それが彼女の同好会
また間が空きまして大変申し訳ございませんでした。今回もよろしくお願いいたします!
「……つまり、現状における支配層【NO.13(ゾディアック)】への対抗手段及びヒエラルキーの改変手段と言って良いだろう」
「………」
「これがすなわち、我がホームの存在理由である」
………他人の話を聞いていて『意味不明』という言葉を使う事があるだろう。それは例えば、他人を揶揄する時だったり、会話に面白みを含める時だったり、口喧嘩をする時によく口にすることと思う。イントネーションとしては「いみ(↑↑)ふめー(↑→)い(→)」といった感じか。え?そんなセリフ古臭いって?まぁそんな事はこの際置いといてだな、ともかく日常において身近なセリフ『意味不明』しかし、本当の意味でそれを使うような場面に遭遇する事はそうはない。飽くまで上記のニュアンスが主だったものである。
では、俺の現状─目の前の椎名小夜子なる人物がつらつらと話をしている─を簡潔な言葉で述べてみよう。これ幸い、実に相応しい漢字四文字がある。
『意味不明』
「さて、我が同好会の簡単な概要はこんなところで……」
「あの〜、すみません」
「何だ、名も無き青年よ。質疑応答ならば後で設けてやるが? 」
「いやあの、質問とかそれ以前にもっと根本的な部分の説明を……」
「根本的?」
ダメだ、言いたい事を上手く伝えられない。前提が意味不明なだけに尚更だ。
然り気無く弦の方に視線を送ってみるものの、あいつは意味が分かっているのかいないのか『はー』とか『ほー』とか馬鹿正直に頷いているばかり。今回の主役の筈なのにさっぱり役に立ちそうにない。
「根本的、だと?
つまりここに闇に紛れた暗部があるとでも言いたいのか」
「いや、その……」
「貴様……何が目的だ? 」
こ、怖っ!!突き刺さらんばかりの鋭い視線に言葉も忘れ思わずたじろいでしまう。
「ここって、料理研究同好会ですよね」
ここでまたも香織の助け船が。
「当前だ、今更何を言っている」
「名前の通りだと、料理を色々作ってアレンジしたり目的に合わせて活動する会とかかなって……」
「あぁ、なるほど。そういう事か。表向きとはいえそちらの説明も必要だったな、ふむ」
俺もそう思っていたのだが、椎名先輩の口振りからはどうやら勝手が違うよう……
「料理研究同好会とは、同好会名の通りあらゆる料理()を様々な目的の元に生成し、その過程を省みて改良など目的に合った試行錯誤を繰り返すものであると言って相違は無い」
一般的な予想で概ね問題ないようだった。
(最初からそう説明して欲しかった……)
言い回しがやたらと面倒に感じたのはこの際無視して良いだろう。このまま活動日程や部員紹介、引いては仮入部という流れに話が持っていければ……
「だが、それは表向きの活動……かりそめの姿に過ぎない」
「はい? 」
「我が同好会の真なる目的はそこには無い。そこで、だ。最初の説明に話が戻る訳だが」
前言撤回。帰りたい。
「我々の学園を掌握している支配層NO.13(ゾディアック)への対抗と改正の訴えを第一の旨としている」
「つまり、日々戦いという訳かの」
「ほぅ、中々話が分かるではないか、褐色肌の青年よ」
弦、お前絶対分かってないだろっ。何いい加減な事言ってんじゃねーよっ!
「へぇ。何だか、レジスタンスみたいですね」
「ふむ、言い得て妙だな。悪くない響きだ」
香織までいい加減に乗るなぁ!ますます訳分からんくなるだろっ、ただでさえ意味不明だってのに!
「では、皆の理解も得られたところで活動内容や日時を……」
「あ、あのー」
「ん、どうしたんだ青年A」
ついにモブキャラになってしまった。
「いや、あのですね……理解したも何も、そもそもさっぱり分からないと言いますか」
「何だ、今話した通りだと言っているだろう」
「いや、ですから」
がしっ。
それ以上発言しないうちに思い切り頭を掴まれ、いや叩かれた。痛いと思う間もなくそのまま一気に下げられる。
「すみません、彼普段からボーッとしてる癖があって。いつも気を付けるように言ってるんですけど」
「ふむ……」
隣の香織に無理矢理頭を下げさせられたらしい。地面と睨めっこしながら内心で叫ぶ、お前は俺の母親かっ!!
「ちょっ、おまっ……」
「良いからっ」
ようやく顔を上げれたと思えば、僅かながら口元を緩めている椎名先輩が目に入る。一体何が可笑しいというのか。
「ふっ、まぁ仕方がない。青年よ、君の可愛いガールフレンドに免じてもう一度説明してやろう」
「「はっ!?誰が!? 」」
「なに、隠さなくても良いだろう」
「「全っっ然違います……!! 」」
何か思い切り勘違いしている先輩だがこんな時ばかり香織とハモッてしまう。くっ、これじゃますます勘違いされるじゃないか!
香織の方を見ると一瞬目が合ったものの、すぐに反らされてしまった。
「俊也とは、単なる幼馴染みですっ、単なる!それ以上でも何でも全然無くてっ」
「………」
そこまで強く否定されるとそれはそれで何か複雑なような気がするのだが。
「幼馴染みっていうか、もう姉弟というか。そう、弟です弟! 」
「弟……」
「手ばかり焼かせる出来の悪い弟、みたいな」
同年代の女の子に弟呼ばわりされる事程ムッとくるものはないと思うのだが。
しかも聞き捨てならないのが『手を焼かせる』という言葉。それはこっちの台詞だ。
「だからっ、俊也なんか別に全然何とも──」
「なんかとか言うなっ」
「黙ってて、ばか! 」
口を挟む隙すらない。
「大体、俊也は馬鹿で変態でどうしようも無い、それこそ女の子の気持ちとか全然さっぱり考えられない、デリカシーなんて欠片も無くて! 」
「………」
よくもまぁ本人を隣にしてそれだけ悪口が出てくるものだ。流石に自分が可哀想になってくるんだが。
「それに……っ」
まだ言うのか。
そう思った時、ちょうどキーンコーンと校内放送のチャイムが鳴り響いてきた。
『一年C組の穂坂香織さん、一年C組の穂坂香織さん。校内に残っていましたら職員室、小林までお越し下さい』
「って……え、私? 」
今までの勢いは何処へやら。突然の呼び出しにきょとんとした表情でストップした香織、宛も無くキョロキョロとして再び目が合う。
「お前、何やらかしたんだ? 」
「変な事言わないでよっ、俊也じゃあるまいし」
それこそ変な事だ。波風立てる事を嫌う俺が何をしたと言うんだ。
「すみません。私、今日はこれで失礼します」
「ふむ、そうか。ではまた、機会があったらな」
香織はそくさくと鞄を肩にかけると、軽く一礼して席を立ち上がり……いやいや、ちょっと待った!
「か、香織!待てって! 」
「わっ、ちょっと何!? 」
彼女の腕を掴むと半ば無理矢理引っ張るようにして家庭科室から廊下に連れ出す。唖然とする二人には申し訳無いが、ちょっとタイムだ。
「今日はこれでって……このまま帰る気かよっ」
「だって、呼び出しされちゃったから」
「それにしたって。終わったらまた戻ってくれば」
「どっちが先に終わるか分からないのに、そんな約束出来ないでしょ」
た、確かに。呼び出しとは言えガイダンス─と呼べる程のものかは不明だが─途中に抜けてまたのこのこ顔を出すというのはあまり良識的では無い、ような気がする。しかし、だとしてもだ……
「この後、俺一人で何とかしろって!? 」
「大丈夫っ、俊也なら何とかなるよ! 」
「……他人事だと思ってお前は」
大体、最初にこの件に首突っ込んだのは香織だろ。無理矢理引っ張られたに過ぎないってのに、中心に投げ出されてそのまま放置とは。また香織に引っ張り回されるのか俺は。
「じゃあ、私行かなきゃ! 」
「あ、おいっ」
「先に終わった方がメールして、正門で待ち合わせね」
背を向けた時にヒラリと揺れた赤いスカートとすらりと伸びた素足が目に入る。やっぱり少し丈短いんじゃないかな……ほら、周りの男共の視線とか色々ある訳だし心配というか何というか。なんて思ったら、またまた彼女はくるりと振り返って。
「あ、もし椎名先輩に取材約束出来そうだったら、お願いね」
「……ホントちゃっかりしてんな、お前」
そう言うと、彼女は大きなお世話だとばかりにべーっと可愛らしく舌を出してさっさと行ってしまった。
軽いため息をつきつつ、その後ろ姿を見送ると再び家庭科室に入ってゆく。
「ガールフレンドはしっかり見送ってやったか? 」
「はい……まぁ凡そそんな関係とは程遠いですが」
「素直で可愛い娘ではないか、大事にしてやれよ」
「あれは素直というより遥かに質が悪いですよ」
何が大事にしろなのかは分からないが、少なくとも素直なんて言葉ではとてもではないが頷く事は出来ない。あいつのせいで今まで俺がどれだけ苦労を……
「さて、では青年の為に我がホームの概要説明をしてやるとするか」
香織、やっぱ帰ってきてくれ……!
小・休・止
「えーっと、ですね。先程から先輩が仰っている『ぞでぃあっく』って一体何なんでしょう? 」
「『ぞでぃあっく』ではない、NO.13(ゾディアック)だ」
「は、はぁ……」
30分後。
先程と全く変わらない説明を重ね重ね受けた俺は相も変わらず同じように─恐らくポカーンとした顔だろう─向かい合う先輩の表情を窺っていた。こうなったら徹底的に疑問を解決してやろう、半ば躍起に口を開いてみたものの。
「えーと、そのぞでぃあっく? 」
「違う、何を聞いているのだ。ゾディアックだと言っているだろう」
初っぱなから発音で厳しく注意される始末。正直何でも良いのだがここでおざなりにしていては一向に話が進みそうにないので我慢だ。
「すみません………
それで、そのゾディアックって何なんですか? 」
「ふむ……」
馬鹿な自分でも分かるくらいにお願いします、と敢えて卑下しておく。
「当たり前だが如何なる世界、如何なる時代においても人々の上に立つ支配層なるものが存在している。それは何も表立ったものだけで無く、我々の預かり知らぬとされる世界の裏側に潜む暗部達をも踏まえた揺るぎない事実として受けてもらえば異論は無かろう。
そう、歴史─この場合の歴史とは語られる事を良しとされた都合の良い歴史だ─の背景には必ず奴等が蠢き奔走している事は最早隠しきれない事実とされてきている訳だが……」
相変わらず長く要領を得ずらい前置きだ。
「そんな様々な支配層の中でも、このエリアを統括している支配層、それを我々はNO.13(ゾディアック)と呼んでいる」
「え、エリア?エリアって……」
「この学園、という意味だ。そのくらい常識だろう」
怒られてしまった。
……ん?この学園の支配層?それって、この学園を運営とかしている方々って事か?
「理事長……とか、ですか? 」
そういえば理事長さんとかどんな人なんだろう。そもそも理事会って学校内にあるんだろうか。
「いや、それはNO.13を影から操る連中だ。いわゆる暗部だよ、史実の裏側に潜んだな」
「………」
ひどい言われ様だ。
しかし、だとすれば他に何だろう。学園をまとめる存在……まさか。
「……生徒会、とか? 」
「うん。まぁ、そのような呼び方が一般的ではあるが」
……生徒会。つまるところ生徒会を敵視しているという訳か、この人は。一体全体何だってそんな事を。
こちらの反応に気付いたのか先輩は続けてその理由を話してくれた。
「連中はこの同好会を解体させようと目論んでいるのだ。様々な手段を講じてな……」
「解体? 」
「あぁ。それも何年も前から懲りる事も無く。予算削減、経済制裁による活動を抑圧を始め、幾多にも及ぶエリア00からの立ち退き宣告等々……我々の規模が小さい事を良いことに、な」
あまり穏やかじゃない話題に思わず眉を潜める。話はかなり大袈裟に聞こえるが、それってつまり廃部の危機にある、という事では無いのか。
「そがな横暴を働いちょるんかっ、生徒会っちゅーのはっ!! 」
「ちょっ、落ち着けって」
ガタンと椅子から立ち上がった弦の肩を押さえつけ、何とか宥め座らせる。
「一昨年までは、我がホームは格が一つ上にあったのだ。同好会では無く、部としてな」
「へぇ」
「が、連中はそれを良しとせず人数はこのホームの格下げから始まり数々の妨害工作の受けつつ、今日に至るという訳だ」
それはそれは、中々どうして複雑な話だ。恐らく部として確立させるには人数やらそれに伴う予算割り当てやらの問題が障害となったのだろう。生徒会としても苦渋の決断だったのでは……いや、あの会長ならば容赦無く切っていきそうだ。ふと、前に部活紹介の一件での生徒会長の対応が頭を過る。こと香織に対して強く当たっていたのには、流石に黙ってはいられなかった。
「その生徒会と、先輩はずっとたった一人で戦っていたんかの? 」
「いや、かつて私には肩を並べ苦楽を共にしてきた戦友達が居た」
戦友ときた。
「しかし、その朋友達も度重なるNO.13の魔の手に一人一人と散っていった……そうして今年、地に立つ事が出来たのは私のみとなった」
「そんで、ずっと一人で戦ってこられたんか? 」
「無論だ。例え最後の一人になろうとも、我がホームの魂は散っていった同志達の魂と共に生き残るからな」
それだけこの同好会が好きだったのだろう。それは、生徒会を快く思わなくなっても仕方の無い事だ。
「かくして、昨年から支配層NO.13に対坑、ヒエラルキー打開を旨することにした。謂わばレジスタンス、この同好会はその為のベースの役割も兼ねているのだ」
……問題はそれだ。同好会の魂は生き残る、それで終わっていれば良い話なのに、そこからどうして対抗やら打開やらに話がいくのか。料理研究は最早何処へ行ったんだ。
「案ずるな、当然活動は今までの同好会と何ら変わりは無い」
「へ? 」
「真なる目的を悟られまいと表向きな活動として料理研究を行う、という口実だが。元々はそれこそが本業、料理を楽しむことを忘れているようでは困る。だから活動はさして変わる筈も無かろう」
いきなりまともな事を言われても反応に困る訳だが。
そもそも、単に対抗組織を作るのであれば何も料理研究同好会なるものでなくてもいいはず。
「だったら、先輩が料理研究同好会に入ったのは……」
「無論、料理が好きだからだ」
「………」
もの凄く鋭い視線でもの凄く意外なことを宣った。でも、やっぱり好きじゃないとそうはならないんだろう。
かく言う新聞部だって他人事だと言ってはいられない。人数問題や委員会の存在から予算削減等の処置はいつ下されてもおかしくないのだ。だとすれば、香織もこんな道に走ってしまう日が……いやいやいや!!そんな事があって堪るかっ、俺の香織を返せっ。
「やはり……やはり、思った通りじゃっ!!」
「あぁ? 」
またややこしい奴が。と思ったがよく考えれば今回の件の主役は弦だった。
三度椅子から飛び上がる様子を今度は止めずに見てみる。このまま告白でもしてくれれば話も早い……
「わしゃ、アンタを一目見た時から思っとったんじゃ! 」
おー、本当にいく気か。その潔さというか大胆さというか、臆することのない姿勢はある意味羨ましいのかも知れない。
「その瞳、まっすぐで強く気高いその瞳を見ての!! 」
「私の? 」
「おう、そうして今確信した!やはりこれは運命じゃったと」
ほほぅ、瞳に惹かれたと言う訳か。因みに先輩に対して敬語を使っていないが、それは互いに気にしていないようだしこちらとしても気にしない事にする。
「椎名先輩……ワシを」
「………」
……ついに言うのか、何だか俺まで緊張してくるな。
「ワシを……!! 」
がばっ。
弦はそのまま両手を地面につけて土下座の体勢に………え、土下座?
「ワシを弟子にしてしてはくれんか!! 」
…………what?
「弟子……だと? 」
「おう!たった一人となっても迷うことなく立ち向かうその強さ、その揺るぎない信念に惚れたんじゃ! 」
……おいおいおい。惚れたって、まさかそういう感じだったのか?お前の熱意に惚れた、とかお前の技に惚れた、とかそんな感じの?
「そうか……青年よ、お前は強さを求めるか? 」
「あぁ、ワシは強くなりたいんじゃ!!いや、強くならんといかん! 」
「ふっ……いい眼だな」
先輩は微笑しつつそっと屈むとゆっくりと手を伸ばす。気がつけば彼女の後ろからは後光が射していて。
「ならば共に見つけよう、青年よ。私もまた真の力を求め足掻く一人だ」
「お、おぅ!よろしくお願いしますじゃ!!」
何という茶番。
固く握手を交わす二人を暫く眺めていたが。
「………」
いや、まぁでも。よく分からないけど、何やかんやと総合すると─もう面倒なんで─これはこれで良かったのかな。弦もこの同好会入るみたいだし、惚れた云々はこれからどうとでもなるだろう。彼もこの同好会を機会に料理を覚えるのも良い、先輩としてもメンバーが増えて喜んでいるみたいだし、結果オーライというやつか。
「やれやれ……」
これで、俺の役目も終わりだな。無理矢理綺麗に終わらせるべく、俺は微笑(作り笑い)を浮かべつつそっと背を向ける。
「よし、我々三人はこれからこのホーム存続の為に共に戦ってゆこうではないかっ」
「おう! 」
ではでは、皆さん。お後もよろしいようで、また次回お会いし……
「え?三人? 」
振り返ると同時に差し出されたのは一枚の紙切れ。入会許可と書かれた一枚の紙切れだった。
「近藤弦、並びに藤咲俊也。我がホームへの入会をここに承認しよう」
………あれ?
「活躍に期待しているぞ、若人達よ」
あれぇぇ!?
*
「えぇ!?」
帰路さすっかり薄暗くなった並木道から始まり、明かりの溢れる住宅街にさしかかる。夜はまだやや肌寒い気温だと時折吹く風を感じつつ、隣から上がったのは案の定驚いたような香織の声だった。
「そ、それで、入っちゃったの? 」
「あー、まぁ。そういう事みたい、だ」
「みたいって……何でちゃんと言わなかったのよ! 」
正門で待っていてくれた彼女と数分前に合流し、歩きながらその後の経過─弦が同好会に入った事、同好会の状況並びに先輩の事情等─を話していた。まぁそれは良いとしても……
「いや、それがさ……言おうとしたんだけど」
結果的に【何故か】俺までもが『料理研究同好会』に入会させられてしまったのだ。
入会許可証を渡された時、急いで突っ返そうとしたのだが。
『貴様、この期に及んで冷やかしで来ていたとでも言うつもりかっ。まさか連中の手先!? 』
なんてマフィアもびっくりなスナイプアイを向けてくるものだから、慌てて入会しますなんて口走ってしまった、という情けない事この上無い経緯が。
「まぁ、一応料理研究同好会だから怪しい活動とかはしないし(多分)……週一で参加も基本自由だから掛け持ちも出来るかなって」
「……ふーん」
香織は釈然としないような不満気な声は俺の言い訳染みた言葉を続けさせる。
「それに、さ。これを機会に料理とか色々出来るようになったら、良いかなー……なんて」
「椎名先輩、美人だもんね」
「は? 」
何故いきなりそんな話題に?
「髪長くて綺麗だし、スタイルも良いし、俊也の好みタイプなのかもしれないけど……」
「あ、あのな……!! 」
「私なんて……全然勝てないけど」
それじゃまるで俺が先輩に釣られて入った輩みたいな言い方じゃないか!好みのタイプどころか180度正反対だからなっ、多分。それに俺はお前が負けてるだなんて……
「でもっ! 」
「お、おぉ? 」
そう訴えようとする間もなく、香織は振り返ってグッと距離を詰めてくる。つーか、顔近いって。
「でも、新聞部を勝手に辞めたりとかはダメだからねっ」
「………」
彼女の瞳が不安気に揺らいだのがはっきりと分かった。時々変に脆い時があるんだよな、こいつには。
はぁ、と小さくため息を吐くと落ち着かせてやる為に彼女の右手を取った。
「と、俊也……? 」
そうして自分の右手をそっと重ねてやる。
「落ち着けって。誰も部活辞めるなんて言ってねーだろ? 」
「……うん」
「それに、言っとくけど俺は辞めるつもりなんてねーよ。寧ろ、頼まれたって辞めるつもり無いからな」
本当に?
そんな意を込めて上目遣いで見上げてきた香織に気の迷いかドキリとしてしまう。いや俺が悪いんじゃないこの環境が悪いのだ。
「っ! 」
何を思ったのか、香織はハッとしたように慌てて俺から離れてしまった。
ちょっと名残惜しい……って何考えてんだっ
「あ、あはは!そっかそっか!遂に俊也も新聞部としての自覚が出てきたんだね! 」
……自覚、か。
まぁ多少は無いこともないとは思うけど、でも本当のところは違うと思う。別に新聞部に拘りがある訳でも無いが。別にそれについて云うつもりはない。
「ま、そういう事にしといてくれ」
「あ、認めるの悔しいんでしょ? 」
「別に」
「やっぱりー、目逸らしてる」
せっかく機嫌が直ったようなので、余計な事は言わずにいつものように曖昧に頷いておく。
隣で笑う幼馴染みの笑顔を見ていたら、もう少しこのままでも良いかと、歩調も自然とゆっくりになっていた。
今回でようやく話が片付きました。結果主人公は新たな居場所を手に入れたようですが……まあ、これは香織のテニスサークルと同じ感じだと思って頂ければ。
弦の惚れたは【そういう】惚れた、でした。拍子抜けもいいところです。
ですが、これから気持ちが変化していくのもありかなとか。これから活動を書いていく上でどうなるか、ですね。
最後は安定のイチャラブ(笑)で
主人公の気持ちが少しずつ変化していってますね。自分の灰色の青春を抹消すべくこちらの青春に一生懸命になってる今日この頃ですwww
次回は章の区切りで思い出話。またイチャラブ(笑)になるから未定です。
次回もよろしくお願いいたします!
 




