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第五話 変わらないもの

「今日は仕事定時に終われてよかったっすね〜」


「ああ、そうだな」


 職場から出て、源太と二人で飲みにいく予定をしていたのもあって、店を探すことにした。


「梶井さん、前に行った居酒屋行きません?」


「そうしようか」


 そこは、木造りの落ち着いた雰囲気のお店で、俺達はカウンター席に案内された。

 ハイボールを2つと何品か料理を注文した。

 そうすると、源太が口を開いた。


「最近Ritsuさんとは、連絡とってるんですか?」


「まあ、そうだな……。それと源太には言えてなかったけど、実は俺と学生の時の同級生なんだよ」


「Ritsuさんが、梶井さんと同級生だったんですか……!」


 そう言って、源太は隣で驚いた顔をしている。


「そんな驚くことか?」


「驚きますよ!うわぁ〜、いいな〜。羨ましすぎます」


「そうかな」


「そうですよ〜。縁があるんですね〜。じゃあ、久しぶりに話して、盛り上がったんじゃないですか?」


「久しぶりすぎて、逆に何話せばいいか難しい感じはあるかな」


「俺ならガンガン話しかけますけどね!笑」


「たしかに、積極的に話してそうな感じするわ笑」


「でしょ?笑」


「源太のそういう、誰とでも打ち解けられるところいいなって思うよ」


「褒めても何も出ませんよ〜?でも、俺は梶井さんの頼り甲斐があって落ち着いててクールなところめっちゃかっこいいと思います!」


「そうか、なんか改めて言われると反応に困るな……」


「もしかして、照れてます?照れてる梶井さん、見られることってあまりないから、なんか嬉しいです」


「源太もう酔ってんのか?」


「まだまだですよ!てか、聞いてください。梶井さんに相談があるんですよ〜」


「どうした?仕事の話か?」


「最近、付き合ってた人に振られたんですよ〜」


「そう、だったのか。それは辛いな」


「はい、2年ぐらい付き合ってたんですけど、俺のどこが良くなかったんですかね〜。もうマチアプでもやろうかな」


「ちなみにその彼女とは、どこで出会ったんだ?」


「大学です。でも、彼女じゃなくて付き合ってたの男ですよ」


「そうなのか……」


「びっくりしました?隠してるつもりはなかったんですけど、俺実は恋愛対象男なんですよね」


 その言葉を聞いて、俺は律のことを思い出した。俺ももしかして男が恋愛対象なのか……。でも、俺は律のことしか好きになったことがないからわからなかった。


「梶井さん、なんか急に変なこと言ってすみません。こういう話って周りに話しても理解されないことも多いんですよね〜」


「いや、ちょっと昔のことを思い出してたわ。でも、恋愛って男女だけのものじゃないだろ。2年も付き合ってたなら、お互い大事に思ってたってことだろ。あまり自分のことを責めんなよ。相手にも事情があったのかもしれないし」


「え〜〜、梶井さん好きです〜〜。今日お礼にご馳走させてください〜〜」


 源太は酔っていたのか、俺の腕に縋り付いてくる。


「はいはい、わかったから。あと、今日飲みに来たのは、前に源太が仕事のフォローしてくれたからだろ?だから払わなくていいって」


 源太の背中をさすりながら、俺は水を飲むように促した。


「梶井さん〜、ありがとうございます。俺、梶井さんに話してよかったです」


「そうか、それならよかった」


 数時間後、俺達は食事を済ませて店を出ることにした。


「ごちそうさまです!」


「ああ、いいよ。また行こうな」


「ぜひ、また行きましょうね」


 そう話しながら帰っていると、声をかけられる。


「……祐馬?」


「……律」


「こんなところでRitsuさんに会うなんて、奇遇ですね〜」


 驚いて足元の段差に気づかず、一瞬転びそうになるのを、律は抱き止めてくれた。


「悪い……」


 すぐ腕は離されたが、支えられた腕の感触を思い出して、鼓動が早くなる。


「濱辺君だよね。祐馬のこと借りてもいい?話したいことがあって」


「はい、もう帰るところでしたし、大丈夫ですよ。お二人とも気をつけてくださいね。じゃあ、お疲れ様です〜」


「ああ、お疲れ。源太も帰り気をつけろよ」


「濱辺君もお疲れ様。今度三人で飲みにでも行こう」


「はい、行きましょう!では、失礼します」


 俺と律は源太を見送ると、なんとなく気まずい空気が流れる。あれ以降二人で会うことはなかったからだ。

 その空気を察してか、先に口を開いたのは、律だった。

 

「金曜に会う予定だったのに、まさかこんなところで会うとは思わなかったな」


「たしかに」


「てか、かなり飲んだんじゃない?さっきも転びそうになってたし心配だな。顔もこんなに赤いし」


 そう言って律は俺の頬に触れた。その瞬間、自分の体じゃないみたいに、激しく鼓動が響いている。それが律に聞こえるんじゃないかと俺は気が気でなかった。


「……やばいわ、俺の方が酔ってるかも」


 一瞬で触れていた手は離れて、律は俺から視線を逸らした。


「律も飲みに行ってたんだ?」


 俺がそう言うと、少し困ったような顔をしていた。


「……うん。さっきまで飲みに行ってて、久しぶりに結構飲んだかも。だから引き止めて悪いけど、話あるって言ってたこと今度でもいい?」


「そんな大事な話?」


「うん、まあ……」


「じゃあそれは今度聞かせてよ。それと、引き止めたかわりに、俺の言うこと一個聞いてくれない?」


「何?」


「今から俺が律にすること、酔ってるせいってことにしてほしい」


 俺は指先だけを律の指にわずかに絡ませる。それは、もし律に拒否されたとしてもすぐに手が解けるように。

 それと、酔ってるせいだということを言い訳にしたとしても、律への気持ちが指先から少しでも伝わってほしい、そんな気持ちを込めて……。


「祐馬、手冷たくない?暖めた方がいいよ」


 律は俺の願いとは裏腹な言葉を返してきた。そして、わずかに絡めていた指を律は離れないように繋ぎ直した。

 もう俺は、このまま律とずっと一緒にいたいとさえ思ってしまう……。


「それとさっきのことだけど、俺は酔ってるせいにしたくないけど」


 そう言って、一瞬俺の方を見て少し照れて笑う律の笑顔は、昔の律と変わらないままだった。それに俺は思わず見惚れてしまう。


「祐馬、俺のこと見過ぎじゃない?さすがに照れるって」


「それはごめん。もう見ないから」


「そんなこと言ってないじゃん。照れるだけで、嫌じゃないから」


「そっか……」


「あー……やばいわ。なんか今日一人で自分の家に帰りたくないかも」


「さすがにそれは酔いすぎだから」


「やっぱ結構酔ってるかな笑」


「そうだよ」


 そう言って、俺達は歩き出した。その間、お互いに手を離そうとせず、しっかり手は繋がれたままだった。

 どうかこのまま律と会えなかった時間を取り戻せたらいいのに、俺はそんな期待をしてしまう……。

 そして、しばらく歩いていると律は足を止めた。


「ここ俺の家なんだよね」


「そっか、じゃあ俺も帰るわ」


「……うん」


 そう言って、一瞬繋がれた手をきゅっと力が入った気がしたけど、その手は徐々に解かれていく。俺はそれに胸が苦しくなった。心の中で何度も離れたくないという願いは叶わなかった。

 でも、手が離れても律は帰ろうとしない。


「中入ったら?」


 そんな自分の気持ちを抑えて、俺は律にそう言った。


「そうだよな。うん、じゃあまた金曜日に」


「わかった」


 心なしか律の顔は寂しそうに見えたけど、俺は気づかないふりをした。本当は俺も律と同じように離れることが寂しかったのに……。





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