はキッチンに戻った。ジッと睨んだまま、服の裾を摘んでついてくる霞。え、何その逃がさない的な示しなんですかね。

 

「それで、貴方は一体何を作るのかしら? 」

「え、あ、あぁ。俺は……」


 オムライス。その答えは突如響き渡った弦の叫び声にいとも容易くかき消されてしまった。


「ぬおっ、ぬおわぁ!? 」

「何だ!?どうした弦!!

まさかゾディアックからの攻撃かっ」

「おおぉ!? 」

「何だ、精神攻撃……ん!? 」


 大慌てでキッチン台から離れる弦と入れ替わりにキッチン台に近寄る椎名先輩。が、その彼女も次の瞬間にギョッとしたような表情に変わる。


「せ、先輩……!!

ご、ご、ゴキ……」

「言うな弦っ!その名を口にしたならば刺殺するぞっ!! 」


 物騒過ぎる言葉を叫びながら思い切り後退さる椎名先輩。同じく弦も先輩の背に。


「ゴキブリだな」

「……ゴキブリね」


 そう、ゴキブリだ。

 今、椎名先輩と弦の前方には様々な家庭の台所で悲劇を引き起こしてきた黒いG、ゴキブリだった。カサカサと機敏な動きで先輩達に近付いていく。


「お、おぉ!来るんじゃっ! 」

「く、来るなっ!!刺殺するぞ貴様ぁっ!! 」


 椎名先輩もやっぱりゴキブリは苦手なのか。何だかんだ言っても女の子なんだろう。いや、寧ろ弦の方が怖がってるっぽい、頼りにならんヤツだな。


 くいっ、くいっ。


「ん? 」

「………」


 裾を引っ張られる。横を見れば霞が身を寄せてきていた、裾をしっかりと掴んだまま、隠れるように。そしてその視線の先にはカサカサ動く黒い物体。


「ひょっとしてお前……ゴキブリ苦手? 」

「………」

「怖がってる? 」


 キッと睨みをきかせてくる霞。だがその瞳は僅かに潤んでいて、不安の色が見えた気がした。


「あー、っと。んじゃあまぁ、雑用(おれ)の出番かな……」

「? 」

「ちょっと行ってくるわ」


 俺は霞から目線を反らすと騒ぎの中心に行こうと足を踏み出そうと……


「え、えーと……霞さん? 」

「………」


 きゅっ。

 霞が制服の裾を掴んだまま離してくれない。ただ黙ったまま俺の後ろに隠れようとする。

 ……どう見ても苦手なの見え見えじゃねーかおい。


「俊也はアレが好きなの? 」

「いやいや、んな訳ねーだろ。ただ昔から香織に代わってよく片付けてたからな。慣れてるだけだよ」

「………」


 納得したのか、そっと裾を離してくれた。そうして目で『さっさと片付けろ』と促す。


「おのれ我がホームを荒らし回るなどっ、もう我慢ならん!!」

「せ、先輩!? 」


 ん?今何やら聞こえてはいけないような金属音が。


「さては組織からの刺客だなっ! 」

「……え? 」


 前方には包丁を振りかざす椎名せ……って包丁!?弦が必死にその手を止めているのが惨事を招かずにいるわけで。


「刺客の分際で堂々と姿を現すなど言語道断!今すぐケリをつけるっ」

「お、お、落ち着くんじゃあ……! 」


 あ、ゴキブリが飛んだ。


「………!! 」


 って、霞さん。結局裾離してくれないじゃないですかちょっと。


 仕方なしに突っ立ったままぼんやりと前方を眺める。



「貴様ぁっ、刺客の分際でっ!!そこになおれぇ、叩き斬ってくれる!! 」

「先輩ぃぃぃ、包丁はいかんのじゃ!包丁はぁ!! 」

「………これは危険」


 ブンブンと飛ぶゴキブリ。包丁を持って暴れる椎名先輩。必死に押さえる弦。裾を離してくれない霞。フライパンで焦げ続けている卵とご飯。


 ……ホント何なんだろう最近。

 安穏からは遠く離れたその光景に、この先の学園生活にイエロー信号が点ったことを予感せずにはいられなかった。




 ゴキブリ撃退後


「ふぅ……紆余曲折あったが、これにて本日のミッションコンプリートだ」

「何の!? 」


 こうして、果てしなく意味の無い同好会の45分間が終了した。さっぱり収穫無し、お腹が減っただけだった。



「なぁ霞、もう時間無いし後で学食行かないか? 」

「それはお誘いのつもりかしら」

「そこならゴキブリはいないと思うけどなぁ 」

「…………」


 ……いや、霞の意外な弱点を見つけられたのが収穫かもしれないな。ちょっとだけ。




 記念すべき一回目の活動はゴキブリ撃退という高難易度のミッション成功という形で終了致しました。

 霞ちゃんのちょっとした弱点も見っけて、俊也的にはラブコメらしかったかもですね。


では、次回もよろしくお願いいたします!

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