他人の恋路は静観すべし
噂の田中君が登場する回です。
ちょっとラブコメっぽい話になるかもです。
よろしくお願いいたします!
運動は嫌いだ。
それはもう何年も言い続けてきた。体育の授業の時は決まって独り言のように呟いたり。
別に極端に苦手という訳では無い。
基本的に動きは悪くないとは思うし、反射神経には自信がある─いつも幼馴染みに振り回されてたせいでね─つもりだ。
筋肉は……確かにあまり無いけど、それでも目も当てられない程酷いという事は無いだろう。
単純に嫌いなのだ。
理由は至って簡単。自分は人よりかなり体力が低いから、本当にすぐに疲れてしまう。疲れるのって昔から嫌いだから。
あ、でも体力が無いっていうのはやっぱり運動が苦手な証拠なのだろうか。
まぁともかく……
「高等教育において、体育の授業の強制は皆無だと思う訳だよ進一君」
「もう何度目だよ、それを口にするのは」
3時限目。
俺達一年C組は体育の授業でグランドに出ていた。朝っぱらから体操服で外に放り出されている現状には不満しか無い。
男女別の授業なので男子がグランド、女子が体育館で体育の授業を受けている。
つまりグランドは野郎ばっかり、春先なのに暑苦しい事この上無い。
別に体操服姿の女の子達を眺めてたいなんて切実に思ってる訳でも無いけど。
つまる所、体育の授業が嫌で仕方ないって事。
「ほら、ちゃっちゃと測定行くぞ」
「はぁ……」
俺の隣で進一が肩を軽く叩いてきた。
体操服姿の彼は程好く筋肉質で体格の良さもはっきり分かる。それでいてスマートな体型、整った容姿。
相も変わらず、本日も我が親友はイイ男である。
さて、今日の体育は体力測定。グランドでの幾つかの競技を測定する授業だ。
「何から測る?50m走で良いか?」
「あぁ、何でも良いよ」
そう、何だっていい。進一の言う通りさっさと終わらせてしまいたい。
俺達二人はグランドの長い長いラインが引かれている場所へと歩いていく。
「おーい、東堂、藤咲!」
「?」
ちょうどその時、後ろの方から俺達を呼ぶ声。
誰かと思って振り返ると、黒髪の男子生徒がこちらに向かって小走りでやって来た。
少し長めのサラサラとした黒髪に黒く澄んだ瞳。スッとした流し目がかなりカッコイイ男子だ。
「田中……?」
「あぁ、久しぶりだな藤咲」
田中康太。
中等部二年の時に同じクラスだった男子生徒。剣道部で進一の友達でもある。
「そっか。今日から体育は隣のD組と合同だったな。だからこんなに人も多いのか」
「うん、らしいな」
納得したように頷く進一に田中も首を縦に振りつつこちらに歩み寄ってくる。
しかし、何だろう。
田中とは終業式以来全く会っていないのに、つい最近彼の事を考えていた気がするのだ。
一体何だったか、そう思っていたら彼がこちらの方に顔を向けてきた。
「あー、あのさ藤咲……」
「ん?」
「穂坂はその……付き、いや元気なのか?」
何か言いにくそう、何処か恥ずかしそうな表情で聞いてくる彼を見て俺はその違和感の正体を特定出来た。
そうだ、この間進一から彼についての話をきかされたんだっけか。
確か、田中は香織の事が好きなんだとか何とか。
正直どうでもいい話なんだけど、流石にそれを本人の前で露にする訳にもいかないし、俺は軽く肩を竦めてみせた。
「残念ながらね、元気過ぎて困ってるくらいだよ」
「えっと、そうか。それは良かった」
「そう?」
「え、あぁ、うん」
どこかギクシャクとした態度が気にかかったが、特に追及する気も無かったので流しておく。
「田中、お前も一緒に計測いくか?」
「あぁ、そうだな。一緒させて貰うよ」
こうして、D組の田中を加え三人で50mの場所に向かった。
生徒達の列に三人で50mの順番を待つ。田中が一つ分前に、俺と進一が隣り合って並ぶ。
「あのさ」
「うん?」
「えっと……」
田中がそっと耳打ちするかのように尋ねてきた。
暫く何か言い淀むように間を開けた後、おずおずと口を開く。
「藤咲ってさ……穂坂と、その、付き合ったりしてるのか?」
「………」
何を言い出すのかと思えば、呆れてリアクションを取るのも忘れてしまう。
大体その質問は同じクラスの時に答えた筈だが。
「あ、いや、中学の時に聞いたけどさ……あれから結構経ってるし。それに最近噂とか聞いたりして、さ」
「なるほど……」
「あ、同じクラスの奴に聞いてくれって頼まれたんだよ。穂坂ってうちでも人気あるみたいだから」
俺は納得の意を示す為に頷いてみせる。
慌てて付け足したような最後の話は嘘だろう、彼には悪いけど進一から聞かされてしまったし。
「全く持って根も葉も無い噂だよ。付き合ってるなんて事実は万に一つも無い」
「ホントか!?」
おぉ、前から身を乗り出してきた。よっぽど気にしてたんだろうな。
俺が本当だと伝えると彼は軽く息を吐いて頷き返した。安堵したいのを我慢しているのか。
「じゃあ、さ。穂坂が好きな奴とかって居るのかな?」
「さぁ?」
本人では無いのでそればかりは何とも。
彼女が恋をしている姿なんて全く想像出来ない、というかそもそも好きな奴なんているのだろうか。
「ただ、少なくとも今付き合ってる奴はいないと思うよ」
「そ、そっか……」
もし仮にいるとすれば恋人との時間を作る筈だが、彼女にはそれが無い。
朝や夜は勝手にうちに来るか向こうに行くか、放課後も一緒に部活だ。
つまりは大抵自分と一緒にいるから、そんな時間は見受けられないって訳。
「ま、そういう訳だから。その“クラスメート”に伝えといてよ、『藤咲と穂坂はただの腐れ縁だ』って」
「あぁ、任せとけ」
先程の態度は何処へやら、急に元気良くなる田中を見て内心ため息を吐いた。
*
「あー、面倒だ……体力測定なんて何の意味があるんだか」
「まぁぼやくなって。
後一つで終わりだからな」
2時限目も半分くらいが過ぎた頃。
俺達はフリータイムで出来る計測を全て終えてグランドの隅で腰を降ろしていた。
俺は空を見上げて恨めしい気持ちをぶつけようとするも進一はポンポンと肩に手を置いてきた。
外での体力測定の結果は至って平凡、可も無く不可も無くといった感じた。
先にも愚痴ったが、運動は嫌いなのでやる気だけは早々にどん底だったけど。
50mは6秒9。同年代に比べてもそれなりに速い方だとは思う。これだけはまぁ見られる方かな。
だけど残りの種目は全て平均以下。
ハンドボール投げ、ソフトボール投げ、立ち幅跳び、
どれもさっぱり、やる気もさっぱり。
多分香織より低いかな。いや絶対低いな、あいつは運動神経が良いから。
そして現在、残す最終種目1500mを待って隅に座っている。
皆が全ての種目をやり終えてから、真ん中にあるトラックで長距離走を行うのだ。
「藤咲って、案外運動大丈夫なんだな。もっとダメな方かと思ってたよ」
「……そりゃどうも」
『運動なんて出来ない』、なんて一々反抗するのも馬鹿らしいのでテキトーに頷いておく。
「トシは足と反射神経は良いからな、それから勘も良い」
「最後のは関係無いだろ」
然り気無くフォローをいれてくれたのであろう進一に軽く返事をしつつ、俺は再び空を見上げる。
「俊也ー!」
「………」
聞き覚えのある声。思い切り名前で呼ばれたのを確認して俺は視線だけを空の青から戻した。
「お、穂坂か」
「あっ……!」
進一と田中も各々の反応。田中は急に緊張したように直立していた。
こちらにやって来たのは香織だ。
薄手の白い体操服を上に、下は太ももの高さまで出ている学校指定の短パン─男子に絶賛好評中─だ。
「あ、田中君!久しぶりだね」
彼女は直立している田中に気付くと胸の前で手を併せて微笑んだ。
「おいおい。久しぶりって、この間廊下であっただろ?」
「あ、そうだったね。ごめんごめん」
可笑しそうに笑う香織に田中も本当に嬉しそうに口元を緩めていた。
「穂坂はもう計測は終わったのか?」
「うん、早く終わったから外の様子も見ようかなって」
「へー、そっかそっか」
田中の視線は先程からチラチラと彼女の生足、基太ももの辺りや体操服で少し透けた胸辺り─下着の色は藍色のようだ─に向けられたりしていた。
欲望に正直なのは結構だけど、こちらとしては何というかあまり良い気はしない。
いくら“ただの”幼馴染みとはいえ、自分の目の前で彼女にそういう視線が向けられているのを見るのは正直良い気分じゃないからな。
香織が気付いていないようだから尚更。
「………」
と、香織と視線が合った。彼女はそのまま俺の前まで歩いてきて……
「えーいっ、元気出せ!」
「っ!?」
いきなり頭をわしゃわしゃと乱暴に掻き乱してくる。
これは彼女曰く“撫でる”行為らしいが、だとすればとんでも無い価値観の違いだ。
「ちょっ、止めろって……!!」
「励ましてあげてるんでしょ!俊也、いつも体育の時は沈んでるんだもん」
「だからっていきなりは止めてくれ……」
そもそも頼んでないから。
「良いじゃないか、そうやって気にしてくれる人は大切にすべきだぞ?」
「そうそう!東堂君の言う通りだよ!」
自分で言ってりゃ世話ないけどな。
田中あたりにやってやれば喜ぶんじゃないだろうか。
「この後って何かあるの?」
「あ、あぁ。1500mだ。皆の計測が終わったら始まるんだ」
香織の質問に田中が立ち上がったままグランドの中央のトラックを指さしてみせた。
「1500mか〜
俊也は長距離苦手だもんね」
「今更言われなくたって分かってるよ……」
香織の言う通り、長距離走は運動の中でも特に苦手な競技で。いや、長距離走に限らず沢山の体力を使うものはほぼ苦手なのだが。
因みに去年の1500mのタイムは約8分。
クラスどころか学年でもダントツの最低記録で、ものの見事に運動ダメダメな奴の烙印を押されちゃったり。
「今年は最後まで走れるように頑張らないとね!」
「………」
毎年疲れて嫌になって、後半歩いちゃうから8分もかかってしまった訳だけど。
「また最低記録、なんて言われたら悔しいでしょ?」
「別に俺は何とも思って無いよ……」
「私は思うのっ!」
何故か怒ったような香織の言葉。すかさず俺の髪に手を伸ばしてきたが、サッと横に移動してそれを避けた。
「何で避けるのよー」
それを言うなら何故攻撃してくるのか。
「それより、ジャージとか着なくて良いのか?」
「うん、平気。運動してきたから別に寒くないし」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
体操服姿を改めて見た時、不意にさっきの田中の視線を思い出してそう口にしてしまった。今のは完全なる無意識。
「あー、いや。やっぱり何でも無い」
「?」
言ってすぐに後悔。
どうでも良い話だと言ったばかりなのに、何を口走ってんだか。
無意識って怖いですね。
首を傾げる香織に軽く手を振ってその話を中断させる。
と、彼女は振った手に持っていた一枚の用紙に気が付いて。
「あ、それ俊也の計測表?」
「まぁ……」
返事をする間もなく用紙を奪い取られる。簡単に目を通されて一言。
「相変わらず運動苦手だねー、俊也は。去年と変わってないんじゃない?」
「放っとけ……」
もう少しオブラートに包んでくれても良いと思う。事実だけどさ。
「東堂君も田中君もゴメンね?俊也が迷惑かけなかった?」
「あっはっは、慣れてるから問題無いよ」
「俺も大丈夫」
そこで謝るって中々ダメージくるんだけどさ。
普段こっちが保護者のつもりなのに今は立場が逆転してる。
「っと、そろそろ長距離走が始まるな」
「……ホントだ」
進一の指差す先、トラックの真ん中には男子達がぞろぞろと集まり始めている。
「じゃあ、私も愛華達のトコに戻るね。
東堂君、田中君、頑張って!」
香織は後ろの体育館に目を向ける。
そしてスッと立ち上がると、明るく進一と田中へ微笑みかけた。
進一はいつも通り、田中はやはりちょっと緊張気味にけれどさも嬉しそうに返事を。
「俊也は諦めないで最後まで走ること!これ絶対だからね!」
「はいはい……」
そんな大きなお世話な捨て台詞を残して、彼女は元気よく走り去っていった。
因みに俺は最後まで走るつもりは全く無いけど。
「よし、行くか!」進一は勢いよく立ち上がると歩き始めたので、俺もその後に続く。
「そういや、弦のやつは何処に行ったんだ?」
「あぁ、アイツなら体育の前に購買に向かったっきり帰って来ない……」
また迷っているのか。仕方ない、帰りに保護しに行ってやろう。
トラックの真ん中に向かう途中でこんこんと隣から肩を叩かれた。
「藤咲………」
「?」
「実は、実はな………」
隣には神妙な顔付きの田中康太。何事かと顔を向けると彼は一つ深呼吸、たっぷり間を置いて……
「俺は、俺は穂坂が好きだ」
「そうか」
暫くの沈黙。
それ以上の話は無いようなので俺は先を行く進一の後を追おうと……
「って、ちょっと待て。
それだけか?この告白って結構勇気のいる、ってか衝撃というか……」
「何が?」
「いや、その、もうちょっとなんかこうあるだろ?
動揺するとか応援するとか……そんな無反応って」
そう言われましても。
所詮他人事だし、それを俺がどうこう言ったってなぁ……
「知ってたからな」
「え、そ、そうなのか?」
「あぁ、あんな態度を取ってたら誰でも分かるだろ」
進一から聞いた、というのを抜きにしてもあの態度は一目瞭然だ。
「ひょっとして、穂坂にも……」
「それは無いな。多分全く気付いて無い」
自身への好意とか評価には鈍感だからな、あいつは。
この前、学内でも人気だという進一の言葉をそのまま尋ねてみたが『まさか』と冗談っぽく笑って返されてしまったし。
「そ、そうか……だったら話が早い」
また一呼吸おいて、田中は神妙な顔付きに戻る。
キリッとすると彼の容姿端麗ぶりがますますよく分かった。
「俺は、今年中に……出来れば今学期中に、穂坂に告ろうと思う!」
「頑張れば?」
「……とっても投げやりな応援だな」
ガックリと肩を落とす田中。しかしすぐに顔を上げてグッと拳を作ってみせた。
「ま、まぁ良いか。
とにかく幼馴染みの許可は貰った訳だし」
別に許可した覚えは無いけど。
「それで、その後どうするか知りたいか?」
「いや別に」
「訊いてくれよ!」
だったら疑問系にするな。
「告って、それで彼女とヤる。付き合って、いやその前にヤりたい!」
「やるって何を?」
「何をって……男女の関係的な意味でのヤる、って事で」
あぁ、なるほどね。そういう意味のヤる、か。
しかしいきなりそんな言葉が飛び出してくるなんて。
表面では納得しつつ、内心ではやるせないため息。
さっきの彼女に対する視線とか今の彼女への思いとか言葉とか、どうしてかあまり良い気分しない訳で。
娘を心配する親心、或いは身内を心配する、みたいな感じなのだろう。
こういう過保護な考えはちょっと改めた方が良いかもね。
「で、どうだろう?いけると思うか、幼馴染みの意見としては」
「それは本人達次第じゃないか?」
何となく分かった。
彼は容姿端麗で真面目なイメージがあったが、結構色々とダメな部分も多い奴なんだと。
「あ、だからさ。後で出来れば聞いておいてくれないかな。俺の事をどう思うか、印象とか」
「はいはい」
当たって砕けろタイプでも無いようだ。結構慎重派みたいだね。
『そこの男子、さっさとスタートラインに着け〜』
気が付けば俺達以外は長距離走の位置に付いていた。
*
「ほら、俊也。足出して」
「………」
保健室。
薬の匂いやらやたらと白い壁など独特の雰囲気が支配するその部屋で俺はベッドに腰掛けていた。そんな俺に向かい合って香織が椅子に座っている。
春の陽気が射し込む静かな室内。幼馴染みの美少女と二人きりという、端から見ればギャルゲー的この上無いシチュエーションなんだろうけど。
「いや、そのくらい自分で出来るから」
「良いから、早く」
「………」
実際に俺達の間にはそんな事は全然無い訳で。
渋々俺は右足を一定の高さまで上げると、香織は優しく両手で取ってくれた。
「痛つつ……!!」
「我慢我慢」
足首には湿布と包帯を丁寧に巻いて貰い、あちこちが擦りむけた膝には滲みる消毒液のガーゼが当てられる。
痛さに顔を歪める度に香織はそう言って楽しそうに微笑んでみせた。
実に納得のいかない構図だが、しかしこればかりは仕方ない。
ここにいる理由は勿論怪我をしたから。
ついさっきの体育の1500m。スタートして半周程、俺は盛大に転倒してしまったのだ。
ボーッとしていたのか分からないが、いつの間にかトラックから反れると脇のブロックに足を取られて、コンクリートの地面にすってんと。
足首を結構きつく捻り、更に脛や膝を打ち付けた。
転倒したのがちょうど体育館の横─扉の開いていた─だったものだから、女子にもその格好悪すぎる転倒をバッチリ見られてしまった訳。
おかげで慌てて飛んできた香織に保健室に連行されるというあまりに情けない始末。
加えて愛華にも転倒をちょうど見られてしまい、何か色々凹みそうだ。
それで現在、体育の時間にも関わらず俺は保健室に居て香織に手当てをして貰ってるのだ。
「惜しかったね、今年こそ走りきるつもりだったのに」
始めから歩くつもりだった、とは手当てをして貰ってる手前言いづらい。
「俺としては疲れなくて良かったよ」
「でも、痛いでしょ?」
「痛っ…!!」
傷口にガーゼを当てながら、何が嬉しいのかクスクスと笑う彼女は続ける。
「でも何か久しぶりね」
「何が?」
「こうやって傷の手当てするの。俊也、昔はよく怪我してたもんねー」
「ほぼ、お前に巻き込まれたせいだと思う訳だが」
「ほぼって言い過ぎ、ちょっとだよ」
ちょっとは自覚していたのか、意外だった。
「でも、昔はもっと怪我をしてたよね。ホントにすっごく心配かけて……」
明らかに自分の不利な話になると悟った俺はとっさに話を遮る。
「そうやって昔ばかり振り返ってると老けるぞ」
「老けないわよっ!」
「いや、老ける」
頬を膨らませる香織を見て俺は内心笑ってしまう。
確かに彼女は元気過ぎるくらいに若いから、言ってて可笑しくなってしまったのだ。
傷口のガーゼをテーピングで貼って、足首の包帯を止めると香織は足から両手を離した。
「はいっ、手当て終わり!」
「痛たたた……!!」
パンパンとやや強めに叩かれて俺は思わず足を引っ込める。それもそれで痛かったが。
「じゃあ、私は授業に戻るから。俊也はここで大人しくしてる事!」
「あぁ、ありがと」
言われなくともそのつもりだ。
香織はそれを聞いて満足そうに頷くと保健室の扉まで歩いていくが……
「あ、香織……」
「ん?」
ふと思い出したように、俺は彼女を呼び止めていた。
口にしかけたのは田中の話。『俺の事をどう思うか?』聞いておいてくれと競技に行く前に田中に頼まれていた事を思い出したのだ。
「あー、えっと……」
『田中の事どう思う?』と聞けば良いだけなんだが。
けれど、何故か。
彼女の顔を見るとどうしてか聞くのが躊躇われた。
まぁ今は授業中だしな、また今度にしよう。
「俊也?」
で、今呼んでしまった以上は仕方ない。出来るだけ自然な会話でこの場をテキトーに流そう。
「下着、少し透けてるぞ」
「……エッチ」
足を思い切り叩かれた。
因みに5分後……
「ぬおぉぉぉ……!!」
「ん?」
「ワサビ醤油シューだけはワサビ醤油シューだけは勘弁してくれぇ……!!」
隣のベッドに呻き声を上げる弦が運ばれて来た。
さ迷った挙げ句藍さんに捕まったのか、それはそれはお気の毒に。
タイトル通りでしよね。
世の中他人の恋愛に首を突っ込み過ぎるとろくな事になりません(笑)
さてさて、何だか恋愛小説っぽい展開だったような気がする今回。
口では『どうでも良い』と宣いつつ、実はちょっとだけ香織が気になる(?)主人公でした。
俊也
「誤解の無いように言っておくけど、飽くまで保護者としてだから」
香織
「ちょっと待った!
俊也より私の方が絶対保護者だよ!」
俊也
「今回はな」
こんな二人ですがこの先関係に進展はあるのか否か。二人とも結構鈍感なので(笑)
実は一昨日11月11日はポッキーの日でしたので、後書きか何かで二人にはポッキーゲームでもやって貰おうかと思ってましたが……
俊也・香織
「するかっ!!」
という訳で1月11日に延期という事で。
俊也
「やるの前提なのかよ……」
香織
「で、出来るわけないでしょ……!!」
その時までに進展している事を祈って。
では、次回もよろしくお願いいたします!




