20話
結城 愛姫に転生してから、1年が経とうとしています。
兄の累くんは相変わらず、妹愛がとても強いです。
お風呂は当然のように毎日一緒。
累くんが学校や仕事の時は、休憩の度に家に電話がかかってきます。
一緒に外出してるはずなのに、GPSは必須。
写真は毎日10枚以上撮られます。
しかも、その写真たちは誕生日に動画として、30分間上映。
(ちなみに、年越しには1時間上映……)
推しじゃなかったら、普通に関係を考えてるレベル。
そして最近、気づいたことがあります。
マネージャーさんが家に来る日は、パパと累くんがいない日が多い。
そして、今日もその日だった。
「こんにちは、愛姫ちゃん」
「こんにちは、おじさん」
合鍵を使って、家に入ってきたマネージャーさんは、今日は買い物袋を提げていた。
「それ、なあに?」
「食材。お昼、まだだろ?」
そう言って、迷いなくキッチンに向かい、自前のエプロンを装備する。
「今、美味しいもの作るからね。そこ座っててね」
「はーい」
私は素直に椅子に座る。
フライパンの音。
包丁の音。
手際、良いなぁ。
この人、絶対家でもやってるよね。
家庭的な香りが家に漂っていた。
結城家は、累くんの男らしい茶色いご飯か、パパが買ってきたスーパーのお惣菜が多い。
だから、結構、嬉しい。
数分後。
わくわくで待っていた私の前に出てきたのは、ふわふわ卵のオムライス。
6歳の私には宝石のように輝いて見えた。
「わぁ……おいしそぅ〜」
「ちゃんと、いただきますしてね」
「はーい!いただきます!」
一口食べる。
「……おいしい!!!」
本気で声が出た。
マネージャーさんは、コーヒーを淹れながら、私の食べる姿を見て、ニコニコしていた。
いつもの、疲れた顔とは大違い。
「実は、俺にも愛姫ちゃんと同い年の息子がいるんだよ」
「えっ!?」
だから、こういうの慣れてるのか。
「息子は幼稚園に通わせてて、お友達も沢山いるからさ……愛姫ちゃんも幼稚園に通えば良かったんだろうけど……」
そういえば、そうだ。
物心ついた時から家で一人でお留守番したり、マネージャーさんがいてくれる。
幼稚園に預けた方が、よっぽど安全だろうに。
「……累が変な大人(※注:保育士)に愛姫ちゃんを触られたくないって言うから」
マネージャーが感情のない真顔で言う。
ああ、彼のせいか。
(でも、パパはそれをOKしたんだ……)
ちょっと引っかかった。
「まあ、でも累の気持ちも分かる。分かるけど……」
マネージャーさんの話をしていると……
ーーガチャ
玄関のドアの鍵が開いた音がした。
「ただいま〜」
その声は……累くんだ。
マネージャーさんと同時に固まる私。
リビングの扉が開いた直後だった。
「え、めごたん!!!!!」
累くんは、椅子に座る私に駆け寄って、私の体のあちこち見はじめる。
そして、累くんの視線がマネージャーさんに突き刺さった。
「……なんで、いるんですか」
「仕事だ」
「キッチン、使いました?」
「使った」
「……何か触りました?」
「料理したからな。それなりに」
累くんは、私の前にある食べかけのオムライスを凝視。
目が、怖い。
「めごたん、これ、誰が作ったの?」
「おじさん」
「……え?……毒、入ってない?」
「おい」
マネージャーさんのツッコミが鋭い。
「俺を何だと思ってる」
「万が一の話です」
「万が一が多すぎる」
累くんは、私の両肩を掴む力を強めた。
「めごたん、熱くなかった?ちゃんと冷ましてあった?口の中火傷してない?」
「だいじょうぶ。美味しかったよ?」
「ほんとに?ちょっと舌、出して」
さすがにそれは止めてくれ。
私はとっさに両手で口をおさえた。
「……累」
マネージャーさんは頭を抱える。
「俺、今日、料理しただけだよな?」
「はい。でも、俺がいない間に、めごたんに何かあったら困るので」
「だから俺が来てるんだ!!」
完全にキレ気味。
マネージャーさんは落ち着くように、深くため息をついた。
「……愛姫ちゃん……君が一番、まともだよ」
私はオムライスを食べながら頷いた。




