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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
32/91

時が経つと死にたくなるくらい恥ずかしくなる例のアレ

大分間を空いてしまいました、すみません!

ようやく忙しさのピークが過ぎたので更新再開します。


前回に引き続き、料理研究同好会に向かう俊也達のお話です。上手く二話ではまとまらず、次回まで続くことになってしまいましたが、どうかよろしくお願いいたします!

 


 料理研究同好会。またの名をクッキング研究同好会、略してクッ研とも呼ばれているらしい。詳しい活動内容は知らないが、様々な料理を作り活動するごく一般的な料理クラブと大差はないだろうと考えている。活動拠点は言うまでも無いだろうが家庭科室。高等科には家庭科室が2つあるのだが、香織の情報によれば小さな第二家庭科室で活動場所にしているとの事。

俺は前を歩く弦と香織を眺めつつ、高等科最上階にある第二家庭科室に……あれ?そもそも何でそんな同好会に行こうとしてるんだっけ?


「弦君!頑張ろうね、絶対に成功させよう! 」

「お、おぅ!目的がある限りワシは挫けん」


 あー、そうだ。弦が気になる女の子がいてどうたらこうたらって話で。聴き込みでその女子が料理研究同好会に所属している生徒やも知れんというのだったな。

 目的、という彼の言い回しがちょっと引っ掛かったが気にしないでおいた。


「私達も精一杯応援するからね! 」

「男だったらバシッと決めろてこいよ」


 昼間協力してくれた雨宮と進一は二人とも部活の関係で、放課後はどうしても付き合う事が出来なかったが別れ際に心からの激励を弦に送っていた。それを聞いた彼は案の定『感動した』と泣き出さんばかりの勢いで熱くなっていたが。

 そんな訳で、さっきからノリノリな幼馴染みと燃えるクラスメートに対して一人だけ取り残されている俺という何か不安しか感じられないパーティーで難度の高そうなクエストに挑もうとしているのだ。


(綺麗だなぁ……)


 そういう時は空を眺めるに限る。黄昏を気取るかのように最上階の窓に顔を向けて。

 今日の蒼は昨日よりちょっぴり明るめで、細く筋雲が幾重にも重なり合う圏層雲と共に俺の視界いっぱいに広がっている。

 他人からしてみればただの晴れた空、それ以上でも以下でも無いであろう景色。昨日も確かに晴れていたから昨日と差して何も変わらないただの空だ。


『空は一秒一秒違うんだ。生きているんだよ、空も。』


 昔教えて貰った言葉。まだ俺が年端もいかない子供だった頃、とある男から受け取った言葉だ。

 忘れもしない、目の前に広げられたあの莫大な蒼は今でも鮮明に思い出す事が出来る。


「………」


 俺はおもむろにカメラをズボンのポケットから取り出すとシャッターを開いて窓の外に……


「こーらっ」

「あっ……」


 突如伸びてきた手が掲げたデジカメをあっさりとかっさらっていった。せっかくこの空を収めておこうと思ったのに……


「何すんだよっ」

「今は弦君の事が先でしょ? 」

「別にそれくらい……今の空が」

「空オタク振りは後にする!これは没収ね」


 まるで母親のような口振りで香織は取り上げたカメラを上着のポケットに。

 一体何の権限があってこの女は俺から大切な空を奪うというのだ。文句を言う代わりに不満げな視線を送ってみるも、あっさり無視された。



 第二家庭科室。木製のプレートにそう書かれた部屋の前で立ち止まる。第二室は教室の半分ちょっとくらいの広さか。


「人は……居ない、みたいだな」


 無人か。元々広い第一室がメインでこの第二室は謂わば準備室とも言える場所であるから、放課後で無くとも人が少ない─というかほとんど居ない─事は不思議には感じない。しかし香織の情報では料理研究同好会が放課後に活動している、という話であったのだが。


「誰も、居ないみたいだね」

「むむっ、物音も聞こえんのぅ……」


 ゆっくりと家庭科室のドアに近付いていく俺達三人。物音一つしないらしき様子に各々首を傾げてみるものの、この場でいくら考えてみても解決する筈も無く。というか、俺の予想ではこう和気あいあいキャッキャッウフフと賑やかに活動している光景だったんだが。


「誤情報だったんじゃないのか?活動日時間違えたとかさ」

「なっ、誤情報って私が!?そんな訳……」

「どうだかなぁ、昔から空回りは十八番だから説得力は無い気がする」

「むっ……!! 」


 俺からカメラを奪った仕返しだ。これくらい反論する権利はあって良い筈。


「そんな言う程、空回りなんてしてないよっ! 」

「散々振り回されてきた身としては素直に頷けないんだよなぁ」

「私がどんな風に迷惑かけたって訳!? 」

「例えば、そうだな……あれは小学五年生の時だ」


 コホンとわざとらしく咳払いをして姿勢を正してみせる。ムッとしたような幼馴染みの顔が目に入ったが、構わず興味深そうな弦に顔を向ける。


「ある日の放課後、香織は理科室で女の子の悲鳴を聞き付けました。厄介事を放っておけない性格の彼女はすぐさま理科室に飛び込んでいきました」

「ほほぅ」

「するとどうでしょう、室内では悲鳴を上げる女の子の服を掴んで引っ張っている四人の男子達がいるではありませんか。香織は近くにあった箒を手に取るや否や、男の子達に突っ込んでいきました」


 隣に居た俺はまず話を聞こうと提言したんだけどな。


「止める間もなく、彼女は男子四人を叩きのめして女の子を救出しました」

「何と……それは凄い活躍じゃのぅ」


 目を丸くする弦とは対照的に恥ずかしそうに俯く香織。


「けんど、流石香織じゃ。まるで正義のヒーローじゃな! 」


 ここで話が終わってりゃな。


「しかし、よくよく事情を聞いてみると何やら様子が違うらしく。実はコオロギの観察実験中に逃げ出したコオロギが女の子の服の中に入ってしまったそうで、女の子はそれを取れと悲鳴を上げていて、男の子達助けようとしていたのです」

「お、おぅ? 」

「つまり、香織は全く無実の男の子四人を早とちりでボコボコにしてしまった、という訳でした」


 めでたしめでたし。


「それは……何とも気の毒な話じゃのぅ」

「あぁ。特に、彼女と一緒にいた男の子がな。駆け付けた先生に代表してこっぴどく怒られたり、その男子達から逆恨みを買ったりしたから」


 まさか女の子が男子四人を滅多打ちにした、なんて先生が信じてくれる筈もない。


「だ、だってあの状況だったら誰でも勘違いしちゃうでしょ? 」

「後の良い教訓にはなったよ、俺にとっての」


 状況把握は如何なる時も大切だと。


「それから、こんな話もあったな。小学校四年生の時、当時学校でカマキリの卵を孵化する観察実験がありました。クラスの皆は春になるにつれて変化してゆく未知なる卵にワクワクしており、香織もその一人だった訳ですが」


 そこで終わっていたらただの微笑ましい思い出になったろうに。


「しかし、実験が終わった後は卵を始め安全の為全て破棄してしまうという事実を知った彼女は、『カマキリが可哀想だ』ととある男の子を(無理矢理)連れてケースに入っていた卵を枝ごと取り出すと、先生達に見つからないようにと家庭科室の棚に隠してしまいました」

「そ、それからどうなったんじゃ? 」

「結果、ゴールデンウィークを過ぎて孵化した卵から大量発生した子カマキリが溢れて学校中大騒ぎになりましたとさ」


 見れば香織は先程より更に俯いて『う〜』とか『む〜』とか唸っている。俺からカメラを奪った仕返しだ、存分にダメージを受けると良いさ。


「そ、それは……何とも悲惨な出来事じゃな……」

「一番悲惨だったのは、彼女の代わりに様子見に行かされたとある男の子が惨事の第一発見者となってしまい、犯人扱いされて散々怒られた事だな」


 暫く昆虫の類いがトラウマになったの事は言うまでもないだろう。


「あ、あの時は、その……で、でも疑いも晴れたでしょ? 」

「疑いが晴れても、『何で止めてやらなかったんだ』って結局更に説教くらったんだ。お前はパニックって泣いちまうから逆に慰められてたしよ」

「な、泣いてないもん! 」

「ほとんど泣く寸前だったな」


 性格上香織は必死に我慢してたけど。女の子だし最終的に男子の俺があれやこれやと叱られるものなのだ。


「それから、その惨事の数週間前だって……」

「あー、もうっ!!

何で一々覚えてるのよっ、悪いトコばっかり!! 」

「とばっちり食らうのは大体俺なんだから、嫌でも記憶に残んだよ」

「ぅ〜!!」


 振り回された思い出だったらキリが無くなる程話せる自信はあるくらいだ。


「まぁまぁ、二人ともそな事で喧嘩せんでも」

「「………」」


 思わず弦が仲裁に入る程に不毛な言い争いをしていると、不意に後ろから肩がとんとんと叩かれた。


「おいっ」


 続けていきなり真後ろから声、それもやけに高圧的な声色がした。慌てて振り返るとそこにはこちらを見下ろすように立つ一人の女が。


「お前達、ここで一体何をやっている……」


 後ろで束ねられた艶やかな黒髪を(なび)かせ、そのつり目がちな琥珀色の瞳でジロリとねめつけてくる。例えるならば鋭利な刃物、そんな彼女の眼光は容赦無く俺の全身を貫いてくる。つーか、普通にガン飛ばされてるよねコレ。やばい、滅茶苦茶怖いんだけど。


「まさか連中の差し金か?いや、待て。考えを先走るな。確固たる確証が持てぬ以上迂闊な言動は避けるべきだな……」


 しかも何か考え込むようにぶつぶつと独り言を始めたんだが。


「……先入観は人の道を大きく踏み誤らせる。歴史にはその顛末をことごとく露にしてきたのだ」


 しかも、さっきから丸聞こえなんだが。


「そもそも、連中が動き出したとすれば直ぐ様私に何らかの連絡手段が入る筈だが………ふむ」


 ……しかも、何だろう。言葉の端々にこう、独特の痛々しさのようなものを感じるんだが。

 現状何もかもがさっぱりだが、これだけは言える。今すぐにでも退散した方が良い。


というか退散すべきだ、俺の勘がそう告げて……


「ね、俊也俊也……」

「あん? 」


 と、側にいた香織が耳元で囁いてきた。一体何だというのだ、今まさに戦略的撤退の機会を探っているというのにっ。


「この人、もしかして弦君が言ってた先輩じゃない? 」

「あ……」


 言われてみれば。

 黒髪、ポニーテール、高身長、そして鋭い目付き。あぁ、話に聞いていた通りの容姿だ。


「………っ!! 」


 見れば弦も驚いて口をパクパクとさせている。なるほど、その反応は当たりのようだ。


「あの、すみません」

「何だ? 」


 俺が止める間もなく、香織は既に一歩踏み出していた。返ってくる鋭い視線にも物怖じせず、笑顔のままいつものペースで続ける。


「私達、料理研究同好会に見学に来たんですけど……」



 *




 最初に言っておこう。こと今回に置いては、俺はツッコミを入れるつもりはない。ツッコんだら最後、俺はココから抜け出せなくなる、そんな気がするんだ……本能的に。だから如何なる状況に見舞われようとも、勢いに身を任せたようなツッコミは……


「ふむ、見学者だったか。これは失礼したな。私はてっきり組織の連中かと……いや、何でも無い。忘れてくれ」


 ……………


「改めて、歓迎しよう諸君。ようこそ、我が同好会(ホーム)へ」


 えーと、まぁ何だ……俺が言いたいのはつまりアレ、世の中って広いよね。


 まだ15分程度も、この家庭科室の前で声をかけられてから経ってはいない筈だ。

 つい先程、『料理研究同好会見学に来ました』という言葉に乗っかってしまった俺達は成されるがまま、第二室に招き入れられた。故に現在、俺達は第二家庭科室の中にある長テーブルの一つに座らされているのだ。

 そして、目の前に立つ例のポニーテールの女性─弦が見たと思わしき特徴を備えた─は身につけた白衣を大袈裟に翻し、腰に右手を当てたポージングのままいきなり歓迎の句を述べ始めた。その他の説明など全く受けていない、一切何も。


 ふと横を見れば香織と目が合う。彼女は小さく頷いて、すぐに視線を反らす。しかしその瞳は『取り敢えず質問しろ』とはっきり伝えていた。

 無理矢理引き込んでおいて結局コレか。まぁいた仕方あるまい、彼女の意思を汲み取りここは俺が切り出すとしよう。物凄く気は進まないけど、おずおずと右手を上げる。


「あの〜、お聞きしたいのですが……その、色々と」

「おっと……そうだった、私とした事が。済まなかったな名も無き青年よ」


 名前あるんですけど。


「このホームに興味を持たれる者がよもやこの世界にまだ存在していたとは、つい驚いてな」

「ほ、ほーむ? 」

「ふむ、分かりやすく言えば……拠点(ベース)といった所か」


 ………細かい事は置いといて、俺は先を促す。早く簡単なものから話を進めて欲しい、さっきからツッコミ我慢しているのだから。

 

「済まないな。まずは、自己紹介だったか……いや、その前に」

「……? 」


 女性はまたも大袈裟に白衣を翻すと、キッと表情を引き締めて並んでいる俺達を眺め……いや睨まれてるよなやっぱコレ。


「…………」

「へ? 」


 お、おおぉ?彼女はスゥッと目を細めたまま、いきなり顔を近付いてきたではないか。確かに目付きは鋭いけど、かなり綺麗な顔立ちをしてるよな……って違う違う!そうじゃなくて、俺何か気に障るようなことした?


「………」

「え、えっと……? 」


 いやいや、コレってどう見ても因縁つけられてるようにしか見えない……つーかもう、目と鼻の先に彼女の顔が……!!


「ちょっ、ちょっと!! 」


 慌てたような香織の声が飛んできたが距離を縮めて睨み付けてくる彼女は変わらず……


「お前……いい眼をしているな」

「は? 」

「その瞳に映る光。偽りの影など介在しえないような澄んだ光だ……奴等の差し金という訳でも無さそうだな」


 いきなり顔を離すと先程に増して訳の分からない事を宣い始める。

 かと思えば、弦達にも同じように顔を近付け同じような言葉をつらつらと重ねてゆく。


「ふむ……」


 一通り行為を終えると、女性はまたも白衣を翻して中央にふんぞり返るように立った。


「良かろう……どうやらお前達は汚れた邪心の支配は及んでいないようだ」


 『ならば素性を明かしても問題なかろう』と。こちらの反応などお構い無しに、こめかみの部分に人差し指を添えながら続けている。


 よく分からんが、ようやく自己紹介に入り……


「ふむ……そうだな。私は仮に“N”とでもして……」

「だあぁぁぁっ!! 」


 俺はこれでも忍耐強い方だ。


「不躾な奴だな、名乗りにいきなり割り込んでくるとは……」

「……いや、あの、自己紹介をお願いします」

「何を言うか名も無き青年よ。しかと名乗っているではないか」

「……あんた絶対馬鹿にしてるでしょっ、何ですかNってっ!! 」

CN(コードネーム)だ。なに、これだけでも対人対話(コミュニケーション)にはさして支障は無い」


 ありまりだ。無線使ってる訳でも顔を隠してる訳でも無いのだから。


「しかし……まぁ、仕方ないか。貴様のような“一般人”には今この学園(エリア)で起きている危機的状況すら察知出来ないだろうからな」

「………」


 話が一向に進んでいない。進む気配すら無い、何かもう挫けそうかも。


「椎名小夜子、先輩ですよね? 」

「なにっ!? 」


 と、不意に香織の声が。目を見開いて振り返る女、もとい椎名先輩。流し目がスラリと鋭く後方を捉えた。


「高等科二年B組、出席番号21番、成績はどの教科も平均的に上位、体育の成績は飛び抜けて良い。料理研究同好会の会長をしている」

「貴様っ!!何故その事を……っ!! 」


 か、香織……

 今日初めて彼女が女神のように輝いて見えたぞ。さっきは余計な昔の話をして本当にすまなかった!


「まさか貴様らっ、奴等の手先かっ!? 」

「おぉっ! 」

 いきなり血相を変えて食ってかかる先輩に弦はびくっと肩を震わせた。が、香織は済ました表情のまま『大丈夫』と彼の肩をトンと軽く叩いてみせる。


「……いや、早まるな。連中の手回しならばこんな人数で、しかもこんな遠回しに仕掛けてくるなど……だが、」


 またもぶつぶつと独り言を続ける椎名先輩。うーむ、横顔も綺麗だが言っている事は正直ちんぷんかんぷんだ。

同じく対応に困っているとありありと顔に書いてある。


「私、新聞部の穂坂香織です」

「……新聞部、だと? 」

「はい」


 そんな俺の心境を知ってか知らずか、頼もしい事に香織はいつも通りの明るい笑顔で対応する。


「……貴様、マスメディア関連の人間だったのか」


 椎名先輩が見るからに警戒を強めたようだ、視線のキツさからもそれが窺える。

 因みに新聞部(うち)は所詮学校新聞でありそんな大層なものではないが。


「元々今日は取材をお願いしようと思って来たんです。料理研究同好会さんって、新聞部(うち)の取材受けてくれた事無かったですよね? 」

「当然だ……迂闊な情報漏洩など愚の骨頂だからな」

「だから、今回は受けて貰えないかなーって思いまして……」

 なるほど、それならば確かにあり得る話かもしれない。

 俺だったら、恐らくツッコミを入れて話を脱線させていただろう。


「断る、私は取材などは受ける気は……」

「あ、はい。今はそれは置いといて、ですね」


 彼女はゆっくりと立ち上がると弦の方に手を向けてみせた。


「実はついさっき、この同好会に見学したいってクラスメートと廊下で偶然会って。それでここまで案内して来たんです」

「………」

「特に彼は、この春に転入してきたばかりなのでまだ校舎の事も詳しくなくて」


 嘘は言っていない、というか言い方を変えているだけで大体事実に基づいている話だ。


「むぅ………」


 椎名先輩は近付いてスゥッと目を細めるのに対して香織は変わらぬ笑みで続ける。


「もしお邪魔になるのでしたら、遠慮なく仰って下さい。目的は飽くまで案内で、ご迷惑をおかけしにきた訳ではありませんから」

「……いや」


 そこまで言うと、椎名先輩は顔を離してゆっくりと首を横に振った。気のせいか先程より幾分か警戒が解かれてる……かも。


「さきの発言は撤回しよう。お前の()を見れば分かる。真っ直ぐな光が宿ったお前の瞳をな」


 フッと軽く─正確に言えばわざと軽く見せようとした実は大袈裟な─息をついたかと手近にあった椅子を引き寄せて腰を降ろした。ようやく同じ目線の高さで向き合う事になる。

 そっと香織に顔を向けると、彼女はちょっと得意気にウインクを返してみせた。『こういう時は任せといて』とばかりに。今度“Swan”─香織の好きなスイーツ店の一つだ─で何かケーキか何かを奢ってやろう。


「では、詫びと言ってはなんだが……」

「新聞部の取材を受けて下さるとか♪」

「却下だ」

「むぅ〜、残念」


 やや大きめの咳払いを一つ、椎名先輩は白衣の裾を軽やかに翻す。


「詫びとして、改めて私の方から挨拶をさせて貰うとしよう」


 もっと早くこうはならなかったのだろうか。


「私は椎名小夜子。これは私の真名、という事になるだろうな」

「………」

「心配などして貰う必要は皆無だ。名を晒すことについてはそれほど深刻な問題にはならんだろう」


 そんな心配生涯で一度たりともするつもりはない。


「さて、わざわざこんな辺境の地に足を運んで貰ったのだ。早速このホームについて説明をするとしよう」

「………」

「願わくば、彼等にも真なる目的を話せればと思う所存だ」

「………」


 聞きたい事は色々ある、色々あるのだ。例えば何故彼女以外の人間─つまりは同好会の他の人間─がここに居ないのかとか、例えば何故彼女は先程からこれ見よがしに白衣を身に付けているのかとか、彼女の性格についてとか、本当に色々。

 ただ……


「これより、ホームの機能及び活動内容の説明、第二段階(セカンドフェイズ)に移りたいと思う」


 何かもう、帰りたい……



俊也と香織の昔話、もとい苦労話はまだまだ沢山あります。

昔は彼女もやんちゃだったという事で散々振り回された俊也は今のようなちょっと斜に構えたひねくれた性格に……

よく考えたら今回の弦への協力も香織に無理矢理引っ張り回されていますね(笑)


さて、同好会から出てきたのは何とも危ない女子生徒でした。目付き、発言、振る舞い、どれも特殊です(笑)

彼女に弦は一体どんな思いを伝えるのか?そして巻き込まれた俊也の運命は?

次回もよろしくお願いいたします!

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