部活紹介ってさぁ……
主人公視点復活です。
今回から部活紹介の話になります。
よろしくお願いいたします!
新しいクラスになって今日で一週間になる。
初日にクラスを取り巻いていた遠慮や恥ずかしさといった雰囲気も徐々に薄れを見せ始め、教室内の生徒達もそれぞれの居場所を見出だしつつあった。
とはいえ、まだ一週間だ。これから幾らでも変化はするであろうが。
男子は極端なもので10人以上の大グループもあれば、二人や一人といった分かれ方をしている反面、女子は比較的まとまりが大きいのか、大体5、6人のグループから7、8人のグループで固まったりしているようだ。
「うん、それはひどい話だね〜」
「ひどーい!」
「でね、それには続きがあって……」
そんなクラスの喧騒に構う事無く、俺は自分の座る机をジッと眺めていた。
え?前回と語り手が違うって?そりゃそうだ、前回までは香織に視点を奪われていたんだからな。今回何とか奪い返して、俺、藤咲俊也の視点に戻った訳だが。
「はぁ……」
早速漏れるため息。視線の先にはノートと教科書。数字や記号がびっしりと羅列されている見るも耐えられ無い二冊が机の上に広げられている。
「疑問だ。何だって俺は数学なんつー高度な学問を修学しないとならないのか」
「ここが学校で、俊也が生徒だからだよっ」
「………」
腕を組んだままぼやくと隣からすかさずツッコミが入る。
相変わらず大きな声だ、横に目を向ければ香織が腰に手を当てて立っていた。
「そうじゃ無くて、何で休み時間にも関わらず数学の問題を解いてるんだって話でさ」
「俊也が数学の時間にずっと寝てたから、先生が怒ったんじゃない」
「………」
嫌な思い出。つい10分前の出来事だけど。
人間だから仕方ないと反論したら見事にペナルティーを課された。
「で、何故お前はここにいる?」
「監視。俊也がズルしないか見張ってるのっ」
「いらん、帰れ」
どっかに行ってくれればすぐさま教科書裏の解答を写してしまうというのに。
「ふふ、香織ちゃんは藤咲君の事がただ心配なんだよ」
「今流行りの……何じゃったかのぅ、ツンバラとか言ったかの?」
と、前からクスリと微笑む愛華と首を傾けた弦が香織の側にやって来る。
「違いますっ。
どうせ目を離したら答え写すだけに決まってるもん」
思い切りバレてるし。
「クスクス。何だか香織ちゃん、お母さんみたいだね」
そう言って口元に手を当てる愛華。うん、それには全面的に同意だ。
「カッカ、出来の悪いがきんちょって所かの!」
「だねー、俊也は確かにそんな感じかも。生意気でひねくれ者の!」
喧しい、この年中元気コンビは。
「はぁ……」
外野の発言に構わずに俺は教科書に視線を戻す。解答は仕方ない、取り敢えず真面目にやるしかないな。
「あ、俊也間違ってるよ。ここはこの方程式を……」
「え、そうなのか?」
「だから……」
監視って結局手伝うのかよ。まぁありがたいけどさ。
後ろで意味ありげに笑う愛華が少し気になったが、せっかくの助けを利用して問題を解き進める事に。
「藤咲、今は理科の時間の筈だが?」
「はは……」
流石に授業中は怒られた。
昼休み。
「トシ、今日は何食うんだ?」
「うーん……」
俺と進一はお昼といえばお決まりの学食に向かう為、教室から出ようとしていた。
「俊也ー!」
「ん?」
が、教室を出てすぐ入口付近で香織に呼び止められる。
だから大声で名前を呼ばないでくれ。物凄く目立つのだから、教室内から感じるクラスの視線もね。
「渡すの忘れてた。はい、お弁当」
「……あ、そっか。ありがとう」
振り返ると同時に青い包みを手渡された。そうだった、今日はお弁当の日。
助かる、これで学食でお金を使わずに済んだ。
「で、何処でご飯食べるの?」
「ん、そうだな……」
彼女がお弁当を作ってくれた日は必ず一緒(集団の場合は彼女を含めて)に昼食をとる。それは今までも当たり前のように続いてきた事だった。
別に決まりでもなく規則でもなく、もう学校生活の一コマとでもいうのだろうか。
「天気も良いし、中庭なんてどうだ?」
隣にいた進一が提案。
確かに今日はいつも以上に澄んだ青空、晴天だ。
中庭は麗らかな春の陽気に包まれている事だろう。
「うん、分かった。
私、愛華とつぐみちゃんと一緒に行くから、向こうでね!」
「あぁ」
香織は軽く微笑むと教室を出ていった。愛華達は今、美術部に用具を取りに行っているらしいので、そこに向かったのだろう。
「んじゃ、俺の飯を確保しに購買に行くか」
「え、あ、そっか」
お弁当を受け取るまで学食で済ませる予定だったから、進一の昼食はまだ無いのだ。
「お前みたいに愛の込もった弁当がある訳じゃないからなー」
「………」
先程から一心に感じていたクラスの視線がより一層強まった気がする。
「それじゃ行こうか、愛妻家の俊也君」
「おい……」
何故棒読みなんだ。
と、ツッコミたい所を抑えて二人して教室を後にする。
学食ホールから中庭は直接行けるので、昼を買ったらそのまま直行すれば良い。
「しかし、本当に羨ましい奴だよなお前は」
唐突になんだ。
「穂坂の愛情弁当がお昼ご飯なんて。彼女のファンが聞いたら暴動ものだと思うぞ?それ前にしたら、いつも冷静なお前も飛び上がるぜ、きっと」
「前にも言ったけどさ、香織のファンなんて物好きがいること自体驚きなんだけど」
「トシ……お前は学内の事情を把握しなさ過ぎだ」
歩きながらやれやれとわざとらしく肩を竦めてみせる。
「彼女、男子から結構人気あるんだよ。話とか聞いてるとよく話題になったりしてるしな」
「はぁ……」
全く持ってそんな絵面を想像する事は出来ないのだが、学内でも顔の広い進一の言う話が眉唾という事は無いだろう。
「田中って覚えてるか?去年同じクラスだった、黒髪で背の高い……」
「……あぁ、居たな。剣道部の奴だっけ」
「あぁ、その田中だ。田中康太」
去年の中等部の3年A組。香織や愛華、進一と同じクラスだ。その3年A組のクラスメートの一人に、田中という男子が居たのを思い出していた。
剣道部で進一の友達。
俺個人とは特別仲が良かった訳では無かったが、進一を通して何度か会話をした事や飯を食った事はある。顔見知り以上のクラスメート、といった所かな。
その彼が一体どうしたのかと視線を送ると、進一は少し歩く速度を遅めて続ける。
「アイツも穂坂の事、『可愛い可愛い』って前から言っててな。クラスメートになった以降、会話出来るようになってますます話題の頻度が増えてる。ありゃ、間違いないだろうな……」
「ふぅん……」
「ふぅんってお前……それだけか?」
何かが予想外だったのか進一は目を丸くしてみせた。
だけど、そんな顔をされてもこちらも返しに困る。
「もっとこう何かあるだろ、驚いて聞き返すとか動揺するとか黙り込むとか」
「はぁ……」
誰かが誰かを好きになった話なんて、学内にうんざりする程溢れているだろうに。それに一々反応していたのではキリがない。
進一を通して、田中は自分同様に香織とも何度も会話する事はあった。彼にそんな感情があるなんて全く知らなかったけど。
「あんまり興味無いからね……俺個人に影響があるわけでも無し」
「…………」
本心だ。同じクラスメートに対してちょっと冷たいような気もするけど、自分とは関係の無い事だしね。
進一は一呼吸間を置いて、これみよがしに首をふるふると振ってみせる。
「ま、ある意味予想通りの反応な訳だけど……」
「つまり、何が言いたいんだ?」
「だからさ、もたもたしてると……」
その先の言葉が彼の口から発せられる事は無かった。というか、生徒達のざわめきに遮られたといった方が正しい。
俺達はいつの間にか、学食ホールに到着していたらしい。
「ぱぱっと買ってくるから、そこで待っててくれ」
「あ、あぁ」
 
進一はそう言い残してホールにはいっていく。さっき言おうとした事が何だったのかと少し気になったが、すぐに興味は失せた。
多分、そんな大した話じゃないだろうから。
・・・・・
「んーっ、良い天気!!」
「うん、春麗らって感じだよね」
中庭。
一本の大きな木を囲むように設置された円状の椅子に俺達は座って昼食をとっていた。
隣り合って座る香織と雨宮の言葉がこの中庭の雰囲気を全て表していると言っても良い。
まさしくお弁当日和。
因みに弦も捕まえようかと思ったのだが、腹を壊したとかで三時間目からトイレに駆け込んでいって未だ行方不明。彼の最後の言葉は『肉は傷む前に冷凍庫にいれるんじゃ』だ。
「はむ……」
俺はお弁当の蓋を開けると、まず始めに卵焼きを半分口に入れる。絶妙なダシ加減と柔らかさが口いっぱいに広がった。
「どう、どう?美味しいでしょ?」
「はいはい、美味い美味い」
「もう、気持ちが込もってないっ!」
お約束のやり取り。
立ち上がってこちらを睨んでくる香織の視線を軽く受け流しながら俺は尚ももう半分を口に含んだ。
言うまでもないが、美味しいのは本当。
特に、俺は甘い卵焼きが苦手なのでこうやってダシの卵焼きにしてくれたりと、好みを考えてくれる事は本当に感謝している。
けどまぁ、このやり取りはお決まりみたいなもんなんでね。
「でも、凄いよな穂坂。毎回二人分もお弁当作ってくるなんて」
「そんな事ないよ、一人分も二人分も大して手間は変わらないから」
進一の言葉に香織は顔の前でひらひらと手を振って答える。たった今、こちらに矛先を向けていた
「確かにそうだよね。
寧ろ、材料が使い切れる分二人分の方が効率が良いかもね」
「うん、分かる分かる」
彼女の言葉に頷く雨宮と愛華。香織同様に料理の得意な二人─事実、お弁当は自分で作ってきている事も多いらしい─も同意見のようだ。
って、よく考えると凄い事だよな。ここに居る女性陣は皆料理が得意なんだから。
更に言えば雨宮はお菓子とかも本格的に作れると愛華から聞いた事がある。
「へぇ、そんなものなのか……」
一方、お菓子は愚か料理すらてんでしない我ら男性陣はさっぱり分からない話である。
いや、情けないけど本当に。
「特にね、あの……」
「あ、うんうん!」
お料理談、或いはお弁当談で楽しそうに華を咲かせ始めた女性陣の声を聞きながら、蚊帳の外である俺と進一は黙々と昼食を進める事に……
「あれ?」
と思ったら、隣にいた筈の我が友人はいつの間にか消えていて。
「なるほどな。筋力つけたいからって、単に肉ばかり摂るだけじゃダメなのか」
「もっと野菜と炭水化物を増やした方が良いのかな、つぐみちゃん?」
「うん、一番はバランスだからね。特にちゃんとしたお昼は大事だよ!」
お前も話に加わってるのかよっ!
・・・・・
「それでさ、もうすぐ部活紹介だよねっ!」
「それで、の意味がさっぱり分からないんだけど?」
昼食を摂り終えて、麗らかな木漏れ日に少しうとうとしていたのだが、いきなり叫びだした香織の声に目は冴えてしまった。
「だから、明後日には部活紹介でしょ?
今回こそはババーンと決めて、部員確保だよっ!」
「だから話の流れが読めないって」
「頑張らないとね!!」
全く聞いていないよ、この新聞部の幼馴染みさんは。
「美術部は部活紹介しないの?」
香織は愛華達の方を見て尋ねる。
「うーん、私達は文化部だからね。今回もやらないと思うよ?」
「特に話す事も思い付かないしね」
「だよね」
苦笑混じりに顔を見合わせる愛華と雨宮。
まぁ、基本的に体育会系意外の部活は申請式の参加だからな。そもそも文化部は紹介式で新入部員を勧誘するものでも無い。
「東堂君の剣道部は今年はどんな紹介をするの?」
「ああ、今年は一応部長と俺が稽古を見せる事になってるんだ。順番は三番目だよ」
流石進一。
もう最上級生と肩を並べる程、いやそれ以上の地位を確立してるのか。
「え?東堂君、もう順番とか知ってるの?」
「あぁ、しおり貰ったからな。昨日配られた」
「え!?し、しおり?
そんなもの、配られたっけ?」
進一の言葉に急に不安そうな表情になって、顔をこちらに向けてくる。
そう言われても、俺だってしおりなんて覚えが無いので肩を竦めてみせた。
「毎年配られたろ?
新入生用のプログラム」
「えーと、そういうの部長に任せてたから……」
知らなかったのか。
まぁ、俺も今の今まで知らなかったけど。
「何なら見るか?
武道場に置いてあるから」
「え、でも悪いよ?」
「良いよ、武道場すぐ近くだから。ちょっと行ってくる」
言うが早いか、進一は武道場のある方向に駆けていってしまった。全く男前な奴だ。
「東堂君って優しいね」
む、愛華の評価を上げるとは流石剣道部エース。
「うん、俊也も見習うべきだよ」
「はいはい……」
おっしゃる通りだとは思うけどさ、香織に言われると素直に頷きたくはなくなるのは何故だろう。
2分もしない内に進一は戻って来た。こちらからして見れば結構なスピードで走っていたにも関わらず、息すら切らしていない。
「ありがとう、東堂君。わざわざゴメンね?」
香織はお礼をいって彼の手から受け取ると、早速冊子を開き始め……
「えーーーっ!?」
「「!!」」
すぐさま叫び声を上げた。隣に居た愛華や雨宮は勿論、中庭で昼食を摂っていた他の生徒達も一斉にこちらに注目する。
何の脈絡も無くいきなり叫び出すなんて一体。
「………」
「か、香織……?」
見れば彼女は冊子を開いたままわなわなと体を震わせているではないか。
「新聞部が……」
「は?」
「新聞部の名前が……」
彼女は冊子から一気に俺に顔を向けてきた。
「私達の名前が無いのっ!!」
「………?」
一瞬、言葉の意味がよく理解出来なかったが、すぐに彼女の言葉を反芻する。
名前が無い?私達、つまり新聞部の?
冊子は部活紹介式のプログラム、そこに名前が無いとなると、導き出される結論は一つ。
「つまり、新聞部は部活紹介が出来ない?」
「!!」
こくこくと必要以上に強く頷く香織。よっぽど衝撃だったのだろうか。
「これ、どういう事?」
「俺に言われても……申請で落ちたとか?」
新聞部は確かに部活紹介に申請をした。部長と香織、俺も一緒に申請書を投稿した─申請の条件としつ部員の申請書が最低三枚必要なので─から間違いない。
「変だな。基本的に文化部は部活紹介に参加する事が少ないから、申請は普通に通る筈なんだが……」
「今までも、申請で漏れた部活なんて聞いたこと無かったよね?」
進一と雨宮が顔を見合せて首を傾げている。
二人の言う通り、今まで部活紹介に出られなかった部活なんて聞いた事が無い。事実、俺達は毎年部活紹介に参加出来ていた。
「何か問題を起こしたら申請は無しになるって、しおりには書いてあるけど。
それって暴力事件とか、そういうのだよね?」
いつの間にかしおりを手にしていた愛華がそう呟く。暴力事件なんて新聞部には最も縁遠いものだ。その可能性はゼロだろう。
「………俊也、申請の決定って生徒会でやってたよね?」
「あぁ、確かな」
先程とは打って変わって、いやに静かな香織の声色。俺は彼女の表情を見てハッとする。
「……お前、まさか」
「うん、やるしかないよね……」
次に彼女が言うだろう言葉が予想出来てしまったから。そしてそれは、予想通りの回答だった。
「生徒会に乗り込みに行くっ!!」
「なっ……」
直訳:『俺、この戦争が終わったら、生徒会に喧嘩を売りに行くんだ……』
『まだ戦うのかよっ!』
「「「えぇ!?」」」
三人が驚きの声を上げる間もなく、香織はお弁当を椅子に残したまま動き出していた。
「皆、お先に!」
軽く二三回手を振って駆けてゆく。
行き先は勿論、第一と第二に隣接した第三校舎。最上階には我が母校の生徒会室。
つーか、今から行くのか、あいつはっ。
「ったく、勘弁してくれよ……!!」
「トシ!?」
「藤咲君?」
俺も動いていた。
自分の弁当箱と香織が忘れていった弁当の包みを掴んで駆け出す。
「悪い、また後で!」
「ああ!トシ、気を付けてな!」
進一達に手早く事態を察せさせて、制服をはためかせる蒼色のショートカットの少女を追う。
香織を一人で行かせたらどんな面倒事になるか分かったもんじゃない。
「………」
空は相も変わらず、穏やかな青が晴れやかに広がっていた。
たかが部活紹介、されど部活紹介。
部員が雀の涙ほどの新聞部には大切なイベントなのです。
さてはて、部活紹介に黄色信号。一体どうなる事やら。
この部活紹介の後は、ゴールデンウィークのスポット紹介という話になる予定です。遊園地とか水族館とか、部活メンバーで賑やかに回ろうかなと。
では、次回もよろしくお願いいたします!
 




