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4話

ファンにとって天国のような時間を、来客によって邪魔された。

ふと、累くんを見ると、彼の顔は明らかに強ばっている。

嫌なお客さんでも来たのだろうか?


「……おきゃくさん?」

「めごたん、ここで食べててね」


それだけ言うと、累くんは立ち上がり、リビングから居なくなった。


誰だろう。

まあ、いいや。

私は子供だし、気にしない。

それに、ケーキはとっても美味しい。

……食べ切れる気は、しないけど。


すると玄関の方から、低めで落ち着いた大人の声がした。


「累。愛姫ちゃんはもう大丈夫なのか」

「はい。メールでも送りましたが、無事退院しました」


私はそっと椅子から降りて、リビングから玄関へ続くドアを少しだけ開けて覗く。

そこには、どこか疲れた様子のスーツ姿の男性と、累くんの姿があった。


(あ、マネージャーさんだ)


転生前の記憶がない時は、

『よく家に来る謎のおじさん』

くらいにしか思っていなかったけど、今なら分かる。


「今日のイベント、穴を空けたんだぞ」

「すみません」

「“体調不良”で通したが……最近、ちょっと多すぎる」


……体調不良?


「ジュニアとはいえ、今は大事な時期なんだ。子役上がりってだけで、目を光らせてる連中も多い」

「……分かってます。でも……」


そういえば。

LU:CENTのファンの中で

「RUIはよく体調不良でイベントを休む」

そんな話があった。

無理しすぎなんじゃないか?とか。

メンタル弱いのかな?とか。

私も心配していたけど……もしかして。


「……愛姫ちゃんのためか」

「はい」


迷いのない返事だった。

累くんは、自分の仕事を休んでまで、妹のそばにいたんだ。


「……めごたん?」


私の気配に気づいた累くんと、目が合ってしまった。


「おじさん、こんばんは」

「あ、愛姫ちゃん。こんばんは」

「めごたん。食べててねって言ったでしょ?どうしたの?」


累くんは焦りながら近づいてきて、私の背丈に合わせてしゃがみ込む。

近い。

近すぎる。


「……ケーキ、もうお腹いっぱい?」


盗み聞きしていた。

……なんて言えないので、私は素直に頷いた。


「そっか。じゃあ、寝る準備しようか。今日はお風呂も短めにしよう」


マネージャーさんの存在など、まるで見えていないかのように、累くんは次々と決めていく。


「明日は外に出ないで、一緒に家で過ごそうね」

「おい、累」


さすがにマネージャーさんが割って入る。


「まさか、明日も休む気か」

「すみません。また夜に電話するので、今日は帰ってもらっていいですか?」

「でもな」

「これから、めごたんとお風呂に入って、寝ないといけないので」

「……はぁ、分かったよ。愛姫ちゃん、おやすみ」

「……おやすみ、おじさん」


マネージャーさんはそう言って、少し疲れた顔で手を振り、家を出ていった。

ちょっと、可哀想だったな。

……それにしても。


「よし!邪魔者は消えたから、一緒にお風呂入ろうね〜」

「はーい、お兄ちゃん」


その返事に、累くんは心底安心したように微笑えみ、ひょいっと私を抱き上げた。

……ああ。

この兄、シスコンとかそういうレベルじゃない。

きっとこれから先も、私に何かあれば、平気で全部キャンセルするだろう。

今の仕事も……国民的アイドルになる未来さえも。

それだけはどうにか阻止しなければならない。

そう心に決めたのだった。


(あれ?)


今、お風呂って言った?

時間を置いて、私の脳に“お風呂”という単語が届く。

まずい。

しかし、時すでに遅しだった。

累くんは、私を抱えたまま、脱衣所へ到着していたのであった。

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