新たな日常と、しのびよる影
放課後の教室に、午後の柔らかな光が差し込んでいた。
「ふぅ……昨日の今日で、なんだかまだ夢心地だなぁ」
紅葉が自分の机に突っ伏しながら、ぽつりと呟く。あのあと、商店街の被害も最小限で済み、街は平和な日常を取り戻していた。
「なに気を抜いてるのよ、赤いの」
窓際から、ツンとした澄ました声が聞こえる。顔を上げると、そこに立っていたのは――なんと制服を着た紫苑だった。
「えっ、紫苑ちゃん……!? ここって、私のクラス……?」
「当然よ。あんな中途半端な戦いで、いつまでもあなたを野放しにはできないでしょ? 監視……じゃなくて、見張り役として転校してきたのよ」
紫苑はフンと誇らしげに鼻を鳴らすが、その耳たぶはほんのり赤い。相変わらず素直になれない彼女の姿に、紅葉は思わずクスッと笑ってしまった。
その時、紅葉のバッグの隙間から、トマ斗がひょっこり顔を出す。
「おいおい、転校生がいきなりクラスメイトってか? 面白くなってきたじゃねぇか!」
紫苑の肩に乗ったナス美も、「お嬢様、学校でもお行儀よくしてなくてはダメですわよ!」とキーキー言い返す。
賑やかになった日常に、二人は自然と笑い合った。
しかし、その和やかな空気を嘲笑うかのように、学校のグラウンドの片隅――古びた用具入れの裏から、ドス黒い紫色の煙がモクモクと立ち上っていた。
『ふふふ……人間どもの平和な学校か。甘いな……。』
土の中から這い出してきたのは、見たこともない不気味なトゲを持つ「オオタバコガ」の怪人だった。その手には、学校のグラウンドの草花や、生徒たちの元気な活気を吸い取る不気味なストローが握られている。
「……あれは?」
教室の窓から外を見下ろした紫苑の瞳が、スッと鋭く細くなった。
紅葉も表情を引き締め、立ち上がる。
「来たみたいだね、紫苑ちゃん!」
「当然よ! 私たちの学校を荒らす不届き者なんて、今すぐ叩きのめしてあげるわ!」
赤と紫の新しい絆を胸に、二人はパッと窓から飛び出し、再び変身の光へと身を包むのだった――!
「くっ……なんだこいつ、今までのやつより動きが素早いぞ!」
グラウンドの真ん中で、トゲを纏ったオオタバコガの怪人が跳ね回る。
ガサガサと嫌な音を立てながら突進してくる怪人に、紅葉は必死でシールドを構えたが、その鋭いトゲの突撃にバリアが大きく軋む。
「隙だらけよ、赤いの!」
そこに、夜の闇を裂くようにノクターン・バイオレット(紫苑)が跳躍した。手にしたステッキナイフから繰り出される鋭い斬撃が、怪人の装甲をかすめ、火花を散らす。
――だが、怪人は怯むどころか、不気味に複眼を光らせた。
『フハハハ! 我らは作物を食い荒らすオオタバコガの一族。お前たちの小手先の攻撃など、硬い殻の前には無意味よ!』
怪人が体を丸め、無数の棘を周囲へと激しく乱射する。
「きゃっ……!」
「ぐっ……!」
広範囲に放たれたトゲの雨に、紅葉も紫苑もバランスを崩して地面に膝をついてしまった。
「お嬢様! 大丈夫ですわか!?」と、ナス美が空中で青ざめながら叫ぶ。
「おい、あいつの殻、思ったより頑丈だぞ……どうするんだ、紅葉!」と、トマ斗も紅葉の肩の上で歯噛みする。
立ち込める土煙の中、怪人が巨大な影をさらに膨らませ、二人にトドメの一撃を放とうと迫ってきた。
(どうしよう……! このままじゃ、せっかく始まった紫苑ちゃんとの学校生活が……!)
紅葉が焦るその時、ふと、紫苑と目が合った。
お互いの顔に浮かんでいたのは、恐怖ではない。
「ねえ、紫苑ちゃん!」
紅葉が叫ぶ。
「このトゲ、硬いなら……『あの隙間』を狙うしかないよね!」
紫苑はハッと目を見開き、不敵にフッと笑ってみせた。
「……ふん、考えることは同じようね。殻の硬い奴ほど、腹の下の柔らかい部分が急所よ!」
二人の息が、完璧にピタリと重なる。
「トマ斗、ナス美! 合図するよ!」
「おう、任せとけ!」
「おやりなさいませ、お二人とも!」
妖精たちの声援を背に受けて、紅葉が全魔力を解放した。
「フレッシュ・スカーレット・サン・ブラスト!!」
眩い太陽のような赤い光の球が、怪人の視界を真っ白に染め上げる。
「ま、眩しい……目が……っ!」と、怪人が思わず身を縮こまらせた、その一瞬の隙。
「逃がさないわ……!」
紫苑が夜の影に溶け込み、音もなく怪人の背後、そのガラ空きの腹の下へと潜り込んだ。
「パープル・ナイト・エッジ……貫きなさい!」
高貴な紫の閃光が、怪人の唯一の弱点を鋭く、深く抉り抜く。
『バ、バカな……この私が……プレストの誇り高きトゲが……ッ!!』
絶叫とともに、オオタバコガの怪人は砕け散り、綺麗な光の粒子となって夜空へと消えていった。
静まり返ったグラウンド。
変身を解いた紅葉と紫苑は、夕日を浴びながら肩を並べてホッと息をついた。
「ふう……なんとか勝てたね!」
「まったく、危なっかしいんだから……。でも、悪くなかったわよ」
紫苑はフンとそっぽを向いたが、その顔には隠しきれない誇らしい笑みが浮かんでいた。
転校初日から大暴れとなった一日。しかし、二人の絆と友情は、以前よりもずっと強固なものになっていたのだった――!




