7話
とある6月のある日。
今日もパパは仕事で遅くなるらしく、累くんと夜ご飯の買い出しをしていた。
外は梅雨真っ只中で、あいにくの雨。
本当は家でゆっくりしたいところだが、冷蔵庫の中は空っぽだったので、仕方がなかった。
累くんは傘をさし、片手には買った食材が入ったビニール袋をさげていた。
私は、カッパに長靴を履いて、るんるん気分。
はじめは、精神年齢のせいで、この格好も恥ずかしかったけれど、今はもう楽しさが勝っていた。
もともと雨は嫌いじゃない。
ちょっと根暗な性格が功を奏した。
「めごたん、危ないよ」
「大丈夫!」
累くんの心配をよそに、水たまりを飛び越える為に、思いきりジャンプする。
「めごたん!!!」
「わっ……!」
案の定、足を滑らせてしまう。
やばい!
また頭を打ってしまう……!
私は、反射的に目を閉じた。
しかし、いくら待とうと、痛みが襲ってこない。
恐る恐る目を開けると、累くんが私を片手で抱きとめていた。
手を離してしまった傘が、宙を舞って地面に落ちる。
「……お兄ちゃん」
「だから言ったのに。大丈夫? めごたん」
累くんは私が怪我をしていないか、顔、頭、腕、足と、順番に触れていく。
「大丈夫そうだね」
確認を終えた累くんは、傘をさしなおす。
「……ごめんなさい」
「……いいよ。ほら手、繋ごう?」
そう言うと、買い物袋を傘と一緒に持ち直し、空いた手で、私の小さな手をぎゅっと握った。
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家に着いた頃には、雨はさらに強くなっていた。
「めごたん、寒くなかった?」
「へいき」
そう答えたけれど、本当は少し体が重い。
濡れた長靴を脱がせてもらい、玄関に用意していたタオルで髪を拭かれる。
その手が、やけに丁寧で、あたたかい。
「……めごたん?」
累くんが、ふと手を止めた。
私の額に触れた指が、ほんの一瞬、強ばる。
「……ちょっと、熱くない?」
「そう?」
自分では、よく分からない。
ただ、眠いだけだと思っていた。
「先にお風呂、入ろっか」
累くんの声は、ほんの少しだけ遠く感じた。
その夜。
私は、自分がどんな風にベッドへ運ばれたのか、覚えていない。
ただ……
「……めごたん。大丈夫だから」
と何度も呼ばれる声だけが、夢の中で遠く響いていた。




