距離が近い同じクラスの女子に、ワンチャン片想いが成就するかもなんて夢見た勘違い男子高校生の末路
朝比奈ゆかりは距離が近い。
「ゆうまっ!」
席に座っていると、背後からぽんっと肩を叩かれ心臓が跳ねる。
振り向き見上げると、窓から差し込んだ陽光で栗色に煌めくナチュラルショートの髪と、くりっとした大きな瞳をいたずらっぽく細めた彼女の笑顔が視界に入る。
「はよっ!」
「……お、おはよ」
「反応にぶっ!な〜に〜、また寝不足?」
「いや、昨日はちゃんと寝たよ」
「え、じゃあ体調不良?よく見たらなんか顔赤いし」
「だ、大丈夫だって。そもそも顔が赤いのは…」
ドキドキが止まらないから、とは言えない。
「大丈夫って、体調悪かったらどうするんだし!ほら、ちょいでこ貸してみ?」
「え…ちょっ!」
次の瞬間、朝比奈さんの額がこつんと俺の額に触れる。
甘いシャンプーの匂いがふわりと広がった中に、くりっとした彼女の大きな瞳が至近距離で俺をのぞき込んでいる。
ううう!近い…近すぎる!!
「んー……別に熱はないか?でも、なんかさっきよりも顔赤くなってるよ?保健室行く?」
んんんんんんん!!!
それ以上言わないで!!恥ずかしすぎる!!
「今朝は、その…走ってきたから」
苦し紛れすぎるけど、絞り出した言葉なんだから仕方がない。
「あー遅刻しかけた感じかー。てことは寝不足が正解だったか」
何が正解かわからないけど、それでよしとしておこう。
予想を外したことを悔しがっているのか、ぱちんと指を鳴らし俺の前の席に座る。そして椅子ごとこちらに向けて俺の机に肘をつき、俺の顔を覗き込んできた。
さらっと揺れた髪が、またシャンプーの匂いを運んできて、余計に胸が高鳴る。あと近い。可愛い。
「てか今日の体育さ、うちらバスケじゃん?だからさ悠真、応援してけろ」
「うちらって、女子は でしょ?男子は外でサッカーだし、そもそも見に行けないから応援できないよ」
「あー、そういう回答を期待してたんじゃないんだよなー。心の中で精一杯応援するよって回答がほしかったんだけどなー」
けらけら笑う朝比奈さんのその意味深な言葉にまた俺は勝手に拡大解釈をして、顔がさらに熱くなる。
朝比奈さんが登校して来てまだ数分くらいしか経ってないはずなのに、俺の身体はオーバーヒートして、そろそろどうにかなってしまいそうだ。
そんなことを危惧していると、教室のあちこちから「朝比奈ー」「ゆかりー」と彼女を呼ぶ声が飛んでくる。
あっという間に朝比奈さんの周りを男子も女子も関係なく、たくさんのクラスメイトが取り囲んだ。もちろん俺は彼女の後ろの席に居ながらも蚊帳の外。
「あ、田中く〜ん。イキって髪整えてやがるなー。じゃあちょこっとこの前髪をこうして…」
そう言って彼女はなんの躊躇もなく、男子の髪の毛を触る。
まんざらでもない田中の顔は、今さっきの俺の顔そのものだろう。
そう。見ての通り彼女のこの距離の近さは俺だけに向けられたものじゃない。
わかってる。朝比奈さんは誰にでもこうなんだ。
それでも、ふとした瞬間に思ってしまう。
もしかして、ワンチャンあるんじゃないかって。
なーんてな。ないない。あるわけがない。
そんな都合のいい話、少年漫画かラノベの中だけだ。
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昼休み。弁当のフタを開けた瞬間、隣から田中が声をかけてきた。
「あのさ悠真、ここだけの話な。朝比奈、男バスのキャプテンの佐伯と付き合ってるぽい」
フタを置く手が、いや心臓が止まった。
「へ?」
「偶然さ、昨日橿原のイオンモールで二人がデートしてるところ見ちまったんだよ」
「見間違いじゃないのか?」
見間違いであってほしい!と内心で必死に懇願する俺に田中は無慈悲にも、ここだけの話にしてはでかい声で言った。
「あんな美男美女を誰が見間違えるんだ?日曜日で客も結構いたけどオーラが違いすぎてすぐわかったわ」
妙に説得力のある堂々とした田中の言い方が、じわじわと血の気を奪っていく。
確か佐伯って、男バスのエースでキャプテンで、背が高くて、顔も整っていて、女子からの人気も高くて……なるほど。朝比奈さんとは確かにお似合いだ。
楽しそうに笑い合い、肩が触れそうな距離で歩いてさ。下手したら手とか、繋いでたりしてるんだろう。
ってばか!勝手に映像化するな!虚しくなるだけだぞ!
自分で追撃してどうすんだとため息をついたそのときだった。
「ねぇ田中、ゆかりが付き合ってるって?」
横で昼を食べていた朝比奈さんの友達の女子が、訝しげに目を細めて割って入ってきた。
田中は腕を組み、情報番組のコメンテーター気取りの顔を作る。
「あぁ、間違いない。あれは付き合ってる。しかも結構いくとこまでいってるな」
いくとこまでってなんだ!?
勝手に進めるな!
いや……でもワンチャンあるのか?…あの二人ならあるのか。くううううう。
「田中。ゆかりと佐伯が付き合っていると言うが、一体何を根拠に?」
俺とは違い、冷静というか辛辣な女子の質問に、田中はドヤ顔を披露して答えた。
「モールで男女が二人きりで買い物。これはもう答え出てるだろ」
「……田中、早計すぎない?」
女子の冷めた表情から出た鋭い指摘に動揺する田中。
「そ、早計って!あいつら結構楽しそうにしてたし!間違いなく誰がどう見てもカップルだったし!」
「ほんと浅はかだね田中。あの二人、一年の時は同じクラスだったし、高二の今もクラスは違うけど仲めっちゃいいの。だから二人にとってはそれが通常運転なんだよ。あと部活の買い出しかなんかだと思うよ。なのに全く。これだから童貞感丸出し男子は」
女子に鼻で笑われる田中。
そ、そうだよな!
朝比奈さんは誰にだって距離が近いんだもんな!
佐伯と付き合ってるなんてありえないよな!
ありがとう朝比奈さんの友達!
てか全く人騒がせな田中だよ。ほんと。
そんな田中は鼻で笑われたことがよほど悔しいのか、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「なら朝比奈本人に直接訊いてやるよ!」
「あたしが、なーに?」
「げ、朝比奈!?」
購買で買った焼きそばパンと紙パックのヨーグルッペを両手に携えた朝比奈さんはどこか引きつった笑みを浮かべて、教室の入り口からこちらに向かって歩いてきた。
真相解明の時間。
どうせ否定する。
否定するに決まってる。
そう分かっているはずなのに、鼓動だけがやけに騒がしい。
「あ、ゆかり。なんか田中がさー、昨日佐伯とゆかりがモールで一緒にいたの見てたらしくてさ。二人は付き合ってる!って騒いでんだけどさ〜」
「えー……てか田中くん、他人のプライベートのことを許可なく大々的に話すとかサイテー」
しゅん、と肩を落とす田中。
そうだ、サイテーだぞ田中。
朝比奈さんと佐伯が付き合ってるなんてデタラメを口にするなんて!
「んで、実際のところどうなん?佐伯とは何もないでしょ?」
女子の質問に、少し考えている様子の朝比奈さん。
え、なんで否定しないの?
まさか……ないよな?
いやいやいや…え?
「んーとね…」
ようやく口を開いたかと思えばなぜかちらっとこちらを見る朝比奈さん。
ばちっと目が合い、俺は反射的に視線を机に落とす。
まるで交際を否定してほしいと内心で懇願しまくっているのを見透かされたみたいだったからだ。
「……うん、まぁ、そんな感じ」
「そんな感じってどんな感じよ。はっきりと言わないと変な噂流れるよ〜」
女子の言葉に朝比奈さんは視線を左右に泳がせ、横髪をくるくると指に巻きつける。
そして少しだけ照れたように、ほんのり頬を赤らめている。
俺はなんとなくわかってしまった。真相は実に残酷であることを。
「んーと、まあ……実は付き合ってるんだよねえ。佐伯くんと──」
教室内が一気にざわめく。
俺はこの時点から少し放心状態に入る。
だからそれ以降の記憶がない。
ただ気がついたら帰りのホームルームが始まっていたという具合である。
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朝比奈さんの交際カミングアウト事件から一か月が経ち、学期末の試験勉強週間に入った放課後。
「悠真、今日からあたし部活ないから一緒に——」
「ごめん、用事があるから」
最後まで聞かずに席から立ち上がり、朝比奈さんの横を通り去る。
すれ違いざまに曇った彼女の表情が視界の端に映り心がずきっと痛む。
こんな具合に、俺はあの日から朝比奈さんを避けている。
別に朝比奈さんが悪くないのは痛いほどわかっている。だからこそ余計につらい。
それでも彼女への未練を一刻も早く断ち切りたいのだ。
だから朝比奈さんよ。
一か月も露骨に君のことを避け続けている俺をさっさと見限ってくれ。
呆れて、怒って、もう話しかける気も失せたって思ってくれたほうが俺も楽だ。
それにそう思って、冷たく振る舞ってくれたらやっと現実が見られるような気がするから。
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期末試験最終日の放課後。ほとんどの部活が活動を再開し始める中、女バスだけはオフ日であることを知っていたため、図書室で無意味に時間を潰した。
これで会わずに済む。
そう思って、下駄箱で靴を履き替えていた時に想定外の出来事が起こった。
「……悠真」
背後から声がした。
振り返らなくても分かる。
朝比奈さんだ。
脳内で警鐘が鳴るより早く、俺は靴のかかとを踏んだまま走り出していた。
「ちょ、待ってよ!悠真!」
追いかけてくる朝比奈さん。足音が背後から絶えず聞こえてくる。
そんな彼女を無視して、校門を抜けて走り続ける。それでも朝比奈さんは追いかけてくる。
「悠真!なんで逃げるの!」
「そっちこそっ……はぁはぁ…なんで追ってくるんだよ」
「だって悠真が逃げるからっ!」
「に、逃げてないっ!」
「逃げてるじゃんっ!」
さすが女バスキャプテン。一生懸命走っても結局彼女に追いつかれ、俺は腕を掴まれた。
「はぁ……っ、やっと、捕まえた」
朝比奈さんは俯き気味に少し息を切らしている。
なんで俺なんかのためにこんなに必死に走ってくれるんだろう。
なんて思いながらも、本当はどこか嬉しくて、気が緩んだ。そしてつい彼女に話しかけてしまった。
「……やっぱりはやいね」
「当たり前じゃん。これでも毎試合スタメンなんだから」
「あー……そうだったね」
「てかさ、なんでずっとあたしを……その………避けてるの?」
真っ直ぐな視線を向けてくる朝比奈さんに、俺は思わず視線を逸らす。
そして嘘をついた。
「別に…避けてない」
「嘘!避けてた!」
「今日はただ急いでいた…だけなんで」
そう急いでいただけだ。朝比奈さんに嫌われることを。
なのに、どうしてそんな寂しそうな顔をするんだ。
「今日はって、いつもあたしから離れていくじゃん……やっぱり嘘だよね…」
「嘘じゃない」
嘘をついて、こんなこと思うのはサイテーだと思うが、やっぱり嘘をつくのは嫌いだ。
鼻頭がむず痒くなるし、何より罪悪感が湧いて、それをくよくよ考えてしまうのがめんどくさくて、嫌だから。
無意識に鼻頭をかいた瞬間、真剣だった朝比奈さんはくすっと笑う。
「やっぱり嘘だよ。悠真、嘘とか冗談をいう時、鼻かくから」
また俺は自分を見ていてくれたことに嬉しくなる。
ほんとに俺っていう人間は単純でバカなやつだと卑下せざるをえないな。
でも、そうだよな。
嘘が下手で、単純なバカなやつは正直に話すしかない。そういうことだよな。
よし、正直にありのままを伝えよう。そして嫌われよう。
そう決心し、今度は俺が朝比奈さんを真っ直ぐ見つめた。
「本当は、朝比奈さんのことを…忘れたかったから」
「え……」
「朝比奈さんを…っていうか、片想いを忘れたかったんだ。朝比奈さんに彼氏ができたから」
気のない男子から『片想い』って言葉を吐かれたら嫌われると思った。
だけどやっぱり『片想い』って言葉を本人に言うのは喉が焼けるように熱くなる。もう嫌われるだけなんだけど。
予想通り、朝比奈さんは目を見開いてる。
たぶん『何言ってんのこいつ』とか思ってんのかな。
ま、ようやく彼女に嫌われるって望みが叶うわけだ。
「え……あたし、誰とも付き合ってなんかないよ?」
予想外の言葉に俺は一瞬フリーズした。
「………いや、だって一か月前、佐伯と付き合ってるのかって訊かれて認めてた…し」
「あれ、冗談だよ?……って、あの後すぐ言ったよね?」
「………はあああ!?」
待て待て!!そんな記憶………あっ。
そう言えばあの日、目を逸らした瞬間からあまりのショックで、気がついたら昼休憩どころか午後の授業が全て終わっていたという具合に放心状態だった……。
「ご、ごめん……あの日、ちゃんと聞いてなかった。ほんと……ごめん」
つまり俺は勘違いをして、自分勝手な都合から朝比奈さんを避けて、傷つけてきただけってことか。
バカ……今更気づくなんて。
とにかく、もう死んで償うしかない。
真面目にそんなことを考えながらふと朝比奈さんを見ると、大きな瞳から大粒の涙を次々と頬を伝わらせ、小刻みに身体を震わせていた。
この世の終わりを見たような気分だ。絶句するだけの俺に、朝比奈さんは声を震わせる。
「あたし……急に悠真から避けられて、嫌われたのかと思ってた」
ぽたりぽたりと朝比奈さんの瞳から止めどなく涙がこぼれ続ける。
「あたし、何かしたのかなって、ずっと考えてた。でも、あたしバカだからさ…全然わからなくてさ」
制服の袖で次々と溢れ出す涙を拭う彼女の姿に、今だに声が出ない。
今以上に自分を情け無いと感じたことはないだろう。
「でも悠真は、あたしと佐伯くんが付き合ったって勘違いしてただけなんだよね?あたし、悠真に嫌われるようなことしたんじゃないんだよね?」
涙を流しながらも、小刻みに身体を震わせながらも、朝比奈さんは一生懸命言葉を紡ぐ。
そんな彼女を目の当たりにして、ようやく俺は突き動かされたように口を開いた。
「嫌ってなんか……嫌ってなんかない!だって俺は!本当は今でも朝比奈さんのことがどうしようもないくらい好きなんだ!!」
口をぽかんと開けっぱなしの朝比奈さんを見て、はっ!と我にかえるが後の祭り。
彼女に嫌われたいはずなのに、勢いで告白をしてしまった。
風が吹いて、彼女の背後の木についた新緑の葉の揺れが、まるで俺の過ちを嘲笑しているように聞こえた。
だが朝比奈さんは目尻と頬に涙を残しながらも、くしゃっと笑ったのだ。
「私も」
「……え?」
「私も、悠真が好き。今も大好き」
雷が落ちたかのような衝撃に少しよろけてしまいそうになる。
「でも俺、朝比奈さんに酷いことをしたんだ。朝比奈さん、こんな俺を許すなんて人が良すぎるよ……」
そうだよ。俺は朝比奈さんに好かれる資格なんてないよ。
だからいっそのこと殺してくれ。
「でも勘違いしてだけじゃん。まああたしも悠真をからかおうとして、あんなこと言って…自業自得じゃんね」
満面の笑顔を浮かべる朝比奈さん。
「いや、でも俺……」
「それにさ悠真。あたしは、もう悠真から逃げられたり、避けられたりするのは絶対嫌だ……離れてほしくない。だから、こんな俺でいいのか?……なんて言わないでね」
朝比奈さんは俺の胸のうちを全て見透かしているのようだった。
おそらく普段から彼女がちゃんと俺を見てくれてるからだろう。
こんな人、家族以外にもう現れないかもしれない。
それなのに俺は朝比奈さんから目を背けて、向き合おうとせず、逃げていた。
嫌われようとしたのも、彼女から目を背けて、逃げていただけ。
それでも朝比奈さんは逃げる俺をずっと追いかけてくれていたんだ。
そのことに今更気づいた。遅すぎるよな。
だからそんな彼女に、俺が出来ることは一つしかないと思った。
逃げないで、彼女と向き合うことだ。
だから俺はそれをはっきりと声に出して伝えようと思った。
「もう逃げない!逃げないから俺の横でずっと笑顔でいてほしい…恋人として」
あつかましさなんてない。
そんな俺の言葉に朝比奈さんは目尻に涙を残しながらも満面の笑みを浮かべる。
「うん!」
朝比奈さんは指をしっかり絡めて、俺の手をしっかりと握る。
「これからは…恋人として、よろしくね。悠真!」
ワンチャンなんて、ないはずだった。
だから、今だにこの現実を疑いそうになる。
それでも、俺はもう彼女から目を離さない。
俺の手を握り、隣を歩く朝比奈さんのこの笑顔が大好きだから。
まだまだ未熟者で勉強中ですので、おかしい点や不明な点、また誤植、誤字、脱字があればぜひ教えてください!
あ、友達のように気軽に教えてくださいね!
もし仮に、上記に当てはまらず、純粋に良かったと思っていただいた場合はお星様★★★★★をお願いします。
めっちゃ喜びます(๑˃̵ᴗ˂̵)




