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すくーぷっ!!  作者: 伽藍云々
1st Semester
15/91

とにかく落ち着こう、話はそれから

部活紹介編、二話目です。今回もよろしくお願いいたします!

 


「はぁ……」


校舎の階段を登りながらため息をつく。いや、ため息というよりは疲れからの息切れか。


部活紹介のプログラムに新聞部(うち)の名前が載せて無いと飛び出していった香織を追って校舎最上階に向かっているのだが。

運動神経の良い香織はあっという間に俺から距離を離してしまった。


こういう時、常日頃の運動不足を恨めしく思う。たかだか階段を三階分駆け上がったくらいで、こうも息切れがするなんて。


もうあいつはとっくに生徒会室に着いているだろう。もしかしたら既に突入から一悶着始まっているかもしれない。


「もう少し……」


息をついて上を見上げる。。現在三階の階段フロアから見えるのは四階、最上階へと続く階段。更に上には一階から四階まで吹き抜けとなった校舎の天井。


これを登れば生徒会室は目前だと自分に言い聞かせ、俺は最後の階段を駆け上がっていった。



・・・・



「むーっ……」


「………」


最上階、それも一番目立つ真ん中に明條の生徒会室は存在する。荘厳と佇む巨大な観音開きの扉が、大抵の一般生徒が引くくらい大袈裟な装飾の施された扉が、生徒会室の目印でもある。



その扉の前に香織は立っていた。頬を膨らませるかのように扉を睨み付けている。


間に合ったのか、とにかく状況の分からない俺は彼女の側に寄って話かける。


「入らないのか?」


「もう入ったっ!」


既に突入後だった。流石の行動だ、それは多くの迷惑も運んで来たけど。


「追い出されたのか」


「……」


図星らしい。

香織はずっと扉と対峙していたが、ちょっとだけ視線を落として一歩下がった。

取り敢えず騒動とかにはなっていないようなので安堵する。


「そりゃそうだろ。

この時期は昼休みも忙しいだろうし、放課後にでも手続きして聞きに行きゃ……」


「回答は、貰ったの……」


「え?」


回答を貰った。

つまり話は聞いて貰えたのだろうか。


「ダメって?」


「うん、何の理由も無しに『出せない』の一点張り。会議で忙しいからって、無理矢理締め出されたの!」


「理由も無しに……」


「そうっ!

たった数秒足らずで勝手に片付けられて、追い払われたのっ。

あのぐるぐる会長め〜っ!」


どうらやちゃんとした話は聞けなかったらしい。

しかし理由はともかく、ダメだという事実は確認出来た。やはりプログラムの印刷ミスでは無いようだ。


「けど仕方ないだろ、決定事項なら」


生徒会の決定はつまり学校の決定で、それに一人だけが反論したって結果は見えている。

ぐだぐたやったって平行線で終わるのがオチだ。


その旨を伝えるも彼女は大きく首を横に振ってみせた。


「私は、出れないっていう事実に不満があるわけじゃないんだよ。あ、不満はあるけど」


どっちだ。


「でも、そうじゃなくて!理由も無しに、何の連絡も無しに申請自体を無かった事にしたやり方が気に入らないのっ!」


なるほど、極めて彼女らしい理由だった。

まぁ、この件に関しては生徒会のやり方は誉められたものではない。


「いくら非公式だって言われてても、うちだってちゃんとした部活なんだもん」


「………」


「どうしてもちゃんと話を聞かないと納得出来ないから……」


生徒会の対応は彼女の言う通りうちが非公式だと下に見られているからだろう。

だからこそ、ね。新聞部の性か。全く面倒な性格だよ。


「だから、あの会長が出てくるのを待って話を聞く!」


「待ち伏せかよ……」


次の手段はあくまで姑息だった。堅実的とも言うけど。


「止めとけって」


俺は彼女の言葉を遮ってゆっくりと前に立つ。

そんな事をしたら余計にややこしい方向に行くのは目に見えているから。


「部活紹介の事は置いとくとして、会議中にいきなり飛び込んでいったのはお前なんだから。追い出されて当然だろ?」


「それは、そうだけど……」


落ち着いて語りかければ、勢いが沈むようにしゅんと俯く香織。

返す言葉が見つからないのだろう、彼女は視線を落としたまま軽くを蹴る。


「とにかくさ、今は教室に戻ろう。すぐに解決しなきゃならない問題じゃない、部活紹介は明後日なんだから」


「でも……!」


たかが部活紹介くらいで大袈裟な、普通の人なら恐らくそう言うだろう。


けど、彼女の不安が俺にはよく分かっていた。多分、これは俺にしか分からない事だから。


彼女にとってこの部活はただの部活では無い。彼女の新聞部に対する想いは入学してからずっと、彼女の夢に対する想いはずっと、もう10年以上見てきた。


正直、俺は部活自体には特に思い入れは無いけど。

活動も仕事も面倒だと思うし、逃げてきた事もしばしば。

それでもその想いをずっと見てきたから、それがどれだけ強いのか大きいのかを知っている、つもりだ。

少なくとも本人以外の人よりは、ね。


だから部活の事になると周りが見えなくなってしまう事がある。目の前に置かれた不安は一刻も早く無くしてしまいたいのだろう。


「はぁ……」


ため息を一つ。

俺はゆっくりと彼女の右手を取って、そっと自分の手を重ねた。


「今は本当に忙しかったんだろ、きっと。

部活の皆に相談して、放課後になったらちゃんと話を聞いて貰えるように頼めば良いさ。

時間はちゃんとあるんだから、大丈夫だよ……」


「俊也……」


「………」


一呼吸しっかりとおいて。


「教室に戻る?」


こくり。

彼女は顔を上げて頷いてくれた。もう大分落ち着いている。


「はい、深呼吸」


「うん……」


すー、はーっ。

香織は大きく深呼吸をしてグッと目を閉じた。暫く何かを我慢するかのようにじっとしていたが……


「……よしっ、もう大丈夫!」


パッと目を開いて復活宣言。ようやくいつもの調子に戻ってくれた。


さて、教室に戻ろうか。俺は香織に並んで来た道を戻り始めた。




「……前から言ってるけど、もう少し周りを見ろよ?」


「あ、はは……ゴメンゴメン。ありがとね?」


「はいよ、弁当箱」


少しと言わず、これからは俺に降りかかる迷惑について全力で考えて欲しい。


階段を下りながら、顔の前で手を併せる彼女に忘れていった青い包みを返した。


「でも、久しぶりだよね。俊也の“手”」


「ああ……」


彼女の言う手とは、先程彼女の手に重ねた行為だ。


いつからだったか記憶は曖昧だが、とにかく昔から、彼女が取り乱したり周り見なくなると決まって俺はああしていた。すると不思議な事に、彼女は時間こそバラバラだが大抵落ち着きを取り戻してくれたのだ。


「必殺技だね、俊也の特殊能力。“私を落ち着かせる程度の能力”!」


「必殺技て……」


使い道限定され過ぎだろ。つーかどこの東○プロジェクト?


「でも、不思議だよね……

何で俊也の手だと落ち着く事が出来るんだろ?」


「実は血の繋がった兄妹だった、とか。同じ血だから落ち着かせられるみたいな……」


「なるほど……」


なるほどじゃないだろ。

そんなB級ドラマのラスト展開みたいな罷り通って堪るか。


「つまり、私と俊也の両親は蒸発してしまった為に私達は生まれながらにして生き別れた姉弟。運命の悪戯か、私は穂坂家、俊也はお隣の藤咲家に養子となる。二人は幼馴染みとして過ごしてきたけど、ある日見つけた一つのアルバムから自分の出生を疑うようになる。

それはただの偶然じゃ無かった。裏で蠢く巨大な組織の陰謀で……」


おいおい、勝手に歴史を捏造し始めたよこの人。

毎回思うんだけど、何でこいつの妄想には“裏で蠢く陰謀”が決まって入っているのか。


「……」


まぁ、でも良かったよ。

隣で目を輝かせながら話す幼馴染みを見て、俺は安堵の息を溢した。


香織の調子はもういつもの通りだし、何より面倒事に発展しなくて本当に良かった、と。


この時の俺は呑気なもので。新聞部にまさか、あんな事態が立ち塞がるだなんて全く思っても見なかったのだから。



「ところでさ」


「ん?」


「さっき言ってた“ぐるぐる会長”って何?」


「あぁ、うちの生徒会長の事!ぐるぐる眼鏡を掛けてる見た目通りの堅物だったからっ」


「なるほどね……」


そんなとりとめのない話を交わしながら、俺達は教室に戻っていった。



 


 

挿絵(By みてみん)

 


 

「じゃあ、早速生徒会室に突撃だよっ!」


放課後。新聞部の部室。

幼馴染みの女の子は思い切りガッツポーズをしてそう宣言していた。


「だから、それじゃ昼間と何にも変わんないだろ……」


俺は椅子に座りながら呆れた声を洩らす。


「ダメだよ、俊也っ!

ここは弱気じゃなくて強気で攻めないと!」


グッと拳を突き出し軽く跳んでみせる香織。

昼間は落ち着いたと思ったのだが、逆におかしなハイテンションになっているようだ。

まるでスクープを見つけた時のよう。


「………」


蒼く綺麗な髪がふわりと揺れて視界を掠める。

ついでにスカートもひらりと浮かび、すらりと伸びた太ももが露に。あんまり飛び上がると下着まで見えるぞ。


「俊也?」


「いや、もう少しで下着が見えそうだったから。もう一回頼む」


直後に頭を叩かれた。


「確かにそうだな、理由も無しになるのは感心出来ない。ビシッと言ってやりたいよな」


「そうですよねっ!」


後ろから声。頭を擦りながら振り返ると椅子に座った粋先輩が腕を組みながら頷いていた。

香織は嬉しそうに彼の言葉に飛び付つく。


「先輩、無責任な事言うと香織が調子に乗りますから……」


「どういう意味よーっ!」


頬を膨らませる香織は置いといて、俺は先輩に目を向ける。彼はしっかりとこちらに視線を合わせて続けた。


「けど、何かしらの話はするのが筋だ。俊也も『はいそうですか』ってすごすご引くのは気持ちよくないだろ?」


「そりゃまあ……」


「香織ちゃんのやり方はちょっと急ぎ過ぎたとは思うけど、妥協したくない部分話をつけないとな」


粋先輩も黙って引き下がるのは本意ではないと。

ぐっと言葉の最後に力を込める辺り、香織より冷静な意見だけど芯は熱いみたいだな。


「私も香織と粋に同意見、生徒会との全面戦争になるのかしら?」


「霞さん、アンタは楽しんでますよね色々」


なる訳が無い。

ニヤリと不適に微笑む霞を見てため息をつくと、改めて部室内を見回した。


「とにかく、今島先輩に聞きに行って来て貰ってるから、それまで待って……」


「僕がどうかした?」


「うおっ!?」


何とも絶妙なタイミングで扉が開いたかと思うと、島先輩が部室に入ってきた。

いつものようにニコニコと人懐っこい笑みを浮かべながら。


「部長、こんにちは!」

「こんにちは、先輩」

「ども、島先輩」


香織に始まり霞と粋先輩も挨拶をする。

島先輩は扉から長テーブルの前までやって来た。


彼には授業が終わる一つ前の休み時間にメールをしていた。

昼間のあらましを簡単に述べた後、部長として生徒会への話合いの手続きをお願いしたいと。

話合い自体は恐らく香織がする─昼間の様子だとダメと言っても聞かないだれう─ので、先輩にはそのアポイントをお願いしたのだ。



「で、島先輩。

どうでしたか?」


「うん、受けてくれたよ。今日の五時半に生徒会室に来てって」


アポイントは成功のようだ。すかさず香織が小さくガッツポーズ。


「俊也、頑張ろうねっ!部活紹介を勝ち取るよ!」


「……目的変わってきてないか?」


確か部活紹介に出られない理由を聞きに行くのでは。意気込む彼女を見るとそんな指摘も水を差す気がしたので黙っておく事に。


「今は……五時か」


時計を見れば長い針が5を指している。約束の時間まで後、30分くらいだな。


取り敢えずテキトーに時間を潰そうか。香織が座った隣の席に俺も腰を降ろす。

と、不意に島先輩と目が合った。


「そういえば、俊也君達は昼間生徒会室の前に居たんだよね」


「はい、そうですけど……」


「そっか、なるほどなるほど」


彼は鞄を長テーブルに置いてニコニコと頷いている。


「どうかしたんですか?」


「うん、実はね」


その反応に、香織は小首を傾げて先輩の方に目を向けた。彼は彼女と、そして俺の方を見て続ける。


「クラスの女の子達に聞いたんだけど、昼休みに空き教室から帰る途中に四階の廊下で蒼い髪の女の子と茶髪の男の子を見たって。二人は新聞部の部員でしょって聞かれてね」


そうか、生徒会室のある階は少人数授業用の教室が二つあったんだよな。よくそこで三年生がお昼を食べているのだろう。


「二人が手を取り合って見つめ合ってるものだから、その間ずっと廊下を通れなかったって」


「あっ……」


香織が思わず声を洩らすのが聞こえる。その話には俺にも十分過ぎる程覚えがあったり。

香織(こいつ)を宥めている時の話だろう。


「カップルなら廊下の真ん中じゃ無くて、一目の付きにくい所にして下さい、だって」


「ち、違いますよっ!!

あれは……!!」


慌てて立ち上がって訂正する香織。

どうやらその先輩方には一部始終バッチリ見られてしまっていたらしい。

冷静に考えてみると、見られていたのは結構恥ずかしい。


「あら、私はまだ寂しい独り身だっていうのに……貴方は裏で抜け駆けしていたのね」


「いや、何の話だよ……」


今まで読書をしていた霞がジッとこちらに目を向けてきた。前半部分はまるで俺と関係無いじゃないか、しかも間違っているし。


「俊也、一先ず爆発しなさい」


「は?」


「体内爆発、胃から粉砕して最期を遂げるの」


何故そんな惨い最期にならないとならないんだ。


「キャラ補正」


「補正つーかキャラそのものを一から作り直す事になりますよね、それ」


彼女の辛辣さはいつも以上に好調なようだ。


「こら、霞。俊也にも毒ばかりじゃなくてたまには素直な言葉を選んでも良いんじゃないか?」


「却下よ……」


隣の席の粋先輩が軽く彼女の頭にチョップをしてみせた。何が素直になるのかは知らないが、霞はふるふると首を振っている。



「あはは、分かってるよ。二人とも幼馴染みだもんね」


「そうですよ、もうっ……」


一方、島先輩と香織の話は一段落したようだった。


俺は宛も無いため息を一つ、席に座り直した。香織も再び隣に座ってくる。

先程より少し動きがぎこちないような気もしたが、まぁ気のせいだろう。


「……とにかく、これからが勝負だからね、俊也!」


「あぁ。

ま、テキトーに頑張ってくれ」


「俊也も頑張ってよ!」


「そういうのは向いてない。そっちに任せるよ」


「むーっ……」


話は基本的に香織(こいつ)に一切任せるつもりなので、俺は単なる付き添いだ。正直それすらな乗り気では無いのだけど。



ジト目を向けてくるお隣さんを無視しつつ、俺は部室の天井を見上げた。


しかし、生徒会か。

香織も言っていたが、確か会長は一昔前の模範生を絵に描いたような人間だった筈。

集会でも何度か見た事はあるが、漫画のようなぐるぐる眼鏡に七三に分かれた髪は模範生というより過去の遺産だろう。

やたらと規律に融通が効かない性格と上から目線な態度は有名で、生徒間の評判はかなり悪いと進一に聞いた事がある。


香織とは、多分最も相性の悪いタイプだといえる。あの白ノ宮以上に、ね。


(面倒な事にならないと良いんだけど……)


そんなささやかだが切実なこの願いの行く末は如何に。

開かれた部室の窓から零れる春の日射しが、うつらうつらと微睡みを誘ってくるのだった。






幼馴染みはやっぱり幼馴染み。

二人の距離感というものがまた少し分かる回だったような気もします。


次回は対生徒会です。

といっても現生徒会長はほとんどモブキャラみたいなものですが。



次回もよろしくお願いいたします!

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