どっちもどっちだね
今回は粋君の視点です。
よろしくお願いいたします!
「お話、ありがとうございました!」
取材を終えて。
元気よくお辞儀をする香織ちゃんと一緒にラグビー部の部室から外に出ると、俺こと折濱粋は上空に広がる暗がりを見上げた。もううっすらと星も出始めてきている。
「ふぅ……」
一旦、大きく息を吸ってそれをゆっくりと吐く。これで頭はクリアになる。
「あ、穂坂、えっと……!!
またいつでも来てくれよな……」
「うん、勿論!
大会頑張ってねっ!」
「お、おぅ!任せとけ」
部室の中から一人の男子がこちらを追いかける外に出てくる。
香織ちゃんの同級生なのかな、両手で小さなガッツポーズを作って激励する彼女に男子生徒は慌てて頷いたかとすぐに部室に引っ込んでしまった。
「やっぱり人気者だね、香織ちゃんは」
「え?」
きっと今の男の子は多少なりとも香織ちゃんに気があるんだろうね。今も顔が赤かったし。
「私、中等部の時から色んな部活を取材してましたから。皆、顔を覚えてくれたんです」
「中等部から、そうなんだ」
「だから、単に新聞部で知られてるだけで……迷惑がられちゃう事だってよくありますし」
慌てて両手を振って困惑混じりにはにかむ香織ちゃん。
うん、確かそれもあるかもしれないけど。彼女が人気があるのは霞からも聞いてるし、事実先程までの取材でもそれは感じ取られたから。
今はちょうどラグビー部の取材が終わった所だけど、これまで話を聞いてきた部活の男子はもっと取材して欲しそうだった。
「それを言ったら、粋先輩は女子に凄く人気でしたよ。私は良いから先輩だけに取材させて、なんて言われちゃったし……」
「なるほど、そうやって話を逸らす気だね」
「違いますよ、事実ですっ」
からかうように言うと、少しだけ頬を膨らませてこちらに視線を向けてくる香織ちゃん。
笑ったり困ったり怒ったり、感情表現が豊かで、ころころと変わるんだなってちょっと可笑しくなってしまう。
でも、それが彼女の魅力なんだろうね。
「それで、今日は後何の部活が残ってるの?」
「あ、えっと……」
彼女はブラウスの上に着た白いカーディガンのポケットから紫陽花色の手帳を取り出した。多分、彼女の部活での必需品なのだろう。これまでの活動でもお供だった─勝手な想像だけど─手帳をパラパラ捲り、暫くしてポンと手を打った。
「……剣道部、ですね」
「剣道部か。
うん、面白そうな部活動だね」
鳴り響く竹刀の音、掛け声響く武道場、互いを鼓舞し競い合う部員達。まさしく青春って感じだ。
「そろそろ活動が終わる時間だと思いますから……」
「なるほど、話を訊くにはちょうど良い時間か。流石手慣れてるね」
「はい!下調べはバッチリですっ」
嬉しそうに、ちょっと得意気に笑顔を見せる香織ちゃん。部活動の時は本当に生き生きしてるなぁ、ちょっと羨ましい。
「なんて、本当は東堂君に聞いただけですけど」
「それも下調べ、だよね?」
「かもしれませんね」
かと思うとちょっと気恥ずかしそうに舌を少しだけ出してはにかむ。可愛らしいその仕草は彼女の純粋さのなせるものなんだろう、だから同時に俊也君が心配するのもちょっと分かった気がしたかも。
さて、剣道部の活動する武道場へ。香織ちゃんの言う通り、剣道部は男女共々活動を終えて休憩に入っていた所だった。
「新聞部です!
お話してあった取材に伺いました」
入口で彼女が挨拶。
部員達は小さく会釈する者─多分中等部の学生だろう─、急に髪型をいじり出したりコールドスプレーをかけて身なりを整えようとする者─同学年以上の男子達だね─、元気よく手を振り返してくる者─女子達だ、多分香織ちゃんの知り合いかな─など様々だが取り敢えず邪魔にはならないようだ。
「あ、香織〜!」
「由美ー!」
早速数人固まった女子部員の中の一人が可愛らしく手を振ってきた。香織ちゃんは同じく振り返して駆け寄ってゆく。
この女の子達から取材に決まったようだ。
話は今の部活に対する意見や思いから始まっと、メインとなる5月の大会へ向けての意気込みと目標をそれぞれに聞いてメモしてゆく。
一人辺り5分が目処だが、数人が固まっているといっぺんに話が聞けて効率が良く、彼女達からの取材はスムーズに終わった。
「あ、あの……!」
「?」
次は反対側に固まっている男子部員に向かおうとした時、不意に女の子の声に呼び止められた。
つい今、話を訊いた女の子達の中の一人。香織ちゃんの友達だという由美ちゃんの隣にいた女の子だった、確か。
「先輩は……剣道部には入りませんか?」
「へ?」
いきなりの質問に俺は思わず間抜けな声を洩らしてしまう。
「あ、先輩武道とか得意そうですから……ちょっと気になって」
「えーと、ごめんね。せっかくのお誘いだけど、剣道はやるつもりは無いかな」
「そうですか……」
残念そうな顔になる女の子。きっと部を思っての勧誘なんだね、だからちょっとだけ罪悪感。
「あ、あの、もう一つ良いですか?」
「うん、何だい?」
取材に来たんだけど何だか逆に取材されちゃってる気がするけど。
「先輩は、その、現在お付き合いしている方はいますか?」
「えーと……」
あれ、この質問って前の部活勧誘と何の関係があるんだろう。さっぱり分からない、けど答える姿勢を作ってしまった以上は。
「恥ずかしい話だけど、いた事は無いんだ」
「本当ですか!?」
「うん……まぁ」
何故か女の子は嬉しそうな表情に、そのまま一礼をしてまたグループに戻っていった。
確かに恋人なんていた事はいた事は無いけど、どうしてこんな質問をされたんだろうか。
「先輩、やっぱりモテモテですね」
「え?」
隣の香織ちゃんがこっそりとそう言ってきた。
モテモテ?自分が?まさか、それは無いだろう。
「今の質問、今の娘は勿論だけどら他の女の子達も喜んでるみたいでしたよ」
「いやいや、見間違いだと思うよ」
「そんな事ありません。女の勘ですっ」
グッとこちらに身を乗り出す香織ちゃんだけど。勘って……信憑性全然無いじゃないか。
というか、彼女こそ人気があるのに。
「む、先輩。何か言いたそう」
「いやいや、別に」
「本当ですか?」
香織ちゃんはジトーとこちらを見つめてくる。危ない危ない、危うく口に出しちゃうとこだった。
「あ、先輩。何だか笑ってません?」
「気のせいだよ」
そんな様子が可笑しくてついつい口元が緩んでしまい……
(!?)
ぞくり。
一瞬、背筋にこう鋭い視線が刺さるような感覚を覚えた。多分一部の男子からかな、原因も含めて何となく分かった。
きっと、俊也も毎回大変なんだな……
その後、一部の男子からの厳しい視線を受けつつも大会への取材を何とか終えて。武道場から出た時には既に薄暗く、日は暮れかけていた。
「んーっ、終わった〜!!」
まず香織ちゃんがグッと伸び、流石に6つの部活をいっぺんに回るのは大変だったみたいだ。
「先輩、お疲れ様でした!
えっと、大丈夫でしたか?」
「うん、初めての部活動の仕事、俺も楽しかったよ」
「良かった……これで止めるとか言われたら」
安堵の息をついた後、彼女は嬉しそうに微笑む。そういう姿を見ると、本当に部活が好きなんだと改めて感じる。
「あ、先輩。もう時間が」
「そうだね、ちょっと急ごっか」
もうすぐ下校時刻にもなってしまう時間帯。早く部室に戻って島先輩に報告しないと。
俊也君達はもう終わってるかな。
ちょっと早足で部室のある校舎へと向かう。
ついでだからその間、今日取材した部活の目標を簡単にまとめてみようかな。
まず、水泳部は個人、団体共に県大会上位入賞を目標に活動に励んでいるそうだ。未だに個人でも団体でも達成した事は無いそうで、今年こそは頑張ってもらいたい。
バレー部は男女共に県大会出場が目標、男子は現在部員が少ないらしいから結構厳しいらしい。
バドミントン部は男女共に県大会上位入賞が目標、今年は結構人数も揃っていて手応えがあると語っていた。
陸上部は昨年は特に長距離に力を入れているらしく、そういった種目で結果を出す事を目標としているそうだ。
先程話を訊いたラグビー部はいきなり県大会から始まるそうなのだが、一次リーグと決勝トーナメントに分かれており、彼等は決勝トーナメントに出場する事が念願だそうだ。何でも毎回運悪く同じリーグ内で強豪と当たってしまうらしい。
最後は今取材した剣道部であるが……
「で、香織ちゃんとしては剣道部で誰が注目かな?」
「やっぱり、東堂君ですね。昨年の中等部大会の第三位、一昨年は準優勝ですから!」
東堂君。
確か彼女と一緒に取材をした最後の二人にいた人物だ。かなりの美形で、瞳には真っ直ぐな光が宿っていた。あの真っ直ぐさは少し羨ましくもあった、もし自分にもあの時……っと、いけないいけない。今はもう違うのだから。
「後は団体メンバーの佐藤さん、佐々木さん、寺木さん……」
三人とも三年生の先輩だ。今回の大会で引退だからと気合いが一層入っていたな。
「後は東堂君と同学年の田中君。一年生ながらレギュラーを勝ち取る強さ!記事でも注目のコンビ……うん、それ良いかも」
田中……田中……
ああ、東堂君と一緒に取材した部員だ。黒髪のそちらもカッコいい男子だった。
(そういえば、彼は香織ちゃんに気があるみたいだったな……)
香織ちゃんに話をする時はやたら緊張めいた雰囲気は感じ取れたし、彼女に近付かれた時─話を詳しく聞くため─は顔を赤くしてたしな。
話が少し逸れたけど、剣道部は層が厚く県大会は常連だそうだ。その中でも現在飛び抜けてるのが東堂進一君で、彼は毎回上位入賞している。そんな剣道部の目標は個人は関東大会出場、団体は県大会上位入賞だ。
因みに東堂君の目標はライバルである『科瀬を倒す』というものだった。他の部員にも聞いたけど科瀬君は物凄く強いらしく、今年は是非とも二人の対決を見てみたいな。
「あ……」
「?」
俺達が校舎前まで来た時に、香織ちゃんが立ち止まって顔を上げる。
その視線の先、ちょうど二階の校舎間を繋ぐ渡り廊下を二人の男女が歩いているのが窓越しに見えた。
(俊也君と霞だ……)
二人も取材が終わった所なのかな、進行方向からしてそう思われる。
澄まし顔で先を歩く霞とちょっと慌てた彼女を追いつつに話しかけている俊也君。
霞とは小さな頃からの付き合いだから分かる、彼女はかなり楽しそうだ。本心の喜怒哀楽はあまり表情に出さない奴だけど、微妙に出てる時はあるからね。
今だって本人は澄まし顔をしているつもりだろうけど、口元がうっすら緩んでいるんだなコレが。
「………」
香織ちゃんはその様子暫し見つめて
「気になる?」
「え?」
そう声をかけると彼女は驚いたかのようにちょっと肩を震わせて振り返った。かと思うと
「いえ、別に、俊也の事なんて全然!!
ただかすみんが楽しそうだな〜って」
「誰も俊也君の事とは言ってないよ?」
「あぅ……」
ちょっと意地悪な質問だったかな。うっすらと頬が赤くなっている気もする香織ちゃんは不自然に視線を左右させていたが……
「と、とにかく!!
私達も戻りましょう、かすみん達より先に!」
「よし、じゃあ走ろうか」
流石に今から二人に追い付くのは難しそうだけど、これ以上追求するのは野暮だからね。
先程より更に急ぎ足で先輩の待っている部室に戻るのだった。
「そういえば……俊也、香織がいなくてずっと寂しそうだったわよ……口を開けば心配だってもう煩くて」
「いや言ってないから」
帰り道、不意に霞がそんな事を口走ったり。
「そっかそっか〜
私がいなくて寂しかったんだね〜、俊也は」
「寧ろ静かで落ち着けたよ」
「たまには素直になれっ、このひねくれ者ー!」
「ばっ、おま!頭を叩くなって!」
「撫でてるの!」
「どの辺が!?」
どっちもどっちだと思うけど。なんて、そんな微笑ましい光景を眺めつつ口元を緩めるのだった。
えー、僭越ながらご報告を。
この度、この『すく〜ぷっ!!』のPVが累計一万を突破致しました。
周りの方々の素晴らしい小説に比べればまだまだですが、それでも本当に嬉しいです!
これもひとえに皆様のおかげです♪本当にありがとうございます!!
記念話を何か書こうかな、なんて思います。
相も変わらず稚拙な小説ではありますが、これからもどうかよろしくお願いいたします!




