6話
翌朝。
愛姫は、かわいいぬいぐるみ達に囲まれたベッドの上で目が覚めた。
ふと、部屋の角に置いてある全身鏡に目をやる。
かわいいクマさんの絵が描いてあるパジャマに映る自分の姿。
胸まであるサラサラな髪は、累くんより少し赤みが強い。
目はクリクリと大きな二重だけど、累くんとは違う濃紺の瞳をしている。
(あれ?)
それにしても、今朝はとても静かだ。
転生前を思い出す前の記憶では、毎朝、累くんは生存確認をしに部屋へ来ていた。
「めごたん起きてる?」
「寒くない?」
「夢見なかった?」
「体調どう?」
しかも5分おきに部屋にやってくる。
それなのに……今日はなにもない。
おかしい。
部屋を出て、リビングへ向かうとそこにはソファに座る兄の後ろ姿があった。
制服は着ているし、カバンもある。
家の様子から父はまだ帰ってきてないみたいだ。
「お兄ちゃん、おはよう」
「めごたん、おはよう。ごめんね、起こしに行けなくて」
私の気配に気づかなかったなんて珍しい。
声をかけるとビクッと反応して振り返ってきた。
「お兄ちゃん、今日はがっこう?」
「んー……」
横に立った私を累くんは自分の膝の上に乗せ、ぎゅっと抱きしめる。
その表情はどこか元気がない。
「めごたんは、お兄ちゃんがいないと不安でしょ?」
「……うん?」
5歳児の反射で肯定してしまった。
直後にこの返事を後悔することになる。
「やっぱり!今日は一緒にいよう」
それを聞いた瞬間、累くんの顔がパァっと明るくなったのが分かった。
もしかして……
国民的アイドルへの第一歩が、私が理由の登校拒否で終わろうとしているのでは……?
だめだ。
それだけはだめだ。
「……おにいちゃん」
「なあに?」
「私、だいじょうぶだよ。パパが帰ってくるまで、いつもみたいに家にいれる」
累くんの表情が固まる。
「……え?」
「お兄ちゃん、がっこう、行かないと。おしごと……じゃなくて……べんきょう!」
言葉を選びつつ必死に説得する5歳児。
「でも、もしめごたんが――」
「だいじょうぶ!!!」
ちょっと大きな声が出た。
累くんは私をじっと見つめて、
それから、困ったように眉を下げた。
「……本当に?泣かない?転ばない?」知らない人に話しかけられない?」
質問多すぎる。
というかお留守番なのに知らない人にって……
「だいじょうぶ!!!」
二度目の断言をしたその瞬間。
ピンポーン。
計らっていたかのようにインターホンが鳴り、鍵が開く。
「……まさか」
リビングへ入ってきたのは、パパ……ではなく、スーツ姿のマネージャーだった。
パパの同意の元、マネージャーはこの家の合鍵を持っている。
ニコニコした笑顔だが、苛立っているのがオーラで分かる。
「累、おはよう。」
「お、おはようございます……」
「メールの返事は来ないし、電話も出ないから迎えに来たぞ。今日は学校行け」
有無を言わせぬ低音。
「……でも、妹が」
「妹は元気だ。お前も医者もそう言っただろ。心配なら父親が帰ってくるまで俺が面倒みとく」
「……」
「このままだと変な噂が立つぞ」
それはまずい。
累くんは完全に固まった。
「……それは……嫌です」
累くんはゆっくり立ち上がった。
「……めごたん。お兄ちゃん、行ってくるね」
ぎゅっと、いつもより強く抱きしめられる。
「すぐ帰るから、何かあったら、すぐ電話して」
5歳児にスマホはないのだけど、不安すぎてそう言うしかないのだろうか。
累くんの不安を取り除いてあげよう。
「いってらっしゃい。がんばって」
その言葉に、累くんは一瞬だけ照れたように笑った。
「……うん」
こうして
結城累(15)は、
妹とマネージャーに挟まれ、
無事、学校へ強制連行された。
が、玄関が閉まって3分後。
「めごたん?寂しくない?」
リビングの電話が鳴った。
やっぱりこの兄、重症かもしれない。




