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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
16/91

アレだよ、結果良ければ何とやら言うだろ

 

 

いざ、生徒会へ。

新聞部の部活紹介は一体どうなるか、放任を決め込む俊也の思惑は如何に。




 


 

部活紹介とはその名の通り部活の活動を紹介する新入生、編入生の為のレクリエーションだ。

この紹介で部活は新入生への良好なアピールと好印象を目指し、部員の確保を最終的な目的を持っている。

同時に学校側は部員を確保し増強した部活に例年以上の成績を上げて貰い、引いては学校の評判を上げる事を目的としている。その足掛かりが部活紹介という訳だ。


これは時間の関係からも基本的に運動部が主なプログラムであり、文化部は申請する事で参加が可能になっている。毎年文化部はほとんど参加はしない─部活紹介では無く仮入部期間に教室を開放してアピールする─ので、申請するのは極僅か、本来ならば大抵申請は通るのが通例になっているのだ。


そう、本来ならばね。









茜色の光が射し込んでいる。無色の空気を、白い壁を彩るかのように美しい茜色だ。


時刻は五時半。

凡そ教室二つ分程の広さがある部屋、生徒会室に俺と香織はやって来ていた。


「………」


中心にある四角い会議テーブルには二人の男女が座っている。


部屋の正面に座る丸眼鏡の男子生徒。

あそこまで丸い眼鏡は未だにかつて見た事が無い。

通称『ぐるぐるメガネ』の生徒会長である。


横の席には役職は分からないが女子生徒が一人。

長い黒髪に長い睫毛、澄んだ黒い瞳はその美しい容姿を更に強調している。

華奢な体つきながら彼女に纏う雰囲気は不思議な強さが感じられた。

美人、そんな言葉が安っぽく感じられる程綺麗な女性だ。

正直に言おう、正面のメガネ会長より生徒会長っぽい。


「それで、そちらからの話とは一体何ですかな?」


高圧的な声。鼻で笑ったような態度。

会長の言葉には明らかに棘がある。新聞部“ごとき”がと聞こえるのは全く気のせいでは無いだろう。


「勿論っ!

部活紹介に参加出来ない理由を教えて欲しいからです!」


バンとテーブルを叩かん勢いで会長に異議を申し立てる香織。

相手は仮にも最上級生、しかも生徒会長だ。こいつの威勢の良さはある意味尊敬に値する。


「誰かと思えば昼間に来た君ですか……」


「むっ……」


「何度も言わせないでくれませんか。理由など必要ない、新聞部の参加は認められないというだけの話で十分でしょう」


取りつく島がないとはまさにこの事。

面談開始僅か1分足らず。既に二人の間の空気は一気に険悪なものへと変わっている。


(はぁ……)


扉近くに立って様子を見守っていた俺は心の中で深々とため息をついた。

元より話し合い参加するつもり等無かったので、こうして後ろで黙っているのだが。


会長と対峙する彼女は一歩も引く姿勢をみせない。先程よりはマシだけど、やっぱり部活の事になると熱くなるんだよなぁ。


「………」


まぁこうなる事は十分予想していたけど。

会長も噂以上の性格のようだし─昼休みの香織の行動を怒っているにしてもだ─、あの口調は明らかに喧嘩腰にも思える。

これは何というか色々と困ったな。


何とはなしに視線をさ迷わせていると、不意に横の席の女子生徒と目があった。黒く綺麗な瞳がこちらの視界にピタリと合わさる。


(え……?)


スッと薄く緩められた口元。

彼女がこちらに向けて微笑んでくれた、気がした。

見間違いでは無いのか、そう思える程ほんの一瞬だった。


「何の説明も無しの一点張りじゃ納得出来ません!」


「別に納得して貰う必要は無いと先程も言った筈ですが?」


俺は慌てて視線を元に戻す。

正面の二人の話し合いは相も変わらず平行線のようだ。


「でも、今まではうちも参加させて貰っていましたし……」


「これまでの生徒会が貴女方に甘かっただけですね。今年からは学園向上の為、そういった姿勢は改めるように徹底したいと思っていますから」


徹底、ね。

随分煙たがられてるみたいだな、新聞部(うち)は。


「そもそも、我が校には新聞委員会という機関があるのだから新聞部というものが必要なのか甚だ疑問なんですよ」


「私達と委員会は活動内容が違って……」


「大体、生徒会で決められた事案に対して押し掛けて文句を言いに来るとは何事ですか。昼間に至っては約束無しに生徒会室に入るなど非常識にも程があるのでは?」


「それは……すみません」


有無すら言わせず、立て続けに責められ堪らず俯いてしまう香織。


下級生相手にそこまでしなくても、大人気ない人だな。

確かに昼間の件はこちらに非があるが、そもそもの発端は生徒会が理由も無しに拒否した事にあるのだ。


「っ………」


香織は唇を噛んで視線を床に落としている。

それを見て見ぬ振りで通すのは、残念ながら今の自分には出来ないようだった。

全く話には参加するつもりないとか散々言ってた癖にね、俺もまだまだ過保護みたいだ。


俺は一つ、自嘲気味にため息をつくと彼女の隣に並んだ。


「別に俺達は文句を言いに来た訳じゃ無いですよ。ただ、部活紹介に出られない理由を知りたいだけです」


「?」


誰だお前はとばかりにギラリと光りを放つ丸眼鏡。近くでみると本当にぐるぐるしているみたいに見えるな。


「俺達はちゃんとした手続きを踏んで申請をしたんですから、それを無断で切る以上は説明責任があると思いますけど。特に当事者である自分達には」


「何を馬鹿な……」


「それとも気に入らないものには一方的に押し込める。

それが今の生徒会の形だと認識しても?」


「ぐっ……」


立て続けに言葉を加えて反論する隙を与えない。

さっき香織に同じ事をしたのだからこれでお相子だ。


更に一つの予想を俺は口にしてみる。


「これがもし生徒会長の独断だったりした場合、生徒会そのものの資質も疑われかねないと思いますけど……」


「っ……」


舌打ちしたよこの人。

けど今ので確信した。新聞部の申請取り下げはこの会長の独断のようだ。


何の見込みの無い部活より見込みのある部活に時間を割くためとか、そんな本心だろう事は彼の態度や話を聞けば手にとるように分かった。


「……確かに、私達もその話は聞いていませんね」


「し、東雲君!!」


それを肯定したのは思わぬ人物。テーブルの横に座っている女性だった。

彼女はその長く美しい髪を揺らし、やや慌てている会長の方に顔を向ける。


「会長、彼等の言い分は最もだと思いますよ。これでは生徒会としての示しにならないかと」


「………」


東雲という女子生徒の言葉に押し黙る会長だが、恨めしそうに俺を睨みつけてくる。

下級生に恥をかかされたとでも思っているのか、正直勘弁して欲しい。


「……簡単な話ですよ」


それもすぐに反れて、会長は渋々と座り込んだ。


「部活紹介に参加しているにも関わらず、新聞部は例年部員数入って一人二人、増えている気配はありませんね」


まぁウチに好き好んで入って来る奴はそういないだろうからな。


「そして去年も新聞部は部活紹介に参加していましたようですが、その年の新入部員の確か過去最低のゼロだった筈」


「そ、それは……」


痛い所をつかれたと香織は言葉に詰まる。

それについては俺は沈黙を守らせて貰おう。


「更に言えば、新聞部にはここ三年間中等部の新入生からの部員は全く入っていない始末」


「ううっ……」


俺達に後輩が居ない。それもその筈、新入生が全く部員として入部してくれなかったからだ。

ますます言葉に詰まる香織。


「という訳で今年からは部活紹介も必要無いかと判断したんですよ。他の部活動の時間にも余裕が出来る」


「そんな勝手な……」


「理由説明は以上。もうプログラムは決まっていますから」


説明はしてやったぞと、敵意剥き出しの視線を俺に向けてくる。

今のが本当に理由になるのか、それは怪しい所だが形式上の口実にはなっているな。


「………大丈夫?」


唇を噛んで黙っている幼馴染みに俺はそっと呟く。

確かに勝手かもしれないが、俺達が来た目的はあくまで理由説明を要求する為だけなのだ。


目的が無くなった以上仕方ない。もう諦めて戻るのかと、そういう意図を含んで尋ねてみたつもりだったのだが。


「手……」


「?」


彼女は答える代わりにこちらにそっと手を俺の右手に当ててきた。


「握って」


「………」


その一言でよく分かった。

諦めて帰るつもりなんて最初から無いんだったな、コイツには。


すー、はーっ。

手を握ってやると彼女は目を閉じて深呼吸。

そして瞼を開けば、その赤く綺麗な瞳がしっかりと前を見据えていた。


「部活紹介の時間の中で、少しでも時間の余っている所はありませんか?」


「なっ……」


予想だにしてなかった言葉だろう、会長は一気に表情を歪めた。


「いきなり何を……」


「少しでも良いんです。

考えて頂けませんか?」


先程とは違う、その口調から彼女が冷静になっているのが分かる。

けれどその瞳はからは一歩も引く気は無いと分かる。


「無い、もうプログラムは組んであるし各部活にも通達がいっていますから」


「………」


会長にしてもここで引く訳にはいかないのだろう。

最早意地か、二人の間には暫く沈黙が流れる。



「では、こうしませんか?」


「東雲君?」


その沈黙を破ったのは東雲さんだった。

彼女は薄く口元を緩めたかと思うと、手元にあった冊子を開いてみせる。


「プログラムには一旦15分の休憩があります。ですがこの休憩、少し長いという意見も出ていたんです。ですから、休憩を10分にして5分だけ彼等にお渡しするというのは」


「そ、それは……」


「今回の件は私達にも非があると思います。ですから、その五分でお互いに和解しませんか?」


東雲さんの言葉に会長は悔しそうに押し黙る。

これじゃあ、本当にどちらが生徒会長か分からないな。


「………」


「どうですか、会長?」


「……良いでしょう」


会長は本当に渋々といった具合に頷くと立ち上がった。


「休憩時間の一部を紹介に当てる事を特別に許可します。ただし五分です、それ以上は認めません」


「本当ですか!ありがとうございますっ!」


「ふんっ……」


パッと顔を輝かせて頭を下げる香織。会長はさも不満気に一瞥をくれると、鞄をひっ掴みこちらまで歩いてくる。


「本来ならば、僕は貴女方と他の議論をする予定で面談を渋々了承しましたが……それは来月以降としましょう」


不遜な態度を隠そうともせず、会長は忌々しげにそう言い残して瞬く間に部屋から出ていってしまった。

『不愉快だ』とか『なってない』とかぶつぶつと独り言を呟きながら。


しかし、来月以降の議論とは一体何の事だろう。


「「………」」


残された俺達は暫く会長の出て行った扉を見つめていたが……


「やったね、俊也!」


小さくガッツポーズをしてみせる香織。その表情は本当に嬉しそうだ。


「無茶苦茶だよ……結局わがままを通しただけじゃないか……」


「結果オーライって事で、ね♪」


「はぁ……」


分かっていたけど、彼女の行き当たりばったりさにはやっぱり呆れてしまうものがある。


「良かったですね」


「「あ……」」


と、俺達の前に東雲さんが微笑みながらやって来た。


「あの、ありがとうございました!助けて頂いて……その、本当に」


早速香織は東雲さんにお礼を言う。確かに、彼女の助け船が無かったらダメだっただろう。

何故助けてくれたのかは全く分からないが。


「いいえ、こちらこそごめんなさい。あの生徒会長はどうも……難しい方で」


東雲さんは少しだけ困ったように微笑むと、両手を併せて俺達を交互に見つめてくる。


「ところで、お二人はいつまで手を繋いでいるんですか?」


「「?」」


そういえばまだ香織の右手を握ったままだった。言われてようやく気付く。


「あ、これは別に……!!」


何でもないと、香織は慌てて手を振りほどく。

東雲先輩はクスクスと可笑しそうに微笑んだ後、こちらの方に顔を向けてきた。


「私は東雲(しののめ)明日菜(あすな)と言います。

高等科二年、生徒会副会長を務めさせて貰ってます。よろしくお願いいたしますね」


先輩、しかも副会長だったのか。それにしても、会長より随分としっかりしていたな。生徒会歴はかなり長い方なのかも。


「あ、私は……」


東雲先輩の自己紹介に香織も返そうとする。しかし東雲先輩はピッと人差し指を立ててその言葉を遮った。


「知ってます。

穂坂香織さん、それから藤咲俊也君、ですよね」


「「?」」


何故自分達の名前を知っているのか。

こちらの疑問に東雲先輩はやはり微笑んだまま。


「さぁ、それは秘密です」


「………」


少しだけ悪戯っぽく口元を緩めて、人差し指を当ててみせる。

これは、中々どうして男殺しの仕草だな。


「では、私は用事がありますのでこれで。お二人ももう下校時間ですから、早めに帰宅して下さいね」


「あ、はい。

ありがとうございました!」


東雲先輩はやんわりと頭を下げると、鞄を手に扉へ歩いてゆく。

ポカンとしていた香織だったが、ハッとしてもう一度お礼を言った。


「……?」


まただ。

東雲先輩は振り返り様にこちらに向けて口元を優しく緩めてみせた、今度ははっきりと。


何故だろう。今日が初対面の筈なのだが、昔何処かであった事があったのかな。



「俊也?」


「……え、あぁ」


人気の無くなった扉を暫く見つめていたが、香織の声に意識を引き戻される。


「不思議な人だったね」


「そうだな」


「私達の、味方になってくれたのかな?」


「……それは」


どうだろう。

何しろ名前と学年、生徒会役員であるという情報しか無いのだ。



時刻を見れば既に6時10分。

下校時刻までもう時間が無い。


「先輩達に戦勝報告に行かないと!部室に戻ろっ」


「戦勝……?」


最早戦いになっていた。







「俊也」


「ん?」


「……ありがとね」


生徒会室を出て廊下を暫く歩いていると、隣の香織が唐突にそう口にしてきた。


「何の事?」


「助けてくれて。俊也にしては、ちょっとだけ格好良かったかもね」


おかげで今日は厄日だ。あの会長にも完全に目を付けられたみたいだし、今後支障が無いと良いけど。

今回はばかりは香織にだけ「周りを見ろ」とは言えないな。


「誰かさんがあまりにもカッコ悪かったからな。気の毒過ぎて見てられなかったんだ」


「うっ、仕方ないでしょ。あれは、言葉を探してたというか……」


自分から飛び込んでおいて言い負かされるなんて世話が無い。

昔から勢いは良いが肝心な部分で弱かったりするかなら、こいつは。


「と、とにかく!

部活紹介にも出られるし、結果良ければ全て良しって事で」


「はいはい……」


まぁ、喜んでいるようだし良いとするか。というのは建前て、正直な所はツッコむのが面倒だったりするだけだが。



そんなこんなで、生徒会との話し合いも何とか無事(?)に済んだ放課後。

曰く「戦勝報告」をしに、俺達は部室に戻っていった。



(来月に話、ね……)


ただ、会長の言った最後の言葉だけがずっと頭の片隅に引っ掛かっていたのだった。

生徒会は会長を含めて役員はほとんどモブの予定ですが、一人だけ正規のキャラクター東雲明日菜さんがいます。


彼女と俊也は実はちょっとだけ接点があります。俊也は忘れていますが。

また5月以降、生徒会と関わる時にその話をしようかと思ってます。



次回は再びあのお嬢様キャラクターが登場します。

よろしくお願いいたします!

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