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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
31/91

青春のすゝめ〜悩ましき近藤君の五月中旬〜

 

 

 学生の本分は言わずもがな、勉学である。あらゆる学生が夢見る理想的なスクールライフを形作る上でこの勉学の在り方が非常に深く関わってくるのは皆さんお分かりの事である。

 という訳で、学生の皆は勉学に励もう……因みに、今日のお前が言うなスレはここじゃありません。


「なぁ、トシ」


 えーと、この式を一度展開してから指数順に並べ替えて……


「なぁってば」


 っと、一応公式の形の通りになってるのを確認を……うん、合ってるな。これを因数分解で。


「おーい、トシ。聞こえてんだろ? 」


 聞こえてるから、肩を揺すらないで欲しい。お前力強いから尚更。

 仕方ない、俺はペンを机に放って教科書を端に退けた。


「何だよ?俺は今数学の学力向上に勤しんでるんだけど」

「おぉ、それは偉い。わざわざ宿題すっぽかした甲斐があったなトシ」

「………」


 べ、別に宿題忘れて先生に怒られて罰として課題提出を命じられた訳じゃないんだからねっ!


「で、何か用か?」

「あ、うん。ちょっとな」

「新聞部に用なら香織に言って……あ、でも今は居ないみたい」


 前方にある幼馴染みの席は空席、教室内にも見当たらない。他クラスにでも遊びに行ってるのだろうか。


「いや、そうじゃ無くてだな。弦の事なんだけど」

「え、弦? 」

「あぁ、ちょっと気になってよ」


 何だろう、(あいつ)がどうかしたのだろうか。興味が出たのでちゃんと彼に向き直る。


「あいつ、今日元気無いよな」

「……そうか? 」

「そうかってお前な……

良いから見てみろよ」


 言われるがまま、俺は窓側の前から二番目にある彼の席に目を向ける。

 何だ、別に単に椅子に座ってるだけじゃないか。

単に窓の外を遠い目で眺めてるだけじゃないか。単に深々とため息をついて項垂(うなだ)れてるだけじゃ……


「確かに変だな」

「だろ?何か悩みでもあんのかな」

「うーん……」


 香織に負けず劣らず無駄に元気なのが取り柄なのが近藤弦だ。もう入学から一ヶ月、彼もすっかりクラスに馴染んでいる。休み時間となれば大声であーだこーだと宣って皆の笑われたりクラスの雰囲気を盛り上げたりするんだが。

 今日はそんな覇気もさっぱり無く、まさしく悩める青年といった感じだった。


「今日の朝占い最下位だったのかな」

「いやいや、んな事であそこまで落ち込むか? 」

「まぁ、確かに」


 いくらおまじないや占いを信じる質だとしても、多少気にはしてもあんな風にはならないだろう。寧ろアイツなら悪い結果こそ気にしないと言う気がする。


「悩みがあるんなら相談に乗ってやりたいけどなぁ」

「別に悩みとは限らねーんじゃ?単に今日は元気が出ないとか」

「それって悩みがあるからだろ? 」

「うーん……」


 確かにポツンと一人席に着いている彼にはいつものような元気さがまるで感じられず当然ながら違和感を覚える。物憂げなため息を吐いたかと思えば、窓の外を眺めてまたため息。そして、どこかボーッとしたように黒板辺りを眺め始める。その繰り返し、何かあった事は明らかなのだが一体……


「「恋ね」」

「「!? 」」


 飛び上がって驚いた、だって後ろからいきなり声がしたのだから。しかも真後ろから。

 

「穂坂、お前一体いつの間に……」

「新聞部なら、この位当然! 」


 進一の言う通り、振り返ればすぐ目の前に香織が立っていた。何故か目を輝かせて立っていた。

 というか、つい数秒前までは人の気配すら微塵もしなかったのに……忍者もびっくりな出現だ。恐るべし新聞部、俺も部員だけど。


「つーかさ、お前今何て言ったよ?弦がどうしたって? 」

「だから、恋だよ!恋! 」

「………」


 こいぃ?それってアレか、お屋敷とかの中庭にある池に放たれている赤や金色の鱗が綺麗な……


「甘煮が美味いよな、独特の臭みがあって。俺は濃い味付けの方が好きだけど」


 鯉だけに。


「「…………」」

「……悪かったよ」


 二人同時に白い眼を向けられたら取り敢えず会話を進めさせるしか無い。結構堪えるな、コレ。


「恋って……穂坂、本気で言ってるのか? 」

「勿論、私の勘が間違いないと告げてるよ」


 で、香織の話を聞くにどうやら『弦が恋の悩みを抱えている』というが提示されたらしいのだが。


「「まさか」」


 それが俺と進一の本心からの一言だった。だっていきなり恋ってそりゃ、いくら何でも突拍子が無さ過ぎるのではないか。

 が、香織はいつも以上に活き活きとした瞳を覗かせて首を振る。


「あの物憂げなため息、何処か切なげな瞳。秘めたる想いはまるで熱に浮かされたかのように何事にも手付かずにする……」


 それ絶対テキトーに言ってんだろ。


「これが恋じゃ無きゃ詐欺だよ。ね、つぐみちゃん」

「え?えっと、そう……なのかな? 」


 おや、いつの間にか香織の側には同じクラスの雨宮の姿が。大方、さっき一緒に他クラスにでも遊びに行ってたんだろう。


「つぐみちゃんは来ない?こうっ、ビビッと」

「ビビッ? 」

「うん!ビビッと! 」


 自分のこめかみを人差し指でこんこんと叩いてアホな事を抜かす俺の幼馴染み。こういう姿を見ていると彼女がモテるという話が疑わしく感じられてしまう。


「うーん……私、そういうのちょっと分からないかも」


 対して、ちょっとだけはにかんで小首を傾ける雨宮。ふわりと揺れる栗色のポニーテール、鈴の付いた髪留めがしゃらんと音を奏でる。まるでウサミミのような大きなリボンが実に可愛らしい。トロンと少し眠たそうなタレ目が更にその魅力を引き出しているように思える。

 ハッとして周りを見回すと、彼女の様子に見惚れてたりするヤロー共がちらほら。因みに俺もちゃっかりその内の一人だったりするのは内緒だ。


「とにかくね!弦君は今きっと恋に苦しんでる筈」

「……そうかぁ? 」

「そうなのっ! 」


 らしいが、俺達三人は顔を見合せて怪訝な表情をせざるを得ない。一体香織(こいつ)は何故こんなにも自信満々に言い切れるのか、グッと顔を近付けてくる彼女に呆れたようなため息がつい漏れてしまう。


「お前の直感程危ないものはねーからなぁ」

「うわっ、ひどいっ」

「そりゃこっちの台詞だ。これまでどんだけその直感で迷惑かけられたか」

「そんな事……」


 無い、とは言わせないぞ。教師に誤認の説教や連行なんてもあったし、警察に御用になりかけた事も。商店街に多大な迷惑かけて各店に平謝りしたり、不良の溜まり場で危うく取り返しのつかない事になりそうになったりもしたっけか。

 本心を言えば、俺はまだ良いが香織自身が危険な目に遇ったりでもしたら洒落にならないからな。


「だったら、近藤君に直接聞いてみようよ」

「直接って、今からか? 」

「うん!何であれ友達が困っているみたいなのに、見て見ぬ振りはしちゃダメだよね」


 友達想いの雨宮らしい言葉だ。

 

「そうだね、つぐみちゃんの言う通りだよ!」

「あぁ、弦にはいつもの明るさが無いとな」


 例のごとく香織と進一の二人もすぐに賛同。悩んでいるクラスメートにすぐさま手を差し伸べるとは、まさに青少年淑女の鏡。俺だったらとてもじゃないが、率先して口には出せない。


「それじゃあ……」


 周りもこう言っている事だし、付き合うだけ付き合うかと教科書を机にしまって席を立ち上がったのだが。


「よろしくね、俊也」

「………あ? 」


 途端、ポンと肩を叩かれてそう告げられる。よろしくとは一体……周りに目を向ければ進一や雨宮も頑張れとジェスチャーを送ってくれていて。


「………」


 とっかかりは他力本願な三人だった。


 まぁ元々付き合うつもりだったし、話を聞く役割くらいは別に良いか。そんな事で一々文句を言っているのもつまらない。そんな訳で俺は三人が見守る中窓際の席に近付いていく。


「おーい、弦」

「………」

「おいってば、弦聞いてるかー? 」

「………」


 おいおい、全く反応無いよコイツ。完全に上の空のようだ、本当に“恋”の悩みとかそんな面倒くさ……いや、高尚な話なんだろうか。早いトコ聞き出して、俺は早々に退散を決め込んだ方が良さそうだ。

 俺は呼び掛けを諦め、彼の頭をバシバシと叩き始める。


「……の、のわっ!? 」

「時差でもあんのかここはっ」

 6回目くらいでようやく反応。弦は驚いてこちらを振り返るが、驚きたいのはこっちである。


「と、俊也か。いきなり何するんじゃ? 」

「さっきから呼んでたんだけど」

「お、おうそうか。それはスマンかったの」


 まぁ、考え事をしてた所に無理やり割り込んだこっちも悪いとは思うけど。


「で、ワシに何か用かの?あ、もしかして」

「あー、いや……そうじゃなくてさ」

「んん? 」


 こちらに向き直ってくれた彼を前にして、少々言葉に躊躇う。『お前悩んでるだろ』といきなり正面切って口にしたとして、それをずけずけと尋ねて良いものか。困っているとさっと横から雨宮が同じように並んでくれていた。


「今日、近藤君元気ないから少し気になって。風邪とか引いちゃったのかな」

「あー、うん。そう、俺もそれが気になって」


 彼女の然り気無い助け船に俺も合わせて頷く。弦はそれを聞くとあからさまに表情をひきつらせたが、すぐに軽い調子で首を横に振ってみせた。


「わ、ワシ何か変だったかの? 」

「あのなぁ……思い切り変だっつーの」


 今度は進一がため息混じりに弦の前に歩いてくる。そうして軽く頭を小突いてみせた。


「いつもみたいに元気がねーから、そりゃ無理にでも目に入るさ」

「うん、何か悩みがあるなら話聞くよ? 」


 進一に続いて雨宮もこくこくと一生懸命に聞き手の体制に入っている。うん、何だか青春の1ページだな。でも気のせいか俺蚊帳の外になってない?


「皆……ワシの事を心配してくれるんか。

わしゃ、わしゃぁ何て果報者なんじゃあ……!! 」


 その大袈裟なくらい大きな声は当然ながら教室中の注目を集める結果に。つーか、感動するの早すぎだからなお前。


「分かった!!

皆にここまで心配させたんじゃ、ワシも正直に話せにゃならんの……」

「うん、力になれると良いな」

「どんと来いって」


 二人ともクラスメート想いの、友達想いの良いやつらだなぁ……おっと、思わず他人事になってしまった。

 何はともあれ、弦から今朝の様子の理由を聞き出せそうだ。


「じ、実はの……その、出会ってしまったんじゃ。運命っちゅーヤツにの……」


 運命に出会った?それってもしかして本当に……


「やっぱり、気になってる女の子がいるんだねっ!? 」

「おわっ!? 」


 弦の言葉が終わるや否や、もの凄いスピードで飛び出してきた香織。その瞳は面倒な事にキラキラと輝いている。


「お前、いきなり……」


 そんな決めてかかるような口振りで……


「なっ、なな何故分かったんじゃ!? 」

「やっぱりそうなんだね! 」


 って、マジなのかよ!?


 あからさまな反応の弦にグイッと詰め寄る香織。まさか彼女の勘が当たるとは、これが女の勘ってヤツなのか。


「弦君!悩んでるなら力になるよ!特にそういう悩みは一人だと辛いと思うから、ね? 」

「え、あ、えっと……」

「大丈夫っ、私新聞部だから!」


 理由はよく分からないが、また周りが見えなくなっているらしい。仕方ない……こういう時の自分だしな。


「名前とかは知ってるの?同い年?そもそもこの学校の人なのかな? 」

「待て待て待てっ」

「あぅ! 」


 ついに衝突しかねない勢いの幼馴染みの頭をむんずと掴んで引き戻す。ちょうど手に収まるくらいの小さな頭、ふわりと柔らかい髪質には言い様の無い心地好さを覚える。


「痛っ、ちょっと痛い俊也っ! 」

「いいから落ち着け、ほら深呼吸」

「手ぇ放してー! 」

「分ァったから深呼吸しろ、せーの」


 スー、ハー。

 何度か促して渋々ながら深呼吸。肩の力が抜けたのか、ようやく勢いが落ち着いたようだ。


「弦が自ら言おうとしてんだから、無理矢理聞き出そうなんてみっともない真似するなよ」

「うぅ〜……」


 何か言いたそうに唸ってるが取り敢えずスルーで。つーか、香織も宥めたし俺もう席に戻っても良いかな。


「で、一体何にそんな悩んでんだ? 」


 進一が話を戻してくれたお陰で、弦はゆっくり頷くとおもむろに口を開いた。


「あ、あぁ……

それは昨日の事じゃった」



 セーブしますか?

      →はい

       いいえ


 よし、セーブして続きは明日にしよう。今日はもう疲れたし。俺はゲームする時は小まめにセーブする派だからな。RPGでも町についたら必ずデータを分けてセーブ、何かイベントでアイテムを入手したらデータを分けてセーブ、品物売買に関しては特に入念にセーブする。ギャルゲーなら尚の事、選択肢前でセーブ分けは当然、章や舞台が変わる度にデータを分けている。

 因みにRPGだったら俺は必要以上に戦闘を重ね、じっくり慎重に進めるタイプだ。例えばクリア推奨レベル15のダンジョンでも20以上で挑んだり。あ、でも武器はすぐ買わないで初期装備で出来るとこまで頑張るけど。


「俊也っ!! 」

「お、おぉ? 」

「ちゃんと話聞いてるの? 」


 怒られてしまった。セーブは中止にされてしまった。

 俺、数学の課題やらないとマズいんだけどな、提出放課後までだし。ま、良いかどうでも。


「という訳での、ワシは帰宅部じゃから、徒然なるままに校舎を歩いておったのじゃ……そして」


 吉田兼好かお前は。

 それはさておき、弦の話を簡単にまとめるとこうだ。


 昨日の放課後、弦は校舎内でとある女性に出会ったらしい。そしてその女性を見た瞬間に、何かビビっときてしまったらしい。以上、要約終わり。


「なるほどな、そういう事か」

「……何か、ものっそい簡単に片付けられた気がしたんじゃが」

「気のせいだ」


 仲間の話をそんなゲームのスキップ機能のように流す訳が無いだろう、ははは。


「しかし、校舎で見たっつー事は明条の生徒でまず間違いないだろうな」

「そうだね。でも名前もクラスも分からないとなると……」

「高等科の人かも分からないね、中等科の女の子かもしれない。この学校、女子だけで500人以上居る訳だし」


 三人は思い思いに口を開き意見を述べている。確かに、雨宮は香織の言う通りただ校舎で女の子を見たって言ってもこの学校は広い、無駄に広い。何せ中高一貫だしな。都心から離れた郊外といっても、全校生徒は1000人以上にのぼる。


「で、どんな娘なんだ?顔とか髪型とか」


 当たり前の疑問を尋ねたつもりが、四人にきょとんとした表情を返される。あれ、俺何か変な事言ったかな?


「ばかっ、やっぱり何も聞いてないじゃない! 」

「痛っ!? 」


 叩かれてしまった。どうやらもうどんな女の子なのかを話してしまっていたらしい。なるほど、俺がセーブについてあれこれ考えている間に話が進んでいたようじゃ。


「トシ……クラスメートが真剣に悩んでるってのにお前は」

「藤咲君、ちゃんと聞かなきゃダメだよ」

「俊也サイテー」


 おぅふ、周りの評価がまな板を滑るこんにゃくの如く滑り落ちてゆく。緩やかに思えてかなり早いぞアレは。


「あー、決して聞き流してた訳じゃ無いんだ。ただ数学の課題の途中だったから不意に思い出しちゃって、ちょっと……ごめん、弦、進一、雨宮」


 こういう時は素直に謝るに限る。自分の非を認めてすぐに謝罪出来るって大切な事なのだ。


「って、何で私だけ口にしないのよっ」

「で、その女の子はどんな女の子なんだ? 」

「無視するなーっ! 」


 ギャーギャーと喧しい奴はさておき、改めて女の子の特徴を教わった。

 弦はやたらと長い前置きや話が度々脱線したりしたので、要点だけ簡潔にまとめる事にする。


 背は女子にしては結構高め、黒髪を腰まであるポニーテールらしい。

 そして何より、弦が推していたのは瞳だった。


「瞳が……強い? 」


 曰く、まるで人を容赦無く射抜くような真っ直ぐで“強い”瞳だったそうだ。そこにビビっと来たとか何とか。

 

「……要するに目付きが悪い女って事か? 」


 ばしっ。述べた瞬間に香織に叩かれる。というかそんなバシバシ人の頭を叩かないで欲しい、地味に痛かったりする。


「弦君、その人の事知りたいよね? 」

「あぁ、それはそうじゃが……クラスも名前も知らんからのぅ、ワシは入学したばかりじゃし」


 何より一目見ただけで情報が少ない。ポニーテールの女子なんて沢山いるだろうし、その日だけその髪型で普段は違う可能性だって考えられる。推していた瞳だって、強い瞳だってえらく抽象的な表現だしな。


「そこは、私達の出番な訳だよ! 」


 が、香織は何故か嬉しそうにそう言うと自信気に胸を叩く振りをしてみせた。


「私達は明条学園新聞部!

長年培ってきた人脈、学園の情報網だったら誰にも負けない自信があるの! 」

「大袈裟過ぎるぞ、誇大広告は犯罪だ」

「うぅ……で、でも普通の生徒よりは沢山人脈あるもんっ」


 そりゃまぁ、そうなんだが。先代の部員や島先輩達による功績が大きいところだ。


「ともかく、私達も協力するよ!謎の少女探し! 」

「ホントかの!? 」

「うん、このまま何も分からないままじゃ気持ち悪いもんね! 」


 頼もしいと言えば頼もしい、お節介と言えばお節介。そんな香織の言葉に続いて進一と雨宮も頷き合っていた。


「俺も、剣道部で聞いてみよう。人数だけは結構多いからな、参考になりゃ良いんだが」

「私も、美術部の先輩とか後輩に聞いてみるね。先輩達はお友達沢山居るから三年生の方は助けになるかな? 」


 二人とも、部活以外でも結構人脈は広いからな。生徒に人気だから本人知れずって事もあるみたいだけど。


  ……ちょっと待て、今香織は『私達新聞部』と宣わなかったか。それってやっぱり……そうだよなぁ。


「じゃあ、早速昼休みに聴き込み開始!進一君とつぐみちゃんは部活の人から話を。私と俊也は新聞部のを活かして一般生徒から話を聞いていこっ! 」

「………」


 やっぱり俺もか。まぁここまで話に付き合ったし構わないけどさ。しかし相変わらず妙なテンションだな香織(こいつ)は。


「皆、皆わしの為に……!!わしぁ、わしぁ感動したんじゃあぁぁ!! 」


 おぅ、こっちからもやたら大袈裟な反応が。こうやって純粋に感情を表現出来る事は大切なのかもしれないけどね。



 とまぁ、そんなこんなで昼休みになった。

 四人による聴き込み作戦は昼食を摂って程無く開始された。当初の予定通り、進一は剣道部を、雨宮は美術部を、そして香織と俺─半強制的に連行されたので実はまだ昼を摂り終えてなかったりするのだが─は高等科の一般生徒から話を聞く事に。

 進一達の方はどうか知らないが、俺達の聴き込みはトントン拍子に進んでいった。流石に新聞部か、香織は上手く生徒達から必要最低限の情報を手早く聞き出していったのだ。日頃から駆け回っている彼女の顔の広さも無論要因の一つと言える。

 しかし、弦が見た女子生徒の候補一人の情報を掴んだ所で昼休みが終了してしまった。



 放課後になって俺達4人と弦はさきの休み時間同様に集まった。進一と雨宮は空振りだったらしく、結果として俺達が掴んだ女子生徒の情報だけとなった。


「高等科二年……椎名(しいな)小夜子(さよこ)さん、か」

「部活には入ってないみたいだけど、料理研究同好会に所属しているみたい」


 ポニーテール、背は高め、目付きが鋭い、等のあまり限定的とも言えない特徴から導き出された情報なので可能性は高いとも言えないのだが。


「でも、顔が無いと確認のしようが無いよね」


 雨宮の言う通り、情報にしても写真とかが無いと正確かどうかが分からない。弦本人に確認して貰わない事には。


「じゃあ、早速会いに行こう!その目で確かめてみないと」

「ほ、本気がか!? 」

「勿論っ、寧ろこれからが本番なんだから! 」


 それにしても香織はやる気満々だ、本人以上に。こういう時のコイツは面倒にも程がある。


「あのなぁ、こっから先は本人の問題であって俺達がアレコレ介入するのは……」


 ていうか、もう数学の課題に取り掛からないと確実に間に合わない訳だが。


「……そうじゃな、皆にここまで協力してくれたしの!ここで逃げちゃ男じゃないわっ! 」

「………」

「皆、あと少しだけワシに力を貸してくれんかの! 」


 弦もノリノリだった。


「勿論だよ、頑張ろうね近藤君! 」

「よしっ、乗り掛かった船だ。俺も今日はとことん付き合うか」


 雨宮と進一もグッとガッツポーズせん勢い。あれ、今このノリについて行けてないのって俺だけ?


「で、一体何処に行くんだ?二年の教室か? 」

「ううん、料理研究同好会だって言うから……家庭科室に行ってみよ! 」


 おーっ、と4人は一致団結したかのように息を合わせて教室を出ていった。しかし仲良いなぁホント、未だに波に乗りきれていない俺もとぼとぼとその後についていくのだった。


 後悔先に立たず、後に身を持って知る事になる。



次回はまた新しいキャラクターが登場します。

よろしくお願いいたします!

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